軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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私、第一王女。権力持ち。王城に連れ帰っちゃえばいいじゃないですか! こんな劣悪な環境においてはおけない。そしたら、次に夢に出てきても安心できる! 続き物の夢っぽいし!

名案だと思ったのに、まさに少年が「何を言ってるんだ? こいつは?」という顔をした。

少年が、深い嘆息を漏らす。首筋の刺青を指さした。

『……これが有る限り、逃げ場なんかない』

『隠せば……』

『ただの刺青じゃない』

吐き捨てるように少年が言った。

――大元を、潰さないと。

冷ややかに、続ける。クリフォードに似た、濃い青い瞳に刺すような鋭さが宿る。

『……刺青が、なければいいんだよね?』

クリフォードの首に、傷痕があったことを思い出した。少年の首筋に今回、こんなものが出現しているのも、私の記憶の影響かもしれない。

『何を……』

『ちょっと待って。頑張ってみるから! いい? 触るから、我慢して』

左首筋の刺青に手を伸ばし、触れる。少年はビクッとしたけど、そのまま困惑顔をしている。イーバを出したときの気持ちを思い起こす。ここは私の夢……。だったら、刺青だって消せちゃうかも! や、そのはず!

――と、アオが、豪華な料理を蹴散らかそうとしていたときみたいに、騒ぎ出した。

同時に、少年が顔の向きを変えた。

『……こに?』

『どうせ遠くには――』

微かに、声が聞こえてくるほうへと。

『倒れていたらどうする? 特別製の食事の……』

『見張り――』

少年を、捜してるんだ。急がなきゃ。

『――もう、いい。わかったから、さっさと逃げろ』

ううん、全然わかってない。できるはずだから!

刺青に置いている右手じゃなくて、左手が熱くなった。

『…………!』

左手の甲に紋様――『徴』が浮かび上がっている。どうして? でも――そのおかげか、できる、という感覚が強く生まれた。

――はず、じゃない。私は、この刺青を消せるって。

『……『主』の『徴』? ――何で』

少年の問いに答えている余裕はなかった。

イーバを出したときとは、全然違う。ただの刺青じゃないって、少年が言った意味が、何となくわかった。刺青からの抵抗、みたいなものを感じる。まるで、生き物のように。

だけど、いける、と思った瞬間、警戒した様子の少年が、私の手を掴んで引き離した。

『おい、あそこにいるぞ!』

同時に、叫び声が。

追っ手に見つかった?

衝動的に、掴まれたのとは別の手を、少年へと伸ばしていた。

『逃げよう!』

『…………』

少年が私を見つめる。

私を見返して、少年がかぶりを振った。

『――あなたは、ここにいるべきじゃない』

違和感が、あった。どこかが、さっきまでの少年と少し違う、ような。

呟くように少年が小声で何かを言った。はっきりとはわからない。でも足りない部分をつなぎ合わせたら――。

『……こんな、夢には?』

私の言葉を否定も肯定もせず、少年が、掴んでいた私の手を離した。

トン、と押し出されるような感じがした。……私だけが、安全な場所へと。

ここにいるべきじゃないって、私が?

なら、そういう自分は?

ねえ――。

「クリフォード……」

私は呟いた。

「何でしょうか」

「ギャー!」

今日も今日とて脱走し、クリフォードに捕獲されたアオと、そんなアオを止まり木に置いたクリフォードを見ていたら、昨夜見た夢のことをまた思い出してしまった。

制服に隠れている首の傷痕のことも、妙に気になる。……刺青を連想してしまう。見せてもらって、もう一度確認してみる? そんな血迷った考えが一瞬浮かんでしまった。

いっそチラッと見えでもすれば……。正装用の制服でも、首のちょうどその部分は隠れてたしなあ……。傷痕と刺青。因果関係が逆だって、わかってはいるんだけど。

夢の少年の首筋にあった刺青の痕跡が――なんて。

それもこれも、夢を鮮明に覚えていて、すごくリアルだったせいだ。

いい加減、切り替えなきゃ。

「いえ……名前を呼んでみただけよ」

かぶりを振った。

上手い具合に、というべきか。本日ルストは私の護衛任務から外れている。

少し前の日常――護衛の騎士がクリフォード一人っていう状態に戻ったのも、私の思考に影響してるのかな。――と、

「失礼いたします。殿下」

マチルダの、入室を求める声がした。――頼んでいたものが来たみたい。だけど、ん? と思う。女官長であるマチルダが自ら?

時刻を確認する。これから私宛に届いた手紙や書類の処理をする予定なんだけど、その前にお茶の時間が入っている。

正確には、後半戦前の一休みってところ。

返事をするにも慎重さや難しさが求められているもの。後回しで残していたものに取りかかる。

前半戦では、主に処理をしやすい手紙から優先的に対応していた。私自身、半ば忘れかけていたことを思い出させてくれたものもあった。

前々から、諸侯会議に向けて取っていたある対策に関する内容だった。対策を取ったまでは良かったものの、それが昔過ぎるのも問題……! 主に私の記憶力のせいで!

他には、シシィからの嬉しい手紙も! これは一番に目を通して返事を書いた。

ちゃんと届くようになって一安心だし――準舞踏会でシシィが言っていた新作の翻訳本はもう私の手元に届いているんだけど、他にも面白い本が手に入りましたっていう耳寄り情報が記されていた。

ちなみに、その新作本は既に読了済。大切に読むつもりが、一気に読んでしまった……!

ウィンフェル子爵であるヒューイは諸侯会議中、王都にいる。ヒューイの婚約者であるシシィもそれに合わせてしばらくは王都滞在の予定。公式に王城にも登城する。その時に、直接新たな本も受け取ることにした。

……おかげで、気持ちも浮上したんだよね。

「入って、マチルダ」

入室したマチルダが一礼する。マチルダが手にしていたのは、一通の手紙だった。追加分かな?

「殿下に急ぎでお渡しして欲しいとお預かりしました。ナイトフェロー公爵夫人からのお手紙です」

「ルシンダ様から? ――少し待っていて」

場合によっては、返事を持たせる必要があるかもしれない。手紙は蝋で封をし、紋章が押してあった。表向きは正式文書の様式だけど――開けると、中身はプライベートな内容だった。ルシンダ様直筆の謝罪の言葉が書かれている。

私がルシンダ様に頼んでいた、デレクと会うセッティングの件。それが無理そうだ、と。何でも、急にデレクが難色を示したとか。思い当たる節はある。……衣装部屋で会った後に、意見を変えたのかな。

――他には、デレクへある打診があったことについて。

内容が私的なのと、ルシンダ様宛なので、紙に鉛筆で返事を書く。私の鉛筆使いを知っている人には基本的にこうしてる。封筒に入れ、封をして――。

「これをルシンダ様へ送ってちょうだい」

返事の手紙を受け取ったマチルダが、頷くと言葉を続けた。

「畏まりました。それと――ご所望のものをお持ちしております。侍女が室内にお運びしますが、よろしいですか?」

「ええ。入ってもらってちょうだい」

廊下に控えていた侍女の一人が新たに入室する。彼女が両手で持っていた皿を、室内に控えていたサーシャが受け取った。皿に載っているのは、イーバ!

朝、起きて、城の料理長に頼んで、お茶の時間に合わせて作ってもらうことにしたんだよね。マチルダと侍女が退出し、サーシャがイーバを並べてくれる。

私はサーシャに声をかけた。

「携帯用に、紙に包まれたイーバもあるでしょう?」

「はい。こちらに」

すぐに食べられるものと、包装されているイーバに分かれている。

後者を手に取った。わざわざリクエストしたのは、自分で食べるのはもちろん――。

「これはクリフォードに」

朝、目が覚めてからというもの、無性にクリフォードに渡したかったから!

理由? そんなのもちろん、あの少年の夢のせい! 恋人設定のおかげで、こんな風に真っ先にあげたって周囲は変に思わないだろうし。

問題は本人。

いくら恋人設定が念頭にあっても、クリフォードがすんなり受け取るとは思っていない。でも今日ばかりはそうして欲しい。

だから、乱発するようでそれは嫌なんだけど、

「命令よ。受け取ること」

と付け加えた。でも――あれ? 命令する前に、クリフォード、無言で受け取ってなかった?

命令なしでもOKだったパターン? ……何でだろう。

「ありがとうございます」

イーバの包みを受け取ったクリフォードは、それを見つめている。

イーバが好きになったとか?

だったら、いますぐ食べてもらっても良いぐらい。とはいえ、それを命令するのはさすがに……?

私はひとまず納得することにした。うん。これで良しとしよう。夢の少年にどうしてもクリフォードを重ねちゃうから、これは私の独りよがりな行動。でも満足!

よーし。やる気が出てきた!

決めた。この勢いにのって、これまで躊躇していたことを私は実行に移すことにした。

せめて、諸侯会議が始まる前に。

でないと、デレクのことみたいになってしまうかもしれない。

二人で話す機会を失った。でも、デレクの場合は、諸侯会議が始まったら、逆に機会はあると考えることもできる。頻繁に登城するはずだから。

でも――会えないでいる、もう一人は、勝手が違う。

――アレク。

私はまだ、アレクに会えていない。ううん、会うだけなら、会った。でも何とか顔を会わせても、挨拶だけで、すっとアレクが移動してしまう。

様子からは、病気だとか、体調不良だとか、そういう風な感じはない。だからまだマシだけど、問題は、ちっとも話せていないこと。

部屋に訪ねていっても、不在だったり、取り込み中だったり。

このままじゃいけない。私だけじゃない。アレクにとってもそうだって、思いたい。

――アレクに避けられているなら、会う機会は、自分で作らなきゃ。

自然に、かつ強引に。

アレクが逃げられないように。