軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カラス対決

しかしまあ、レイトンの言うとおりだ。

僕がこの街に来たのは、物見遊山でもなんでも無い。

魔物達を、殺しに来たのだ。

僕はレイトンが行った方向でもオラヴが行った方向でもない方に見当を付ける。街の南側を潰していこうとそちらを見据えた。

南側でも、もう誰か戦ってはいるのだろう。黒煙が上がっていた。

恐らく腐肉も食べられるとはいえ、やはり新鮮な肉の方がいいのだろう。大犬が、そちらにも群れを成していた。

探索者を狙い、殺到する犬たち。探索者側もだが、向こうも連携らしい連携は取っていないのが楽で良い。

僕はそちらに駆けていくと、手近にいた大犬のこめかみに向かって蹴り込んだ。

「ギャ……!!」

短い鳴き声と共に、大犬が吹き飛んでいき、横倒しとなる。

ここからは僕も様子見などしない。

手心を加えず、命を奪っていく。

頑丈な魔物であろうとも、脳を砕けば生きてはいられない。苦しませずに殺す。それだけが、僕の慈悲だった。

連携は取らない、がそれでも通常群れで生きている犬の本能だろうか。

五匹の大犬の群れが僕に飛びかかってくる。

僕の頭部を薙ぐその爪を躱し、地面を踏みしめたところに、違う個体のより低い位置からのタックルが来る。その頭部に一撃を入れ穴を開けて止める。その死体を踏み台とした空中からの噛みつきを下がって躱し、脳天に鉄槌打ちを入れる。

大犬たちからの、流れるような連撃を躱しながら討ち取っていく。

せめて苦しまぬように、祈るばかりだ。

目の前に積み重なる大犬の死体。ただの犬ならいざ知らず、それぞれ体高が二メートル以上あるような大きな獣だ。

たった五頭の群れですら、折り重なって山のようになっている。

それが現在五百頭も確認されているのだ。

この事件が終わったときに、どんな死体の山が出来上がるのだろうか。

僕はその想像を、今考えるべきではないと敢えて打ち消した。

大犬ばかりに意識を向けていてはいけない。

「……!!」

後ろから何かが飛んでくる気配。感じた僕は横に大きく跳ぶ。

僕がいた地面に、カツンと毒鳥の尾が当たった。

「……そういえば、犬より多いんでしたっけ……?」

見れば、先程までは様子見のように上空にいたステニアーバードも、地面近くに降りてきて参戦し始めているようだった。

あちらこちらで、探索者達が槍を持ち雀のような毒鳥を叩き落とそうと奮闘していた。

飛びかかってくる毒鳥を気にしながら、大犬たちに拳と蹴りを打ち込んでいく。

同時に相手をするのは面倒だが、そうも言ってはいられない。

彼ら相手も油断は出来ない。

その尾の毒針は、容易く人を殺すのだ。

不意に刺されぬよう、降りてきた毒鳥を鉈で裂く。

まるで水滴を切るように手応えのない彼らは、それだけでただの肉になって地面にボトリと落ちた。

「……先にこいつらの数を減らすべきかな?」

思わず僕の呟きが漏れる。蝿がたかるように集まってくる毒鳥の群れの数が多すぎる。

大犬だけなら単純で良いが、隙を突いて襲いかかってくる毒鳥がいるせいでテンポが何度もずらされてしまうのだ。

建物の上に行けば、群がってくるだろうか。

深く考えもせずに、僕は手近な建物を駆け上がる。

高さはそれほどでもないが、それでも石畳の上よりは大分鳥の密度が濃い。

……ここに至って、出し惜しみをする理由も無い。

肉弾戦では埒があかない、魔法を使おう。魔力を展開する。

滞空するステニアーバードたち。飛びかかる準備だろう。僕に向かって、一斉に針が向けられる。僕を殺せるその用意に、チリチリと後ろ髪が逆立った気がした。

「多いというのはそれだけで、厄介なものですね」

「同感だな」

何の気なしに呟いた僕の言葉に、返答があった。

……!? 誰だ?

ここは屋根の上で、人の気配は無かったはずだ。

目の前の毒針を無視して、僕は周囲を見渡す。

視界が広がり、そこで初めて気がつく。辺り一面に折り紙で作られた燕のような物体が大量に漂っていた。

その内の一枚がひらひらと僕の目の前に落ちてきたかと思うと、広がって一枚の紙に戻った。それからまたひとりでに畳まれ、唇のような形を作り出した。

「だから、 妾(わらわ) が相手をする。言っただろう? 雑魚の相手は任せろと」

「? その声、オトフシさんですか?」

紙で作られた唇から先程聞いた声が響く。声に合わせ、パクパクとその口が器用に動いていた。

「そうだ。そんなことより、後ろに気をつけろ」

その言葉に後ろを振り向くと、毒針が目の前に迫っていた。

だが、それは魔力で把握している。

努めて冷静に僕はそれを鉈の刀身で弾くと、体勢の崩れた毒鳥を一閃した。

「……見事だ。忠告は必要なかったな」

「いえ。ありがとうございます」

紙で出来た唇相手に頭を下げる。初めての経験だ。……経験する必要も無いことだろうが。

「それより、任せろって言うのはこの鳥ですか?」

「ああ。お前達は地を這う大物相手に専念すれば良い。展開が遅れたせいで鳥の襲撃が始まってしまったのは誤算だったが、もう妾に任せて構わん」

任せろと言われても……。

もしかして、この白い折り紙でステニアーバードを殺すとでもいうのだろうか。普通に考えれば難しい気もするが……いや、空を飛んできているのだ。何かそうする手段があるのだろう。

「……わかりました。お願いします」

「フ、お前達も任せたぞ。大きな相手にはこの寸法では難しいからな」

そう言い終わると、唇は解け、また燕の形に戻る。

どうするかはわからないが、任せろと言っているのだから大丈夫だろう。

そう思い、飛び降りようと屋根の縁に足を掛けた僕は、一度目線を上げる。

ゴリゴリと、骨が砕けるような音がしたからだ。

そこには、逆さにしたてるてる坊主のようなものが浮かんでいた。

違う。これは、先程の折り紙だ。折り紙が毒鳥の体を包み込み、噛み砕くように蠕動運動を繰り返している。

白かった折り紙は血に染まったのだろう、真っ赤に塗れていた。

「キュ……ピ……」

動きに合せ、中から鳴き声が聞こえる。文字通り絞り出すような、か細い声だ。

やがてその動きが収まると、真っ赤な紙に包まれたまま鳥は落ちていく。

ドスッと落ちた地面を見れば、その真っ赤な包みはもう地面を埋め尽くすほど落ちていた。

……なるほど、任せても大丈夫だ。

僕は溜め息を吐くと、何もないところを狙って飛び降りる。

一応、その小包は踏まないように、僕は大犬の群れに向かって走り出した。

目当てではないが、通りがかりの一団を、行き掛けの駄賃とばかりに急襲する。

オトフシのお陰かやはり今は毒鳥の邪魔はない。

たまに血で染まった小包みが落ちてくるが、それは邪魔でもないだろう。落ち着いてかわせばいいだけだ。

もはや、大犬は敵足り得なかった。

駆け回り、出会った大犬の頭を割っていく。叫び声すら置き去りにして、僕は走り回った。

その手と足からは、いつの間にか血が滴っている。

……殺しているのだ。当然だろう。

その赤い色を見ても、僕の心に後悔はない。

大犬の討伐は進む。初めから数の少なかった泥牛などは、レイトンやオラヴによってもう狩られているだろう。

あとは、脅威と言えば……。

「ギャハハハハハハハハ!!」

……そうだ、こいつらがいた。

広場の高台に止まり、こちらを見下ろす黒い鳥。

その首は三つに分かれ、それぞれに頭が付いている。三つ首鴉、この前も、不快な笑い声を広場に響かせていたが、未だに残っていたのか。

疾走中だった僕は足に力を込め、急停止する。砂埃が舞った。

広場から見下ろす三つ首鴉の群れを、僕はジッと見つめた。

「ナンダコイツ! ナンダコイツ!」

一羽の三つ首鴉が、人の言葉らしきものを発する。そしてその声が届いたと同時に、笑い声が群れ全体に広がっていく。

「ヤメロ! シネ! ドッカイケ!」

片言の罵声が飛んでくる。意味がわかっていっているのか、それとも誰かの真似をしているだけなのかわからないが、明瞭な発音で聞こえる罵声はかなり不快だった。

「……」

僕は無言で、石畳の石を一つ剥がす。それを、一番初めに言葉を発した鴉に投げつけた。

「ギョ……!」

当然それは命中し、鴉の胴体を大きく抉る。その一羽……一羽? が地面に落ちると、他の鴉は一斉に殺気だったようだった。

……胴体を数えれば一羽だが、頭部を数えれば三羽分だ。僕は今何羽殺したのだろうか……?

……わからないが、それだけで怒りの感情を帯びたのだろう。

ギャアギャアと、先程操っていた人語を忘れ、鴉たちは喚きだした。

「わりと不愉快なんですよね。同じ名前って」

三つ首鴉。三つ首 カ(・) ラ(・) ス(・) とは、挑戦的な名前だ。

こいつらが益鳥や上品な奴等ならよかった。だが、その下品で不愉快な笑い方に、最近やっと慣れてきた自分の名前にけちを付けられた気がして、少し腹が立った。

地面を蹴り、三つ首鴉の群れの位置まで跳ぶ。

大きさは通常の鴉より一回り大きいため、きっとオトフシの標的にはならないのだろう。

だったら、尚更、僕の獲物だ。

広場の上空はもう魔法で封鎖してある。

僕にすら肉眼で見えないその壁は鴉の行く手を阻み、上空への退避を禁じていた。

近くまで跳び、手刀でなぎ払う。それで六羽ほど打ち払うことが出来た。

骨を砕く感触が手に響く。

その感触を忘れないように、壁を蹴り追いかけながら鴉を退治していく。

全滅させるのに、そう長い時間はかからなかった。

「鴉を名乗るんだったら、もっと上品な感じでお願いします」

生き物がいなくなった広場で、僕は呟く。

両手を地面に向かって振ると、帯のように綺麗な形で血が石畳を染めた。