作品タイトル不明
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昨日は、ヤールシュ王子が襲われていて、緊迫していた現場。
本日もそこへ私は赴いていた。ただ、昨日ああいうことがあったからか、現場そのものへではないけど、東塔へ配置されている兵が増えていた。
それと、襲撃者が使っていた隠し扉から先の通路の調査も行われ、封鎖してある。あれは何故知っていたのか、尋問している最中みたい。
まとめると――原作通りのシル様閉じ込め事件が起こるのかっていうと、かなり微妙にはなっている。私が犯人なら、警戒して犯行を止めるもん。
ただ、事件が起こった現場って、もう何も起こらないだろうって思われがちだよね? そこを逆手に取って原作通りに――という線も考えられるわけで。
うーん。しかし、これは予想外。
……シル様は、来ていた。
ただ、あの様子――シル様閉じ込め事件が起こる雰囲気は微塵もない。
私たちが母上に所用と言い訳をして抜け出した先には、三人の人物がいた。
一人は、シル様。
その他に二人。
赤毛の青年――名前はステインだったはず。準舞踏会のときや、ナイトフェロー公爵家別邸に行ったときに会った人物。おじ様に仕えているんだと思うんだけど。そうでなくとも、ナイトフェロー公爵家に雇用されているのは確か。
それから――こちらも、準舞踏会の『空の間』で、そして別邸で会った人物。
ふわふわの銀髪と碧色の瞳が印象的な、手に杖を持った十二歳ほどの少女。スカート部分にふくらみのあるタイプのクリーム色のドレス姿で、妖精のような可愛らしさと美しさがある。
――ターヘン伯令嬢のリリーシャナだ。リリーシャナ・ターヘン。
「リリーシャナ様、もうそろそろ戻りませんか? リリーシャナ様が望むのなら、おれはどこまでもついていくつもりですけどー。ほら、バークスちゃんも説得しよう!」
「……バークスちゃん呼びは止めてくださいって以前言いませんでしたっけ?」
「あ、ごめーん。バークス様?」
シル様とステインのやり取り、ものすごく意外なんですけど!
特に、シル様がちょっとピキッてるみたいなのが! 仄かに漂う粗雑な感じがレア感がある……!
とりあえず、ステインとリリーシャナは明らかにシル様閉じ込め事件とは無関係、だよね……?
あと、リリーシャナがこっちに顔を向けた? 私たちに気づいたのかな?
私は小声でクリフォードへ話しかけた。
「あの三人以外に、周辺に人の気配はあるかしら」
「あります」
えっ? 驚愕。誰もいないものだと思ってたのに? 自信あったのに?
クリフォードが指し示したのは、私たちがいるのとは反対方向――建物の陰で回り込まないと人の姿は確認できない位置。
「二名が。兵士かと思われます」
うーん。じゃあ犯人たち――ではないか。二名だと人数も少なすぎるもんね。東塔の増員分かな。
もう一つ、確認しておきたいことがある。
「それと……クリフォードは、問題ないかしら」
前回は「休憩を取ったらどうかしら?」で墓穴を掘ったし、言い方を変えてみたんだけど、結局意味不明になってしまったような……!
濃い青い瞳が、私を見返した。
「問題ありません」
問題があるか? と問われたらので、ないと答えた。そんな感じだった。でも、これだと私の知りたかったことじゃない。
いっそ、はっきり訊いたほうが良いのかもしれない。
「……シル様と、対しても?」
ただし、口にはしたものの、もともと小声で話していたのが、さらに小声になってしまった。
遠くに見えているシル様に視線を向けてから、クリフォードに戻す。
問いが返ってきた。
「――先日、私へ休憩を勧められたのも、同じ理由でですか?」
……はい。
観念して認める。私は頷いた。
そして、もう一度。
「問題は、ないかしら?」
「ありません」
間髪入れず、クリフォードが答えた。
視線を、遠くに見えているシル様に投げてから、言葉を続ける。
「殿下が気になさるようなことは何一つありません。どうぞお好きに行動なさってください」
濃い青い瞳は揺れることもなく、真っ直ぐだ。
「……わかったわ」
状況が違うから当然なのかもしれないけど、第二の鍛錬場でクリフォードがシル様と対戦したときのようにはならないって、思えた。その前の……地下牢のときのようにも。
……杞憂、ではないにしても、やっぱり私の余計なお節介だった、かな。
ひとまずこの話題は終了、と考えていたら、ふいにクリフォードが言葉を重ねた。
「――バークス様が理由で、殿下が私を職務から外そうとすることこそ、私が望まないものです」
「もう、しないわ」
反省の意もこめて、さっきより深く頷く。
シル様とクリフォードが会わないように、とかそういうことを以後はしない! ……勝手には!
「はい」
僅かにクリフォードが微笑んだ。
それが満足そう……嬉しそうに見えて、そのせいなのかな、心臓が跳ねた。
私はバッと『黒扇』を顔の前で広げた。
「……シル様たちと話すつもりよ」
身体の向きを変え、一歩を踏み出す。
『黒扇』で顔を扇いで熱を冷ましながら、私は三人に近づいた。
「――ごきげんよう」
そのときの三人の反応は様々だった。
ただ、聞くと、人の気配には全員気づいていた模様。皆、何者なの? 主人公であるシル様はともかく。
シル様は「オクタヴィア様と……アルダートン様だったんですね」と、クリフォードに言及するときだけは、少し不自然な感じで。ただ、普通に振る舞おうとしているのがわかった。
ステインは「オクタヴィア殿下にご挨拶申し出ます。あそこにいらっしゃったのが殿下とアルダートン様だとは思ってもみませんでした。ご挨拶が遅れ申し訳ありません」って。……正しいと言えばそうなんだけど、さっきの会話を聞いた後だと変な感じがしたんだよね……。なので「わたくしにも楽に話しなさい」と言ってみた。
するとシル様が即座に「えっ? オクタヴィア様本気ですか? 止めたほうが……!」と言い、ステインによる「やったー、そうします! 光栄です! あ、じゃあバークスちゃんもちゃん付けで良いよね! 俺への敬語もなしでいいよ!」からの、「……ふざけるなよ?」「敬語なしにはしてるじゃん! 了承と見なしますー」という対照的かつ相性バッチリのやり取りが繰り広げられていた。
リリーシャナは、私というより、クリフォードの気配に気づいて私にも、という流れだったみたい。「別邸でお会いしたときの鋭い感じがしました」と私たちが近づいてもまったく驚いていなかった。
気配を感じ取れるって、もしかして普通なの? そんな疑問をつい心から抱いてしまった。
いやいや、それよりも、まずは。
私は本題を切り出した。
「シル様は、何故こちらに? 昨日ここで何があったかご存じですか?」
シル様に確認だ!
「昨日ここで? いえ、知りません。おれはこれを見て――」
! 返答と共に差し出されたのは、手紙だった。内容が私にも見えるように、シル様が広げて見せてくれた。読めないまでも、古代エスフィア文字で綴られているということはわかった。これは……! まさに原作通りの展開っ?