作品タイトル不明
7. セシリアの友人達
セシリアには、気の知れた友人が四人いた。
数ヶ月前に知り合い、今では親友のような関係でいる。顔を合わせ、言葉を交わし、何度か一緒にお茶を飲むうちに、少しずつ距離が縮まっていった。
元公爵令嬢のアリス・ウェールズ。侯爵家の令嬢であるリーザロッテ・ヴァルナー。快活で思ったことをはっきり口にするセシル・ハインズ。そして、アリスと仲の良いエレノア・フェルト。
身分も立場もそれぞれ異なるが、とある事をきっかけに親しくなり、今では月に一度ほど、王都の喫茶店で集まってお茶を楽しむ仲になっていた。
待ち合わせの店は、王都の中心部から少し離れた場所にある、小ぢんまりとした喫茶店だった。
表通りの賑わいから一歩外れたところにあり、店先には店主が手入れしている季節の花々が並んでいる。紅茶の種類が豊富で、焼き菓子も美味しい。何より、長居をしても嫌な顔をされないため、五人のお気に入りの店になっていた。
扉を開けると、からん、と軽やかな鐘の音が鳴る。
窓際の席には、すでにアリスとエレノアの姿があった。
最初にセシリアに気づいたのはアリスだった。
明るい白金の髪を揺らしながら、ぱっと表情を輝かせる。
「あら、セシリアじゃない! 元気にしていた?」
「えぇ、お陰様で。アリスは?」
「もちろん元気よ。でも、あなたのことが気になって仕方なかったわ」
そう言って、アリスは席を立ち、セシリアの手をぎゅっと握った。
白金の髪に、澄んだ青い瞳。華やかな容姿に目を引かれるが、その笑顔は昔から少しも変わらない。
現在はロイド家の長男エドワードと婚約しており、結婚式も間近に控えている。ロイド家は貴族ではなく、王都で暮らすごく普通の家だ。
もっとも、「普通」といっても、堅実で評判の良い家庭であることは間違いない。アリスが嬉しそうに婚約者の話をするたびに、きっと優しい人なのだろうとセシリアは思っていた。
「顔色もいいみたいで安心したわ。私はずっとアリスの惚気ばかり聞いていたんだから」
「もう、エレノアったら」
アリスは頬をほんのり赤く染めながら、困ったように笑った。
「この前もね、街を歩いていた時に、私が店先の花を見ていたら『アリスに似合いそうだ』って言って、小さな花束を買ってくださったの」
「まあ、素敵ですね」
セシリアが感心したように目を丸くする。
婚約者の話をする時のアリスは、いつもよりずっと表情が柔らかい。その幸せそうな様子を見ると、聞いているこちらまで自然と頬が緩んでしまう。
店の扉が開き、からん、と鐘の音が鳴った。
振り向くと、セシルとリーザロッテが連れ立って入ってくるところだった。
セシルは栗色の髪を高い位置でまとめた快活な女性で、歩くだけで周囲の空気が明るくなるような存在だ。その隣を歩くリーザロッテは、淡い金髪を丁寧に結い上げ、いつも通り隙のない優雅さをまとっている。
その隣を歩くリーザロッテは、淡い金髪を丁寧に結い上げ、いつも通り隙のない優雅さをまとっている。
「はーい、皆。もう来ていたかしら?」
セシルが片手を上げながら、にこやかに声をかけた。
「私たちが最後みたいですわね」
リーザロッテが微笑みながら席へ向かう。
淡い金髪を丁寧に結い上げた彼女は、今日も隙のない上品さをまとっていた。
その隣のセシルは、いつものように明るい笑みを浮かべている。
五人全員が揃うと、それだけで場の空気が一気に華やいだ。
「そうだ、今日はこれを持ってきたの」
セシリアは籠から小さな香水瓶を取り出した。
透明なガラス瓶の中で、淡い琥珀色の液体が静かに揺れる。
「あら、新作?」
アリスがすぐに目を輝かせた。
「ええ。ラベンダーを中心に、少しだけジャスミンを加えてみたの」
栓を開けると、爽やかな香りのあとに、やわらかな甘さがふわりと広がる。
「本当にセシリアって多芸よね! 羨ましいわ」
アリスが感心したように言うと、セシリアは慌てて首を横に振った。
「そんなことないわ。まだ始めたばかりだし、失敗することも多いの」
「でも、始めたばかりでここまでできるなら十分すごいわよ」
セシルが瓶を覗き込みながら言った。
「それに、香りが強すぎないのがいいわね。私、きつい香水は少し苦手なの」
「私も。だから、自分で作る時も控えめにしてしまって」
エレノアが紅茶の杯を置きながら尋ねる。
「そう言えば、聖女としての仕事はどうなの?」
セシリアは少し考えてから、肩の力を抜くように笑った。
「ぼちぼちよ。前の所と比べたら、全然良い方だわ」
「前の所って……」
「母国の教会のこと」
セシリアがそう言うと、四人の表情が少しだけ変わった。
「今は無理な予定を入れられることもないし、休む時間もあるわ。体調が悪ければ断れるし、祈りに行く時も、ちゃんと確認してもらえるの」
「それが普通ですわ」
リーザロッテが言う。
「聞きましたわ。大変な目にあったのでしょう?」
「えぇ」
セシリアは頷いた。
「でも、時折、母国に戻って市民の為にお祈りしているのよ」
「戻っているの?」
アリスが目を丸くする。
「ええ。毎月ではないけれど、必要な時だけね。正式に依頼が来て、私が受けてもいいと思った時だけ行っているわ」
そう、セシリアは逃げ出した母国に時折戻っていた。
教会が悪いのであって、市民が悪いわけではない。病で苦しむ人、瘴気に怯える人、祈りを必要としている人たちまで拒みたいわけではなかった。ただし、以前のように全てを背負うつもりもない。
「無理していないの?」
セシルがまっすぐに聞いた。
「していないわ。行く前に日程も決めるし、終わったらすぐに帰るもの。それに、今は教会の人間だけで私を動かすことはできないの」
「ならいいけれど」
セシルは少し眉を寄せたまま言った。
「あなた、平気そうに言うから逆に心配になるのよ」
「本当に平気よ。……少なくとも、今は自分で決めているから」
セシリアがそう言うと、エレノアが頷く。
「それならいいわ。誰かに言われたからではなく、あなたが決めたことなら」
ラベンダーとジャスミンの香りが、卓の上にまだ淡く残っている。温かな紅茶と焼き菓子が運ばれてくる頃には、五人の話題はすっかり別のものへ移っていた。