軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

懸念の解消

「まずは状況を説明させて頂きます!」

八の鐘が鳴り、広場には人が集まっている。集められた探索者と騎士達、その顔には眠気や怠さなど微塵も無く、皆戦意に満ちていた。

「今朝の偵察により、現在の敵戦力を確認しました。急ごしらえではありますが、こちらをクラリセンの街とお考えください」

ギルド職員は、背後に張られた大きな布を示す。そこにはクラリセンの大まかな形と、大きな道が描かれていた。

「見られている魔物で、大犬が約五百頭、ステニアーバードが約千羽、泥牛が約五十頭、三つ首鴉が約百羽、トレンチワームが三頭、その他三つの羽長蟻の巣が確認されています」

魔物の名前が読み上げられる度に、どよめきが起きる。

やはり大犬とステニアーバードが主の集団か。最初期から確認されているこの二種、あまり強くはないこの二種が大半を占めているのは運が良かったのだろうか。

いや、それでも街は壊滅したのだ。

どんな魔物であれ、運がいいわけがない。

地図に、その魔物達の名前と位置を書き記していく。

種類が混ざってはいるが、それなりに偏りはあるようだ。大ざっぱに言えば、市街地の屋根の上にステニアーバードが、建物の中に大犬が、広場と道に泥牛と三つ首鴉が多い。そんな感じだった。

「数は全て概算ですが、昨日と今日の調査で得た結果として、こちらの地図で示したような分布になっています。その他にも、魔物が単独で群れを作らずにいくつか確認されておりますが、把握はしきれませんのでそちらは現場での対応をお願いします」

職員は目線を、集まっている戦力に戻した。

「以上、若干のずれはあるかもしれませんが、今の分布はこれで確定とします。ここまでで何か質問は」

ありますか、と言いかけて見回した職員は、そこで言葉を止めた。

探索者も騎士達も、いささかの迷いも見られない。

質問など無い。どんな魔物であれ、どんな布陣であれ、逃さない。そんな決意が僕にも感じられた。

「よろしいようですね。では、作戦内容はオラヴ様から」

職員が頷き、そう言いながら目配せをすると、地図の前にオラヴが進み出る。

オラヴは昨日と違い、腹巻と言っただろうか、金属製の鎧を胴体に纏っていた。

口を開く。その声に昨日と同じく、空気が震えた。

「探索者の皆の衆は、全員で攻撃を掛ける! 殲滅じゃ! 奴らを、一匹たりとも街に残すな!」

誰かがゴクリと唾を飲む。

オラヴの言葉に、決意の籠もったその目に誰もが緊張を感じた。

「我らはこれより、クラリセンの石畳前まで移動し、待機。そして今より約小半時(三十分)後、九の鐘が鳴りわたり、空に合図の炎が上がる。クラリセンを挟んだあちら側にの。その合図と共に、両側からクラリセンを挟撃する」

言葉が止まり、オラヴは辺りを見回す。質問していいと言うことだろうか。

ならば、と僕は手を上げた。

「なんじゃ」

「挟撃、ということは、クラリセンの向こうかたにも戦力はいるんですか?」

それとも部隊を分けるのだろうか。

「もちろん。ほぼ同数おる。騎士達は各村や町の防衛に回るため、どちらも探索者のみじゃが。……ああ、向こうには魔術ギルドからの応援もあるがの」

「わかりました。ありがとうございます」

それならば……。

僕は周囲を見渡す。

この場に集まっている戦力は、四十人程。それとほぼ同数が向こうにいるというのならば、総勢八十人ほどの戦力で街を攻めることになる。

……少なくないだろうか?

人数は聞いていないが、事件発生当時は大犬と 毒鳥(ステニアーバード) の群れ相手に街の戦力は敗走しているのだ。それも今より小さい群れ相手に。

内心の疑問がオラヴに伝わるわけもなく、オラヴの説明は続く。

「合図に合わせ、向こう側におる魔術師により、クラリセンの南北に壁が作られる。こちらは増援を防ぐためと魔物を敗走させないためじゃ。端から作るために、完成は少しかかるそうじゃが、それまでに狩り終わっても構わん。それは覚えておくように」

街を覆う壁、そんなに大規模な魔術が使われるのか。

そんなことしている場合ではないが、それは少し見てみたい。

「当然、魔物の死体は捨て置いて構わん! 素材として使えるものを狩った場合、その売却益がギルドより後ほど支払われる。以上、説明は終わりじゃ! 順番が前後してしまったが、何か質問はあるかの?」

そこまで言った後、さきほどと同じように言葉を切る。

そして何も発言が無いことを確認すると、もう一度口を開いた。

「それでは皆の衆、各自、移動に入れ。石畳前、その森の中に身を潜めて待機じゃ」

オラヴの締めの言葉に、皆が頷く。

そして思い思いに、装備を担いで移動し始めた。

迷いの無い皆の行動。それを見て僕は不思議な違和感を覚えた。

何だろうか。

何に僕は引っかかっているんだろうか。

「ほれ、カラス、お主もはよ移動せんと」

オラヴが、ドラム缶ほどの大きさの鉄塊が先に付いたハンマーを持ち、僕にそう言った。

その武器を見て、違和感の正体に思い至る。

「ああ」

「なんじゃ?」

思わず声を上げた僕に、オラヴは不思議そうな顔を返した。

そうだ。誰がどんな戦い方をするか、この部隊がどういう編成なのか、全く僕は知らないのだ。

それでは、集まっている意味が無い。

「あの、他の探索者の情報が無ければ、協力も何も出来ないと思うんですが……」

僕は辺りを見回す。もう、広場に残っている探索者は殆どいなくなっていた。

「他の探索者の情報? そんなもの必要かの?」

オラヴは心底不思議そうに、僕の言葉を反芻した。

いや、互いに能力を補い合い、リスクを分散する。それが集団となる利点だろう。

「協力をするのに、情報が必要とは……」

「彼は皆が隊伍を組んで行動しないのか、と言ってるんだよ」

未だ悩むオラヴに、誰かが話しかけた。

それが誰か、すぐにわかるのがちょっと嫌になってきた。レイトンだ。

「レイトン、おったのか」

「ずっといたさ。一応、ぼくがいると邪魔だと思ってね。息を潜めてたんだよ」

確かに、今までレイトンがいたことに僕も気付いていなかったが、オラヴも知らなかったらしい。

よく考えてみれば、この場にレイトンがいない方がおかしいというのに。

レイトンは、体をオラヴに向けたまま首だけ真横に向け、僕を見た。

「さっきの話だけどね、簡単なことだよ。彼らは普段、一緒に行動なんかしたことがない」

「普段一緒に行動しないから、こういうときも協力なんかしない、と?」

こういうときに聞きたいことを察してくれる。それに関しては、レイトンはありがたい存在だ。そう思った。

「そうだね。最初から集団戦ありきで訓練している騎士なんかと違って、探索者は普段少人数で行動する。連携なんか、取れるわけがない。いや、むしろ連携をとらずに好き勝手にやる方が効率的に殺せるのさ」

「じゃあ、わざわざ集めなくても」

「それはそうでもない。数を集める利点も勿論ある。具体的に言えば、戦線に穴を開けないこと、敵を逃がさず包囲したいときには、数が必要なんだよ」

なるほど。数は集めた。後は合図に合わせて好き勝手にやれ、とそういうことか。

「では、ここにいた探索者の皆さんは」

「それをわかっているから、何も聞かずに待機場所に向かったんだよ。きみも一応探索者じゃないか。そういうところも、早いうちに慣れるんだね」

笑顔を崩さず、レイトンは溜め息を吐く。やれやれ、とでも言いたげなとても楽しそうな笑顔だった。

「ではもう一つ」

「戦力が足りないという懸念かな? それについては、オラヴの方がいいかな」

僕が質問をする前に、推定される。しかも、当たっているから怖い。

レイトンはオラヴの方に向き直る。僕は少し狼狽えながらも、オラヴに尋ねた。

「総勢八十名ほどの戦力で足りるんでしょうか? 初日に、今クラリセンにいる以下の数相手に敗走してますよね?」

僕の問いかけに、オラヴは噴出す。おかしな事を聞かれたように、僕を諭した。

「ク、フフ、そんなものが心配かの? カラス殿は慎重じゃのう。じゃが、心配はいらん。たしかに儂らの数は、その時よりも少ない。じゃがその分、色つきが増えておるのじゃ」

色つき。ギルド登録証の色が変わり、蜥蜴が大人になった印。

「僕らがいるから大丈夫、と?」

「おお、そうとも。先のレイトンの説明にも補足するが、数を揃えた上でも主戦力は儂らじゃ。今回集まった色つきの探索者総勢九名でも、本来魔物は相手を出来る」

「では、他の者はさっきの通り、魔物を逃がさないためだけですか」

「それもある。じゃが、それだけではない」

オラヴは笑みを消し去り、真面目な顔をしてクラリセンの方を見た。

「儂ら上の者だけで解決してしまえば、彼奴等はそれで終わってしまうじゃろう。ここで、大人数を関わらせなければならんのじゃよ。関わらせて、当事者にしなければ人は中々協力せんのでな」

「クヒヒ、やっぱり復興は諦めてなかったか。昨日の宴会でも何かしたらしいじゃないか」

レイトンが茶化すように口を挟む。それを聞いたオラヴは、今度は穏やかに笑った。

「儂は主のように諦めが良くないのでの。復興した街を見て、度肝抜かれるが良いぞ」

「ヒヒ、楽しみにしてるよ」

レイトンは嘲るように笑った。それを、オラヴも笑い返す。

険悪なような、仲が良いような、不思議な雰囲気が漂っていた。

オラヴがふと何かに気がついたかのようにこちらを見た。

「さて、そうじゃな。質問はそれぐらいかの? はやいとこ儂らもいかんと、遅れてしまうぞ」

「ああ、そうですね」

僕もそこで気がついた。早く行かなければ、作戦開始時間に間に合わなくなる。

「じゃあ、ぼくは先に行くよ。キミらも遅れないようにね」

レイトンはそう言って姿を消した。

「……奴は、まったく……」

レイトンが消えた跡を見回しながら、オラヴは溜め息を吐く。

そして、頷いてから力強くこちらを見た。

「行こうかの」

「ええ」

僕らも走り出す。

待機場所についたのは、作戦決行ギリギリだった。