作品タイトル不明
6.スライムゼリーとステータス
カップの淵に沿って竹串を入れてから、カップをひっくり返す。
2つともお皿に移し、形の綺麗な方を神様に差し出した。
「どうぞ」
「それは?」
「これは私の分です」
「入信試験で自分の分を用意したものはおぬしが初めてだ」
「2つできたので!」
「そうか……。食べるなら同席を許そう」
「ありがとうございます」
神様は皿を持って、プルプルと揺らす。
私の意見を早速取り入れてくれたようだ。スプーンで掬う時も小さく「プルプルだな」と呟いた。
見た目通り、小さな子供みたいだ。可愛い。
ただ長く伸びた爪が気になった。何か理由があって伸ばしているのだろうか。少し握りにくそうだ。
気になりつつも、私も遅れてスライムゼリーにスプーンを入れる。
大きめにひと口頬張ったが、これは……。まごうことなき固めた水である。期待していたような甘さはない。食感は寒天ゼリーに近い。やはり何か入れるのが正解だと思う。
わざわざこれを作らせる心境とは……。
顔を上げ、神様に視線を向ける。
「スライムゼリーとはこういうものだ」
私が言い出す前に神様が言い放った。
「そうなんですね」
「だが果物入りにも興味がある。後日、デイリークエストに入れておこう」
「それって!」
「合格だ。食神信者としてよく励むように」
「ありがとうございます」
手を伸ばし、彼の手を掴む。
ぶんぶんと上下に振ると、神様の眉がほんの少しだけ下がった。
困っているのか、呆れているのか。喜んでいるようにも見える。いかんせん表情の変化が小さくて分かりづらい。
私が手を放すと、すぐに残りのゼリーを食べ始めた。
神様にとって、これはいつぶりの食事なのだろうか。
試験の度、ろくに味のしないスライムゼリーを食べる神様を想像すると胸が痛んだ。
この子に美味しい料理を作ろう。
異世界で何が作れるかは分からないけれど、果物がゼリーの彩りとなるように、神様の食事もバリエーションも少しずつ増やしていきたい。
この瞬間、私がダンジョンに通う目的が増えたのだった。
スライムゼリーを完食した後にとあることを思い出す。
「あ、そうだ。ステータスを確認してもいいですか?」
ステータスは、神域に置かれている水晶を通してのみ確認ができる。
先程スライムを倒した際、奥にあったアレだ。
どの神を信仰した場合でも、入信直後はステータスを確認できる。
ただし上位層に独占されていたり、他者にステータスを知られる可能性があったりと、気軽に使えない状態となっていることが多い。
自由に周りを気にせず使えるのは、四神の中だと土神信者くらいではなかろうか。そのため入信以降の成長具合を正しく理解していない信者も多い。
「奥の部屋にあるから、今後も自由に使うといい。割らないようにな」
「気を付けます」
食神での扱いはアッサリしたものだった。
私もサクッと確認し、戻ってくる。
「なんだ、暗い顔をしておるな」
「ステータスが思ってたより低かったもので……」
―――――――――――
【名前】ロゼ=シュバルツ 【種族/年齢】人間/12歳 【信仰】食神
【基礎レベル】2 【信仰レベル】1
【HP】15 【MP】50
【攻撃力】3 【防御力】2 【知力】27 【素早さ】2
【火魔法】レベル3 【水魔法】レベル7 【風魔法】レベル1 【土魔法】レベル1
【狩り】レベル2 【採取】レベル1 【生産】レベル1 【農業】レベル3
【料理】レベル2 【釣り】レベル1 【採掘】レベル1
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私のステータスはこんな感じだ。
ほとんどの項目において、乙女ゲーム開始時のヒロインのステータスと比べて、1/3以下。知力だけがヒロインよりやや高い。
前世の知識も加味されての数値なのか、3か月で教本を読みまくった成果なのか。
引きこもり生活12年目とはいえ、さすがに危機感を抱くレベルだ。
このまま学園に入学していたらと考えるとゾッとする。
多少のリスクを冒しても、このタイミングでダンジョンに潜る選択をしたのは正しかったようだ。
ステータスの下にずらっと並んでいるのは、食神信者なら誰でもレベル上げが可能なスキルだ。
他の四神とは違い、全属性の魔法レベルを上げられるのが最大の特徴である。もっとも専門の神を信仰した時よりも成長速度は遅くなるが。
そんな中で水魔法レベルが7もあったのは少し意外だった。日常生活に利用しているだけでもそこそこ上がるらしい。
乙女ゲームで登場したのはこれらのスキルのみだが、特定の行動を繰り返すことで取得できるスキルがあるのだとか。少し興味がある。
だが今はスキルごとのレベルについて。
狩りと料理は先ほどの試験で上がったのだろう。そこまでは分かる。なぜ農業レベルまで上がっているのか。
ロゼは12年間、農業とは無縁の生活を送っていた。部屋の外にほぼ出ない生活を送っていたのだから、当然と言えば当然だ。
前世まで遡れば、小学校で枝豆とゴーヤ、中学ではへちまを育て、大人になってからはベランダでプチトマトを育てていた。花も入れればもう少し種類が増える。
だがこれらで農業レベルが上がるなら、採取レベルも一緒に上がるはずではないのか。レベルシステムがいまいち分からない。
「他者より伸びしろがあるということだろう。せいぜい励むがいい」
神様は私の肩をポンッと叩く。
逆の手にはまだスプーンが握られていた。
「ひとつ、我からためになる情報を与えてやろう」
「効率的なレベリング方法ですか!?」
「いや、スライムの倒し方についてだ」
神様は短く否定する。
だがスライムの倒し方なら先に教えてもらった通り。核を壊すことで討伐を成功させている。
改めて教えてもらうことはないと思うが……。
はて? と首を傾げる私に、神様は説明を続ける。
「先ほどの個体はそこそこ成熟した個体だったが、生まれたばかりの個体ーー特におぬしが入ったダンジョンの第1階層にいるようなスライムは、柔らかい個体が多い。先ほどのように上からスコップを刺すと、スライムの粘液で滑る恐れがある。上か横からペシッと叩いた方が安全かつ素早く討伐が可能だ」
「それだけで倒せるんですか?」
「弱い魔物だからな。叩かれた衝撃で核が割れる」
「なるほど」
想像以上のお役立ち情報であった。素直に頷く。
できれば先に教えてほしかったが、倒し方も見ていたのだろう。
あまりに危なっかしかったから教えてくれた、と。
親切な神様だ。やはり私はもう少しこの世界について学んだ方がよさそうだ。知識がないせいでしょうもない怪我しかねない。
「我を信仰する者達の場合、スコップのような農具や調理器具のような物には補正がかかる。駆け出しの時は特に剣や弓よりもスムーズに倒せるからな、おぬしはよい選択をしたと言える」
「ありがとうございます」
指摘だけで終わらず、褒めるところは褒める。
3ヶ月間、ひたすら教本と向き合い続けていた私の渇いた心に神様の優しさが染みる。
「もしかして農業スキルが上がってたのも、選んだ武器が関係しているんですか?」
「正確には魔物を討伐する際に使用した武器だがな。農業スキルは畑作りにも役立つから上げておいて損はない。そうだ、入信祝いにそのスコップをやろう」
「いいんですか?」
「積極性のある信者は久々だからな。それにダンジョンに手ぶらで来るような奴、放ってはおけん。他の神なら試験どころか、神域に入った途端に追い払われているはずだ」
「でも魔物なら魔法で倒せますし」
「魔法をメインで戦う者は杖などの補助アイテムを所持するのが一般的だ。……知識が少ない子供ですら、自衛のために剣なりナイフを用意してくるというのに」
何度も念押ししてくる使用人とは違い、公爵がすんなり許可をくれるわけだ。
門前払いをされて帰ってくると踏んでいたのだろう。
まさか神様が直々に武器を用意してくれるとは思うまい。