軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第233話 やる気スイッチ

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

結界を通り抜けた破壊の音色は物質に干渉し始め、遂には闘技場自体が危うい状態になっていた。突き出した高閣は崩れ落ち、観客席に衝突。破壊は連鎖を呼び起こし、更にそこから亀裂を走らせる。同時にこれはアンジェに対しても言えることだった。

「~~~っ!」

俺の腕を握っていたアンジェの手は力なく放される。如何なるものも通り抜けるアンジェの能力も、爆音までは対応し切れなかったか。それとも不意打ちでなければ異なった結果を迎えたのか。どちらにせよ、ボガのスタン効果を付随したゼロ距離発射ブレスはアンジェの体を痺れさせ硬直させている。これ、もろに食らうと耐久に関係なく辛いんだよな。今のアンジェは耳もろくに聞こえていないことだろう。だがここで攻撃を止める訳にはいかない。今がまたとない最大のチャンスだ。鎌を片手で肩に担ぎ直す。

これを実戦で使うのは刀哉達と戦って以来か。セラの『格闘術』を借り、辛うじて真似ることができた魔法と格闘術の応用。 師匠(セラ) の足元にも及ばないながらも、今ならば自分の力だけで形にすることができる。拳に緑魔法の風の力を篭め、瞬時に安定化。飛散しないうちにさっさとぶっ放す。

「く、うっ……!」

打ち放たれた俺のアッパーカットはアンジェの腹部へと突き刺さり、仕掛けた 多重衝撃(ハイパーインパクト) が内部へ幾度も衝撃を与え続けた。本来広範囲に及ぶこの魔法をコンパクトに纏めた為か威力も凝縮、結果的に内臓系が相当圧迫されるのだ。この一撃と続く衝撃でアンジェは空中に浮かび上がった。

『ボガ、遠慮はいらない! 全力でやれ!』

この程度でチャンスを終わらせるなんて愚行は勿論しない。アンジェが向かう先にはボガが、更に補足すれば宙にてとんぼ返りをし、その頑強で強靭なる岩の尾を叩きつけようとするボガがいた。

『ゴアァ!』

岩山が猛スピードでアンジェに迫り、鈍い音を鳴らしながら真下へと叩き付ける。うん、当たった感触はあったようだ。それにしてもボガも器用に動けるようになったな。これもジェラールの指導の成果なんだろうか? あれで教えるのは得意だからな、分からないものだ。さて、高速で落下するアンジェに動きはまだない。このままだと舞台の残骸が散らばる地上に直撃か。なら次、行こうか。

『メルフィーナ、いけるか?』

『愚問ですね。私とあなた様は一心同体なんですよ。理想のタイミングです』

アンジェが地上に衝突しようとしていた時、メルフィーナとバールも戦場を地上に移していた。メルフィーナが上手く誘導したと言えばいいのか、バールは地に片膝を付いて体勢を立て直そうとしている。

『 氷女帝の荊(セルシウスブライア) 』

メルフィーナが聖槍ルミナリィの柄の底で地面を叩くと、その場を基点に膨大な数の氷の荊が闘技場を蝕み始めた。蝕むは語弊があるか。倒壊しかけていた建物が茨の力と凍結の効果で一時的に補修されているのだから。

「こ、のっ……! 義体の分際で、なぜこれ程の力をっ……!?」

「………」

飲み込まれたのは闘技場だけではない。地に伏すバールと地上に落ちたアンジェも同様だ。増殖を続ける 氷女帝の荊(セルシウスブライア) はバールの蒼脚を巻き込み、動かぬアンジェの全身を包み込んでいく。触れるだけでダメージを伴う無限増殖の茨だ。取り払うのは不可能に近い。

『むっ、そう言えば 氷女帝の荊(セルシウスブライア) のセルシウスって俺たちの家名と同じ名なんだな。んー、我が家の紋章のデザイン元にでもしようか? 茨とか―――』

『そうしましょう! そうすべきです! 是非に!』

『お、おう……』

俺は何気なく言ったのだが、メルフィーナから猛烈にプッシュされてしまった。これは真面目に検討しなければならないか…… 後で皆の意見も聞かなきゃな。

「その時は一緒にいたいからな。死んでくれるなよ、アンジェ」

今度はムドファラクを召喚。これでアンジェ、バールの上空には俺とボガ、そしてムドファラクが空中で三角形を作る位置取りで控えることとなる。

『ムドファラク、これが終わったらエフィル特製菓子祭りだ。あらん限りやれ。ボガも次の食事はおかわり無制限でいいぞ』

『グォン!? グォ、グォーッ!』

『ゴァゴァ!』

戦意充実。こいつらの力を十全に活かして貰うにはエフィルの手料理が一番手っ取り早い。この卑しん坊め。

『あなた様、私はっ!? おかわり無制限はっ!?』

手っ取り早い、確かに手っ取り早いが、この卑しん坊女神…… お前の食費で我が家のエンゲル係数は酷いことになってるんだぞ。だがまあ、やる気になるなら次の食事だけは許すっ!

『何でも良いから茨の維持に集中しろ! 念話も時間が止まってる訳じゃないんだ!』

『うふふ、私の真の力を見せる時がやってきたようですね』

ああ、女神との約束なのに悪魔の契約的な心境だ……! だがこれでアンジェ達の拘束は磐石。メルフィーナが範囲外に退避したところで――― ぶっ放す!

大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) から放たれる極大の斬撃が、ムドファラクの 極彩の息(トリニティブレス) が、ボガの大声量ブレスが降り注ぐ。さあ、どうする?

「なっ…… めんなぁーーー!」

動いたのはバールだった。蒼脚からキィーンという機械音が鳴り出し、青白く光る線が装甲から浮かび上がっている。驚くことにその直後、バールの脚を捕らえていた茨がバキンと崩れていった。

「 蒼色喰斬(ディビリテイトスラッシュ) !」

天に向かって蒼脚から2度放たれるバールの蒼き斬撃。それぞれが三日月を描いき、×の字に合わさって勢いをなお増していく。俺たちの複合攻撃とぶつかるまでそう時間はかからなかった。 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) による一撃はバールのそれを食い破り、突破に成功。しかし竜ズによるブレス攻撃は消失直前の蒼き斬撃と衝突した瞬間に威力が弱まってしまい、互いに交差して消え去ってしまった。

「ッチ! あれとは相性が悪いわね。暗殺者、いつまで寝てるのよ。あの斬撃が落ちてくるわよ」

「………」

「ああ、もう! 少しばかり歯を食い縛りなさい。氷の茨と状態異常の 色(・) を薄め―――」

「―――いらない」

呟くような一言がアンジェの口から発せられると、 氷女帝の荊(セルシウスブライア) の中からアンジェがむくりと起き上がった。通り抜けの力。どうやらボガのスタン効果が切れてしまったようだ。しかし、見た感じダメージもかなり―――

「―――あはっ」

「……!?」

直ぐそこに良い笑顔のアンジェが迫っていた。馬鹿な、アンジェはさっき起き上がったばかりなんだぞ。天を蹴る速度が最初の比ではない。まさか、さっきまでは手加減していたのか? 俺とボガらが応戦するも、透過能力と化物染みた回避速度で全く意に介していない。一応は負傷してるんだよな、アンジェ!? 益々好きになっちゃうぞ!

アンジェは竜には興味ないようで、一直線に俺のところに向かってきた。勢い余ったのか、そのまま通り過ぎてしまう。

「つっ……!」

それでもバッチリ攻撃は仕掛けてくるんだもんな。ダガーナイフにより左腕が切り裂かれ、熱くなる。あの外装の中はどうなっているのか。腹には毒塗りのクナイを1本貰ってしまった。一気にあんなに投げてくるなよと褒め言葉を心の中で呟いておく。 風神脚(ソニックアクセラレート) 付与状態でも躱し切れないって。

「さあケルヴィン。そろそろ幕を引いちゃおっか!」

アンジェは俺を通り過ぎた後、瞬時に天歩で方向転換。神速で再び俺のもとへと戻って来た。