軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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アレクに避けられているなら、避けようがない状況を作るべし。

そして私が思いついたのが、これ。

日課だったのに、延期されていた家族間での催し。

――夕食会。

城の晩餐室に赴くのは、夕食会で兄に「オクタヴィアには、恋人がいるのです」発言で爆弾を投下されて以来。

もちろん、晩餐室に家族全員が揃うのも。

爆弾投下があった夕食会の翌日にアレクは城を出立してしまったし、アレクが戻って来てからも、再開されていなかった。

諸侯会議が始まれば、期間中の夕食会は結局行われなくなる。これは毎年そう。

だから、このまましばらくなしでいっても、それはおかしくない。

でも、あえて一度。

諸侯会議前の夕食会を私は要望した。

これなら、アレクも自分の一存では出席を拒否できない。

……念のため、エドガー様にも協力を頼んだ。父上がOKし、招集すればそれで決定も同然だけど、もし父上なりの理由があって再開していなかったのなら、却下されてしまう可能性が高い。エドガー様なら、そうなった場合の、父上の決定を覆せる。

以前なら、それは二人が相思相愛で、父上がエドガー様に弱いからって理由で頼んでいたかもしれない。いまは、同じ結果だったとしても――父上がエドガー様に折れる理由は、違うんだろうなって、思っている。

「お預けください」のジェスチャーを受けて、『黒扇』をいつもの給仕に預ける。……特に、我慢しているようにも、嫌そうにも見えない。

そうそう――これも、前回の夕食会のときは、何も考えずに預けていた。あのときはまだレヴ鳥の羽根云々を自覚していなかったから……。

「……安心して預けられるわ。ありがとう」

アオが闊歩する昨今、王城で働く人々も、レヴ鳥への忌避感は薄れているかもしれないけど――その前から普通に、むしろ恭しく『黒扇』を受け取り預かっていた給仕は、プロ精神の持ち主!

給仕は一礼すると、椅子を引いてくれた。

――椅子に座る。変わらない給仕のおかげで、少し気持ちが和んだものの……。

前回の夕食会からものすごく日にちが経ったわけでもないのに……今日の夕食会は、違っている点が多い。

長方形のテーブルには、異国風のレース布がかかっている。バルジャンの織物だ。

座っている位置も異なっている。

上座に父上。これは変わらない。父上から見て右側に、ヤールシュ王子、アレク。左側に兄、私。下座にエドガー様。

非公式とはいえ、バルジャンの王子が滞在している以上、夕食会へ招待しないのは非礼にあたる。また、配置がアレクの隣なのは、ヤールシュ王子たっての希望らしい。

それを父上が叶えた形。……やっぱり、密旨でアレクが赴いたのがターヘンで、そこでヤールシュ王子と知り合った、が正しそう。

そのため、必然的に私の席が移動になり――エドガー様が下座の席になった。

ヤールシュ王子を客人として特別に配慮した結果、とも解釈できるし、表立っての説明もそうだったけど……エドガー様が父上から一番離れている位置っていうのに意味があるんじゃないかって考えちゃうのは、これまでのことがあるせい。

それと――壁側に並ぶ使用人や兵士。護衛の騎士の面々も。兄の護衛の騎士の顔ぶれは変わっているし、私の場合も、待機位置にルストが増えている。

正面に、視線を戻す。そこには、アレクがいる。

……あれ。アレクが、ルストを目にして眉を顰めた? エメラルドグリーンの瞳が、陰を帯びた、気がする。そして、私とは、目が合わない。アレクが、合わさないようにしているから、かな。

内心で落ち込んでいると、隣から強い視線を感じた。

……兄?

水色の瞳が、何か言いたげにしている。

でも、そのとき、父上が口を開いた。

「本日はオクタヴィアの提案で久しぶりに夕食会を開くことになった。ヤールシュも招いている」

名前の出たヤールシュ王子が、

「お招きいただき光栄です」

と軽く頭を下げた。頷いた父上が、一同を見渡す。

「では――」

天空神への感謝を捧げる。……この祈りに関しても、前回の夕食会のときとは違う、複雑な心境になっちゃうな。深く考えなければ、ただの儀礼的なものとして気にしないでもいられるけど。

――食事が、開始された。

今日は順々に料理が運ばれてくるのではなく、最初からほとんどの料理が並べられている。大皿が幾つかあって、それぞれ別の料理が盛られており、そこから取り分けられて各自の席に置かれている。順々に料理が運ばれてくる通常のエスフィアの食事とは異なる。

見慣れない料理も多い。でも、確実に、アレでは……? という料理も。

香辛料の匂いからしても、あれは確実にカレー! シシィから教えてもらった、バルジャンの地方料理の咖哩!

ヤールシュ王子が参加しているので、バルジャン風にしているんだと思う。料理長なら、作り方を知っていてもおかしくないし。普段作るかどうかは別として。

あと、チーロのジャムもある。これもバルジャンにちなんだ品としてのセレクトか。

バルジャン風の食卓に仕上がってはいても、エスフィアお馴染みの、硬いシンプルなパンは欠かせない。今日は堂々とチーロを塗って食べてみても良いかも。

ちょっと、B級グルメ寄りでもある。格式張った感じではないから。

――と、ヤールシュ王子が咳き込んだ。

「……どうぞ」

アレクが、水の入った杯を差し出す。

「すまない」

水を飲み直したヤールシュ王子が苦笑した。

「どうも……炭酸水だけには慣れないようです」

バルジャン風の食卓ではあるけれど、用意されているのは炭酸水なのがエスフィア。そこはいつも通りだった。

「ヤールシュ殿下は、アレクシスと気が合うようですね。よく話されているとか」

炭酸水をきっかけに、兄がヤールシュ王子に話しかけた。

……でも、何それ? 初めて聞いた。

「いえ、私が押しかけていっているだけです。アレクシス殿下を見ていると、自国の弟たちが思い出されまして」

私の中で、メラメラとヤールシュ王子への対抗心が燃え上がった。

「……まあ。わたくしはまだターヘンのお話を聞けてもいませんのに」

というのも、いままでまったくタイミングがかち合わなかったから。

同じ王城内にいると私は高をくくっていた。簡単に捕まるかと思いきや、居場所をマチルダに尋ねると「それが……」と言葉を濁される始末。ヤールシュ王子は、滅多に用意された客室にはおらず、フラフラしているのが常だとか。

パッと、俯いていたアレクが顔を上げた。

私のほうを見たけど、目が合ったのは一瞬だった。避けられているって、わかってはいた。それでも、こうして目の当たりにすると、ショック。

「まだ時間はあります。アレクシスと一緒に、というのはどうでしょう?」

ヤールシュ王子、ナイス提案! アレクシスって呼び捨てにしているのが気になるけど!

「……勝手に決めないでください。姉上にも都合があります」

でも、アレクから待ったがかかった。

「と言っていますが、オクタヴィア殿下のご都合は?」

ヤールシュ王子が、アレクを見てから、私に話を振る。

「もちろん、問題ありません。ご都合に合わせましょう。――アレクシスも一緒だと、嬉しいわ」

「……はい」

アレクが小さく頷く。でも、嬉しそうじゃない。断れる理由がないから、同意したってことが、よくわかる。ただ、これで……避けられない機会が一つ、作れたことになる。あんまり気分は良くない。それでも、ほっとした。

夕食会を開いたことで、強制的にでもアレクに会うっていうのは達成できた。挨拶だけよりは、格段の前進。

私用に取り分けられたお皿のカレーが目に入った。日本だと、ご飯かナンで食べるイメージだったけど……どっちもない。いや、カレーはカレーだ。

口へ運んでみる。…………! これは、野菜たっぷり甘口カレー! 前世の本場、インドのカレーとは違い、日本で魔改造されたやつ!

「オクタヴィア殿下は平気なようですね。それは咖哩と言って、図々しくも私のほうで要望を出して夕食会に出していただいたんです。辛さはおさえて貰いましたが……」

「好みの味ですわ」

ナイス要望!

「それは良かった」

……十六年ぶりのカレーだ。カレーはやっぱり、思い入れがあるから格別だった。夕飯、カレーだと嬉しかったもん。

「…………」

自然と口元に笑みが浮かんだ。無言で、少しカレーを見つめてしまった。……嬉しいのに、ちょっと悲しいのは、仕方ない。

――その後は、主にヤールシュ王子を中心に話が弾んだ。苦手、と言っていたけど、ヤールシュ王子が滞在中に関係が変わったのか、アレクは王子には受け答えをしていた。

父上も食事中は寡黙なのが常だったのが、これもヤールシュ王子効果か、よく話していた。兄も、受け答えをするうちに話の流れで敬語を止めている。

対照的に、いつもなら話題を振る立場だったエドガー様があまり話していない。

私が密かに気にしているのに気づいたのか、エドガー様と目があった。エドガー様がにこりと笑う。

「この間、オクタヴィアの恋人のお披露目があったばかりだろう? 私はこの機会に、オクタヴィアとアルダートンの話を聞きたいな。皆も興味があるんじゃないかな?」

よりにもよって、その話ですか……!