軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第219話 妙手

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

「ブロック決勝戦もこれにて最後となりました! 果たして最後に駒を進めるのは『桃鬼』ゴルディアーナ選手か!? それとも大槌使いのならず者、ダハク選手なのか!?」

「ああん!? 誰がならず者だよ!」

言動がそれなダハクがロノウェに吼える。変わらぬ短気さに、観客席ではケルヴィンらがやれやれと首を振っていた。

「さて、ダハクちゃん。策は十分に練ってきたのかしらん? 悪いけれど、正面からの戦いじゃあ勝ち目はないと思うわよん? それこそ、 今の(・・) ジェラールのおじ様くらいじゃないとねぇ」

サイズは大きく異なるが、ゴルディアーナはセラと同じナックルを装備し、黒の全身タイツを着用している。いつもであれば目を奪われ放心状態になるダハクであるが、今日は一味違う。ジッとゴルディアーナを見据え、戦闘へ頭を切り替えている。先ほどの咆哮を行った人物とは別人のようだ。

「……分かってるッスよ。悔しいが、俺は旦那やプリティアちゃん程の 美しさ(ちから) を持っている訳じゃねぇ。だがよ、男の価値が見た目で決まるなんてこともねぇんだ! 俺が持つ全ての手を使って勝ちに行くぜ、プリティアちゃん!」

ダハクは大槌を肩に背負い、左手を前に突き出す。言葉を聞き入れたゴルディアーナも、満足気に頷きながら構えを取った。両手を肩よりも上にあげたその姿勢になると、2メートル以上ある彼女の巨体は更に大きく、強大に見える。

(やべぇな、このプレッシャー。殺気立ったセラ姐さんと対峙してるみたいだぜ……)

これまでの試合のような笑みは、ゴルディアーナの表情に最早ない。ただただ無表情に、ダハクを見詰めているのだ。 ―――真剣勝負。そうするに値すると判断されたことに、ダハクは心が熱くなる。

「Dブロック決勝、試合――― 開始っ!」

試合開始が宣言された瞬間、ダハクは全力で背後へと飛び、声を張り上げた。

「てめぇら、やれぇ!」

「あらん?」

その叫びに呼応するように、舞台外の芝が膨れ上がる。大地より突き出したのは黄土色の植物の大群、やがてそれらは瞬く間のうちに結び付き、ひとつとなっていく。土煙の中に観客が、ロノウェら解説席メンバーが見たものは、舞台全体を覆う植物のドームであった。

「こ、これは…… 突如出現した謎の円蓋に遮られて、試合が見えないぃー!?」

観客の言葉を代弁するロノウェ。そう、舞台を覆った植物ドームは太陽の光さえも通さず、外側からでは中身が全く見えないのだ。これでは観戦しようにもドームが邪魔である。

(……視覚を封じに来たわねぇ)

光を通さない、詰まりはドームの中に光源がない。ゴルディアーナとダハクを取り巻く空間は闇一色。一歩先も見通せない暗黒の世界だ。だが、闇竜は夜目がきく。

―――ズダァーン!

「―――!?」

元々暗視能力を持つダハクより横殴りに放たれた、大槌の一撃。闇が支配するこの場での、更にゴルディアーナの死角からの大打撃であった。しかし腹部へ衝突したハンマーは寸前で停止し、両側面が大きく沈没してしまっている。 ―――蹴り足ハサミ殺し。大槌をゴルディアーナは肘と膝によって挟み込み、ダハク渾身の一撃を完全に殺したのだ。

「確かに見えないけどぉ、何も周りを見る目はそれだけじゃないのよねぇ。私の『第六感』を使うまでもなくぅ、この程度は奇襲にもならないわよん」

大槌がグシャグシャと音を立てて潰されていく。瞬時に大槌を取り戻すことは不可能と判断したダハクは柄を放し、再度距離を取る。

(開始早々得物を失っちまったか。だがよ、これも予想通りだぜ)

―――バキン!

巨大なハンマーを潰し切ったゴルディアーナ。視界を奪われようとその戦闘力が変わることはなく、周囲のあらゆる情報をその体に取り込みながら、ゆっくりとした足取りで歩み出す。

(この異臭、空気の流れ…… 何かガスのようなものが充満しているわね)

ゴルディアーナが第一歩を踏み出した時、ドーム内の空気が変わった。彼女が感じたのは四方より流れてくる強い風と、鼻を刺すような悪臭。長年の経験からゴルディアーナはそれを毒と判断し、呼吸を止める。その見解は正しく、ダハクは見上げる大きさの、4体の猛毒を吐かせる食人植物を舞台から突き破らせる形で生成していた。食人植物は赤き蕾に鋭い牙が並んだその口から毒ガスを噴出し続け、獲物を狙うようにゴルディアーナへと矛先を向けている。

(あのハゲを真似る様で癪だが、やれることは何でもしてやる! 息を止めたようだが、この閉鎖空間でどこまで持つ!?)

ちなみにダハクは体内に毒素を分解する植物を飼っている為に支障はない。

(無呼吸運動の鍛錬、懐かしいわねぇ…… 久しぶりだし、数十分ってところかしらん。さ、来なさいなぁ)

食人植物の1体がその太い茎を撓らせながらゴルディアーナへと突貫。それを皮切りに、残りの植物達も次々と向かって行く。先行する1体が衝突する寸前、バキッとゴルディアーナの指の音が鳴り響いた。次いで闇の中から聞こえてきたのはグシャリと言う物音。大槌のように金属的ではなく、生々しい音であった。

(セラ姐さんのように勘で動いてるって感じじゃねぇ。本当に見えてねぇのか!?)

闇竜の瞳でダハクが見たのは、自身が『生命の芽生』で誕生させた、A級にも相当するポテンシャルを持つ植物らが葬られていく光景。激突の瞬間に剥き出しにした口部をダイレクトに押さえ付け、叩き潰し、後続を殴り、散り散りに粉砕していく。それどころか、植物達と戦いながらダハクの方へと猛スピードで前進している。ダハクが狙うは消耗戦だ。後退し、負けじと更なる食人植物を大地から生み出していく。が、それが隙となった。

「ぐっ……!」

ゴルディアーナも遠距離においての技を持っていない訳ではなかったのだ。植物達との戦闘の最中に指先より放たれた空気の塊、『 蜂刺針(はち・ぶんぶん) 』がダハクの土手っ腹に風穴を開ける。ゴマの時のように手加減をしていない、本気の一撃。面での衝撃ではなく、より速く、一点に威力を集中させた代物へと変貌した、この技本来の姿である。

(あらん? 思っていたよりも、気がぶれない……?)

ダハクは即座に伸縮性に富む秘薬草を腹に巻きつけ、出血を抑える。同時に攻撃役である植物の生成も続けるダハクの精神はかなり酷使されている状況だ。だが嘆いている暇はない、こうしている間にもゴルディアーナは迫っているのだ。腹の痛みに歯を食い縛り、間合いをはかりながら次の罠へと誘導する。

(足……っ!)

アッガス戦で見せた、蔓による足止め。であるが、如何に頑強な蔓と言えど、ゴルディアーナが相手では1秒の時間稼ぎにもならないだろう。だが、ダハクはそれでも構わなかった。気を逸らす程度の、コンマの時間を稼ぐことができれば、それで良かったのだ。

―――カッ!

闇に沈んでいたドーム内に翠緑色の光が灯される。その正体はダハクのブレス。ダハクの口から一直線に放たれ、舞台を焼き溶かしながらゴルディアーナに衝突する。この時ばかりは食人植物達もゴルディアーナから離れ、巻き添えを逃れていた。

(いいわねぇ。防御力無視のまっすぐな攻撃…… 焦がれるわぁ)

ブレスを受け止めたナックルが溶け、ゴルディアーナの両手に火傷を負ったような痛みが走る。今大会におけるゴルディアーナの初ダメージ。十数秒放たれ続けたダハクのブレスは、着実にゴルディアーナに効果を発揮していた。そしてブレスが止むと同時に再び闇が跋扈し、食人植物が襲い掛かる。

(……潮時、かしらねぇ。あからさまに消耗戦狙いだしぃ、まずはこの状況を打破しないとねぇ)

ゴルディアーナの右腕に、桃色のオーラが纏われた。