軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦闘開始

待機場所に、静かに滑り込む。

「遅い」

その集合場所に着いたオラヴと僕に、開口一番文句を言う女性がいた。

年の頃は二十前後だろうか。細身の体に纏った革の鎧の黒が、白い肌と青みがかった銀色の髪の毛を強調していた。

オラヴは豪快に笑い返す。

「ガハハ、すまんのう! 少ぉしばかり、指導しておったんじゃよ」

「ここは教育の場ではない。既に戦場である事を忘れるな」

オラヴの笑顔を歯牙にも掛けず、プイと女性は横を向く。赤い瞳は、強くクラリセンを睨んでいる。

そして、僕の方をチラリと見た後、小さく鼻を鳴らした。

「……何です?」

「フン。このような子供まで戦場に出るなどと……」

女性はお小言を言うように言葉を紡ぎ、途中で言葉を止めた。

「いや、違うな。失礼をした。お前は戦士だったか」

「何のことかわかりませんが、それなりに戦えるつもりですよ」

「フフン、すまないな。見た目で判断することなど無いよう、努めているのだが」

鼻で笑いながら目を伏せる。謝罪の雰囲気だけ伝わってきた。

「我が名はオトフシ。お前が最近噂話に上るカラスだろう? 今日の奮戦を期待しているぞ」

「……ああ、貴方が……」

オトフシ。キーチの言っていた重要人物の一人。

<形集め>だったか、そんな異名だった気がする。

「今日は頼むぞ、オトフシ。 細(こま) いのはお主が頼りじゃからな!」

「フン。言われるまでも無い。雑魚は任せておけ」

オラヴの言葉に、腰まである長い髪の毛をさらりと払いながら、オトフシは返した。

雑魚は任せろということは、そんなに強くないのだろうか。

いや、胸に付けたバッジは、やはり色つきだ。強さの問題ではない。だとすると、戦い方の問題だろうか。

聞いてみたいとは思うが、雰囲気が鋭利で近寄りがたい。

まあ、今は気にしないでおこう。

皆、木陰か藪に姿を潜める。誰もが黙り、出撃するその時を待っていた。

ふいに、何人かが空を見る。音も無いが、それは僕にもわかった。

東の空に真っ直ぐに、花火が上がったのだ。

それは色とりどりの綺麗な物などではなく、橙一色の破裂もしない花火だったが、青い空に不思議に映えていた。

時間だ。

オラヴが叫ぶ。

集まった探索者達を鼓舞するように、一トン以上あるだろう金属製の鎚を軽々と片手で持ち上げる。立てた金属の円筒に棒を縦に突き刺したようなその鎚は、黒く輝き僕らを照らしたように見えた。

「……これより我らクラリセンへと入る! 殲滅せよ! 人の領域を食い荒らす 獣(けだもの) たちを生きて返すな!」

応、と口々に皆が応える。皆が皆、凶器を持って走り出した。

魔術師は魔術を使い、闘気使いは白い光をたなびかせながら走る。

皆の足音が地響きとなって辺りを揺らした。

僕も遅れないように付いていく。

そして、集団が石畳を踏みはじめて大分たった頃、異変が起きた。

石畳がわずかに動く。

気が付いたのは、僕と僅かな探索者だけだったようだ。

「! 皆、散れ!」

オラヴが叫ぶ。その声に反応した者達は、オラヴを残して道の端まで跳んで散った。

牙が見えた。

血に塗れたその牙は鋭利に尖り、過たず通りすぎようとする標的を狙っていた。

「…… 噴(ふん) !」

飛び出す鰐のような皮、トレンチワームだ。

そのトレンチワームの横腹を、オラヴは巨大なハンマーで打ち払う。

その衝撃に、また大気が震えた。

トレンチワームが怒りの叫びを上げる。

「キョオォォウ‼」

鳴き声など上げるのか。

そんな場違いな驚きを感じた僕の目の前に、トレンチワームの上半分が叩きつけられる。下半分は地面に埋まり固定されているため、まともに張力を受けた外皮が、勢いよく裂けた。

豪快な一撃。ただ打ち据えただけでトレンチワームは息絶えたようだ。

念のためだろう。もう一度、オラヴはトレンチワームの頭部に鎚を振り下ろし潰した。

ぶちゅりと潰れたその隙間から、灰色がかった桃色の肉塊がこぼれ落ちる。

だが誰も、そんなことは気にしない。

「油断するなぁ! ここはもう、魔物の巣じゃ!」

オラヴの叫びに、探索者達も頷き、また走り出す。オラヴを残し、皆先へ先へと進んでいった。

「ガハハハ! 進め! 進めい!」

走り出した皆を見て、楽しそうにオラヴは笑う。そして自らも走り出すと、すぐにその集団に追いつく。

それからは襲撃という襲撃はなかった。

恐らく、あの街道がトレンチワームの縄張りで、そこを通る魔物も動物も無差別に食べられてしまっていたのだろう。

探索者の足は速い。

先程まで見えなかったクラリセンが、もうすぐそこだった。

クラリセンの門の前で、皆は一度立ち止まる。

怖じ気づいたわけではない。ただ、皆無意識に、攻め込むタイミングを計っているのだろう。

そこで飛び出すのは、やはりオラヴだ。

「さあ、行くぞ! 皆の衆! 進めい!!」

その言葉と共に、門の横、石が積まれた壁を叩く。

発破されたのかと思うような轟音と共に、壁が大破する。門ごと吹っ飛び、大きな穴が開いた。

音に景気づけられ、探索者達はその中になだれ込んでいく。

もうそこからは、誰も足を止めなかった。

その様子を見て、驚きと共に呆れも浮かぶ。

「力づくだなあ……」

そう呟く僕の言葉を、誰も聞いていなかったのは間違いなく幸運だっただろう。

門の中、街の様子は昨日の地獄絵図といくらか変わっていた。

昨日の雨で血の染みが洗い流されたのか、石畳の色が明るくなった気がする。臭気も若干少なくなった気がする。それはもう、僕が慣れてしまっただけかもしれないが、行動しやすくなったのは確かだ。

ただ、水気が多くなったことで酷くなる汚れもあったようだ。

濡れた死体、そこを中心として広がる水たまりは、明らかに水ではない液体で満たされていた。

水面が虹色に光っているのは、脂だろうか。蝿が何匹も、その水たまりに浮いていた。

そんなものを見ている間に、戦闘は始まる。

オラヴの壁破壊が、中の魔物達にとって開戦の合図となったのだろう。見渡す限りの魔物達が、僕らに向かって殺到してきていた。

「ガハハハハ! 続けええ!!」

何が楽しいのか、その大犬たちの群れの中に、オラヴが突っ込んでいく。肉弾戦が得意であろう探索者達も、それに続いていった。

その集団は、凄まじい勢いだった。

先頭のオラヴが振るう鎚に、一撃で犬は頭を砕かれ死んでいく。

それだけではない。後続の探索者の振るう槍が、大剣が、大犬たちの体を傷つけていく。

流石に一撃で致命傷を負わせているわけではなさそうだが、それでも何人かが武器を振るったところで、立ち塞がった犬たちは悉く死んでいった。

「キミもぼくも、向こうに行く必要は無いよ。あっちはオラヴが何とかしてくれる」

いつからいたのだろうか。横に立つレイトンが、僕に道を示した。

「向こうは任せても平気なんですね。じゃあ、僕とレイトンさんも別れてそれぞれ?」

「そうだね。適当に殺していこう」

軽く笑い、レイトンは跳ねる。その先から、泥牛が二頭鼻息荒く迫っていた。

泥牛の厄介なところは、やはりその魔法だ。

周囲の地面を泥に変え、地を這う対象の動きを制限する。そして動きの鈍った標的を狙うのは、魔力で強化されているのだろう、その頭突きだ。

動きを封じ、その二本の角を力強く突き立てる。単純だが、厄介な相手だった。

そして、泥化魔法とでも呼ぼうか。その魔法の効果も嫌らしい。

泥に変えられた地面は、底なし沼のように僕らの足を沈めていく。一度わざと埋まってみたことがあるが、闘気を持たなければ、そこで窒息してしまうこともありえそうな深さだった。

以前は空を飛んで始末したが、その牛相手にレイトンはどうするのだろうか。

跳躍して二頭とも斬り殺すか、それとも突進を迎え撃つのか。

少し楽しみに見ていると、レイトンはそのどちらも選択しなかった。

何事もないように、泥の上を、走っていったのだ。

なるほど、闘気を使い、無力化すればそういう芸当も出来るだろう。

だが、そうでもない。僕は驚愕する。

レイトンの体に、闘気は一欠片も見えなかった。

まるで水の上を素足で走るように、タシタシと音を立てて泥牛に迫る。

そして、一閃。

剣など届いていないだろう距離にいるにもかかわらず、牛はそれぞれ四肢を断たれて崩れ落ちた。

それを見て、僕は息を飲む。確認などしなくてもわかる。あれは、絶命している。

血に濡れた剣を払おうともせず、レイトンは振り返る。

「ぼくを見ていないで、早くキミも行きなよ」

たしか、<血煙>と言ったか。レイトンの異名。

どんな原理かはわからないが、崩れ落ちた牛の体から、遅れて血飛沫が上がる。

今頃上がったその血飛沫に、異名の意味がわかった気がした。