軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 不死身

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

上空より結界を破壊し、援軍に来てくれたのはセラだった。また良いタイミングでやってくるものである。

『ああっ! ケルヴィン、酷い怪我じゃない! それにアンジェも!』

ああ、そうか。あの結界に意思疎通を阻まれていたから、外にいたセラはここで起きたあらましを知らないのか。それはそれでよく俺が危うい状況にあったことを知ることができたな。いつもの鋭過ぎる勘だろうか?

『俺とアンジェは大丈夫だ。それよりもセラ、メルフィーナと戦っているバールを頼む』

できればこのまま連戦と洒落込みたいが、このボロボロの状態でバールに挑む程俺は愚かじゃない。精々遠距離から支援するくらいに留めよう。アンジェもいることだし。

『分かったわ! 後は私に任せなさい!』

両腕に 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) を纏わせ、セラが地上に向かって突貫して行く。

『疲れているところ悪いが、ボガとムドファラクも援護射撃! 相手は強い。近づき過ぎず、決して油断するなよ!』

『グォー!』

『ゴォアー!』

高らかに念話にて咆哮を上げ、竜ズも空を舞いながらブレス攻撃へと移行。目の前にぶら下げられたご褒美が段々と近づいているからか、疲れている様子はまったくない。竜とは良い意味で現金なものだ。あ、天使もか。

「セラ・バアル……! ッチ、生還者の目を盗んで侵入して来たのね。暗殺者は……」

む、バールと目が合ってしまった。おい、お前今舌打ちしやがっただろ。

「さて、これで完全に詰みですね。あなた方の目的、教えてもらいますよ」

「転生神メルフィーナ、貴女なんかに頼むのは癪だけど、暗殺者を頼んだわよ。あの子、少しばかり情緒不安定だけど、根は良い子だから。ぞんざいに扱ったら殺すからね」

「……はい? あ、ちょっと―――」

メルフィーナが問い掛けるよりも早く、バールが闘技場の選手入場口に駆け出した。蒼脚からはボウッ! と蒼い風のようなものが噴出している。終盤のアンジェ程ではないにしろ、速い。

『ああっ、逃げた!』

『……あなた様、お腹が空きました』

『それは謝罪の言葉ではないと思う。まあメルの場合、俺の責任でもあるからなぁ……』

追いかけろ! と叫びたいところだが、俺の体にはまだ毒が残っている。よって絶対共鳴を持つメルフィーナも万全の体調ではないのだ。あの速さではセラでも追い付かないだろう。

『どうするのよ、ケルヴィン?』

『待て、まずは情報の整理だ。その調子だとリオン達も動いているんだろ?』

配下ネットワークに上がっている情報データを並列思考で処理。同時にここで起こった出来事の情報もアップしておく。

『これがケルヴィンが上げた情報ね。どれどれ――― ええっ!? アンジェが首を…… うわぁ! ってキスぅ!?』

……少しデータをぼかしておこう。

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―――ガウン・大通り

ガウンの街中では剣戟が鳴り響いていた。昼間には多くの人々が行き交うこの大通り、深夜であろうとそこそこの賑わいを見せるのだが、不思議なことにこの日はこのような物騒な音が鳴ろうと誰一人と姿を現さない。血気盛んな獣人達は喧嘩決闘を何よりも好き好むというのに。

「ふっ!」

「ハァ!」

黒き3本の刃が同時に男に迫る。その男の足には漆黒の影が纏わり付き、逃がすものかと行動を阻害。片足も地から離れない状態であった。そのような状況にも拘らず男は3本のうち2本を刀で弾き返す。が、残る凶刃は男の体を通り過ぎてしまった。切り口は深く、胸元から鮮血がほとばしる。

「凄まじいねぇ」

「ふーっ…… どちらがじゃ、化物め」

「ジェラじい、また傷が―――」

リオンが言い終えるよりも早く、男の傷口は跡形もなく綺麗に癒えてしまっていた。男とリオン、ジェラール、アレックスの戦いが始まってからというもの、リオンらは幾度も男に致命傷を与えてきた。時には腕を飛ばし、心臓を突き刺し、雷で消し炭にし――― 幾度も幾度も、男の命を奪った筈だったのだ。されど男は立ち上がる。異常とも言える治癒能力により、次の瞬間にはどのようなダメージも完治する。まるで不死身であるかのように。

「こんななりでも『生還者』の名を賜ったくらいだからねぇ。死線を越えるのは得意なんだよ、おじさん」

「それは得意どうこうの問題じゃないと思うなぁ……」

リオンらは焦り出していた。倒せないとなれば男を無視して突破してもいいのだが、それではこの生還者と名乗る男も追いかけてくるだろう。そうなれば場合によってケルヴィンが更にピンチになってしまう。可能であればこの場で倒しておきたいのだ。治癒能力を度外視にしても、男は剣術の力も侮れない。

「ガウ? グルルゥ……(どうしよう? 僕の剣だけ絶対弾くし……)」

「どうしよっか…… せめて意思疎通が使えればいいんだけどね」

「ないものを強請っても仕方ないわい。ワシらにできることは、際限なくこやつを倒すことのみじゃ」

ジェラールが魔剣ダーインスレイヴを握り締める。生還者を斬る度に魔剣は魔力を吸い、ジェラールは固有スキルである『栄光を我が手に』の効果によりステータスを強化し続けている。ジェラールとしては絶好調ではあるのだが、幾ら切り伏せても立ち上がる男が相手ではあまりその効力を実感できないでいた。

「いやいや、おじさんだって痛いのは嫌なんだよ? そろそろ諦めて帰ってほしいな」

「その言葉で本当に帰ると思うか?」

「……思わないねぇ。仕方ない、おじさんもちょっとだけ本気出そうかな」

男は徐に刀を鞘に戻し、構えの姿勢を変えた。アレックスの『這い寄るもの』で押さえ付けていた両足も少しずつ移動させている。

(これは、勇者の 女子(おなご) が使っていた……)

ジェラールはこの構えに見覚えがあった。トラージにて出会ったデラミスの勇者の1人、志賀刹那が使っていた抜刀術――― 居合いを。

「肉を切らせて骨を断つ、がおじさんの流儀でねぇ。おじさんとしてはこれ以上近づかないでほしいな」

それまで疎らだった男の気が、殺気として湧き立つ。

「リオン、下手に近づくでないぞ」

「うん、分かってる。あれ、たぶん避けれないよ。魔法だけだと決定打に欠けるし―――」

戦況が拮抗したかと思われたその時、遠方より何かが飛来した。

「―――っ!?」

生還者は刀を振るい、飛来した何かを真っ二つに斬る。2つに分かれたそれは男の後方に流れて行き、蒼き爆風を上げた。しかし飛来するのはそれだけではない。初弾の後を追う様に次々と矢が射られ、男を襲う。

「いやいやいやいやっ! ちょ、ちょっとたん―――」

4本目まで斬り続けた男の額に、魔力で生成された矢が突き刺さる。死にはしないが男は仰け反り、矢の形をした爆弾がここぞとばかりに叩き込まれた。

「家屋の調査が完了しました。この周辺に住民は1人もいません」

「エフィルねえ!」

その家屋を巻き込む大爆発の直後に現れたのは、いつもの戦闘メイド服姿のエフィルであった。

「おお、セラとの調査が終わったか!」

「ええ。闘技場を中心に一帯を確認しましたが、住民・観光客を含め全ての人々がここを離れるように移動しています。催眠術の一種かと」

「で、でも家まで壊さなくても……」

「ご主人様の安全が第一です。セラさんには先に闘技場へ向かってもらっていますが、私たちもいち早く向かいませんと!」

エフィルの持つ 火神の魔弓(ベナンブラ) から蒼い炎が轟々と燃え盛り、炎の矢、もとい爆撃が止まらない。あ、エフィルねえが珍しく暴走気味だ。リオンは心の中で静かにそう思った。

「……待て、エフィルよ」

「何でしょうか、ジェラールさん? もう少し火力上げます?」

「奴がいない」

リオンとエフィルは爆発地点に目を移す。そこに復活しているであろう生還者の姿は、ない。

―――バリンッ!

闘技場で何かが割れる音がしたのはその直ぐ後のことであった。