軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 聖女の日常と最近の趣味

隣国の王都へ来てから、数ヶ月が過ぎていた。セシリアの一日は、窓を開けることから始まる。朝の空気を入れ、花瓶の水を替え、机の上に置いた植物の図鑑を開く。これは彼女がそうしたいと思って続けるようになった、小さな習慣だった。

部屋の机には、他にも小さな硝子瓶がいくつか並んでいる。透明なもの、淡い青色のもの、細長いもの、丸みを帯びたもの。中には乾かした花びらや香油が少しずつ入っていた。

セシリアは最近、香水を調合するのが趣味になっていた。香水といっても、貴族の女性たちが舞踏会で使うような華やかなものではない。強く香るものはまだ苦手だったし、自分の体に纏うにも少し抵抗があった。だから今は、部屋に置くための淡い香りや、便箋にほんの少し移すための香りを作っているだけだ。けれど、それでもセシリアにとっては十分に新しい楽しみだった。

最初は、香りの違いすらよく分からなかった。花の香りはどれも花の香りで、甘いか、青いか、その程度しか言えなかった。けれど、何度も嗅ぎ比べているうちに、同じ甘さでも色々なものがあると知った。朝に似合う香りもあれば、雨の日の部屋に合う香りもある。花だけでは甘すぎる時は、乾かした葉や木の香りをほんの少し混ぜると落ち着くのもある。

そんなことをしているうちに、扉の外から声がかかった。

「セシリア様、朝食をお持ちしました」

「いつもありがとう。お願いします」

返事をすると、女官が扉を開け、盆を乗せた小さな台車を押して入ってきた。温かなスープの香りと、焼き立てのパンの匂いが部屋に広がる。セシリアは思わず机の上の瓶に蓋をした。花の香りも好きだが、朝食の匂いと混ざると、少し分からなくなってしまう。

女官は丸卓に白い布を敷き、食器を並べた。湯気の立つスープ、柔らかく焼いた卵、薄く切られた果物、それから籠に入ったパン。特別豪華な朝食ではない。王城では、ごく普通に出されるものなのだろう。けれど、セシリアは今でも、朝の食卓にパンがあることに慣れきってはいなかった。

彼女の朝ごはんには、いつもパンがあった。

この国へ来た時に、一番美味しいと感じたのはパンだ。肉料理でも、菓子でも、香辛料を使った見事な料理でもなかった。温かく、柔らかく、手で割ると中から湯気が立つ、ごく普通のパン。それを口にした時、セシリアはしばらく何も言えなかった。

甘いわけではない。珍しい材料が使われているわけでもない。ただ、焼き立てで、柔らかくて、美味しかった。

「本日は、丸パンと木の実のパンをお持ちしております。どちらになさいますか」

女官に尋ねられ、セシリアは籠の中を見た。丸パンは表面に薄く焼き色がつき、指で触れればすぐに沈みそうなほど柔らかい。木の実のパンは少し小ぶりで、切れ目から砕いた木の実が見えていた。

「……今日は、木の実のパンをいただきたいです」

「かしこまりました」

女官は穏やかに頷き、皿に木の実のパンを一つ乗せた。

「足りなければ、こちらもお召し上がりください」

「ありがとうございます」

彼女は椅子に座り、両手を合わせる。教会にいた頃のように。今は、食べられることへの感謝を、自分の言葉で少しだけ思う。

セシリアは木の実のパンを小さく割り、口へ運んだ。

香ばしい匂いが広がる。木の実の歯触りがあり、噛むたびにほのかな甘みが出る。スープを一口飲むと、体の内側が温まった。

美味しい。

その感想を、今では素直に思えるようになっていた。美味しいものを美味しいと思うことは、欲深さではない。温かいものを温かいと感じることも、柔らかいものに安心することも、悪いことではない。木の実のパンを食べ終える頃には、セシリアはすっかり満たされていた。

食器を揃えていると、扉の外から再び声がかかった。

「セシリア様、失礼いたします」

先ほどの女官が入ってきた。空いた皿を見て、微笑む。

「おかわりはいかがですか? 丸パンでしたら、まだ温かいものをご用意できます」

「ありがとうございます。でも、今日はもう十分です」

「かしこまりました」

女官は食器を片づけ始める。

「あ、そうだわ」

セシリアは机の方へ視線を向けた。

「今日は友人と会う予定があるの。外出の届出を、代わりに出してもらえるかしら」

「では、そのように手配いたします。お戻りは夕刻前でよろしいですか?」

「ええ。そのつもりよ」

「承知しました」

女官が食器を台車へ戻していく。セシリアは机の上に置いていた小さな袋を手に取った。今日、友人たちに見せるつもりで用意していたものだ。