作品タイトル不明
7.信者の証と第1階層
「ありがとうございます」
「ちゃんとブレスレットに登録しておくのだぞ」
「ブレスレットってもしかしてこれですか?」
水晶に触れた際に出てきた。いわゆる信者の証である。
どの神を信仰するかによって形が変わるらしい。あやふやなのはゲーム内でアイテムそのものが描かれることはなかったから。
ゲーム内でのクイズ――中間試験の内容として登場するのみだった。
だからさほど気にしていなかったのだが、意味があるらしい。
「農具や開拓器具、調理器具限定だが、ブレスレットに触れさせるとチャームに変化し、持ち運べるようになるのだ。スコップ以外の農具は、水晶横にあったガチャから稀に出てくる。ガチャを回すためには専用のコインが必要だが、魔物を倒したり、クエストを達成したりすると手に入るぞ」
ガチャの仕組みはゲームで履修済み。先ほど実物もちらっと見てきた。
見た目は高さ1mほどのガチャガチャ。中には真っ黒いカプセルが大量に入っていた。前世でも似たような物をイベント会場で見かけたことがある。コインを入れてハンドルを回すところも同じだ。
あまりにも馴染み深い見た目のせいで感動や驚きは薄かった。
だがブレスレットの役割は初耳だ。
「探索中も自由に料理ができるってことじゃないですか!?」
持ち運べる物に偏りがあるとはいえ、かなり便利なアイテムではなかろうか。現時点では調理道具が必要になるほど深い階層まで潜れないが、スコップを持ち歩かなくて済むというのは朗報だ。
剣は縁遠く、魔法は存在しない世界からやってきた身としては、武器を毎回持ち歩くのは億劫なのだ。
なんというか、晴れの日に長い傘を持ち歩くような邪魔くささがある。
それが折り畳みも手乗りサイズも通し越し、一気にチャームまで軽量化するなんて夢みたいだ。
調子に乗って手元がジャラジャラする未来まで想像できてしまう。
調理道具を増やす前に自制心を鍛えたいものだ。
「神殿内の設備には劣るが、ダンジョン内の祭壇から我に供えられるぞ」
えっへんと胸を張る神様。相変わらず表情は変わらないが、動作だけでも十分可愛い。
ブレスレットに引き続き、私には驚きの情報だ。ただのセーブポイント兼転移ポイントだと思っていたのに。
だが、そもそも祭壇は何かを祀ったり供物を捧げたりするためのもの。つまりは神様が教えてくれたのが本来の使い道である。
「食事以外、例えばドロップアイテムや材料となる素材を供えても、神様の元に運んでくれるんですか」
「祭壇を転送システムと同じにするでない。我が受け取るのは調理などの加工されたがものだけだ」
調理など?
少し引っかかる言い方だ。食神が受け入れるのは料理だけではないのだろうか。
とはいえ、分かりやすく言ってくれただけかもしれない。今のところ気にする必要はないだろう。代わりに大事な確認をする。
「カットしたリンゴは調理に含まれますか?」
「含まれる。だが一度供えられた物は返却することはできないからな。あとで使うからとりあえず送っておくというのはナシだ。また同じものばかり供えられても飽きてしまうからな、信仰レベルはなかなか上がらなくなる」
転送システム扱いされたことが気に入らなかったようだ。神様はしっかりと釘を刺してくる。
だが私も禁止されたことをやろうとするほど愚かではない。せいぜい武器を持たずに加護を受けに来るくらいだ。
「ならゼリーのバリエーション増やそう計画は分散させた方が……」
「全く同じものでないなら構わぬ!」
即座に否定の言葉が飛んできた。
無表情なのに、声には力強さがある。驚きで肩がビクンと跳ねてしまった。
「いや、そこまで真剣に止めなくても。初めの方はスライムの核が大量に手に入ると思うので、神様がいいならしばらくゼリーにさせてもらうと思います」
「ふむ……。スライムばかり倒していてもおぬしのためにはならんだろうから、我の方でもデイリークエストの出し方を考えておこう。おぬしはそれを参考にして、我に供物を捧げるがよい」
「今日はまだデイリークエストはないが、第1階層を軽く見てきたらどうだ? 下見というやつだ」
神様が提案をしてくれる。
加護を授かったらすぐに帰ろうと思っていたが、使用人はゆっくり選んでいいと言っていた。
具体的な時間は告げられていないが、聖域でほとんど時間を使わず、試験もサクッと終わらせた。少しくらいは時間に余裕があるはず。
入り口周りを見学しつつ、先ほど教えてもらったスライムの討伐方法を試すくらいは大丈夫だろう。
「そうですね。ちょっと行ってきます」
「気を付けるのだぞ」
隠密ローブを羽織ると、神様に見送られながら小屋を出た。
そのまま入ってきたドアとは真逆に位置するドアに進む。ご丁寧にもドアにはそれぞれ『出口』と『ダンジョン』の文字が刻まれている。
ゲームでは幻想的な鏡みたいなものを通過していたはずだが、分かりやすさは大事だ。近づけばドアの向こう側の光景が映し出されるとはいえ、個人的にはこういう気遣いは嫌いではない。
ダンジョンに進むと、人がまばらに散っていた。初心者向けダンジョンの第1階層ということもあり、そこまで人は多くない。1~2人でスライムと対峙している冒険者が目立つ印象だ。
彼らの邪魔にならないよう、スライムをサクサクと倒していく。
神様に教えてもらったようにスコップを軽く振るだけで、簡単に核が壊れる。
5匹倒したが、ドロップ品は全てスライムの核。
微妙に大きさが違う。大きさごとに分けて、ゼリーの固さにも影響が出るのか確かめたいものだ。それらをポケットに入れ、フロア探索に移る。
まず広さだが、思ったよりも狭かった。
入り口からまっすぐ進めば第2階層への階段がある。直線距離で大体100メートル。ザックリとした感覚だが、入り口からちょっと進めば階段を見つけられた。
階段に進むメイン通りは、小学校の校庭の倍にしたくらい。
道の広さが確保されている分、魔物との距離を開けた状態で戦闘を開始することも可能。
またスライムは足が遅いため、戦闘からの離脱も簡単だった。まさに初心者向けに用意された道である。
人目に触れやすい場所ではあるが、覚えたばかりの魔法を試し打ちする場所としてもいいかもしれない。
それとは別に、横道がいくつかある。こちらも道幅には余裕があり、軽自動車がすれ違えそうなほど。
チラッと覗いてみたところ、奥でゴブリンと交戦中の冒険者がいた。さすがに今日は見るだけに留めておく。もう少し戦闘に慣れておきたい。
ただ、近いうちには行く予定。
というのもこちらには水場や、鉱物が採れる岩もあるのだ。オレンジが実っている木も見つけた。
スライムしか登場しないメイン通りと比べると若干のリスクはあるが、その分の旨味も用意されている。
どのタイミングで奥に進むかは、デイリークエストを参考にさせてもらおう。
ひとまず確認しておきたい場所は全て見終わった。
スライムの核を持って神域に戻ろう。そう決めて踵を返した時だった。
「にゃーん」
近くで猫の鳴き声がした。