作品タイトル不明
第218話 魔王の血筋
―――ガウン・総合闘技場客席
「―――って言う台詞を残して行っちゃったのよ。まったくもう、何だったのかしらね?」
試合を終えたセラがテーブルで頬杖をつき、溜息を漏らした。そしてエフィルが注いだ特製ドリンクを一気に飲み干す。バールが試合の途中で降参した事に対し、ずっと文句を言い続けていたが、漸く気が済んできたようだ。しかし最も俺が気になっていた箇所はそこではない。バールがセラのファミリーネームを知っていたことが一番の問題なのだ。ついでに言えば彼女もバールではなく『バアル』だろ、絶対。
「いや、それってお前…… どう考えたってセラの血縁者だろ。妹とか。つうか、セラのファミリーネームがバアルだったなんて初耳だぞ」
確か、この名前は家名を決める際にセラが出した案と同じものだ。その時に言ってくれれば良かったのに。
「だって言う必要ないと思ったんだもの。それに、ほら、私もうすぐ、その…… セルシウスになる訳じゃない?」
ちょっと頬を赤くしてセラが答える。ふいっと視線を逸らす仕草が可愛らしい。ええ、それに関しては頑張りますよ。全力で。
「でも、何で妹なの? 私に妹なんていないわよ?」
「逆になぜそこに行き着かないのか聞きたいよ…… あの燃えるような赤髪、キリッとしたツリ目、馬鹿みたいに強力な格闘術と共通点が多過ぎだ。ぶっちゃけ、何も知らずに姉妹と言われれば俺は普通に納得してしまう」
ちなみに胸は例外である。 あー、そういやバールが身に着けてた髪留め、あれは『偽装の髪留め』だったのかもしれない。鑑定眼でしっかり確認しておけば良かったな……
「それに、セラだって魔王グスタフに存在を隠されて育ったんだろ? だったら同じように妹がいたって不思議じゃない。それこそセラにも話してない可能性もあるしな」
超過保護なセラの父親ならあり得ると思う。
「私もご主人様と同意見です。バールさん、セラさんにそっくりですし」
空になったセラのコップにエフィルがおかわりを注ぐ。
「うーん、そうかしら? 自分では分からないわ」
「ワシもそう思うぞ。孫力もなかなかに高そうじゃ!」
孫力って何だよ…… まあ、確かに見た感じリオンと同世代っぽいが、セラは封印される以前、数百年レベルで昔の時代に生きていたのだ。実際に妹でないにしても、仮にセラを知る人物であるとすれば、封印により肉体の時が止まっていたセラは兎も角、そんな時が過ぎてしまってはバールがお婆ちゃんになってしまうのではないだろうか? そもそも生きているのがおかしい。それを考慮すれば、セラと同様に封印されていて何かの拍子に封印が解かれた、とかが可能性あるかな。
「セラ、悪魔は100年、200年の時が経っても、寿命とかは大丈夫なのか?」
「そうねぇ、その程度の年月ならビクトールを見ればお察しかしら。あと、悪魔の種族にもよるんだけれど、私や父上のように人間に似た悪魔は一定の年齢まで成長した後、ずーっとその外見のままで歳を重ねるの。例えれば、エルフに近いかしらね。ま、個人差はあるけど。ちなみに私は今の姿で成長が止まったわ!」
あれ? 胸はまだ成長していたような気がしたんだが、そこは別枠なのか……? う、うん、ではバールがもし悪魔で封印されていなかった場合、あの年齢で成長が止まってしまった、と言うことになるのか。
「う、うう…… バールちゃん、不憫だよぉ……」
「何が?」
リオンも俺と同じことを考えていたようだ。セラは何の話かまったく分かっていないが、リオンの涙は真に迫るものがある。安心しろリオン、お兄ちゃんはそんなことでは差別しません。それにセラの件を考えれば、奇跡的にワンチャンあるかもしれないぞ。
『メルフィーナは何か知っているか?』
神であるメルフィーナであれば何か知っているんじゃないか? などと淡い期待を抱いて聞いてみる。神様関係は他言できない内容だし、念話で。
『そうですね…… 魔王グスタフの時代となると、私が神となる前、エレアリスが転生神であった頃の話です。伝承として伝わっている情報以外となりますと、それ程力になれないかと』
『そうか……』
『ただ、私が神となってからの時代においても、 彼女(バール) は一度として表舞台に現れたことがありません。あれだけの力があれば、嫌でも名が轟くものなのですが』
歴史上に存在しない圧倒的強者、か。まるでつい最近、この世界に現れたような――― ん?
『……俺、今かなり不吉な考えが頭を過ぎったんだが』
『奇遇ですね、私もです』
『『………』』
うん。一応、バールは警戒対象だな。セラが言ってたバールの捨て台詞も気になるし。
「セラねえ、バールちゃんってどんな子だったの? 僕も友達になれそう?」
「ええ、とっても良い子だったわ! 冷たそうだけど私の話は聞いてくれるし、何と言っても強いし!」
「そうじゃな! 孫力も高そうじゃし!」
……まずは仲間に周知するところからか。可能性はできるだけ洗っておこう。
「ところであなた様、次の試合を控えているダハクはどうしたのですか? 私が戻って来たときには既にいませんでしたが……」
「ん? ああ、闘争心を燃やしに行ったよ」
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―――ガウン・総合闘技場医務室
ケルヴィンとメルフィーナが意見を交し合う一方で、ダハクはある目的のもとに闘技場内を散策していた。そしてその目的である目標を発見した今現在、医務室前で扉の隙間から部屋の中を覗き見している。
「ほらぁ、たんとお食べなさぁい」
「やだわぁ、お姉様の剥いたリンゴ美味し過ぎて太っちゃ~う」
「うふふぅ、エフィルちゃんには及ばないけれどぉ、私のナイフ捌きもなかなかのものでしょう? 素材の味を活かすのは良い女の証拠なのよぉ」
ゴルディアーナがリンゴを剥き、グロスティーナが食べ続ける。気のせいか、切り分けられた兎のリンゴを口にする毎に、グロスティーナの肌ツヤが増しているように思える。部屋の中にて咲き誇るラフレシアの流星群。一般人には刺激の強過ぎるその光景は発禁処分ものである。
「あ、あのハゲ野郎、何て羨ましいことをっ……! 背景に薔薇なんて咲かしやがって……!」
もっとも、グロテスクな花々が麗しい薔薇へと脳内変換されるダハクにとっては、美男美女がイチャついているようにしか見えない。
「プリティアちゃんに見合う男はジェラールの旦那くらいなものを、ぽっと出の三枚目がぁ……! くそっ! 兄貴、どうやら奴へのシゴきが足りなかったようッスよ!」
別にケルヴィンはそう言った不純な目的でグロスティーナと戦った訳ではなのだが、絶大な信頼を寄せるダハクは自分に都合の良いよう解釈していた。ダハクとしては、最大の恋敵であるジェラールを差し置いてプリティアの施しを受けるグロスティーナが許せないのだ。
「ここはひとつ、次の試合で俺ができる奴ってことをプリティアちゃんに見せてやらねぇと。どんな手を使ってでもな……! 幸い、奥の手の使用はケルヴィンの兄貴に許可を得ている。旦那、悪ぃな。俺がプリティアちゃんのハートを射止めますぜ!」
ドア越しに拳を握り、決意を固めるダハク。この恋が成立すれば その恋敵(ジェラール) が諸手を挙げて喜ぶのだが―――
(ダハクちゃん、やる気満々ねぇ。でもでも、私はそんなに安い女じゃないわよぉ?)
ダハクの気配に気付き、不敵に笑うゴルディアーナ。どうやらダハクとジェラールの試練は一筋縄ではなく、茨の道のようだ。
「舞台の交換作業、終~了~! さあ、Dブロック決勝を開始しますよ! ゴルディアーナ選手とダハク選手は舞台へおいでください! できれば舞台を壊さないで頂ければ嬉しいです!」