作品タイトル不明
第209話 勝者と敗者
―――ガウン・総合闘技場控え室
全てのブロックの2回戦が終了し、獣王祭は一時休憩時間を挟むこととなる。時刻は昼に差し掛かり、興奮冷めぬ観客達は出店の料理を頬張りながら優勝は誰かと予想し合うことで持ちきりだ。舞台上も賑わっており獣人の踊り子達が情熱的な舞の興行を披露し、観客達を飽きさせない。しかし、そんな祭りの最中でも意気消沈する者達はいるのであった。
「やべぇ……」
「不味いわ……」
「終わったッス……」
「不覚……」
まるでお通夜のような雰囲気の控え室。ここは2回戦止まり、または初戦敗退であったサバトらに割り当てられた部屋である。顔を押さえて俯く者、壁に寄り掛かり天井を見つめる者、うつ伏せで床に倒れる者と体勢こそは様々であるが、皆一様に生気を失っていた。
「おい、2回戦敗退って、おい……」
「何言ってんスか、俺なんて初戦敗退ッスよ? 百人隊長筆頭とか持ち上げられて、これッスよ?」
「……ねえ、この戦績で父さんは許してくれると思う?」
「ガハハッ! ……無理でしょうな」
大会後の命名式にてガウン継承を目標としてきたサバトとゴマであったが、今となってはそれどころではないのだ。
「ガウンの名を継ぐどころじゃねぇぞ。俺たちの武者修行の日々は何だったんだ……」
「いやあ、普通に相手が悪かったと思うんスけど。S級冒険者とその仲間、前大会優勝者とか、それこそ獣王様に勝つくらい難しいッスよ……」
「まあ、試合で負った怪我を治してくれたのはケルヴィンさんとメルさんなんだけどね」
「俺の傷跡も全く残ってねぇしな。しかし親父にそんな理屈が通じる訳ねぇだろ。せめてベスト16には入賞しねぇと」
「今更何を言っても結果は変わらないわよ。後は父さんや兄さん達がどこまで行けるかで私たちの処遇が決まる感じじゃないかしら? ……気は重いけどね」
獣王祭において2回戦への出場は大変名誉なことである。されど獣王にとってその程度は取るに足らない功績、獣王の子であるサバトやゴマとて満足できる結果ではないのだ。そして何よりも仕置きが恐ろしい。
「……おっしゃ! てめぇら、いつまで下向いていても状況は良くならねぇ! こんな時こそぱあっと飲みに行くぞ!」
唐突に大声を出すサバト。
「おお、それは名案ですな!」
「行き成りどうしたのよ…… 貴方達、まだ昼よ?」
ゴマは呆れ顔であるが、アッガスは乗り気だ。
「ふふっ、最後の晩餐ッスか……」
「細かいことは気にすんなよ。気分転換だよ、気分転換! 何してようと親父の怒りが落ちる時は落ちるんだ。なら、それまでせめて英気を養おうぜ! ほら、グインもよ、後で良い所に行こうじゃねえか」
「サバト様、店の手配ならばお任せあれ!」
グイン、完全復活。彼にとって優先すべきはいずれ来るだろう恐怖よりも目先のエロスであった。
「はあ…… 一応、王族としての節操は弁えなさいよ」
ワイワイと賑やかになり始める控え室。一方で壁を一枚挟み、隣の部屋では静かにその会話を聞き入る女性がひとり。それはジェレオルの妻であるリサの姿している訳で。
(ふうむ…… 暫くは打ちひしがれ続けるだろうと思っていたが、精神面は多少なりに成長したようだな。あのまま不貞腐れたままであればワシにも考えがあったが、まあ、今回はよしとするか)
タイミング良く上がる歓声は獣王の気を知ってのものではないが、サバトらは知らぬ間に許されていた。
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―――ガウン・総合闘技場客席
獣王祭もお昼タイムとなり、個室の特別席ではプチ祝賀会が開かれていた。
「皆、2回戦突破、おっめでとー!」
「お兄ちゃんもリオンちゃんも、皆おめでとう! 凄い凄い!」
チビッ子メイドとチビッ子お姫様が俺たちの勝利を祝ってくれる。2回戦までを俺たち全員は圧倒的な勝利で勝ち進んだのだ。子供たちはご満悦である。
「リオンの晴れ姿、ワシの心にしかと刻み込んだぞ……」
約1名大きな子もいるが気にしてはならない。
「リュカもシュトラも応援ありがと! でも、今のところ大した相手と当たってないのよね。ちょっと肩透かしかしら」
「ダハクは出し抜かれたけどな」
「あ、兄貴、反省してんでそろそろ勘弁してくださいよ……」
先ほどまで罰として正座させていたダハクが息絶え絶えで呟く。試合よりも正座の方が疲労が激しいのではないだろうか。リュカ提案のお仕置きは竜にも大変有効のようだ。
「ですが獣王祭も残るは16名、3回戦ともなれば油断ならない相手になるのではないでしょうか?」
「エフィルちゃんの言う通りだよー。獣王様にそのご子息である王子達、ケルヴィンと同じS級冒険者であるゴルディアーナさんとそのお連れさん? がまだ残っているんだからね。参加チケットを強奪して獣王祭に参加した選手も何人か残ってるみたいだし、ここからは今までのように開幕勝利は難しいんじゃないかな?」
「ん? アンジェ、チケットを強奪って、そんなことして参加できるのか?」
「あれ、知らなかったの?」
アンジェが獣王祭の参加方法について説明し出す。暗黙のルールを諸々暴露。
「……知らなかったんですけど。知ってたら人数分チケット確保してたんですけど」
「いやー、流石に全員分はガウンも迷惑するんじゃないかなぁ。たぶん、それで獣王様も手を打ってきたんだと思うよ」
くっ、ただも同然で獣王が参加枠を用意したのはそう言うことだったのか……! ちゃんと調べていればエフィルやジェラールらも出場できたと言うのに……
「あなた様、過ぎたことを悔いても仕方ないことですよ。私やエフィルも別にそこまで参加したい訳でもないですし、現状で大満足です♪」
来る途中、何人か料理人が倒れていたけどな。お詫び代わりに全快まで回復させといたから直ぐ元気になると思うけど。今回の旅行で一番エンジョイしてるのは間違いなくメルフィーナだろう。子供以上に満喫してやがる。
「私は出たかったなぁ」
「リュカはまだ早い! まだ早いのじゃ!」
「えー」
「ま、まあいったんそこから離れようか。で、そのチケット略奪組なんだけど、あの赤毛の子、バールもそっちのルートから入手したみたい。だからガウン側もあの子の詳細までは知らないんだって」
「流石ギルドは情報が早いな。それにしても、正体不明の赤毛の少女ねぇ…… 試合もひと蹴りで終わらせてるし、強いのは確かだ。セラ、負けるなよ」
「当たり前でしょ! 万に一つも負ける要素がないわ!」
俺としてはその台詞、フラグにしか聞こえないんだけどな。
「トーナメントを勝ち進めばCブロックの決勝で当たるね。セラねえ、ファイトだよ!」
「リオンも人のこと言えないでしょ。Bブロックには獣王がいるんだし」
「あっ、その獣王とユージール王子が3回戦で当たっています。親子対決ですね」
エフィルが持つトーナメント表を見ると、確かにレオンハルト・ガウンとユージール・ガウンがぶつかっている。順当にいけば獣王が勝つだろうが、これは勿体ないな…… 潰し合いをするならリオンと戦わせたかった。
「ダハクはDブロックの決勝まで行けばプリティアとの試合か」
「うっす。これはもう運命としか思えないッス! 自分、プリティアちゃんに漢を見せてきます!」
そうか。俺とジェラールは君達の関係が上手くいくことを心から祈っているよ。
「んで、俺の次の相手は――― ジェレオル・ガウンか。サバトのお兄さん、だっけ?」
「リュカの腕試しで審判を務めた方ですね。ガウンでは獣王に次ぐ実力者だった筈です」
「兄貴、遂に本領発揮ッスね!」
「ああ、漸く本番だ」
この獣王祭でこれまで苦手としていた接近戦を克服する。それが俺の掲げる目的の1つであったのだが、今のところ克服どころか練習にもならなかったからな。進化で得たスキルポイントもそれ用に割り振ったことだし、そろそろ今の力を試してみたい。
「さ、そろそろ休憩も終わる時間だ。お前ら、狙うはトップの独占だ。決勝トーナメントで会おう」
「「「おー!」」」