軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第210話 ガウンの英雄

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

3回戦1番最初の試合が出番となっている俺は、選手入場口の通路にてアナウンスを待つ。セラやリオンは連れて歩くと目立つ為、特別席で観戦だ。

「腹ごしらえは十分か!? 昼休みもこれにて終了! これより選ばれし16名の戦士による、第3回戦の開始だぁー!」

ロノウェのアナウンスに会場が湧き立つ。しかし、ガウンの民はよくもまあ朝からこのテンションを維持できるな。かれこれ半日は声を張り続けているぞ、観客達。

「おっと、直前ですがここでお知らせです。解説のキルト様は突然の体調不良により午後の部は欠席となるようです。このマジックアイテムさえあれば解説いらねぇんじゃねーの? との声もありますが、ぶっちゃけその通りなのでここからは不肖私、ロノウェ単身で実況に挑みます! ああ、やってやるよ! シスコン王子なんかもう知らないよ!」

「荒れてるな……」

ゴマが負けてしまったことによるショックか、獣王に何かされたのかは定かではないが、どうやらキルト王子は解説の仕事を素っ放かしたようだ。それによりシスコンであることをロノウェに口外されてしまったキルト王子。同志としては同情の念を禁じ得ない。

「さ、私情による罵詈雑言は一時捨て置きます! 早速試合を始めていきましょう! Aブロック3回戦第1試合、S級冒険者『死神』ケルヴィン選手対、ガウンの英雄にしてガウン国千人隊長ジェレオル・ガウン選手!」

ジェレオルの名が呼ばれると、一際大きな歓声が闘技場を覆い尽くした。ジェレオル・ガウン、次期国王の最有力候補として真っ先に名が挙げられる、愛国心溢れるガウン随一の戦士。ロノウェの紹介を借りればガウンの英雄とされる程の人物だ。確か、格闘術においてのゴマの師匠でもあるんだったか。間違いなくサバトらよりも格上の存在であり、獣王よりはこちらの方がサバトが追い求める完成系の姿に近い存在だろう。あいつ、愚直で獣王のような悪知恵は働きそうにないし。っと、こんなことを考えている場合でもないか。ジェレオルが既に舞台へ上がっている。俺もそろそろ入場するとしよう。

「ケルヴィン、一昨日の晩餐会以来だな。やはりここまで上がって来たか、今と言う時間を楽しみにしていたぞ。いや、冒険者のランクで言えば俺が挑戦者側となるのだがな」

「いえ、楽しみにしていたのは私も同じです。良い試合をしましょう、ジェレオル王子」

「ああ、全力でやらせてもらおう。だが王子は止めてくれないか? その呼び方はどうもむず痒くてなぁ」

ジェレオルと握手を交わし、試合開始位置へと就く。んー、何だ。晩餐会でも多少なり話すことはあったが、やはりこの世界の王族としては珍しくも癖がなく、まともな人っぽいな。最近なかなか見ることがなくなった常識人オーラを発している。彼ならば英雄ともてはやされても納得である。トライセンの王子やらデラミスの巫女やらは是非ともジェレオルを見習ってほしい。ほら、常識人オーラがこんなに眩しく――― あれ、何で俺までこんなにも眩しく感じているんだ?

「注目の第1戦です! それでは試合――― 開始っ!」

ロノウェが試合開始のアナウンスを鳴らすも、俺はこれまでのように速攻はかけない。向こうもそれは同じようで、ジェレオルは俺の様子を伺うように腕に装着した腕甲を構えた姿勢のまま動かない。拳の師だけあって、ゴマと構えがそっくりだ。

「……意外だな。直ぐに仕掛けて来ると踏んでいたんだが」

「それも良いんですが、試合は長く楽しみたいじゃないですか。まあ、どちらも動かなければ意味ないですし、それじゃ遠慮なく―――」

地を蹴り、正面へと駆ける。真正面から飛び込んで来たことにジェレオルは僅かに目を見開くが、しっかりと俺を捉えているようだ。サバトが2回戦で見せた最高速に匹敵するスピードの筈だが、流石にこの程度の速度には付いて来れるか。なら、まずはここから。

「ふっ!」

「ぐうっ!?」

剣の連撃。息する間もなく放たれる刃をジェレオルは腕甲で受け止め、払い、また受け止める。

「おおっと、開幕後の様子見は嵐の前の静けさだったのか!? ケルヴィン選手、猛ラッシュですっ! 常人の私には剣筋が見えないぞぉ! ジェレオル選手には見えているのか、攻撃の全てをいなしているようにも見えます! ……と言うことで、キルト様の遺産である映像にて確認致しましょう」

スローで確認している間にも試合は進むけどな。剣から伝わる感覚、防戦一方のジェレオルを見るからして、防御に徹すれば紙一重で、って感じか。オッケー。

「おおっ、おおっ! 何と言う攻防でしょうか。流れるような連撃もまた見事ですが、その全てを受け流すジェレオル選手も素晴ら――― えっ?」

「ふう、ふうっ…… おい、何の冗談だ?」

舞台に視線を戻したロノウェが声を失い、ジェレオルが俺を鋭く睨みつける。

「なぜっ、ここで剣を置く!?」

「ケ、ケルヴィン選手、舞台に剣を突き刺し、そのまま手を離したぁー!? って、この舞台、剣が突き刺さるような硬度じゃないんですけどっ!」

そう、俺は剣を手放した。言わば素手の状態である。

「なぜって、言ったじゃないですか。長くこの時間を楽しみたいって。後は、そうだな…… 仲間内の接近戦じゃボコられてばかりだったんで、一度それ以外で自分の力を試してみたいってのもあります」

「……だから、得物を捨てると言うのか。魔法が使えない、この獣王祭で。このジェレオルを相手に」

「ええ、まあ。最近『格闘術』のスキルを覚えたんで、その試運転がてらに。それくらいできなきゃ獣王やプリティアには勝てないでしょ?」

ジェレオルには悪いが、その2人と比較すると英雄と呼ばれる彼もかなり格下の存在となる。位置的にはアズグラッドぐらい? 魔法が使えなくとも今更敗北する心配は微塵もないが、全く体を動かさないのも後々の試合を考えるとよろしくない。英雄様には少しばかりスパーリングに付き合って貰う算段だ。

「……ふっ! これでもガウンの一軍を預かる身、簡単にはいかぬぞ」

「光栄です」

ジェレオルは俺の挑発とも取れる発言に乗っかることもなく、その野太い上腕に装備したブレスレットに軽く触れる。『鋭獣の腕輪』、サバトがリオンとの試合で用いた装備と同様のもの。ジェレオルは俺の言い分を聞き、全てを察した上でこの試合に全力を尽くしてくれるようだ。勝つこともまだまだ諦めていない。

「ふぅー…… 全身全霊を、ぶつける……っ!」

ジェレオルが猛獣となって飛び掛って来る。さて、今頃観客席でドヤ顔を決め込んでいるであろうセラ仕込の格闘術、どこまで通用するかな。

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―――ガウン・総合闘技場

「ふうむ、ジェレオルも敗北。我がガウンで残るはワシとユージールのみ、か。3回戦でこれとは、お前もサバトらのことをとやかく言えんな」

「め、面目ない……」

奥さんに叱られ、獣耳を垂らすガウンの英雄の図。数十分に及んだケルヴィンとの試合後、ジェレオルは獣王に呼び出しをくらっていた。体中に包帯を巻いているあたり、結果はお察しである。ちなみに獣王の横では既にキルトが倒れていたが、この件を詮索しては危険だと判断し、ジェレオルは弟の屍を見なかったことにした。

「対して、ケルヴィン一派は未だ4人全員が勝ち残っている。開催国としては少々情けなくあるな」

「父上、私がまだ残っているではありませんか!」

獣王に声を上げるはユージール・ガウン。弓の扱いに長けた次兄の王子である。実力も然ることながら、美男子としても有名な獣人だ。巷でも水もしたたる良い男とジェレオルに次いで人気が高い。

「そうか、その気概やよし。ならば次のワシとの試合、ユージールの初恋の相手の姿で行くとしよう。うむ、頼もしきユージールならば、この試練をきっと打ち破ってくれるだろう!」

「……えっ?」

しかし、獣王の度重なる試練の影響によって女性が苦手となってしまった可哀想な王子でもある。悩み悩んだ結果、ユージールは試合を棄権。これにより戦うこともなく獣王のBブロック決勝への進出が決定した。