軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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シル様閉じ込め事件が起きるのは、前半の会議が行われている真っ最中。

場所は王城の東塔一階――隠し通路の真ん前!

諸侯会議中は、王城内で人が集まる場所とそうでない場所がくっきり分かれる。使用人や兵たちの配置体制も専用仕様。そして、人手が手薄になるのが東塔付近なんだよね。むしろ通常時のほうが多いと思う。

『黒扇』を広げて歩きながら、私は背後の二人に注意を払った。

昨日に引き続き、正装用の制服姿のクリフォードと、濃紺色の通常の制服姿のルストを私は従えている。

気分転換に好き勝手に散策するから、私に付いてきなさい! と、毎日、シル様閉じ込め事件が起きる時間帯に、散歩の体で現場に通うことにしたのは良いものの。

――ここは、ルストだけを連れて行くのが世界なのでは?

足を進めるごとにこの疑問が大きくなってくる。

だって、もし今日、事件が起こる日なら、その場にはシル様がいる。でも、シル様とクリフォードが会うのは……。

――思い出されるのは、第二の鍛錬場で行われた『空の間』での戦闘の再現を行なったときのこと。

あのときの、二人の、様子。

やっぱり、いまからでも回避―少なくとも二人が会わないようにすべき?

もちろん、クリフォードが護衛の騎士である以上、そんなことは言っていられないのはわかる。誰が相手だろうと、そこにいようと仕事は仕事。……とはいえ、私がクリフォードに用事を頼んで別行動をしてもらえば簡単に避けられる事態でもあるわけで。

立ち止まり、私はさりげなく、を心がけてクリフォードを振り返った。

ただ、そうしたことで濃い青い瞳とふいに目が合って、変に焦ってしまった。

内心であわあわしてしまう。

『祈りの間』での出来事の後から、私の中にある、答えの出ていない感情のせいで。

咄嗟に、口を開いていた。

「――クリフォード。休憩を取ったらどうかしら?」

そして出たのがこれ。

もっと上手い口実で切り出すはずが……!

一時的に遠ざけるにしても唐突すぎる内容になりすぎ!

「…………」

ほら、クリフォードも絶対びっくりしてる。

……ややあって、答えが返ってきた。

「殿下のお心遣いは有り難く存じますが、不要です」

言葉は柔らかく丁寧なものの、だけど明確に首を横に振っている。すごくらしい返答で納得――なんだけど。

私も諦めがつかない。

「けれど……」

食い下がる。

すると、今度はルストが、

「では、私が休憩に入りましょうか?」

なんてことを言い出した!

「それは駄目よ」

これには私は即座に言い返した。クリフォード一人だけを一緒に連れて行くのはもっと悪い! ほとんどのケースではそれで全然問題ないのに、いまは例外。

「――ということは、アルダートンではなく私と二人きりになりたいと?」

茶化すようにルストが言う。

「――ルスト」

私は冷たい声を出した。

ルストがクリフォードに目をやり、笑って肩をすくめた。

心の中で大きなでため息をつく。

これ以上続けると、不自然だよなあ……。もうこの時点で確実に変に思われてるだろうし。

「クリフォード。休憩のことは忘れてちょうだい」

撤回。結局、クリフォードを連れて行かないようにするのを私は断念した。

「――は」

頭を垂れたクリフォードに頷き返し、前向きに考えることにする。

原作描写通りの事件なら、王女である私が現場を目撃したら犯人たちはすぐに投降するはずだけど、万が一ってこともある。

ルスト一人より、クリフォードがいたほうが心強いのは確か。

でもシル様が……。

歩き出しながら、どうしても思考がぐるぐる回る。

あ、東塔へはこっちだ。左右に分かれている通路を右へ曲がる。

「――オクタヴィア殿下」

今度はクリフォードから呼び止められ、私は振り返った。

「あちらへ向かわれますか?」

目線で、まさに私の目的地――犯行現場となるはずの東塔付近を示してから、クリフォードが確認してきた。

「ええ。そのつもりだけれど……」

ピンときた。

「向こうで、何か起こっているのかしら?」

クリフォードがわざわざ確認してくるときは、そこで問題が起こっているとき!

「――戦闘が。一人が多数と戦っています」

! 今日だった? しかも、事件発生の時間帯が早まってる?

「シル様が?」

咄嗟に私がその名前を口に出した瞬間、クリフォードがほんのわずかに眉を顰めた。

「いいえ。バークス様ではありません。気配からすると――おそらくバルジャンの王子が」

シル様、じゃない?

「! そこへ向かうわ。急ぎましょう」

他国の王子がエスフィアの王城で戦闘中なんて、それはそれで大問題!

走って、駆けつける。

ようやく人影が見える距離になって、クリフォードの言っていた通りだって、わかった。

私たちが到着したときは、まさに、ヤールシュ王子が襲撃者と戦っている最中だった。

私たちに気づいて、襲撃者がこっちにも向かってきたっ?

だけど――何か変。

シル様閉じ込め事件では、犯人たちにシル様の命を奪うつもりはない。あくまで足止め。会議に出られないようにするのが目的だった。

全然、そんな雰囲気じゃない。

既にヤールシュ王子が倒したとおぼしき人間が二人。

「クリフォード、ルスト、加勢を!」

動いている襲撃者は、四人。一人は引き続きヤールシュ王子に激しい剣戟を繰り出し、王子は短剣で攻撃を受け止めている。

残る三人は――この場で一番弱そうな私狙い、かな?

襲撃者が私へ向けてきた鋭い視線に、怯みそうになる。

……でも、大丈夫。怖くない。

視線は、クリフォードの背中ですぐに遮られた。

勝負はほぼ、同時についた。

クリフォードのほうは、文字通り瞬殺。何が起こったのか、わからないくらい。

ルストのほうも、ほぼ同じ。ただ実戦では、ルストの動きが違う。まったく、速度が異なっていた。

気づいたら、三人の襲撃者が再起不能に陥っていた。

そして、ヤールシュ王子も。

応対する敵が一人になったせいなのか――。

「ぐあっ」

倒れた襲撃者の手を乱暴に踏みつけている。襲撃者が握っていた武器から手を離し、それをヤールシュ王子が上から奪い取った。

『飽きもせず次から次と……ここがエスフィアで良かったな?』

チラリとクリフォードたちが倒した三人に視線を投げ、続ける。

『でないと命はなかったぞ』

たぶんバルジャン語、かな。言っている内容はわからないけど、何かを襲撃者に言い捨てたヤールシュ王子が相手の頭を思い切り踏みつけた。……気絶したみたい。

ヤールシュ王子が私たちを見やった。にこりと笑うと、自分の衣服を整えてから、エスフィア式の一礼をする。次に紡がれたのも、流暢なエスフィア語。

「これはオクタヴィア殿下。……自国の事情にエスフィアを巻き込んでしまったようです。加勢を感謝すると共に重ねてお詫び申し上げます」

自国の事情?

「――この者たちは、バルジャン人です。ああ、エスフィアに責任はありません。正規の手続きで入国、入城しているはずです。使節か、商人としてかはわかりませんが。……調べればわかるでしょう。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。何ならバルジャンから有利な条件を引き出す交渉材料としてお使いください。生かすも殺すも自由です」

言われて、倒れている六人の姿を改めて確認してみる。いずれも服装が、初対面のときのヤールシュ王子のものに近い。……バルジャンの衣装だ。対して、ヤールシュ王子はエスフィアの衣服を着用している。顔立ちから外国人だ、ということ自体はわかる。

――原作のシル様閉じ込め事件とは、無関係?

あの事件は、諸侯会議でやってきた貴族、つまりエスフィア人が犯人だったから。

「何故、ヤールシュ殿下が、同じバルジャン人に狙われるのです? しかも、エスフィアで」

送り込んできた人数も。六対一、というのは意図が明らかだ。

「自国にいるときよりはマシですよ。継承権を放棄してなお、私は一部の兄弟に大分嫌われているんです。彼らにエスフィアにいるのがバレたようです。……ターヘンで動きすぎたか」

後半をぼそりと付け足したヤールシュ王子が、再度倒れた襲撃者の一人を無造作に蹴った。

「手駒を差し向けたようですね。……本当に面倒で」

うんざりした様子でヤールシュ王子が言う。

「エスフィアでまでこういうことが起こると、そろそろ観念して覚悟を決めなければならないときなのかと非常に迷うところです」

深く息を吐いている。

「……お一人で行動するのも、このせいなのですか?」

「いちいち裏切りに対処するのも大変なので。本人が良い人間で誠実でも、裏切らせる方法というのはいくらでもありますしね。でも、自分は自分を裏切らない。万一自分に裏切られても、それが自分の仕業なら致し方ない。諦めもつく。私の持論です」

ヤールシュ王子が、襲撃者から取り上げた武器を投げ捨てた。……血がついていた。

剣……だけど、形状が独特で反りがある。話を聞けば聞くほど、原作とは関係ない出来事だって感じる。場所が一致しているのは、たまたま?

――周囲を見渡してみる。私たち以外に、人の姿はない。

ただし私の確認だと全然安心できないから、念のため。

「クリフォード。他に人の気配は?」

「ありません」

シル様閉じ込め犯たちが潜んでいるわけでもないってことかあ……。

かぶりを振ったクリフォードが、ですが、と続けた。

「……巡回の兵が近づいてきているようです」

ほどなくして、クリフォードの言葉は証明された。

「なっ……。は! オクタヴィア殿下! オ、……!」

「おい、ペウツ。落ち着――兄上?」

視察のときにお世話になった、ガイとエレイルが巡回で回ってきたことによって。