作品タイトル不明
第211話 未だ戦いには至らず
―――ガウン・総合闘技場試合舞台
「ハハ、おじさん悲しいなあ…… まさか娘のような年頃の子供に全く歯が立たないとはねぇ……」
リオンと剣を交え、そして敗れた無名の剣士が地に膝をつく。チケット略奪組であり、その名が全く知られていないことからケルヴィン達に警戒されていた男であったが、いざ戦ってみれば終始リオンが圧倒。数回の剣の打ち合いはあったものの、十秒も経たないうちに勝負は決してしまった。決め手は男のリザイン、降伏であった。
「人目を忍んで何年も山篭りしたんだけどねぇ……」
虎狼流と同様に刀を得物としていたボサボサ頭の男はポリポリと頭をかき、そして刀を鞘に収める。その表情に見えるのは己への落胆か、それとも更なる強さへの渇望か。リオンにはいまいち読み取れなかった。
「おじさんも凄く強かったよ。ジェラじいやセラねえ以外でここまで打ち合える人がいて驚いたもん!」
「アハハ…… お爺ちゃんもお姉ちゃんもやばいねぇ、君の家族……」
「うん、自慢の家族だよ!」
乾いた声で笑う男と屈託の無い笑みを浮かべるリオン。生き残ることが更に困難となった3回戦ではあるが、ケルヴィンに続きリオン、セラ、ダハクも何の問題もなしに勝利し、各ブロックの決勝へと駒を進める。これにより、ケルヴィン達は出場者全員がベスト8入りを果たしたのであった。
「あ、それと子供って言うけど、僕だって来年15で大人なんだからね。そこ、忘れないで」
「……マジで?」
「マジで!」
その後、リオンは幾度か同じ質問を聞き返された。
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「うわぁー! ゴルディアーナ選手、3回戦も無傷で勝利だぁー!」
ロノウェの勝利宣言。本来3回戦の組み合わせはダハクの試合が最後になる筈だったが、ゴルディアーナの対戦相手が急に謎の吐き気を催した為に、この試合は後々へと移動してしまったのだ。3回戦ラストとなるこの試合の終了により、各ブロック決勝戦への進出者が決定した。観客はもちろん、実況としてのロノウェのテンションも鰻上り――― で、あるのだが、ロノウェはどうも調子が狂っていた。その隣には2人分の人影があった。
「ゴルディアーナ殿のあの筋肉、昨年よりもより一層強固なものとなっているな」
「ああ、兄上も気付かれましたか。あれでは私の必中の矢でさえ傷ひとつ付かないでしょうな」
3回戦で敗退したジェレオルとユージールである。
「……あの、ジェレオル様にユージール様。解説して頂けるのはありがたいのですが、なぜこの席に?」
「その、何だ…… 父上からの罰の一環と言えばいいか…… キルトの尻拭いとして来たと思ってくれ」
「は、はぁ……」
「ロノウェさん、もう少し離れてくれると助かる。私は女性が近くにいると、緊張して上手く解説できない」
「あ、はい……(大丈夫かなぁ……)」
ロノウェはユージールから離れつつ、心の中でぼやく。ジェレオルらは解説役としてこれ以上ない位の戦力ではあるが、キルトの件があっただけに自然とロノウェは身構えてしまっていた。また王子の知られざる性癖が世間に晒されてしまったらどうしよう、と。ただでさえ最近の解説役は最後に何かやらかしているのだ。キルト然り、デラミスの巫女然り。特に国民的英雄であるジェレオルにとても人様に言えない事柄が仮にあったとすれば、ガウンの信頼は地に落ちてしまう。ロノウェとてガウンを愛し、この国に生まれた誇りある獣人の1人。そのような危機的事態だけは避けたいと、彼女は心からそう願う。
「さ、さあ! 3回戦も全試合が終了! 次はいよいよ各ブロックの決勝戦です! この戦いを制した4名の戦士は決勝トーナメントへ進出、頂上への切符を手にすることとなります! それではっ、今一度各ブロックの組み合わせを再確認していきましょう!」
今は亡きキルトお手製のマジックアイテムが巨大なトーナメント表を映し出す。何気にロノウェはこのアイテムを使いこなしていた。
「まずはAブロック! S級冒険者ケルヴィン選手と武術家グロスティーナ・ブルジョワーナ選手の対決です!」
「召喚士らしからぬ超越的な強さで勝ち進んで来たケルヴィンには驚かされるばかりだ。私情を挟むが、俺を負かしたからにはケルヴィンには頑張ってもらいたい」
「しかし相手のグロスティーナ殿はS級冒険者のゴルディアーナ殿と同門、一筋縄ではいかない試合になるでしょうね」
「お、おお…… これなら安心かな?」
「何がだ?」
「いえ! こちらの話です! 次、次に行きましょう!」
「「?」」
ロノウェは目を背けるも、操作する立体映像はやたらとグルグル回っていた。
「続いてBブロック! ケルヴィン選手の妹にして『黒流星』の二つ名持ちのリオン選手対、S級冒険者『鏡面』にして獣王、レオンハルト・ガウン選手! 果たして獣王様はガウン最後の希望として勝つことができるのでしょうか!? 注目の一戦です!」
「我らが不甲斐ないばかりに、父上には負担をかける形となってしまったな……」
「あれ、そう言えばユージール様は3回戦を棄権していましたよね? 一体どうなさったんですか?」
「い、いや、ちょっと野暮用があって……」
途端に滝のような汗を流し出すユージール。初恋の相手の姿を公衆に晒したくない、なんて言える筈がない。ユージールとしては誰にも話さず、自分の胸の内に大切にしまってきた事実を「父上が何で知ってるの!?」と、いう気持ちで一杯であった。獣王が試合中もそのように精神面を責めてくるであろう不安と、意中の相手に負けてしまう惨めさ。名を頂く者として悩みはした。したが、駄目であった。ユージールは立ち直る自信がなかったのだ。
「おい、時間が押しているぞ」
「おっと、そうでした! えー、次はCブロックですね! Cブロックの組み合わせは! ケルヴィン一派『女帝』セラ選手対、無名の快進撃少女、バール選手の試合です! 両者とも非常に見目麗しい容姿ですが、これまでの対戦相手を全て一撃の下に葬っています! 見た目に反してバリバリの体術対決になりそうですね!」
「……どの試合にも言えることだが、全く予想が付かないな。誰もが俺よりも強く、そして真の力を出していない。特にバールと言う少女はこれまで耳に届かなかったのが不思議になる程の強さだ」
「西大陸僻地の出身かもしれません。場所によっては立ち入るのも困難な場所に建国する国もありますからね」
西大陸には大小様々な数多くの国が存在している。今も新たな国が毎年のように増えており、正確な国数は把握され切っていない。そんな情勢もあって、ユージールが指摘する通り全く名の知られていない猛者が突如として現れる事も、極稀ではあるがなくはないことなのだ。
「最後にDブロックです! S級冒険者『桃鬼』ゴルディアーナ・プリティアーナ選手対、ケルヴィン一派の大槌使い、ダハク選手! ダハク選手もバール選手のように無名からの勝ち上がりです。もしや、ケルヴィン一派の隠し玉なのでしょうか!?」
「あー、うむ……」
「そう、ですね…… きっとそうなのでしょう……」
何も知らぬ者からすればそのように見えるだろう。だが、サバトよりトライセンの漆黒竜がケルヴィンの配下になったとの報告を受けているジェレオルらはコメントし辛いことこの上ない。
「されど相手は前獣王祭覇者のゴルディアーナ選手です! 大波乱が起こるのか!? 皆様方、しっかりと刮目しろぉー!」
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Aブロック決勝戦、開幕直前。俺、セラ、リオン、ダハクの4人は選手入場口通路にいた。
「いよいよあの男をぶちのめす時が来たッスね、ケルヴィンの兄貴! 思いっきり殺っちゃってください!」
「いや、戦いはするけど殺しはしないからね?」
鼻息の荒いダハクは暫定恋敵であるグロスティーナが余程憎いらしい。狭い通路にドス黒い殺気が充満してしまっている。尤もリオンの周囲に限っては、触れたそばから浄化され清い空気に洗浄されているのだが。
「でも今回の相手は期待できそうじゃない? なんて言ったって、あのゴルディアーナの妹弟子なんですから!」
ゴルディアーナに対する信頼が余程厚いのか、セラは相手を持ち上げまくる。勿論、試合を見ての評価も含まれているんだろう。たぶん、恐らく。
「僕も何度か試合を見たけど、プリティアちゃんを剛の拳とするならグロスちゃんは柔の拳、って感じだったかな」
「ああ、受け流しに特化して隙を撃つスタイルだ。闇雲に攻めては駄目だろうな。ま、エフィルの料理も食べたし魔法で肉体強化も施した。後はなるようになるさ」
「もう、ケルにいは適当なんだからー…… そう言いつつ、何かしら考えてはいるんだろうけどさ」
「そんなことはないって。じゃ、そろそろ行ってくる」
長剣の鞘を腰に差し、舞台へと向き直る。
「ケルヴィン、先に勝って待ってなさい! 私も直ぐにいくわ!」
「再起不能ッスよ! 絶対ッスよ!」
「ハクちゃん、そろそろ落ち着こうね。はい、撫で撫で」
セラの鼓舞、そしてリオンの小さな手によって恨み妬みが綺麗に浄化されているダハクをバックに、陽の光溢れる舞台へと進んでいく。その光の中、舞台上には既にグロスティーナが待ち構えていた。―――これまでの試合で装備していたナックルではなく、毒々しい紫色の鞭をその手に持って。
「うふっ(はぁと)」
この時、ケルヴィンは初めて戦うことを躊躇した。