軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第207話 赤毛の少女

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

Cブロック2回戦。今ブロックで注目すべきはセラと、例の赤髪の少女の試合だろう。共に1回戦を開幕ノックアウトで白星を挙げ、他の参加者とは一線を画す実力を持つことを証明している。一足先に番号の若いセラから試合が回ってきたのだが、『壁』との呼び声の高い2回戦でもセラは相変わらずであった。

「それまでっ! 『女帝』、セラ選手の完封勝利ですっ!」

今回の相手は雰囲気からして猛者っぽさを滲み出しているガウン兵であったが、セラはワンパンで今や酷いデジャブを感じるような勝利を収め、猛者っぽい人はグインよろしく客席下の壁にめり込んでいた。

「余裕よ!」

セラがビシッ! と個室の客席にて観戦する俺を指差し、「どう!?」とでも言いたげな表情を向けてくる。あの顔はセラが褒めてほしい時の顔だ。勝利を祝ってさっきリオンを可愛がったのに当てられたか。

「おおっと、これはセラ選手の宣戦布告か!? ケルヴィン選手を名指しです! ケルヴィン一派の参加選手はこれまで全戦全勝の活躍をしております! これはもう仲間の中にしか敵になる相手がいないわっ! と言う自信の表れでしょうか!?」

「え、あ、あれっ? 違っ―――」

勘違いしたロノウェの解釈にセラが慌てふためく。まあ事情を知らなければ他の人はそう捉えるよね。

「王よ、今のセラの発言でワシらを敵視する者が多くなったのではないか?」

「あの程度で敵対するようなのは大した奴じゃないさ。プリティアなら今のセラの姿で察してくれそうだしな。獣王や赤毛は知らないけど。さ、それよりも赤毛の試合だ。順番は―――」

「Cブロック2回戦第3試合、この次の次だね」

獣王祭ガイドを読みながらアンジェが教えてくれる。

「んー、Cブロック中盤か。まだまだ時間ありそうだな…… ちょっとセラを迎えに行って来るよ」

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「ううっ…… ケルヴィン、怒ってるかしら……?」

些細な行為から広がった誤解を結局解くことができなかったセラは、トボトボと肩を落としながら通路を歩いていた。あの後ロノウェに勘違いだと伝えようとしたが、次の試合が思いの外早く始まってしまい、そのまま流されてしまったのだ。勇ましかった試合の時とは正反対の姿である。

「誰が怒ってるって?」

「わっ!?」

「いや、そんなに驚くことないだろ……」

曲がり角の先にいたケルヴィンの声にセラは大袈裟に驚く。

「2回戦突破おめでとう。まあセラなら勝って当然の相手だったけどな」

「あ、ありがとう……」

「ああ、それと―――」

ケルヴィンがセラの頭へと手を伸ばす。セラは仕出かしてしまった件で怒られると思い、反射的に目を瞑ってしまう。しかし、やがて自身の頭に伝わってきたのは髪を優しく撫でられる感触であった。

「……えっ?」

「俺たちの快進撃で良い感じに注目が集まっているよ。この調子なら貴重な超難関依頼が殺到するのも夢じゃな――― どうした? そんなに目を白黒させて?」

「だって、あれ、ええ?」

セラの動揺は納まらない。落ちると思っていた雷が、自分が一番求めていたものだったのだから。

「ハハッ、まさか本当に怒られるとでも思っていたのか?」

なんでそれをっ! と叫びそうになったセラであったが、後一歩のところで何とか堪えることに成功する。佇まいを瞬時に整え、何時ものポーズを取る。

「な、何のことを言っているのか分からないわね! 私なら当然、当然よ! それよりももっと気持ちを込めて、撫でることに集中!」

「はいはい」

先ほどとは打って変わって得意気にご褒美を要求するセラ。空気を読んで、と言うよりもケルヴィンも満更でないので、要望通り僅かに汗ばんだ艶やかな髪を撫でるのであった。和やかな時間は心を癒し、ゆとりを与える。しかしそれは、同時に気の緩みにも繋がるもの。

「ちょっと、通路のど真ん中で何いちゃついてるのよ。邪魔」

「「―――!」」

不意の声にケルヴィンとセラは瞬時に臨戦態勢へと移行、バックステップで距離を取る。心臓の鼓動が高まり、汗が頬を伝う。何もイチャイチャしているのを見られて動揺している訳ではない。ケルヴィンとセラに向かい合う 赤毛の少女(・・・・・) が見せた、ほんの僅かな殺気の片鱗がガンガンと2人に警報を鳴らしたのだ。

『セラ、この子が例の……』

『ええ、ジェラールとシュトラが言っていた赤毛ね。バールって言ったかしら』

ケルヴィンは改めて赤毛の少女、バールの姿を見定める。話に聞いていた通り少女はリオン程の背丈、年齢だ。サイドテールで纏められた真赤な髪、闘技場が用意している女性用の装備のひとつなのか、身動きしやすそうなショートパンツに攻撃用の脚甲を身に着けている。格闘術、それも足技を意識した武器だ。

「……ねえ、人の顔をジロジロ見るのは冒険者の礼儀って訳? 随分と失礼な礼儀ね」

少女の釣り目が鋭くなる。

「悪い、行き成り声を掛けられて驚いちゃってさ」

「ふうん…… 大層な驚き様ね。で、そこを退いてくれるのかしら?」

「ああ、セラ」

「ええ」

2人が空けた通路を少女はぶっきら棒に通過する。最早用はないようで、話をする気もないらしい。少女が通路の先に消えるのを確認すると、ケルヴィンらは初めて警戒を解いた。

「……想像していたよりも凄いな。セラ、あの子絶対に勝ち上がってくるぞ」

「でしょうね。確かにダハクじゃ相手にならないかも。 ……それで、ステータスはどうだったの? どうせ『鑑定眼』で見てたんでしょ?」

セラの言葉に、ケルヴィンは静かに首を横に振る。

「見えなかった」

「え、嘘でしょ?」

「本当だよ。S級の『隠蔽』スキルが施されていた。彼女自身のスキルか、他の誰かが掛けたのかは分からない」

ケルヴィンが『鑑定眼』でステータスを見破れなかった相手はこれが初めてであった。ちなみにステータスの数字自体を偽装している獣王は例外である。

「ふーん、面白いじゃない! 腕が鳴るわ!」

「ああ、幸先良いな。 ……あと、もう1つ気になることがあるんだが」

「何よ?」

「あの子、何処と無くセラに似ていたな。赤毛で髪型も似てるし、ほら、眼もそっくりだ」

まあ、胸のサイズは全然似ていなかったが。ケルヴィンはそうとも考えたが、少女の名誉の為にこの言葉は飲み込んでおいた。

「そうかしら? 私は何とも思わなかったけど…… ッハ!? ケルヴィン、まさか手を出す気じゃ……!?」

セラが拳を構え始めるのを見て、ケルヴィンは慌てて否定した。

「違うわ! お前、行動がゴマみたいになってきてるよ!? 俺はサバトのように頑丈じゃないからな!? お前の本気の拳は洒落にならないからな!?」

生死が掛かっているだけに必死である。

「俺が言いたいのはそうじゃなくって…… セラ、妹とかいる?」

「いないわよ。いたとしてもずっと屋敷の中で育ったから会った事がないわ。もう何百年も前のことだし…… 父上に愛人がいるって話も聞いたことがないわね」

「お、おう。結構大っぴらに教えてくれるのな……」

「隠すようなことじゃないもの! 父上と母上はとても夫婦仲が良かったわ! ビクトールを殴ることはあっても母上に手を出すことは絶対になかったし!」

どうやら魔王グスタフは親馬鹿かつ奥さん大好き悪魔だったようだ。その中で殴られるビクトールは察するとかなり苦労していたのかもしれない。

「まあ俺がそう感じただけの話だしなー。翼も角もなかったし」

「それよりもあの子がここに来たってことは、もう試合が近いんじゃない?」

「む、そうだな。早いとこ、客席に戻るとするか」

赤毛の少女の試合を観戦する為にケルヴィンとセラは足早に個室へと戻って行った。ちなみに試合の結果は少女の圧勝。ケルヴィンやセラと同様に一方的かつ刹那の試合内容だった為、この試合で少女の力量を測ることはできなかった。