軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第215話 策

―――ガウン・総合闘技場客席

アナウンスの召集に意気揚々と舞台へ向かうリオン。送り出した俺たちは客席より舞台の様子を窺っていた。とは言え俺の拘束は解かれず、両脇にエフィルとメルフィーナ、背後にセラを据えたトライアングルから未だ抜け出せていない。もう完治してるよ。それどころか絶好調だよ。

「リオンちゃん、大丈夫かな?」

「次の相手はあの獣王レオンハルトですからね。苦戦は必至でしょう」

心配するシュトラにメルフィーナが答える。どうやら観戦中は魔法の連続詠唱を止めてくれるようだ。

「それもそうだけど、俺は獣王が誰の姿で来るかが気になるかな。今までの試合、対戦相手に縁のある姿だったみたいだし」

1回戦と2回戦、3回戦だけは不戦勝であったが、これまでの相手は獣王の化けた姿を目にした途端、あからさまに動揺していた。動揺した理由までは知る由がないが、獣王の性格からして戦い辛い相手の姿になったのだと予想している。この変身能力はエルフの里でも目にした、ガウンの国宝とされるマジックアイテムの効果だろう。試合に持ち込んでいることから、何らかの装飾品の扱いであることは間違いない。

「リオンを相手にして、誰に変身するかねぇ…… やっぱりケルヴィンじゃない?」

「俺か?」

「いやいや、そこはワシじゃろうて」

「リオン様、模擬試合でご主人様やジェラールさんと戦っておりますし、問題ないのでは?」

「んー、普通に戦う分にはな。でもなぁ……」

獣王のことだ、どんな精神攻撃を仕掛けてくるか分かったもんじゃない。この前の晩餐会でゴマが熱く語ってくれたからな。注意するに越したことはないだろう。だがしかし、もしリオンにトラウマでも与えるものなら、ふふふ……

「リオンお嬢が来たッスよ!」

ダハクの言葉の通り、舞台を見ると丁度リオンが入場しているところだった。リオンが姿を現すと共に上がる喝采の嵐。どうやらこれまでの試合を見てリオンのファンになった観客達のようだ。ジェラールのように孫を応援する感覚の老夫婦から、一部の熱狂的な支持者までその層は様々である。セラの時もそうだが、基本接近戦が主となるこの獣王祭において女性の出場は稀有なもので(変身や女装は除く)、美少女美女が舞台に上がった際の声援は力の入れようが一味違うのだ。あの赤髪の少女、バールが出てきた時も似たようなものだった。

「うん、調子良さそうだ」

「リオンちゃん凄いなぁ。あんなに人がいっぱいいる場所で緊張しないのかな?」

感嘆の眼差しでシュトラがリオンを見詰める。リオンの場合は『胆力』スキルを会得してるからってのもあるのだが、シュトラよ、君も大きくなったら十分過ぎる程に立派になっているから大丈夫だ。あんな王子達の中でよくできた子に育ったものだと感心するよ。

「獣王も来たようですね」

「来たか。どれ、誰の姿で――― あっ」

「お兄ちゃん、どうしたの? ―――えっ?」

これは不味いかもしれない。

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―――ガウン・総合闘技場試合舞台

舞台上に次の試合の対戦者同士であるリオンと獣王が向かい並び、勝負の準備が整う。だが獣王と向かい合ったリオンの表情は明らかに動揺していた。それどころか観客達からも憂いの声が漏れていた。

「え、ええっと…… 獣王様、なのかな?」

「うん! こんな姿だけど、私は獣王よ、リオンちゃん」

獣王が変身した姿はリオンよりも小柄で、腰までかかったサラサラなブロンドの髪。青き瞳にリオンを映したその少女は、幼きシュトラであった。身に着ける白きワンピースドレスはとても戦闘用の物には見えず、武器らしい武器は何も持っていない。パーティー会場から着の身着の儘抜け出してきたお嬢様のようで、戦いに来たと言うにはあまりにお粗末、不用意な格好である。

「レオンハルト選手、見たところ武器を持っていないようですが…… このまま試合を開始してもよろしいのですが?」

「別にルール違反ではないでしょう? 私は構わないわ」

ロノウェが人々の疑問を代弁するが、シュトラとなった獣王は問題ないとどこ吹く風。忘れたのではなく、わざと得物を持って来なかったと言いたげだ。

「……いいの?」

「いいの! それに私、リオンちゃんを傷付けるなんてできないもの」

「えっ?」

「りょ、両者準備完了のようですので、始めたいと思います! Bブロック決勝、試合――― 始めちゃってくださいっ!」

ロノウェの試合開始宣言。話の途中であったが、リオンはそれと同時に構えの姿勢へと移行する。心は揺らいでいるが、決して油断はしていないのだ。その相手が例え、シュトラの姿をしていたとしても。

「……っ!」

だと言うのに、シュトラ、獣王は無防備にリオンへと歩みを進める。リオンと遊ぶ時にシュトラが浮かべる笑顔を携え、ニコニコと歩みを進める。

「リオンちゃん。私ね、リオンちゃんと戦いたくないの。でもね、獣王である立場上、何もせずに棄権することもできないの。だからね、私を切り伏せてほしいんだ」

「な、何を言っているの!?」

「言葉のままだよ、リオンちゃん」

小さな歩幅での歩みであるが、気がつけば獣王はリオンの間合いに入っていた。リオンが斬り付ければ獣王へと届く絶好の距離である。シュトラは武器を持たぬ自身にとって、不利でしかないその位置で立ち止まり、リオンの行動を見守っている。表情を変える様子もない。

「どうしたの、リオンちゃん? 私の首はここだよ? スパッとやっちゃってほしいな」

「う、ぐっ……」

罠? それとも本当に戦わない気なのか? 疑念の思考がグルグルと回り、リオンを躊躇させる。だがそれ以上に心優しいリオンにとって、無抵抗の、それも友達であるシュトラを斬る選択肢を選ぶことができないでいた。

「……そっか。リオンちゃんは優しいね。それなら―――」

「え…… ちょ、ちょっと!?」

リオンが構えた双剣の内の一刀、その刀身を獣王がゆっくりとした動きで握る。握った右手からは血が滴り、血液の雫が舞台へと落ちていった。

「リオンちゃんができないのなら、代わりに私がやってあげる」

「くっ、動かな……っ!」

獣王が力尽くで剣を自らの喉元にへと誘導する。姿は幼きシュトラなれど、その力は獣王自身のもの。リオンが必死に誘導を止めさせようと抵抗するも、鋭き剣の先はじわじわと獣王の白き喉下へ着実に近づいていた。それに伴い、リオンの顔色から徐々に血の気が引いていっている。

「や、止めてよっ! 僕、こんな勝ち方したくないっ!」

「仕方ないの。私だってリオンちゃんと戦いたくないんだもの」

死が直前に迫るも汗ひとつかかない獣王と、滝汗を流しながら一心不乱に剣を止めようとするリオン。これが攻防と呼べるものなのか、勝利への有利不利がどちらに向いているのか、この状況下では誰にも分からない。だがこのまま試合が進めば、あと僅かでリオンの剣が獣に突き刺さるであろう事だけは明白であった。

「大丈夫、私が死んでもリオンの勝利には変わらないから」

「そう言う、ことじゃ、ない…… よっ……!」

「んー、困ったなあ。でも、残された選択肢は――― 降参するしか、ないよ?」

最早涙目となってしまったリオンへ向け、ポツリと口にされた、惨劇を回避することができる最後の希望。これまでの笑顔とは一変し、僅かに口端を吊り上げて言い放たれたその言葉は、リオンにとっての敗北を意味する。だがそれは、酷く甘美な言葉のようにも聞こえてしまうのも、また事実。剣先は遂に獣王の肌に突き刺さり、血が滲み始めていた。

「降参! 降参するからっ!」

「あら、そう?」

「うわっ……!」

パッと放された獣王の右手。直後、目一杯の力を篭めていたリオンは勢いに負けて尻餅をついてしまった。

「ロノウェ、宣言宣言♪」

「え、あ、はい…… リオン選手の降参を受理しました! よってBブロック決勝! 『鏡面』レオンハルト・ガウン選手の勝利ぃー! でも何か納得できないぞぉー!」

獣王の勝利が宣言されるも、会場を覆ったのは歓声ではなくブーイングの嵐であった。