軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

351話 東京復興計画

地面は泥濘んでおり、冷たい風が吹いてくる。鷹野美羽の父親である鷹野芳烈は、手を擦り合わせて呟くように言う。

「そろそろ春も近いですね」

もう吐く息も白くない。冷たい風は吹いているが目の前に広がる大地にはほとんど積雪は見られない。倒木や廃墟となった家屋やビルが雪の下から姿を現していた。

芳烈がいる場所は東京であった。もう三月に入り雪解けも近い。今日はダウンジャケットを着込んでいるが、来週には必要ないかもしれない。

「雪が溶ければ、復興プロジェクトを開始するのであろう?」

隣に立つ父が難しい顔をしながら、私を見てくるので、首肯する。

「はい。いよいよ本格的に復興計画を始めるようです。娘から復興計画なる資料も貰っています」

『東京ふっこープロジェクト』と表示された資料がホログラムで映し出される。完璧な計画だよと、娘はふんふんと鼻息荒く得意げに渡してきたものだ。

中身はというと………子供らしいというしかない。

「碁盤状に都市を開発するつもりらしいです」

計画書に書かれている都市開発計画では、昔の京都のように綺麗な正方形のブロックで区分けされている街並みとなっていた。

「ふむ……河川もあるし丘陵なども多い。無理ではあろうが、子供らしくて良いではないか」

「一つのブロックごとに、警察署と消防署と武士団詰め所、兵舎もあるんです。そして、その隣には必ずカジノを作ってます」

「カジノ? 貴様は娘に何を教えているのだ?」

私の話を聞いて、ギロリと睨んでくる父。昔はその視線に恐怖を持っていたが、今はそれほど感じない。自身が成長したのと、守る者があるからだろう。

「私も娘に聞きました。そうしたらカジノは現金収入が多いけど治安が悪くなるから、警察署を作ったのと、無邪気な顔で返答されましたよ」

肩をすくめて、その時のことを思い出す。娘が言うにはカジノの収入は多いそうな。警察署とかの維持費を超える利益になるんだよパパと、自分の復興計画に疑問は持っていないようだった。

単純にカジノは儲かると誰かに吹き込まれたに違いない。

「ガハハハ、ブロック毎にカジノとは豪気だな。かち合っちまうとは考えないところが、嬢ちゃんらしい」

同じくこの場に訪れている粟国さんが、豪快に笑いながら肩を叩いてきた。地味に痛いが、体育会系の粟国さんらしい。

「もちろん止めさせました。でも、警察署とかは絶対に譲らないと駄々をこねられまして、仕方なく交番や一時的な駐留所に修正させましたよ。もちろん一ブロック毎に作るのも中止です」

あの時のみーちゃんは大変だった。床に転がりバタバタと暴れて駄々をこねたのだ。犯罪発生率ゼロにしたいらしい。

でも百メートル毎に警察署があったら、大変なことになると思う。警察署をたくさん作れば安心だという子供っぽい考えからなのだろう。

それでもかなりの多さになってしまった。帝都よりも治安がよくなることは間違いない。

「ふむ………。警察署などの予算は国持ちなのだろう?」

「えぇ。予算を鷹野家持ちにすると、結局癒着が進むと思われたようです」

「誰しも給料を支払う相手に忠誠を誓うもんだからな。おかしくねぇ政策だ」

顎を擦りながら、眉を顰める父に対して、カラカラと粟国さんが笑う。たしかにそのとおりだと私も思う。皇帝陛下は鷹野家が力をつけるのを恐れている。だからこその予算は国持ちとなったのだ。

「……ならば良いではないか。この話はこのままにしておくべきだな」

「かなりの予算になりますよ? 皇帝陛下が了承するとは思えませんが」

この場には、私や父、粟国さん以外も文官が少なからずいる。その文官たちもそうですなと同意してくれる。

だが、父は違う考えだったようだ。

「美羽がそこまで考えているとは……いや、恐らく考えているのだろう。聞け、これは国に対しての圧力となる」

「なにか裏があると?」

最近のみーちゃんは素直な微笑みで、考えられた策略を含めているので、この話にもなにか問題があるのかと、背筋がヒヤリとする。

「うむ。今回の『王』の一件は軍事力を持たせないようにとの皇帝陛下の考えから、予算も支払わずに済むのが特徴だ。しかしながら将来的に頭を抑えられる可能性は高い」

「そうですね。そこまで強引なことはしないとは思いますが」

「あめぇぞ、芳烈。何かといちゃもんつけて、格安で東京を買い取る可能性だってある。巨大化した貴族なんざ、皇帝陛下にとっては厄介にしかならねぇからな」

どうやら私以外はそう思っている様子だ。父の言葉に腕を組みながら、粟国さんがうんうんと頷き、他の面々も反論することはない。

そんなに非道なことをするとは思えないのだが。何しろ開発費はほとんど鷹野家持ちなのだ。莫大な資産も大きく目減りするだろうから、皇帝陛下の敵にはなりえないと思うのだが。

「しかし、この契約。一つ穴があるのに儂も気づいた。これを見よ、鷹野家の望む場所に、警察署も兵舎も置くと明文化されておる」

バングルを操作して、契約書の控えを映し出す父。覗き込むと、なるほどたしかにそのような契約になっている。

「ゆえに二軒に一軒警察署を求めても良いわけだ」

「それは極端でしょう。そんなことが罷り通れば、維持費は天文学的な金額になりますよ」

「そのとおりだ。しかし明文化されておるのが問題だ。この提案がいかに馬鹿げていようと、皇帝陛下は跳ね除けることができない。約定を違えることになるからな」

眉間に皺を寄せて、父が契約条項を指差す。たしかにそのとおりだとは思うが………いくらなんでも馬鹿げている。

「ふむ……鷹野の嬢ちゃんが考えていることがわかったぞ。これだけ無茶な提案を拒否するために、皇帝陛下は譲歩をしなくてはならない。私兵で都市を守ることを許す代わりに、警察署などは常識範囲のレベルで建設されることだろうよ」

「さすがは儂の孫だ、よく考えておる。これはすぐに心当たりの者たちに連絡をとらねばなるまいて」

「仕方ねぇ。芳烈の親友として俺も動くとするか。なに、仕事を探している奴なんざすぐに見つかるだろうよ」

「粟国さんがなぜここに来たのと思っていましたが、そんなことを予想していたのですか?」

バングルを操作して、思念通信を始める父と粟国さんを見て、呆れを通り越して感心してしまう。このようなお金になりそうなことに、この二人は嗅覚が利きすぎる。

「ん? いや、俺としては今度の軍の大将を狙いたいからな。助力を求めに来たんだ」

「私兵にどれぐらいの軍備を任せるかとの話し合いをするにも、軍のトップがいれば安心というものだな」

飄々とした顔で、後援を求める粟国さんにため息をついてしまう。父も平気な顔で裏で手助けすることを認めている。

こんな世界にみーちゃんが入ることになるのかと、嘆息してしまう。絶対に自分が守らなければなるまい。

勘だが、みーちゃんはきっとそこまで考えていない。資料には載っていないもっと馬鹿げた内容もあったのだ。

道路はゼロで、全て線路にするねとニコニコ笑顔で語ってきたのだから。

なんでと聞いたら、渋滞や排ガス汚染を防ぐためらしい。

やりすぎである。道路のない都市に誰が住むと言うのだろうか。たぶん何も考えていないことがわかった。

とはいえ、父の言うとおりの展開になるだろう。困ったものだ。

「人は集めようと思わなくても、集まるだろうからな。都市計画は最初が肝心とはよく言ったものだ。ここは魔石ラッシュの土地だから、治安が悪くなることを防ぐためにも必要なことだ」

粟国さんが、泥濘の中に手を伸ばして何かをつまむ。泥だらけの中でもその赤い輝きははっきりとわかる。

魔石だ。小さな魔石だが、数千円はするに違いない。

「金が落ちている土地なんざ聞いたことがない。それに各地の貴族も鷹野家との繋がりを求めて、平民でも貧困層でも、どんどん送ってくるだろうさ」

「下手したら数十万円の魔石も転がってますし、そもそも魔木がありますからね。今なら金持ちになれるチャンスでもあります」

この土地は文字通り、お金が埋まっていると言っても過言ではない。魔木は加工すれば鉄筋コンクリートを遥かに上回る強度の資材だし、高く売れる。そんなものがゴロゴロと転がっているのだ。

まだ雪解けが始まったばかりだから人は少ないが、もう少ししたら殺到することが予想される。

「そういえばみーちゃんは酒場を辻毎に建てようともしてましたよ………」

「ガハハハッ、カジノに酒場とはあぶく銭が入った奴らの金の使いみちをよくわかってるじゃねぇか」

「子供の教育に悪い土地柄にならないか心配してしまいます。まぁ、大学卒業までは帝都に住むので、それまでに平和な地域として開発をしたいと思います」

荒くれ者ばかりが住む都市にはしたくない。とはいえある程度は仕方ないと思う。あとは信頼できる人々と共に都市を開発していくだけだ。

「魔導学院に進学するのは確定だから、東京に住むわけには行かねぇか」

「箔をつける必要はもはや無いとは思うが、それでも魔導学院卒業の資格はある方が良い。なんと言っても『王』だ。『王』ともなれば隙を作るわけにはいかぬ」

「箔とか『王』はあまり興味はありませんよ。みーちゃんにはたくさんの友だちを作って青春を楽しんでほしいんです」

二人して私とは全く違う意見だった。恐らくは貴族の者たちならば、二人と同意見だと思う。でも、私はみーちゃんに幸せな人生を送ってほしいのだ。

「お前のその考えは美徳と貴族は褒め称えるだろうが、陰では侮られるぞ?」

「別に私がいくら侮られても構いませんよ。それにそれぐらいの侮りも跳ね返す程に鷹野家は強くなっている。でしょう?」

「………成長したと褒めるべきか。以前ならそこでムキになって反論したものだが……。まぁ、甘いとは忠告しておくぞ?」

「まぁ……心強い部下も増えましたからね。少しばかり強気でいこうかと思います」

父の言葉に、苦笑をして受け流す。自分よりも頭の良い部下も多くなったし、なんとかなるだろう。『魔法の使えない魔法使い』という二つ名も利用して、娘のために頑張ろうと誓う。

「あの嬢ちゃんは一人でもなんとかしちまう狡猾さを持っているだろう?」

「狡猾という表現は止めてください、頭の良い子でお願いします」

「親馬鹿とはよく言うが、この場合はなんと表現すればよいのかね。そういえば魔導学院は第三か? 同じ学院に息子も通わせる予定なんだ」

「今度どこの学院に行きたいか聞いてみますよ」

そこでふと、みーちゃんとの会話を思い出す。

あの子は東京の開発に全力を傾けると言ってたけど……まさか学院に行かないなんてことはないよな……。

無邪気な笑顔を思い出して、ますます不安になる。娘が無邪気な笑顔の時にはなにかある………。

一応願書は用意しておくかな。