作品タイトル不明
悪戯検証
喉もと過ぎれば熱さを忘れる、とはよく言ったものである。
懇々としたアルフからのお説教に、一度はきちんと反省したのだが、次の手を思いついてしまえばすぐに試したくなるのが私だ。
普段は出不精の引き籠りのくせに、悪戯のためには妙な行動力を発揮するのだから、人の性格というものは不思議である。
「ルグミラマ砦が駄目なら、ラガレットの街はどうですか?」
パンケーキを持ってエノメナの鉢へそう直談判したのだが、パンケーキは一晩経っても皿の上に鎮座していた。
代わりにというか、どこから話が洩れたのか、その日のお昼にはアルフが館にやって来て、またも有り難いお説教をいただく。
さすがに二度目ともなると、お仕置き付きだ。
アルフからは、二週間ほど翻訳作業の禁止を申し付かってしまった。
……趣味の時間を取り上げるんじゃなくて、お仕事の時間を取り上げるあたり、アルフさんだよね。私のこと、解りまくってる。
基本的に外へ働きに出ているわけでもなく、家事といった家の仕事もタビサたちが行っているため、私はいわゆるニートである。
ボビンレースの指南書を売ったり、翻訳作業で礼金を貰ったりとはしたが、そのどちらも趣味の延長のようなものだったので、やはり気分的に労働とは思いがたい。
そんな私から『お仕事』と数えられる唯一の行動である翻訳作業を禁止するというのは、実に理に適ったお仕置きだ。
超過労働はお断りだが、まったく働かせてもらえないというのも、なかなかに辛い。
趣味の時間が楽しめるのは、合間に仕事という逃げ出すことのできない労働の時間があるからだ。
判りやすく言うと、毎日が日曜日では『日曜日』という日の有り難味を忘れてしまう、だろうか。
労働あっての休日だ。
家事といった他の労働がない私にとっては『仕事』を取り上げることこそが罰になる、とアルフは解っていたのだろう。
……年齢的には成人してるのに働きにも出ず、家事もせず、ただ趣味に没頭するだけとか、ニート以外の何者でもないよ。
レオナルドに引き取られてから時折感じていたことだが、ただ養われているだけというのは辛い。
今生は平民に生まれたと思ったら実は貴族の娘だったりしたようだが、前世の小市民な日本人の魂が私には根付いている。
まめまめしく働く元・日本人としては、倒れるまでの過酷な労働はしたくないが、軽く疲労を感じる程度の労働は健全な社会人生活を送るために必要不可欠な要素だ。
何もするな、というアルフからのお仕置きは、本当に苦行だった。
二週間のお仕事禁止令が解けた頃、レオナルドがグルノールの街へと帰って来た。
帰って来たと言っても、ルグミラマ砦からメール城砦へと向かう途中にグルノールの街があるので、一度私の様子を見に寄ってくれただけだ。
レオナルドの道中で一度マンデーズ館に私が顔を出したことも、この寄り道に影響しているのだろう。
短い滞在とはいえ、レオナルドの帰還を喜んで玄関ホールで出迎える。
あまりに嬉しかったので、つい浮かれて口を滑らせてしまった。
パンケーキと悪戯妖精を使ってルグミラマ砦に行こうとしたのだが、行けなかった、と。
「……ティナ、精霊を利用しようだなんて考えるな」
「だって、使いこなせたら便利じゃないですか」
いつものように頬へと手が伸びてきて抓られるかと思ったのだが、今日に限ってはそれがない。
変だな、と思っていると、レオナルドは腰を屈めて私の目を覗き込んできた。
……うん、わかった。子どもに対する本気の言い聞かせモードだ。
子ども扱いここに極まれり、とでも言うのだろうか。
かつてない程の子ども扱いに、私の中で何かが折れる。
子どもっぽい行動を改めねば、と時々考えてはいたのだが、これは本気で自分の行いを改める必要があるだろう。
十六歳という年齢は、保護者に顔を覗きこまれて諭されるような年齢ではないはずだ。
「ティナがどこかへ一人で消えたら、他のみんなが心配するだろう?」
「……サリーサも来れましたよ?」
必ずしも一人で移動するわけではないようだ、と諦め悪く反論すると、サリーサが私の移動についてこられたのは一度だけだ、とこちらも正論で返される。
しかも、正確に言うのなら、サリーサは『後から追いかけて来た』のであって、最初から私と一緒に移動したわけではない。
最初に私が一人で移動している、という事実に変わりはないのだ。
「条件や相手の考えが判らない以上、精霊を利用しようだなんてことは考えるな」
精霊の恐ろしさを忘れたわけじゃないだろう、と続いた言葉にレオナルドから目を逸らす。
私は失言から精霊の怒りを買い、怪我をさせられたことがある。
自分の行いが招いたことではあったので、あの怪我については『酷い目にあった』とは思っているが、それだけだ。
しかし、レオナルド視点から考えれば、また違うのだろう。
突然目の前から姿を消した私が、知らないところで切り刻まれ、戻って来た時には葉で治療が施されていたとはいえ包帯でぐるぐるに巻かれ、声まで出せない惨状だったのだ。
私に精霊と関わってほしくないという思いは、誰よりも強いだろう。
……でも、諦めるには惜しい力なんだよね。
自在に操ることができれば、移動時間が短縮できるなんてものではない。
冬は他の砦を巡るために移動を繰り返すレオナルドが楽になるし、移動先に私が行ければ冬を一緒に過ごすこともできる。
館の中で過ごすだけなら必要のない力だが、レオナルドと過ごすためには有用な力でもあるのだ。
一応の納得を見せた私に、レオナルドはホッと息をはく。
そのあとは居間に移動してラガレットの街で買ってきたお土産や、ルグミラマ砦で回収してきたという私の 素描(デッサン) を見せてくれた。
お土産は相変わらずお菓子であったため、サリーサに預けておやつとしていただく。
素描に関しては、この枚数はなんだと問い詰めたところ、私の捜索時にランヴァルドが頑張ってくれたらしい。
……てっきりレオナルドさんが妹馬鹿を発揮して、趣味でルグミラマ砦に配ったのかと思ったよ。
さすがのレオナルドも、そこまで妹馬鹿ではなかったらしい、と内心でだけ安心しかけて気がついた。
そもそも病的なまでの妹馬鹿でなければ、用の済んだ素描の回収などしてこないだろう、と。
……や、違うね。私だってレオナルドさんの捜索にレオナルドさんの素描を撒いたら、後で回収するもん。普通、普通。
普通だよね? と自分の中の『普通』にちょっとだけ自信がなくなってきたのだが、そこには気が付かない振りをして疑問を蓋で押さえ込む。
人相書きなど、個人情報以外のなにものでもない。
その回収をすることは、なんら異常なことではないはずだ。
一晩ベッドで休んだレオナルドを、翌朝玄関ホールでまた見送る。
本当に少し私の様子を見に寄ってくれただけのようで、あまりゆっくりとは休めていない。
「メール城砦の様子を見たら、今年の移動は終わりでしたね?」
マンデーズ砦に寄ってルグミラマ砦に行って戻ってくるよりは早いはずだ、と旅程にかかる日数を数える。
メール城砦でも何日か滞在するはずではあるが、神王祭の前後を過ごしたルグミラマ砦より滞在が長くなることはない。
「メール城砦で今年の移動は終わりだが……途中でワイヤック谷に寄る予定だ。そろそろ確認の必要はない気がするが、ティナが一度行っているはずだからな」
一応の確認として、パウラに話を聞きたいのだろう。
王都からは使いが来たし、マンデーズでレオナルドは直接私と顔を合わせているので、ワイヤック谷だけ私が見た夢でした、ということはないと思うが、確認は大切だ。
「……ワイヤック谷へはどのぐらいで着きますか?」
「雪道だからな。普段の倍以上は時間がかかるが……八日以内には着くと思う」
雪のない季節にレオナルドが単騎で走るのなら、三日もあれば着くらしい。
今は雪の季節なので、そもそも馬を走らせることも難しいそうだ。
「わかりました、八日以内ですね」
おおよその到着予定を聞いて、大きく息を吸い込む。
そのまま天井に、正確には三階の自室に向けて「七日後にオレリアさんの家へ連れて行って!」と叫んでみた。
「ティーナー?」
「いひゃいれすっ!」
今度こそ頬へと伸びてきたレオナルドの手が、私の両頬を引っ張る。
むにむにと頬の感触を楽しまれている気がするのだが、レオナルドは力があるので地味に痛い。
なんとかレオナルドの手から逃れて距離をとると、レオナルドは困ったような顔で眉を寄せていた。
「精霊を頼ったらいけない、と言っているだろう」
「言ってみただけですよ。今回はパンケーキも用意していませんし」
サリーサはパンケーキで悪戯妖精と交渉できたようなのだが、私は一度も成功していない。
ならば、と今度は何も用意せず、ただ言ってみるだけにした。
そもそも、私が移動する時はいつも不意をつかれている。
パンケーキのような対価を用意して移動したことは、一度もない。
心配しながらも旅立つレオナルドを見送り、また刺繍と翻訳作業を進めながら普段どおりに過ごす。
レオナルド分の補充はできたし、そろそろレオナルドの冬の不在にも慣れてきたし、とそれほど落ち込むこともなくなった。
春華祭に向けてレオナルドのシャツを作り、刺繍絵画を進め、またシャツを作りと充実した一日を過ごす。
ずっと働いてばかりいる、とサリーサからは心配されたが、意見の相違というものだ。
私にとって刺繍は趣味であり、仕事ではない。
「……あれ?」
そろそろおやつの時間だな、と針と糸を裁縫箱へ片付ける。
今日のおやつはなんだろう? と偵察のため台所を覗こうと廊下に出ると、見覚えはあるが城主の館の廊下ではない場所に立っていた。
「えっと……オレリアさんの家、かな?」
ぐるりと周囲を見渡すと、空の棚が並ぶ居間にいることが判る。
以前は薬の調合に使うらしい干した草や木の実、鉱物と思われる石などが詰まった棚だったが、今は何もない棚だ。
ワイヤック谷にはパウラが管理人として住んでいるはずなのだが、彼女が暮らしているのは脇屋の方だった。
今はパウラがワイヤック谷の主のようなものなのだが、オレリアを立ててか脇屋からこちらに移ってくる気はないようだ。
「ダメもとで言ってみたんですけど、これましたね」
駄目で元々、と『オレリアの家に連れて行って』と言ってみたのだが、どうやら本当にオレリアの家に運ばれたようだ。
見覚えのある棚やテーブルについた傷を見ても、ここはオレリアの家で間違いないだろう。
外に出ればパウラがいるだろうか、と玄関扉に近づくと、タイミングよく扉がノックされた。
「はーい、今開けまーす」
お待たせしました、となんの疑問も挟まずに扉を開き、そこに立っていたレオナルドの顔を見てそっと扉を閉める。
オレリアの家に来られたことに浮かれて忘れていたが、ワイヤック谷にいることをレオナルドに知られるのはまずい。
出掛けに精霊を利用しようと考えるな、と切々と説かれているのだ。
「ティナ!? なんでここに……っ!」
「気のせいです。人違いです。目の錯覚です」
「いや、錯覚がこんなにはっきりと返事をするわけがないだろう」
「レオの可愛い妹でしたら、今頃グルノールでのほほんとおやつの時間ですよ!」
「いいから扉を開けなさい」
「……はい」
抑えられた声音に、レオナルドの驚きと怒りが伝わってくる。
これ以上無駄な抵抗を続けてお説教を引き伸ばすよりは、と恐るおそる扉を開けると、そこにあったのは怒りの形相ではなく、心配で今にも泣き出しそうな顔をしたレオナルドだった。
「えっと……ごめんなさい。悪戯妖精が、この前のお願いを聞いてくれたみたいです」
せめてもの言い訳として、今日新たに悪戯妖精に願ったのではない、と言い募る。
そろそろレオナルドの不在にも慣れてきたので、エノメナの鉢に向かって寂しさを訴えることはなくなっていた、と。
「悪戯妖精には時間の感覚があるみたいですね。七日後って言いましたけど、ぴったりです。それともレオナルドお兄様のいる場所がわかっていて、丁度いい時に運んでくれたのでしょうか?」
不思議ですね、妖精はすごいな、と棒読みで続けると、レオナルドの手が頬へと伸びてくる。
軽く頬を抓る手に力はない。
どうやら、かなり呆れられてしまったようだ。
「兄の忠告を右から左へ聞き流す反省しない妹には、お仕置きが必要だな」
今度の帰還にはお土産を買って帰らない。
メール城砦の城下町で売られている花の入った飴玉は、見た目の可愛さから私のお気に入りだ。
それを買って帰らないことがお仕置きになる、とレオナルドは考えたらしい。
相変わらず私に甘いレオナルドだ。
「いつまでお菓子に釣られる子どもだと思っているのですか。お花の飴は可愛らしいですけど、お土産がないぐらいじゃ、お仕置きになりません」
アルフからのお仕置きの方が辛かった、と続けると、レオナルドは少し考えこむ素振りを見せる。
アルフからのお仕置きについては報告したので、自分とアルフのお仕置きについての方向性の違いでも考えているのだろう。
「ちなみに、ティナは何が一番お仕置きになると思う?」
「お仕置きですから……辛いことですよね? レオナルドお兄様が帰ってこなかったら、と思うと寂しくて死んじゃいそうですから、私にとってはお仕置きになると思います」
「それは俺に対してもお仕置きだろう」
妹(わたし) の待っている家に帰れないとか、どんな拷問だ、と続いたので、私も寂しいですと答えておく。
良い子で待っていますから、早く帰って来てねと付け足したら、レオナルドは私を安心させるように力強く微笑んだ。
……よし、話が逸れた。
このままお仕置きの話題から離れていこう、と会話の誘導を試みる。
ヘルミーネ仕込みの話術を、今こそ披露するべきだろう。
「これから向かうのは、メール城砦でしたね。メール城砦といえば、お花の可愛い飴を売っていたと思うのですが……」
「いっぱい買って帰るからな」
一瞬前まで「買って帰らない」と自分で言っていた物をねだられているのだが、レオナルドは機嫌よく「買って帰る」と請け負っている。
我が兄ながら、こんなにも騙されやすくて大丈夫なのだろうか、と心配にはなるが、私に対してはこのままでいてほしい。
「そうだ。ミルシェの分も……」
「クリスティーナ様に言い包められていますよ、レオナルド様」
背後から突然響いた女性の声に振り返る。
居間の中央には、やはりというか空の皿を持ったサリーサの姿があった。
「あれ? サリーサ……?」
「クリスティーナ様の姿が消えたとアーロンが慌てて厨房に飛び込んで来たので、本日のクリスティーナ様のおやつを対価に妖精と交渉しました」
どうやら来られたのは自分だけのようだ、と言ってサリーサは周囲を見渡す。
サリーサは私が神王祭の日に試したように、ミルシェとアーロンにもおやつの載った皿を持たせて妖精に交渉を持ちかけたようだ。
「そろそろ何か法則性が見えてくる気がするのですが……」
情報を整理して纏めるのはカリーサが得意だった、とサリーサは言う。
今はカリーサがいないので、自分たちで考えるしかない。
「いつ移動するかは妖精次第ですけど、妖精の方はちゃんと時間感覚があるみたいですよ」
もしくは、レオナルドの行動を把握しているとでもいうのか、オレリアの家でレオナルドを出迎えたい当日丁度に私を連れて来てくれている。
レオナルドは「八日以内に」と答え、私は天井に向かって「七日後に」と言った。
そして私自身「七日後に」なんて言ったことを忘れかけていたのだが、レオナルドの到着に合わせてオレリアの家に移動している。
この移動は妖精の気分次第ではあるのだが、妖精自身はこちらの都合をよく見極めていると考えて間違いないだろう。
「今のところ判っているのは、行ったことのある場所にしか出ていない、ということでしょうか?」
「そうですか? でも、サリーサがオレリアさんの家に来たことなんて……ああ、ありましたね」
カリーサが初めてグルノールの街に来たのは、一年という期間を決めたものだった。
子守女中(ナースメイド) としてカリーサは冬にグルノールの街に来て、翌年の冬には私と一緒にワイヤック谷で過ごし、レオナルドの移動に付いてマンデーズへと帰っている。
その後、カリーサと入れ替わりでグルノールに出向してくれることになったサリーサが、レオナルドと一緒に私をワイヤック谷へと迎えに来ていたはずだ。
サリーサは確かに、一度オレリアの家に来たことがあった。
「オレリアさんの家がよくて、ルグミラマ砦が駄目だったのは……わたくしがルグミラマ砦へ行ったことがなかったから……? 必ず家の中に出ることを思えば、家という場所も重要になってくる気がしますね」
「家が重要だと考えるのなら、ラガレットの街へ行けなかった理由にもなりますね。ラガレットの街にはクリスティーナ様の家はありませんから。でも、それだと今度は帝国の城に行ったという話に矛盾が出てきますが」
「いや、矛盾はない。アウグーン城にはカルロッタ様がティナのために整えた部屋がある。あの部屋がそのままなら、妖精の価値観ではティナの家と数えるのかもしれない。……しかし、こうして並べてみると、とりあえずはティナにとって安全な場所へ出ているんだな」
「そのようです」
自分の場合は私の居るところだから来られるのか、行ったことがある場所だから来られるのかがまだ謎だ、とサリーサは結ぶ。
サリーサは私以外で悪戯妖精に運ばれた唯一の人間だが、運ばれた場所は常に私の居る場所だ。
私がいる場所へ運ばれるのか、サリーサが行ったことのある場所に運ばれているのかは判明していない。
「レオナルド様には、私がこの謎の検証に挑む許可をいただきたいのですが……」
「危険があるかもしれないことを、女性に命じることはできない。おまえは大切な預かり者だからな」
預かっていたカリーサを死なせてしまったことから、カリーサの姉妹であるサリーサに危険な真似はさせたくない。
カリーサのことがなかったとしても、騎士でもない女性に命じるには抵抗のある提案だ、とレオナルドは渋面を浮かべる。
私だって危険があるのなら、サリーサに検証作業などさせたくはない。
「ですが、クリスティーナ様は何もしていらっしゃらなくても精霊に攫われるのですから、検証ができるのなら、しておくに限ります」
今のところ妖精は自分の要求にしか応えていない、とサリーサは続ける。
悪戯妖精の悪戯範囲を検証しようにも、私以外ではサリーサしか検証ができないのだ。
放置することのできない問題ならば、早めに行動に移した方がいいと言うサリーサに、レオナルドの気持ちが揺れているのが判る。
ゆっくりと目を閉じ、肺の中の空気をすべて吐き出したかのような深い深い溜息をはいたかと思ったら、次に目を開いた時にはレオナルドの顔から迷いがすっかり消えていた。
「サリーサに悪戯妖精についての検証を許可する。自分の安全を第一に、できればで構わないから、妖精の意図を探ってほしい」
お任せください、と礼を取るサリーサの横で、私はなんとなく面白くなくて唇を尖らせる。
私が検証したいと言っても怒るか駄目だと言うくせに、と拗ねて見せたら、私を危険にさらせるわけがないだろう、と真顔で答えられてしまった。
レオナルドにとっては大切な妹だが、それ以外の理由でも危険にさらせないのが私だ、と。
そんなことをすれば上から怒られてしまう、と。
「サリーサなら危険にさらしてもいい、っていうのは暴論です」
「そんなことを言っているつもりはないが、サリーサは大人だからな。加減は間違えないだろう」
「わたくしだって、年齢的には成人です」
「年齢的には、な」
ようやく十三歳に見えるかどうかといった身長しかないのだが、年齢だけなら十六歳はこの世界では立派な大人だ。
結婚だってできる年齢なのだが、見た目のせいか子ども扱いが改善される気配はない。
それに甘えて私も子どものように振舞っているので、レオナルドの判断は当然といえば当然だ。
この周囲からの子ども扱いは、私が招いた自業自得である。