軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第208話 強大な壁

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

2回戦もいよいよ終盤。64名いた参加者も残り半数以下となり、試合は更に加熱さを増そうとしていた。舞台上ではDブロック第2試合、ゴルディアーナ・プリティアーナ対ゴマの戦いが繰り広げられている。

「ハァ!」

「フンッ!」

会心のゴマの鉄拳はゴルディアーナの腹部にヒットするも、鉄の筋肉で構成された肉体を持つゴルディアーナはビクともしない。それどころか、攻撃を仕掛けた側であるゴマの拳の方がダメージを蓄積してしまっていた。

(くっ! 私の攻撃を避けようともせず、全て真正面から受けられてる。ダメージを負っている様子もないし、私の拳もそろそろ限界…… これがS級の強さなのね)

自身の血で染まった右拳をゴルディアーナの死角に隠しながら、ゴマは距離をとって策を練る。冒険者を生業としていた際に稼いだ資金で手に入れた『鬼女の首飾り』の腕力上昇効果は疾うに切れてしまった。最も、効果中の攻撃でさえゴルディアーナに手傷を負わせることは叶わなかったのだが。

「ゴマ、目を狙うんだ! 目を!」

「キルト様! 解説なんですから選手に肩入れしないでくださいっ! それに助言も汚いですっ!」

実況と解説役も危うく乱闘になろうかという勢いでヒートアップしていた。

「さて…… ゴマちゃん、そろそろ力の差を理解できた頃だと思うのだけれどぉ。潔く降参してくれないかしらぁ? 私、女の子に手を出す主義じゃないのよん」

「……だから一向に私に攻撃を仕掛けない、という訳ですか?」

「まあねん。ゴマちゃん綺麗な顔してるし、傷付けたくないのよぉ。それにその拳もそろそろ限界でしょう?」

ゴルディアーナが軽くウインクしながらゴマが隠す拳へと目を向ける。

「やはり気付いていましたか。ですが、女の身とは言え私もガウンの一員。勝てないと分かって降参する玉じゃあ…… ないんですよぉ!」

左右へとジグザグに高速移動しながらゴルディアーナへと接近するゴマ。その速さは解説のキルトが辛うじて目で追える程にまで加速。この一撃で勝負を決める算段のようである。

(……まあ、逆に言えばその程度の速度なんだけどねぇ。勇気と無謀は違うのよぉ、ゴマちゃん。でもぉ、己の信念を譲らない頑固なまでのその生き様ぁ、嫌いじゃないわん!)

ゴマが走り出すと同時に、ここでゴルディアーナも試合開始から初めて直立不動の姿勢から構えの姿勢に移行する。女性の手首程の太さはありそうな人差し指を立て、そのまま腕を引いていく。

「私のからの餞別よぉ、受け取りなさい。 蜂刺針(はち・ぶんぶん) っ!」

空間が揺れているのかと錯覚してしまう勢いで放たれる豪腕。拳が、指先が向かう方向は疾走中のゴマ。しかしまだ距離があり、いくら腕のリーチが長いゴルディアーナと言えど、放った拳が届く位置ではない。

(あのゴルディアーナさんが距離を見誤った? ただの素振り? いえ、これは……っ!?)

何かが、飛んで来る。そう脳裏に感じ取った直後、ゴマは後方へと大きく弾き飛ばされてしまった。舞台外の芝へと投げ出されたゴマに外傷はないが、同時に意識もない状態であった。審判がゴマへと駆け寄り戦闘続行は不可能と判断、ロノウェに向かって首を横に振る。

「Dブロック2回戦第2試合! 『桃鬼』ゴルディアーナ・プリティアーナ選手の勝利ぃ! またまたS級冒険者が躍進しましたぁ!」

「救護班! 救護班早くぅ! ゴマに何かあったら首刎ねるぞっ!」

「キルト様、これ公共の放送ですからっ! もう、誰ですかこの人連れて来たのっ!」

少々の放送事故があったものの、無事ゴルディアーナの勝利宣言が行われる。勇ましい巨人は手を振り観客の声援に応え終わると、気を失っているゴマの場所へと駆け寄って行った。女の子走りなのが不気味である。

「んー、お顔に傷はないみたいねぇ。良かったわん。ね、そこの貴方ぁ」

「えっ、私ですか?」

行き成りゴルディアーナに声を掛けられた救護班の獣人は少し驚いている。が、そんなことは御構い無しにゴルディアーナはその屈強で豊満な胸元をゴソゴソと漁り出した。そして瓶に入った塗り薬のようなものを取り出す。

「ゴマちゃんが目を覚ましたらぁ、これを渡してくれないかしらん?」

「これは…… 傷薬、ですか?」

「ううん、お肌の潤いを保つ保湿クリームよぉ。ほら、ゴマちゃんってお外にいることが多いじゃない? 私、彼女の肌が心配で心配で仕方がなかったのよぉ。これ、私一押しの一品だから気に入ったらまた送るって伝えておいてぇ。それじゃあねん!」

「………」

唖然とする獣人に薬瓶を無理矢理握らせ、ゴルディアーナは鼻歌を口ずさみながら退場して行った。

「ちょ、ちょっと! 今胸元から怪しい薬を取り出しましたよ!? これはルール違反ではっ!?」

「キルト様、必死ですね…… ええと、補足致しますとゴルディアーナ選手が持ち込んだ装飾品は『乙女の秘密ブラ』のようです。C級並の『保管』能力のある装備のようですね」

「ブ、ブラ、ですか!?」

「試合中にアイテムを取り出し使用するのは勿論禁止ですが、試合が終わった今であれば問題ないでしょう。いやー、下着までは大会規定になかったんですが、そのような装備もあるんですね。試合中全く意味のない装備ではあるのですが、ゴルディアーナ選手曰く今日は勝負下着のようでして―――」

「ロ、ロノウェさん、少々吐き気がするのでその話はちょっと……」

試合後、口元を押さえる男性観客が続出したと言う。

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Dブロック2回戦のラストとなる試合はダハク対アッガス。今大会最大サイズの武器である大槌・大斧の勝負である。両者ともゴルディアーナには及ばないものの、かなりの長身と言うこともあり、対面するとより迫力がある。

「感動だ。やはりあの方は天使なのか……」

……迫力があるのだが、なぜかダハクは目頭を押さえている。口元ではない、目頭だ。

「お、おい、どうした? 体調が悪いのか?」

対戦相手に心配される始末である。

「いいや、友人への配慮を忘れない優しくも美しい女神に心打たれただけだぜ……」

「そ、そうか、良かったな……」

「ああ…… 悪ぃな、気を使わせちまって。さ、俺はもう大丈夫だ。やろうぜ、アッガス」

「ふっ…… 心配は無用だったらしいな。サバト様、ゴマ様、グインが敗れ我らも後がないんでな。朱の大渓谷での借りを含め、ここで返させてもらうぞっ! ボガっ!」

「それは岩竜だろうがっ! 俺は黒竜の方!」

ダハクがガンガンと大槌で舞台を叩く。当然ながらこれはアッガスの挑発、短気なダハクには効果覿面であった。

「さあさあ、舞台の選手らが良い感じにヒートアップしたようです!」

「ハァ…… そうですね……」

「キルト様、応援する選手が負けたからってやる気落とさないでくださいよ。これも立派な職務なんですよ? 獣王様に怒られますよ?」

「駄目なんです…… 今の僕の悲しみは父上の怒りでは治まらないんです…… ゴマぁ……」

解説席で泣き崩れるキルト。何たら黒々としたオーラを発している。本人が話す通り、駄目っぽさが滲み出ている。

「ああ、駄目だこれ…… もういいです! 勝手に進めますからねっ! 試合開始ぃ!」

「投げやりだな、おい!」

半ばやけくそに始められた試合にダハクはロノウェを向いて愚痴る。だが、もう試合は始まっているのだ。

―――カッ!

「うおっ!?」

舞台中央に広がる眩い光。閃光弾を思わせるそれは選手のみならず観客の視界までを奪う程の威力。最も近くにいたダハクは溜まったものではないだろう。アッガスが用いたのは『閃光の魔矢』と呼ばれ、本来は弓矢に使用される消耗アイテムを無理くり装飾品に改造したもの。使えばそれっきりであるが、その効力は絶大。

(長期戦になれば能力で劣るこちらが不利になるのは明白。ならば、この一瞬こそが勝機!)

唯一光を逃れたアッガスはダハクの元へと走り、大斧を振りかぶる。隙が大きいが、その分威力も生まれるこの武器を選択したのは初撃で最大の攻撃を行う為であった。

(食らうがいい、この一撃をっ!)

光が晴れた先にダハクの姿を確認。アッガスは渾身の力を篭めて大斧を振るい、そして―――

「ごばっ!?」

―――盛大に転倒した。

「あっぶねぇな! メル姐さんの指輪がなかったら当たってたかもしれねぇわ」

「なっ、効いていなかった、だとっ!?」

ダハクは目を軽く擦るも、全く見えない状態ではないようである。ダハクの指にて銀色に光るは、メルフィーナより授かった『女神の指輪』。あらゆる状態異常に耐性を持つS級の装飾装備である。更にアッガスの足首には植物の蔓のようなものが巻き付いて身動きを封じていた。アッガスが抜け出そうとするも、強靭な蔓が千切れることはない。そして地面にうつ伏せになる形のこの体勢、形勢は逆転していた。

「じゃ、覚悟は良いよな? 軽くぶっ飛ばすぜぇ!」

「うおお、不覚っ!」

こうして2回戦全試合が終了。残る出場者は16名となり、いよいよ獣王祭も佳境を迎え始める。

余談ではあるがダハクが客席に戻った際、簡単に挑発・不意打ちを受けたことをケルヴィンにこっ酷く怒られてしまったそうな。仲間内で閃光の光を直に浴びてしまったのはダハクだけであった。