軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第214話 集中治療

―――ガウン・総合闘技場医務室

ここはガウン総合闘技場にある医務室。大会にて怪我を負った者達が世話になる場であるのだが、現在に限っては人気がなく閑散としていた。しかし人が全くいない訳ではなく、ベッドにて横たわる者が1人、そしてその傍らにてリンゴの皮を剥く大柄な男――― 女性の姿があった。

「―――刺激的ぃ!?」

「あらん、思ったよりも元気そうねぇ、グロスティーナ」

「お、プリティアお姉様? ここは……?」

酷い意識の取り戻し方をしたグロスティーナであるが、ゴルディアーナは気にする様子もなく暖かく迎え入れた。

「取り合えず、栄養の為にもこれでも食べなさぁい」

愛くるしい兎の形に剥いたリンゴを手渡す姉御振りである。

「今は破壊された舞台の交換作業中の休憩時間、そしてここは闘技場の医務室よん。貴女、ケルヴィンちゃんに負けて気を失ったのよぉ」

「ええぇん!? それは本当っ!?」

「ここで嘘を言ってどうするのよぉ。私が嘘をつくのは、恋愛の駆け引きの時だ・け。それよりもケルヴィンちゃんに感謝しなさいよぉ? 試合の後で重症だったグロスティーナを回復してくれたんだからぁ。傷跡ひとつないでしょん?」

グロスティーナは自分の胸元を開き、マジマジと体を見詰める。

「……あれだけ傷付けられた私の体が、新品みたぁい!」

「その言い方は淑女としてどうかと思うわぁ」

「だって嬉しいんですものぉ! あっ、お姉様……」

「どうしたのん?」

「試合、負けてしまったわん。折角お姉様に誘ってもらって、何よりもお姉様の恋がかかってると言うのにぃ……」

見るからに肩を落とすグロスティーナに、ゴルディアーナは優しく微笑み掛ける。

「いいのよん。それに私が間違っていたわぁ。恋ってのはねぇ、自分の力で掴み取ってこそなのよぉ。時に悲しみ、時に悩み…… だけど、足掻きに足掻いた分だけ想いは心に深く刻まれるわぁ。だからこそ、今一度頑張ってみる。優勝って形で、ねぇ」

「お、お姉様、まさか……!」

「ええ、この獣王祭で優勝したら、おじ様に 告(や) ってくるわん!」

「まあ、素敵っ!」

それは何とも残酷で、無慈悲な宣戦布告であった。夢見る少女のようにはしゃぐ2人に王子様、もといおじ様は振り返ってくれるのだろうか。

「でもでも、ケルヴィンちゃんも良い男じゃない? さっきの試合、私の中で硬くて長いものが暴れちゃってぇ、とっても興奮したわん!」

「まあ、羨ましいわぁ。でもその台詞は変に誤解されちゃうから、心の中に留めておきなさいねぇ。他の人様に迷惑を掛けるのは御法度よん」

「あらやだ、私としたことが……」

「それにケルヴィンちゃんはセラちゃんのものよぉ。親友の男に手を出すなんて、絶対に駄目ぇ。彼女には幸せになってほしいものぉ。ま、試合でぶつかったら手加減しないけどねぇ」

尊い 犠牲(ジェラール) を払い、ケルヴィンは危機を脱したのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

―――ガウン・総合闘技場客席

「ハア、ハアッ! ゴマ、もっと速く走れ!」

「こ、これが限界よっ!」

サバトとゴマは走っていた。酒場での宴もそこそこに、試合でケルヴィンが重症だとの噂を耳にしたのだ。直後に酒場を抜け走り出したサバト、その後を追い掛ける形でゴマが闘技場へと向かう。闘技場に到着し受付に確認すると、王子と姫と言う立場もあって直ぐにケルヴィンの場所を知ることができた。どうやらVIP用特別席の個室にて治療しているようだ。

「……普通、医務室じゃない?」

「そんな細かいことを気にしてる場合じゃないだろ! 行くぞ!」

再び目的の場所へ向かって走り出す2人。ここまで来れば客席は目前。A級冒険者であるサバトらは寸秒でケルヴィンの居場所に辿り着くことができた。

「ケルヴィン、倒れたってのは本当か!?」

ノックもなしに勢いに任せて扉を開けるサバト。彼の脳内に描かれるのはベッドに横たわり、包帯グルグル巻きで瀕死の危機にあるケルヴィンの姿。だが、現実は非情なもので―――

「さあ、ご主人様。もう一口食べてください! はい、あーん!」

「あ、あーん……」

「ハア、ハア…… エフィル姐さん! 『世界樹の星葉』、もう一枚育ったッス!」

「ありがとう、ハクちゃん。あと一枚あれば世界樹粥がもう一杯作れるのだけれど……」

「りょ、了解ッス! うおおー! 燃えろ、俺の魂ぃー!」

「 全晴(ベネディクションキュア) 、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、ごくごくっ…… 全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴、全晴―――」

「ケルヴィン、私にできることはないかしら? 遠慮することはないのよ!」

「ならまず『血染』を解いて手足の拘束を外せ」

「駄目よ、今は安静にしないと!」

―――それよりも酷い光景が眼前に広がっていた。部屋の奥にて上質のソファーに座るケルヴィンに、見慣れた仲間たちが群がっていたのだ。鮮やかな緑の葉で彩られたお粥をスプーンですくい、ケルヴィンに食べさせようとするエフィル。その横ではメルフィーナが無心で白魔法を唱え続け、足元にはMP回復薬の空瓶が山を形成している。ケルヴィンの右腕にはリオンがぴったりとくっつき、嬉しそうに両腕を絡ませている。ソファーの後ろからはセラがケルヴィンの肩を揉みながら、何やらケルヴィンと会話しているのが見えた。床ではダハクが座り込み、苗木の鉢と向き合い叫びながら汗をしたたらせている奇妙な姿が。

「あっ、サバトさんにゴマちゃん!」

その光景のあまりの予想外さにサバトがポカンと放心していると、リオンがサバトとゴマの姿に気がついた。

「……重症じゃ、なかったのか?」

「はあ、やっぱりね……」

ゴマは小さく溜息をつくと、静かに個室の扉を閉めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ハァ!? つうことは、試合後に自力で完治しちまったのか!?」

「リオンの助けもあったけどな。だけど大事をとって次の試合までは安静にしろって医師から話があってさ、それからはこんな調子だよ」

話し終わるとエフィルから差し出されたお粥を口に入れるケルヴィン。こうしている間にもメルフィーナの魔法は続いており、星々の輝きが眩しいほどにケルヴィンを覆っている。

「いやいやいや、どんな調子だよ!?」

「ふふふ。実はね、これは私たちがケルヴィンの為に考案した治療法なの!」

セラが得意気に立ち上がった。

「ち、治療法なのか?」

「そう、治療法よ!」

セラの説明はこうだ。ダハクが最上級クラスの治療薬の原料となる『世界樹の星葉』を高速栽培し、エフィルがその葉で調理した絶品お粥で体を内部から清め、解毒する。そしてメルフィーナの執拗なまでの白魔法であらゆる状態異常を解除。更には傍らにいるだけで全てを浄化するリオンが密着することで不安要素を排除。止めはセラの『血染』でケルヴィンの両手両足を支配し、強制的に安静状態に!

「……そう言うことらしい」

「愛されているな、色々と…… てっきりそう言うプレイかと思ったぜ」

「違うから!」

「ガァーハッハッハッハ! 王よ、災難じゃったな!」

別テーブルで孫達と戯れるジェラールは完全に他人事である。

「あら? 私の見たてでは、今一番危機が迫っているのはジェラールな気がするのだけれど」

「ちょ、洒落になっておらんぞ、セラ…… お主の勘は不気味なほどに当たるんじゃから……」

「何となくよ、何となく」

心に思い当たる節があるのか、黙り込んでしまうジェラール。そんな中、室内にロノウェのアナウンスが流れ出した。

「お知らせ致しまーす。闘技場舞台の交換作業が終了しました! これよりBブロック決勝を開始します! リオン選手とレオンハルト選手は舞台へおいでください!」