軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

350話 王就任だぞっと

三が日が終わったら、アシュタロトを倒しに行くと言ってたよね? あれは嘘だ。嘘というか無理だった。

「鷹野王就任おめでとうございます! カンパーイ!」

「カンパーイ!」

分家のおっさんが髭面の赤ら顔を笑顔にしながら、本日何回目か分からない乾杯の音頭をとる。皆は飽きたと思うのに、酔っ払い集団はノリノリで乾杯と、その声に乗って連呼するのであった。

只今宴会中のみーちゃんです。鷹野伯爵家の大宴会場にてお正月を楽しんでいます。

楽しんでいるのはみーちゃん以外の可能性もあるんだけどね。

百畳はある宴会場にて、ずらりと並んだ美味なる料理に、尽きないお酒。チントンシャンと琴の音をバックに、可憐に踊る芸妓さんたち。

おっさんもおばさんも、正月の宴会を楽しんでいた。

ちなみに、今は三が日はとっくに過ぎて、6日目に突入してます。皆はお仕事は良いのかな?

とはいえ、みーちゃんは人の痛みもわかる良い子に戻ったのだ。空気を読んで、ニコニコみーちゃんスマイルだよ。

『 極大快癒(エクストラキュア) 』

おててを掲げて、回復魔法も使ってあげる。バージョンアップされて範囲魔法も可能となったので、二日酔いの状態異常もちょちょいのちょいで癒やしちゃう。

パラバラと白金の粒子が部屋に降り注ぎ、皆の酔いを癒やした。

「おっとっと、酔いが覚めてしまいましたな」

「もっとお酒を持ってこーい」

「食べすぎでお腹が痛かったのが治った」

「目が見えるように」

「身体の調子が良くなった! 病気が治ったんだ!」

一門の人たちは笑いながら、再び酒を飲み始める。エンドレスで飲めるようにお手伝いする良い子なみーちゃんなのだ。

「はい、並んで並んで」

なぜか家門以外の人たちが並んでたりする。さっきから人の入れ替え激しいね。

「おとーさん、わたしのビョーキ治るの?」

「あぁ、聖女様が治してくれるんだ」

「あぁ、これで歩けるようになるんだよね」

「待っていた甲斐があったわね」

なぜか車椅子に乗った子供や、やつれて死にそうな顔のおじいさんとかが行列に並んでいる。

みーちゃんの回復魔法待ちっぽい。いつの間にか集められたみたい。

「戸籍を東京に変えるだけで良いですよ〜」

「引っ越しするのは大変だけど、回復魔法を貰えるなら安いものだ」

「本当にねぇ」

交換条件は東京への戸籍移動らしい。不治の病が治るとなれば安いものだろうね。誰がこの策略を考えたのかはわからないけどさ。

「いや〜、人集めには絶好のチャンスですね、はい」

「そうですわね。平民の方々が住居を移してもらえれば基盤ができるというものです」

どこかで見た執事と侍女が微笑みながら話している。ヤシブとサクサーラっぽいけど、まぁ、いっか。

冒険者のみが東京に住んでも仕方ないから、この策略は助かるよ。

「聖女としての評判が広がれば、多くの人々が集まるでしょう」

蘭子さんが、みーちゃんの視線に気づいて教えてくれる。たしかにそのとおりだね。

「鷹野家が『王』となるとは……。誇らしいとともに、絶対に失敗はできぬぞ、芳烈」

「そうですね。伯爵家の屋敷も東京に建てなければなりませんし、分家や会社の引っ越しも……これは大変な大事業ですよ」

風道おじいさんが、パパとこれからについて真剣に話し合っている。周りには有力な分家筋が集まっており、その話に加わっているようだ。

「今や多くの家門から、鷹野一門への縁談が絶えませぬ。特に平民の企業は我も我もと砂糖に群がるアリのように縁談を持ち込んでいます」

「我らの中でも男爵レベルの三男あたりだと、良い縁談がありませぬからな」

「税金の優遇を受けられるとなれば必死でしょう。鷹野王の『マナ覚醒』を受けさせて、マナが覚醒するならばこの提案は受けて良いと思います」

「他の貴族たちも、同じように縁談と共同事業を求めていますぞ。鷹野家が筆頭株主ならば、東京に本社を置けますからな」

「我ら一丸となって、鷹野一門を盛り上げましょう」

ご機嫌な分家たちだ。顔が緩んでおり、金の匂いとこれからの権勢について話し合っている。

そうなんだよね。国政に参加できなくとも、各勢力の長になれなくとも、金の力があればなんとでもなる。

これからの東京に落ちる天文学的な金や、税制優遇措置、そして新たなる企業の台頭を考えれば、鷹野家に尻尾を振る貴族たちはわんさかいる。

その中には大臣や将軍を輩出する家門もあるはずだ。しかも今は神無家門が滅んだために空白の地位が多い。

空白の地位を狙う者たちが、根回しするための資金を出してくれる家門を探すのは間違いない。その資金の出処になれば良い。

皇帝もそこらへんは考えているだろうけど、どこまで鷹野家の影響力を減らすことができるか、見ものでもある。

まぁ、みーちゃんは東京を再興するのに全力を投入する予定だから、政治のことはパパたちにお任せ。

秘書と共に一ヶ月に一回、東京の復興スケジュールを管理するのだ。残りは冒険者をやったり、遊んだりする予定です。

それにしても王様かぁ。みーちゃんは小柄でか弱くて、つついたら倒れちゃう少女だから、カリスマとか威厳がない。それをどうにかしないといけないなぁ。

ふむ………とりあえず王様らしくすることを思いついた!

「ニムエ、座布団持ってきて! みーちゃんもちょっとアイテム持ってくる!」

「わかりました、お嬢様」

これはナイスアイデアだよと、ペカリと顔を輝かせてぽてぽてと自室に向かう。

すぐに戻ってくると、指示どおり座布団は既に大量に持ち込まれていた。さすがニムエ、無駄に多く持ってくると思ったよ。

「これをどうすればよろしいのでしょうか?」

「威厳を見せる簡単な方法は、人を見下ろせる高い場所にいることなんだよ」

ふんふんと鼻を鳴らして、みーちゃんは座布団を積んでいく。

「みぃねぇ、なにするの?」

「みぃねーたん、舞もお手伝いすりゅ」

世界一可愛らしい弟妹たちが、興味津々の顔で、とてとてと近寄ってきた。ちっこい手足を精一杯動かして、抱きついてくる。むにんとぷにぷにほっぺが可愛らしい。

「座布団をどんどん積むんだよ! 30枚程度重ねれば、きっと王様としての威厳が出ると思うんだ! 王冠も作ってきたよ」

「きれー。ピカピカ〜」

「作ってきたの?」

みーちゃんの手には純金製の王冠がある。宝石もダイヤ、ルビー、サファイアにエメラルド、トパーズと種類が違うから、価値は2倍だよ。

しかも、かなりの大きさだ。大粒どころか、かたまりにしか見えない。最高レベルの『錬金』で研磨したから、その輝きは吸い込まれそうなほどに美しく、一粒で屋敷が買えるだろう。

これをかぶって、積み重なった座布団の上に乗れば、王様としての威厳はバッチリだ。

「みぃねぇ、お手伝いするね」

「舞もすりゅ!」

姉弟妹で頑張って、せっせと座布団を積み重ねていき、天井に届くかと思えるほどになった。

「やったね! それじゃ登ってみます!」

「わーい!」

「舞も、舞ものぼりゅ!」

わーいと3人で万歳をして、汗を拭って苦労の結晶を眺める。少しゆらゆらと揺れているけど大丈夫だろう。

「王様みーちゃんになるために、レッツゴー」

座布団に手を付けて、座布団クライミング開始!

空は少し離れたところで見ているようで、登るのはみーちゃんと舞だ。

よじよじと登り始めると、不安定なのでグラグラと揺れる。『戦う』コマンドを使っていないみーちゃんは普通の運動神経だ。気をつけて登らないとね。

「ふりゃー」

『 浮遊(フロート) 』

なんと、舞は風の魔法を使って身体を浮かせる。天才だ、みーちゃんの妹は天才だよ! もう『マナ』を覚醒させたよ!

妹の1メートルにも満たない身体がふよふよと浮くと、座布団の頂上へと向かう。みーちゃんも負けてられない!

気合を入れて、座布団クライミングを再開すると、なぜかスルスルと登れるようになった。

急に身体が軽くなったよ! もしかしてクライミングスキルに覚醒した?

スルスルとスルスルと登っていき、なぜか途中で身体が浮いた。あれぇ? 『 浮遊(フロート) 』を無意識に使っちゃったかな?

ちっこい手足をバタバタと振って、登ろうとするがなぜか進まない。なぜか胴体を掴まれている感触もあるよ?

「みーちゃん? なぁにをしているのかなぁ?」

おどろおどろしい恐怖を感じさせる声が後ろから響いてきた。大変だ、きっと地獄の帝王が蘇った!

後ろを振り向くと、みーちゃんの身体を掴んでいるママの顔があった。ヤバい怒っている!

「舞、危ないから戻ってきなさーい」

「きゃー! 舞はおーさま!」

座布団をゆらゆらと揺らして、頂上に座る舞がはしゃいだ声をあげる。舞が王様でも良いかも! 王冠かぶるかな?

「舞、シュークリームがあるわよ〜」

「シュークリーム! たべりゅ!」

身体をふよふよと浮かせて、舞は床に降りる。蘭子さんが持っているシュークリームをもらおうと、抱きつく。

良いなぁ、みーちゃんもハグしてほしい。

「も〜、座布団で遊ぶのは禁止!」

「落語家はいつもこんなことしてるよ!」

「あの人たちは特殊な訓練をしているの!」

「特殊な訓練!」

そうだったのか。知らなかったよ、落語家は座布団に乗る訓練をしていたのか!

「みーちゃんは落語家になる?」

「暗記苦手だから無理!」

立て板に水と、とうとうと語る落語家には絶対になれないよ。あの人たちは天才的な暗記能力を持っていると思います。

「それじゃ、座布団で遊ぶのは禁止ね。それと、そろそろ宴会を終わりにしたいの」

ママの後ろには鬼嫁の軍団がいた。どうやらずっと飲んでいる夫たちに対して、そろそろ堪忍袋の緒が切れるようだ。

「はぁい。それじゃ王様の最初の号令だね!」

王様の命令は絶対なのだ。ちょっとワクワクするよ。

「それじゃ王座に登って」

「座布団の山に登るのは禁止!」

どさくさにまぎれて登ろうとしたが、怒られた。せっかく積んだのになぁ。

成長期の胸を張って、みーちゃんは王冠をかぶるとエヘンと咳を一つする。

「王様の命令です。宴会を閉会しまーす!」

皆がみーちゃんの言葉を聞いて、閉会となるのであった。

驚くことに、これは公式の記録として鷹野女王の最初の命令として記載されることになる。

そのことを後で知って、みーちゃんはショックを受けるのだが、とりあえず女王として、君臨をすることに決めたのだった。

鞭は持ってないよ。みーちゃんは良い子だからね!