軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・そして星は輝き始める

死王アイシスと死王配下によって、アルシャが所属していた組織は壊滅し、アルシャは他に同じように組織を抜けたがっていた者たちのうち帰る場所がない者と一緒に、死の大地のクリスタルシティに保護される形となった。

そこで死王配下たちの助けを得ながら新しく真っ当な仕事を探して、真っ当な生き方をする……とはならなかった。

というのも、クリスタルシティに引き取られた際アルシャの心には生まれて初めてともいえる強い渇望と目標が芽生えていた。

それは、己を救ってくれて生まれて初めての温もりを与えてくれたアイシスに仕えたいというものであり、いままでただ流されるまま生きてきた彼女が、初めて己の意志で進みたいと願う未来を決めた瞬間だった。

そして、死王配下になるには条件がある。それは、爵位級高位魔族であること……いや、実際はそんな決まりなどないのだが、暗黙の了解とでもいうべきか現在の死王配下が全員爵位級であるため、いつの間にか自然と爵位級に到達することが死王配下になる条件のように認識されるようになっていた。

クリスタルシティにてその条件を知ったアルシャは、生まれて初めて本当に死に物狂いの努力というのを行った。

世界のあり方はそう簡単に変わらない。変えることができるのは己の心の在り方であり、心の在り方が変われば取り巻く世界の見え方も変化していく……アイシスとの出会いを経て、アルシャの心の在り方は大きく変化した。

なりたいや、なれたらいいなという曖昧なものでは無く、絶対にアイシスの配下になるんだという強い思いの元で死王配下たちに指導を受けながら必死に己を鍛えた。

元々爵位級に到達できるだけの才能はあり、心の迷いも払拭されたことによってアルシャはメキメキと実力を伸ばし、数年の後には男爵級高位魔族の認定を受けて念願の死王配下に加わることとなった。

彼女が掴み取ったそれは、何度も間違え続けたアルシャが初めて心の底から正解であると胸を張れる道だった。

****

死王アイシスの居城の廊下を、三本の尻尾を微かに揺らしながらアルシャが歩く。腕を組みなにかを考えるような表情を浮かべていたアルシャだったが、進行方向の先に見えた敬愛する王の姿を見てパァッと表情を明るく帰る。

「アイシス様! お帰りなさいですにゃ!」

「……ただいま、アルシャ……その……にゃっていうのは?」

「キャラ付けですにゃ」

「……うん?」

嬉しそうに声をかけてくるアルシャを見て、アイシスも楽しそうな微笑みを浮かべて言葉を返したが、直後にアルシャの特徴的な語尾に首をかしげて不思議そうな表情を浮かべる。

「いや~ほら、私ってなんか器用貧乏って言いますか、これといった特徴が足りない気がしますにゃ。それで個性を出すために語尾に工夫を加えた感じですにゃ!」

「……可愛くていいと思う……でも私は……アルシャは元々凄い子だと……思う……そして……そうやって工夫してるのも……アルシャの凄いところだと思うよ」

「そ、そうですかにゃ?」

「……うん……いろんなことを器用にこなせるのも凄いし……周りと仲良くなるのも凄く上手い……それになにより……そうやっていろいろ考えて自分を変えようと出来るのが凄い……自分に足りないものとか……いまの自分のダメなところとか……そういうのをちゃんと見て変えようって頑張れるのは……本当に勇気が必要な凄いことだと思う」

器用貧乏で特徴が無いというアルシャに対し、アイシスはいまの語尾も可愛らしいと褒めた上で、悩まなくても元々アルシャは凄い子であると優しく伝えてきた。

そして、そっと手を伸ばしてアルシャの頭を軽く撫でる。

「……アルシャはとっても頑張ってる……偉い」

「ア、アイシス様ぁ……」

優しく褒めてくれるアイシスの言葉に、アルシャは感極まったように目に涙を浮かべる。そして少しの間アイシスに撫でられて嬉しそうに目を細めた後、グッと拳を握って決意を込めるような表情で告げる。

「……私、アイシス様が自慢できるぐらいの配下になれるよう、これからも頑張りますにゃ!」

「……もうとっくに自慢の配下だけど……でも……アルシャがいま以上に成長するのは楽しみ……頑張って……でも……無理はしちゃ駄目だからね」

「はいですにゃ!」

心の底から嬉しそうな表情で頷いた後、アルシャはそのままアイシスと並んで廊下を移動しつつ雑談をする形になった。

「……アルシャは……今日は……なにをしてたの?」

「さっきまで、ウル先輩とサンマを焼いて食べてましたにゃ。こう、七輪でサンマを焼いて、大根おろしとか醤油で食べましたにゃ」

「……そうなんだ……いまはサンマも旬だから……凄く美味しそう」

「美味しかったですにゃ! 次の機会には、是非アイシス様も一緒に!」

「……うん……そうだね……近い内に……他の子たちも誘って……皆で食べよっか?」

「はいですにゃ! その時は、私がアイシス様のサンマを焼きますにゃ!」

「……ありがとう……楽しみにしてる」

「お任せくださいにゃ!」

ニコニコと楽し気なアイシスに釣られて、アルシャも弾けるような笑顔で雑談を行う。かつてのようなただ生きているだけで苦しく辛い感覚はもう既になく、いまのアルシャにとっての日々はとても心地が良く、一日一日がキラキラと輝いているようにさえ感じられた。

決して平坦な道だったわけではない。不幸もあったし、辛さや苦しさもあった……ただそれでも、いまになってこう思う。己が経験してきた不幸や苦しみなど、アイシスに巡り合えた幸運と比較すればあまりにも小さく、取るに足らないもののようだと……。

アルシャを取り巻く世界は、アイシスとの出会いを切っ掛けに激変した。ここが己の居場所であると、迷いひとつなく口にできることの幸福を噛みしめながら、アルシャは今日も敬愛する王と共にある。

彼女が居た場所は、決して地の獄ではなかった。さりとて光の当たる場所でも無かった。

日の光は彼女を照らさなかったが、優しき月の光は暗闇で蹲っていた彼女を見つけて照らしてくれた。

そして優しき月に寄添う星のひとつとして、彼女もまた……確かに輝き始めていた。