作品タイトル不明
5.入信試験
「よかろう。ただし試験をクリアできねば入信を認めることはできぬ」
「はい! それで試験の内容とは」
ごくりと唾を飲み込む。
ゲームではそれぞれの神が司る属性の魔法を使う、もしくは下級魔物の討伐のどちらかであった。
バトルシステムのチュートリアルに当たる。
といってもボタンを何度かポチポチ押したら完了する程度ではあるのだが。
「試験の内容は2つ。1つ目は我が用意した武器を用いてスライムを討伐すること。クリアできたら2つ目の試験内容を話す」
神様が両手を広げると、大量の武器が現れた。
剣や杖、ハンマーの他にも、草刈り鎌や鍬にジョウロ、シャベルまで。どちらかといえば農業や園芸用の道具が目立つ。
ファンタジー世界なら剣や杖を使うのがセオリーなのだろうが、使い慣れない道具は怪我をするリスクも高い。
無難にスコップを手に取った。
慣れているというほどでもないが、前世でも雪かきなどで使ってきた道具だ。不思議と手に馴染む。
「スライムの倒し方は知っているか」
「真ん中にある核を破壊すればいいんですよね?」
「その通り。スライムはダンジョンに生息する魔物の中でももっとも弱い魔物だが、油断は禁物だぞ」
そこまで説明すると、奥の部屋に通してくれる。
外側からは想像できないほど、厳かな空間が広がっていた。
まるで教会だ。部屋の最奥には鑑定用の水晶が置かれている。間違いなくこの神域で最も重要な部屋。
そんな部屋の真ん中でポツンと待ち構えているのは1体のスライム。
入信試験用の個体だろうか。プルプルと震えているだけで、こちらを攻撃してくる様子も、移動する気配もない。
神様はドアの近くでこちらを見守っていた。早く倒せとでも言いたげだ。
先程選んだスコップを手に、スライムに近づく。するとスライムもゆっくりと動き出した。倒される恐れはないが、滑りそうで怖い。
スライムの真上からスコップを当て、先端を少し沈ませる。そして右足をかけ、グッと力を入れた。
真っ直ぐと入ったスコップは核に当たり、パリンと割れた。思ったより簡単だった。
感触も柔らかい土のようで、意外と安定感があった。
スコップを引き抜くと同時に、スライムの身体が光の粒子へと変わった。そのまま空気に溶けていく。代わりにスライムがいた場所にはとあるアイテムがドロップする。
【スライムの 核(ドロップアイテム) 】
ご丁寧にもアイテムの上には名前が表示されている。
ラムネ瓶に入ってるビー玉みたいなそれを拾い上げる。
「無事スライムを倒せたようだな。1つ目の試験は合格だ」
「ありがとうございます」
「それでは2つ目の試験に移る」
神様がパチンと指を鳴らすと、目の前の景色が変わった。
教会から一転して、キッチンのよう。コンロやオーブン、包丁やボウルなど、諸々の調理器具まで揃っている。
「手に持っている『スライムの核』と水を鍋に入れて煮込み、スライムゼリーを作り、我に捧げろ。硬さや形は問わぬが、くれぐれも鍋よりも大きな火を使ったり、水を惜しまぬように。神域内は火事にはならんが、怪我はするからな」
話しぶりから察するに、火事一歩手前になった人がいたのだろう。
前世の感覚だと、ゼリーは簡単な部類に入るお菓子である。基本的に加熱する温度と、ダマにならないように気を付ければいい。
ただし入信希望者の中には、6歳になったばかりの子供や料理をする習慣のない貴族も含まれる。簡単な料理であっても試験に落ちてしまうこともあるのだろう。
食神の信仰が減っていった原因の1つは、入信試験に料理項目が含まれていることなのではないか。
頭によぎった考えはひとまず端っこに追いやる。
今は試験をクリアすることを考えなければ。
「いくつか質問いいですか?」
「なんだ」
「スライムの核に吸水させる必要はありますか?」
「不要だ。そのままの状態で水と一緒に煮込むだけだ」
「ありがとうございます。次に、味の指定はありますか?」
「味? 一体なんのことだ?」
表情を変えず、首を傾げる神様。
お顔立ちが整っていることもあり、一発でホラー映画に採用されそうな怖さがある。
「味付けしないと水を固めただけになっちゃいますし……。ダンジョン内にはリンゴやオレンジなどの果実も自生しているらしいので、果物ゼリーや果汁を入れたゼリーにした方がいいかなと思って」
前世でも『水ゼリー』は存在した。
その名の通り、水を固めたゼリーなのだが、使用される水は一級品。どこどこの湧き水として商品化できるようなものである。そこに甘さを付け、ゼラチンなどで固める。
それが私の知る水ゼリーだ。
興味本位で一度購入したことがある。思っていたより美味しかった。
だが今回使用するのは魔法で出した水。
前世で食べた水ゼリーとは雲泥の差だろう。見たところ、調理器具はあっても調味料はない。砂糖などで甘さを付けることもできなさそうだ。ならせめて果物を入れたい。
私の主張に、神様の首の傾きが正常位置に戻る。
「そんなことを聞いてきたのはおぬしが初めてだ。試験をクリアできたら味付きのスライムゼリーとやらも作ってほしいものだが、今は水とスライムの核のみを用いた普通のものでいい」
「普通……」
「普通のスライムゼリー」
どうやらこの世界では水ゼリーが一般的らしい。
スライムの核にほんのり甘さが付いているのだろうか。気になりつつも、ひとまず空いているボウルに水を溜める。そこでスライムの核を軽く洗う。
寒天やゼラチンのように裂けるかもと思ったが、玉が割れることはない。粘り気が出てくることもない。
今度は鍋に水を溜める。気持ち多めに半分くらい。そこにスライムの核を入れ、コンロに置く。
スイッチ部分に魔力を込め、ツマミで火力を調整する仕組みらしい。ひとまず弱火でセット。たまに木べらでスライムの核を撫でるように煮込んでいく。
すると核が徐々に溶け、水にとろみがついてくる。木べらを持ち上げる際、少し重たいと感じるようになったところで火を止め、カップに移す。
煮込んでいるうちに量は減り、プリンカップ2個分の量になった。神様の分と私の分でちょうどいい。
大きめのボウルに水を張り、そこにゼリーカップを入れる。中に水が入らないようにだけ気を付ける。するとみるみるうちに固まっていく。
湯煎したチョコレートが溶けるより早い。カップの側面に付着した水滴を持参したハンカチで拭く。
「できたか?」
「はい。今、お皿に出すのでちょっと待っててくださいね」
「そのままで構わぬぞ」
「いえ、こういうのはお皿に出してプルプル感を楽しむのまでがセットですから」
前世の父の受け売りである。
我が家ではゼリーとプリン、餃子とお好み焼きとホットケーキは父の担当だった。
ゼリーとプリンはお湯で固めるだけのお手軽タイプだったが、私達が楽しめるように可愛い型をいくつも用意してくれた。家族みんなで、誰が一番綺麗に型から外せるかとはしゃいだものだ。
今の神様の見た目くらいの年頃の時はもちろん、私達兄弟が成人した後も型は増え続けた。年々、どこで売っているのかと突っ込みたくなるような型も加わるようになって、実家に帰る時には『今度は何の形なんだろう』と楽しみにするようになっていた。
そう考えると、シンプルな型で作られたお手製ゼリーを食べるのは小学校の給食以来。実に20年ぶり。不思議とかなりレアな食べ物に見えてきた。