軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

352話 決戦は近いんだぞっと

『マイルーム』にて、ソファに寝そべり小柄な身体をゴロゴロと転がして、みーちゃんはのんびりと改定された契約書を読んでいた。

「東京の治安維持の権利をもぎ取ったよ。フリッグおねーさんの言うとおりになったね」

うふふと微笑んで、契約書をテーブルにポイッと放り投げる。そこには鷹野王国に最低限の兵力を持たせると書いてあった。

「ふふっ、歯医者よりも多くの警察署や兵舎を求めたから当然よね」

「皇帝の顔が思い浮かぶ。さぞや楽しかったであろうよ」

流れるような金髪をかきあげて、美の女神フリッグおねーさんが、見惚れる美しい笑みを見せる。隣に座って買い漁っている魔導書を読んでいたオーディーンのおじいちゃんが肩をすくめて苦笑した。

歯医者って、コンビニよりも多いらしいよ。この世界でも同じなのかな。とにかくたくさんの予算を要望したのである。

「宰相さんはぽかんと口を開けてたよ。最新装備も含めて年間10兆円の予算をお願いしただけなのにね」

「軍の年間予算を超えた要望を出せば、誰でもそうなるだろうよ」

「みーちゃんは契約書どおりのことしか要望していないのに不思議だよね!」

おじいちゃんや。みーちゃんは常識を知らないような目で見てこないでほしいんだけど。というか、この作戦はフリッグおねーさんが考えたのだ。

「ふふっ、皇帝はかなり慌てていたのね。ここまでスカスカな契約書を用意してくれるなんて、ね」

久しぶりに役に立ったフリッグおねーさんである。

「アイと友情が私にアイデアを与えてくれたのよ。まるで子供の考えに見えるのが、この都市計画の肝心なところね。少し元ネタが古いとは思うけど」

「皆がみーちゃんの考えだと疑問に思わなかったみたいだからね。たまにアホな演技をしていた甲斐があったよ」

クククと口元を押さえて笑うみーちゃん。演技をしていたんだよ、本当だよ。

「まぁ、演技かどうかはともかくとして、これで私兵の準備はできたわね」

「王国内であれば、軍事権、警察権を持てる……。これで最終決戦の準備はできるよ!」

「す、すぐに艦隊を用意するんですよね?」

フレイヤがバングルを忙しなく操作しながら聞いてくるので、すっくと立って拳を突き上げる。

「うん、みーちゃんの王国内なら行動できるから、問題なく設立できるよ! 輸送艦を中心として戦艦を用意して!」

『マイルーム』にいるのはフリッグおねーさんとオーディーンだけではない。フレイヤもヘイムダルもいる。

「それって、艦隊と呼べるのかい? ただの輸送船団じゃないのかな、レディ?」

壁に寄りかかり、ヘイムダルが腕を組みながら疑問を口にする。

「目標地点には多くの人々がいるんだ。保護するためにも船団は必要だよ。それを守るための戦艦はみーちゃんが作ります!」

宙に浮くステータスボードをピピッと押下する。『錬金』の中に新たなる生産リストがアップされるが、その中には船もあった。

「前はちっこいカヌーしか作れなかったけど、今のシステムさんなら、これだけの大型戦艦が作れるんだよ。輸送艦は元鷲津海運から貰おうと思う」

「大型の戦艦だな。馬鹿げたことに空中戦艦か」

作る予定の戦艦がクローズアップされて、皆の目の前に映し出される。水滴型のシンプルな戦艦だ。先端が尖っており、滑らかな装甲に覆われている。

「全長300メートル、魔導砲はとにかくでっかいのを搭載させた大艦巨砲主義の戦艦です。名前は『アースガルド』!」

宇宙船のような未来的な戦艦だ。艦橋もなく滑らかな装甲の上に、水晶で作られた魔導砲を三連装九門搭載しており、あとは何もない。

「レディ、正直に言って良いかい? 武装も少ないし弱そうなんだけど。まぁ、かっこいいけどさ」

ヘイムダルが正直な感想を口にする。たしかにそのとおりだから、クッションを投げてあげよう。

「だって、みーちゃんたちが魔法を放った方が強いからね。これはハリボテだけど、威圧にはなるから充分だと思う。それにこれなら簡単に作れるしっ!」

みーちゃんの第一投はヘイムダルの顔に命中!

「あだっ! 痛いじゃないか! それでどれぐらいの期間で作れるんだい?」

「資材があれば、10分かな」

「も、もう資材はありますよね?」

「うん、もう準備済み。この戦艦のコンセプトは硬い、とにかく硬い。そして硬い。そして戦艦砲はそこそこ強い」

撃沈されないように余計なものは一切載せないのだ。戦艦砲は気休め程度での攻撃力を出せるだろう。

なぜかヘイムダルがドン引きした表情でみーちゃんを見てくるけど、ゲーム仕様の戦艦ならこんなものでしょ。

「既に輸送艦や護衛艦を揃えるように動いているから……一週間あれば準備はできるでしょう」

フリッグおねーさんが頼もしい言葉を告げてくれる。なら、大丈夫だろう。

「せ、戦艦の搭乗員は……あ、ゲーム仕様ですものね。一人でも操艦できるんでした」

フレイヤはすぐにピンときたのか、戦艦の仕様に苦笑する。そのとおりとみーちゃんはコクリと頷き返す。

「英霊たちとみーちゃんたちだけが戦艦には搭乗します。そして特攻かな」

「使い潰すつもりで作るとはな……相変わらず豪快なことだ。まぁ、良いだろう。『終末の日』というわけだな」

オーディーンのおじいちゃんは呆れた顔だが、いつものことだなと肩をすくめるだけに留める。みーちゃんの考えはお見通しらしい。

「それじゃ、一週間後に決定〜。決戦に向けて、よろしく。みーちゃんはその前にやることがあるけど」

「『アシュタロト』を倒しておくのだな」

さすがはオーディーンのおじいちゃん。鋭い考察だ。

「うん、どっちを先に倒しておこうか迷っていたけど……。『アシュタロト』を倒しておくよ」

それに決戦の前に試しておかないといけないことがある。

「………『旧神』のジョブを付けようと思う」

知らず知らず緊張して、深呼吸を深くする。このジョブはまだ使ったことがないんだ。

『神』とは違う『旧神』。その力は『神』を大幅に上回る課金ジョブだ。ゲームでは課金ジョブだっただけだけど、この世界ではどうなるのかわからない。

「というわけで、ポチッと『旧神』にジョブを変更するよ!」

「お嬢様は軽い気持ちなのね、まったくその鉄の心臓には感心するわ」

フリッグおねーさんがクスクスと笑い、他の皆も見守る中で、ステータスボードのジョブを切り替える。

『旧神』へと。

『旧神にジョブを切り替えました』

システムさんのログが表示されて、身体を浮遊感が襲う。視界が真っ暗となったと思ったら景色が変わった。

「ここは……草原?」

みーちゃんが周りを見渡すと、一面緑溢れる草原であった。ふんわりとした寝っ転がったら気持ち良さそうな柔らかな草が生えており、そよ風が吹いてさざ波のごとく揺れる。

ポカポカとした気持ちの良さそうな陽射しがさしており、眠気を誘う。

「始まりの世界だ」

後ろから聞き覚えのありすぎる男の人の声が聞こえてくる。

「パフェってサイコーだよね!」

小さな幼女の嬉しそうな声も聞こえてきた。むむむ、パフェの気配がするよ? みーちゃんも食べたい!

でも、みーちゃんは身体を指一本動かせない。どうやら行動を阻害されているらしい。

でも、口だけはなんとか動くので、すぅと息を吐いて聞きたいことを口にする。

「みーちゃんのパフェはありますか! あるよね? 何味のパフェ?」

仲間外れはいけないと思うのだ。みーちゃんもパフェを食べたい! 他にもなにか聞きたいことがあるかもしれないけど、パフェの方が重要だよね!

「ごめんね、これは私のものなの!」

「え〜っ! みーちゃんも! みーちゃんにもください! 一口で良いから」

あ〜〜〜〜〜ん。

「凄い大きくお口を開けてるから、嫌〜」

どうやらケチな娘らしい。むぅ、パフェ、パフェ。

「はぁ………。いつもどおりといえばいつもどおりだが、本能だけで動きすぎだろ」

おじさんの呆れた声がするけど、仕方ないと思う。本能だけがみーちゃんを動かすからね。

「やっぱりおじさんのフォローがないと駄目みたい。パフェのことしか考えてないよ」

「それはお前もだろ。本能でお前らは動きすぎだ」

「私は最初からそうだもーん」

「みーちゃんは最初からそうだもーん」

二人で口を揃えて、開き直る。本能がパフェを食べろって叫んでいるんだもん。

段々思い出してきた。そういえばそうだった。みーちゃんは本能で行動しちゃう弱点があったんだった。

「まぁ、良いか。それよりも『旧神』をトリガーにして、遂にお前らの完全同期は始まった。これからは時間が大切となる」

「『旧神』。即ち私だよね!」

おじさんの声に幼女が嬉しそうな声をあげる。相変わらず姿は見れないけどわかるのだ。

「そうだ。見ろ、もはや時間はない」

おじさんの声が契機となったのか、頭だけ動かせるようになったので、周りを見渡す。泉が近くにあって草原が周り広がる平和なる世界。でも、少しその先に目を移せば様相は変わる。

「もうボロボロだね!」

草原はドームのように包まれていて境界線があり、境界線を越えるとそこには灰が吹き荒れる世界となっていた。轟々と吹き荒れる灰の嵐の先には食べかけのパフェがドテンと置いてあるのが見えた。

「私はラストスパートを頑張るよ! もうパフェも残り少ないからね!」

「うん、もうグラスは砕けそう。やったね!」

嬉しそうな声に、みーちゃんも嬉しくなる。前みたいに二人でダンスをできないかな。るんたったーって。きっと楽しいと思う。

パフェのグラスはヒビが入り、中身はあるが量が減ってきている。以前は減らなかったのに、みーちゃんたちが頑張った結果だ。

「これからの行動により、全てが変わるだろう。その前に勘違いをしている奴は滅ぼしておかないといけない」

「でも、扉の鍵は使わないことに決めたんだよ。せーちゃんが悲しむと思うからね」

おじさんの言葉に、どうしようかと迷っちゃう。無理矢理扉を壊すとグラスが粉々になっちゃいそう。

「……恐らくはもはや鍵の使用を防ぐことはできない。見ただろう? 既に対処済みだったからな」

「敵の正体は『ヘルヘイム』……に似たなにかだよ。私が観測できない相手」

「そっか……それじゃせーちゃんは慰めないと。可哀想なせーちゃん」

勝利君は駄目なのか。少し駄目じゃないかなぁとは思っていたけど、残念だよ。でも、みーちゃんは万能じゃないから仕方ない。

「まぁ、運が良ければ助かるだろ。あの男は悪運だけは強そうだからな」

「それじゃ運に賭けてみよう!」

しょんぼりするみーちゃんを見かねて、おじさんが気楽そうな声を出す。良かった。助かる方法があるかもしれないなら、みーちゃんも安心だよ。助からなかったら、自業自得という言葉をプレゼントしておくしかないから悪運に期待します。

「『旧神』なんて呼び方はなんか照れちゃうけど、完全同期により、私の準備はできたから急いで行動してね! 完全同期が完了したらきっとグラスは砕けちゃうよ」

「『アシュタロト』を倒し、ループを止めろ。そして『夜明け』を訪れさせろ」

「はぁい」

幼女とおじさんの言葉に、ニパッと元気よく答える。

そして気づいたら、元の『マイルーム』に戻っていた。

オーディーンたちが、なにがあったのかと、視線で尋ねてくるので、首を左右に振る。これはみーちゃんたちのナイショの行動だ。アシュタロトを倒したら話すから、今は待っていてほしい。

人間として存るためにも必要なことだ。

「『アシュタロト』を明日倒しに行ってくるよ」

完全同期が始まった。もはや後戻りはできない。

ニコリと微笑むと、私は微笑みを浮かべるのであった。

完全同期。パフェの記憶が流れ込んできているのを感じる。チョコレートパフェが大好きらしい。みーちゃんはイチゴパフェが好きだよ!