作品タイトル不明
収穫祭に備えて
一日の休憩を貰ってから俺、アルテ、カーミラは初日と同じように麦や大麦の刈り取りを手伝った。
三人で手伝うとあっという間にそれらは終わり、村全体の収穫作業は七日で終わることになった。
例年ならば二十日程度かかっていたので三分の一に短縮という快挙。
まだ麦の脱穀といった細かい作業は残っているが、俺たちが魔法で時間を短縮したために時間も人手も余っているので問題はないみたいだ。
そんなわけで収穫作業が終わりとなると、次に待っているのは収穫祭だ。
収穫祭の日程が気になった俺は、村長であるリロイに聞きに行くことにした。
「クレト、どこ行くの?」
家の外に出ると、ちょうどニーナがやってきた。
日課になりつつあるラジオ体操をしにきたのだろう。
「ちょっと収穫祭の予定を聞きにリロイさんのところにね」
「私も行く! いつやるか気になってたし!」
「わかった。軽く体操をしたら行こうか」
「うん!」
「ところで、アルテとカーミラは?」
ハウリン村にやって来て、アルテとカーミラはニーナの家に泊まっている。
ここのところはずっと一緒だったが、今のところ二人の姿が見えない。
「寝てるから置いてきた!」
「なるほど」
ハウリン村にやってきて七日。外でお手伝いをしたり、遊び回っていることもあって疲れが溜まっていたのかもしれないな。
ぐっすりと眠っているのであれば、無理に起こす必要はないだろう。
強いて気になるといえば、第一王女としての仕事が大丈夫なのかということだ。
まあ、その辺りは収穫祭の開催日を聞いてから改めて聞くことにしよう。
思考を切り替えた俺はニーナとラジオ体操をした。
軽く身体をほぐすと、そのままリロイのところに向かう。
ここ最近、リロイは収穫祭に向けての準備をしており色々な場所にいる。
家の方向に向かいながら適当に練り歩いていると、中央広場で見つけた。
「いた、村長だ!」
リロイの後ろ姿を目にしたニーナがタタタッと走り出す。
こういうところで若さというものが如実に出る気がする。
なんて思いながら遅れて俺も駆け寄った。
「村長! 収穫祭はいつやるの?」
「そうですね。今年はかなり早く終わらせることができましたし、一週間後とかでいかがでしょう?」
「えー? 一週間? 今日とか明日からじゃダメなの?」
苦笑しながらのリロイの言葉にニーナが不満そうにする。
収穫祭がかなり待ち遠しいみたいで今すぐにでもやりたいようだ。
周囲で聞き耳を立てている村人たちもニーナと同じ思いなのか、心なしかソワソワとしているように見えた。
「全体の作業が早く終わったとはいえ、まだまだ細かな作業は残っていますからね。それに今年は収穫祭を盛大にするので準備の時間が欲しいのですよ」
「盛大ってどんなことをするの?」
「今回は多くの方に屋台を出してもらうのですよ。皆さんが育てた自慢の作物を是非とも祭りで振舞ってもらいたいと思います」
リロイはちょうどこの場を告知の場とすることにしたのか、大きな声で告げた。
「それって誰でもやっていいの?」
「はい、屋台に限りがあるので全員とは言えませんが、私にきちんと言っていただければ構いませんよ」
村長の許可さえあれば、誰でも屋台を出すことができる。
その告知は村人たちの琴線に触れたようで興味深そうに声を上げたり、既にやる気を漲らせて屋台について話し合っている者さえいた。
文化祭で出店する時のような空気を感じる。
祭りって当日も楽しいけど、それに向けての準備も楽しいものだよな。
「そして、当日屋台を出すのは我々だけではありません」
ざわざわと賑やかになる中、リロイが声を張り上げてこちらに視線をやった。
続きは俺が宣伝しろということだろう。
「当日にはエミリオ商会が出店させていただきます。普段、手に入れることが難しい品物をたくさん用意していますので、当日まで財布のヒモはきつく縛っておいてください」
俺がそのように告知をすると、村人たちから嬉しそうな声が上がった。
途中で宣伝をさせられることに驚いたが、村人たちが好意的で安心した。
●
「ただいま!」
「お帰りなさい」
ニーナが元気良く扉を開けて入ると、洗い物をしていたステラが返事した。
ぺこりと頭を下げつつ入ると、ステラもにこっと笑って頷いた。
こっちも自分の家なんじゃないかと錯覚しそうなくらい温かい。
「あっ、アルテお姉ちゃんとカーミラさん、やっと起きたんだ」
テーブルにはアルテとカーミラが座っており、ちょうど食後のお茶を飲んでいるところだった。
「うむ、ニーナは朝が早いの」
「そう? これが普通だと思うよ?」
ニーナは実にハキハキとしているが、アルテはまだ若干眠そうだ。
農家は朝日が出る前に起きるのが普通だからな。
ここに家を構えて少ししか経っていない頃、外が真っ暗なのに家に遊びにきたことを覚えている。あの時は農家の朝の早さに戦慄したものだ。
アルテもそこまで朝が弱いわけではないが、農家と比べると分が悪いだろう。
「朝からどこに行っていたんじゃ?」
「村長に収穫祭がいつやるか聞いてきた!」
「ほう、それはわらわも気になっていたところじゃ。で、いつなんじゃ?」
「一週間後だって!」
「ふむ、一週間後か。問題ないな!」
「問題ありまくりです。さすがに一度戻った方が良いかと……」
ニーナの言葉に能天気に答えるアルテであるが、カーミラの表情は実に険しい。
やはり、王女としての公務に差支えがあるらしい。
「どうしてじゃ? 元々、それくらいの予定は空けておいたじゃろう?」
「確保してはおりますが、父上に怒られる前提です。ですが、それを避けられるのであれば、一度戻ってきっちりと役目を果たすのが得策かと」
「うえぇー、面倒くさいのぉ」
カーミラの整然とした言葉にアルテが嫌そうに顔をしかめながら言った。
本当に帰りたくなさそうだ。
「またお仕事を積まれ、軟禁されても良いのですか?」
「むぐぐぐ」
「ダメだよ、アルテお姉ちゃん。仕事はちゃんとやらないと」
「ニーナ! お主までそのようなことを言うのか!」
ニーナの正論にアルテが思わず涙目になる。
毎日仕事をこなしているニーナはこういうところはシビアだ。
「収穫祭には来られるんだよね? やるべきことをやってから思いっきり遊ぼう?」
「むむむむ、わかった! ニーナがそういうのであれば、役目をきっちりと終えて戻ってくることにしよう!」
「うん!」
アルテの決心を聞いて、ニーナが満足そうに頷いた。
どっちが年上で年下なのかわからないな。
そんな様子を見ていたカーミラがポツリと小さく呟く。
「……ニーナ殿がいれば、アルティミシア様がしっかりと働いてくれる。傍仕えとして雇うのがアリかもしれません」
気持ちはわかるけど本人の意思を尊重してあげたいものだ。
「そういうわけでクレト! 今から転送を頼めるか?」
「構わないよ。ちょうど俺もそっちに用があったから」
収穫祭の開催日をエミリオに伝えるために王都に戻る必要があるので、アルテやカーミラを連れていくことくらい大した手間ではなかった。
「助かる。では、非常に面倒だが一度戻るとするか」
それぞれの方針が決まったところで、俺はアルテ、カーミラを連れて王都に転移した。