軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

のんびり焼き芋

「……暇じゃな」

縁側で寝転んだアルテがポツリと呟いた。

俺とアルテ、カーミラが中心となって村の麦畑の刈り入れを手伝うこと三日。

あっという間に刈り入れ作業は終わってしまい、麦の乾燥作業に入っていた。

それらを手伝おうとしたが、さすがにこれ以上は働かせられないと言われてしまった。

「例年は猫の手も借りたいくらいに忙しいらしいけど、今年は俺たちがほとんどを終わらせちゃったからね」

「とはいえ、皆が外で働いている中、わらわたちだけ家でのんびりしているというのも落ち着かん!」

堪え切れないとばかりに寝転んでいたアルテが起き上がる。

「三日間、魔法を使いまくって働いたんだよ? きちんとした休暇と思えばいいさ」

「わらわと違って、クレトは妙に落ち着いているの」

「働く時は働く。休む時は休む。王都と田舎で二拠点生活をしていると自然とメリハリがつくようになったからね」

この世界にやってきたばかりの頃は、まだ社畜魂が抜けきっておらず、アルテと同じように暇な時間にソワソワすることもあった。

しかし、二拠点生活することによって生活や心にメリハリがつく、労働と休暇の切り替えが自然とできるようになった。お陰でのんびりとした生活を送れている。

「収穫作業で頑張り過ぎて、収穫祭に出られないなんてことになったら台無しだしね」

「それもそうか。ならば、クレトの言う通り、今日はしっかりと身体を休めることにしよう」

俺の言い分に納得したのか、アルテは安心したように寝転んだ。

「ここでのやる気を少しでも公務に向けて頂けると助かるのですが……」

「それは無理な話じゃ」

カーミラがそのように呟くが、アルテはばっさりと切り捨てた。

ガックリと肩を落とすカーミラ。

趣味でのやる気と仕事でのやる気はまるでベクトルが異なるらしい。

苦笑していると、ふと外の庭の方から足音が聞こえた。

「あ! ここにいた!」

視線をやるとニーナがいた。

「どうしたんだ、ニーナ?」

「サツマイモが獲れたから焼き芋をしようと思って。クレトたちも一緒にどう?」

「焼き芋というのはなんじゃ?」

サツマイモを手にしながらのニーナの問いかけに、アルテが小首を傾げた。

無理もない。第一王女が焼き芋なんてするはずがないだろうからな。

「焚火の中にサツマイモを入れて、そのまま焼いて食べることさ」

「おお! 面白そうじゃ! わらわもやるぞ!」

説明してあげると、アルテはガバッと起き上がって叫んだ。

こんな面白いことを見逃して堪るかと言わんばかりに。

「そうだな。俺たちも一緒にやらせてもらおう」

「やった!」

そうと決まれば、早速行動だ。

家でダラダラしていた俺たちはすぐに立ち上がり、靴を履いて外に出る。

「枝葉と落ち葉が欲しいから集めよう」

焼き芋をするためには、火をつけるための薪が必要だ。

ニーナの一声で俺たちは家の傍にある森の入り口まで歩いて、枝葉や落ち葉を回収することに。

最近は雨もほとんど降ってなかったこともあって、枝葉や落ち葉もほとんど乾燥している。

「これだけあれば十分かの?」

「うん! バッチリだよ!」

焼き芋をするのに問題ないほどの薪が集まると、四人で薪を持ってニーナの家の裏に。

火をつけやすいように枝葉や落ち葉を置くと、こんもりとした山が出来上がった。

「それじゃあ、火をつけてもいいかい?」

「お願い!」

ニーナから許可を貰うと、亜空間から取り出した火の魔道具で着火する。

枝葉から煙が上がって小さな炎が灯る。それは乾燥した枝葉にドンドンと燃え広がっていった。

「あら、薪をたくさん集めてくださってありがとございます」

「いえいえ、こちらこそお誘いくださりありがとうございます」

トングで火の調整をしていると、家からステラとアンドレがやってきた。

焼き芋をするメンバーが全員揃ったというわけだ。

「それで焼き芋というのはどうやるのじゃ?」

「サツマイモを葉っぱでくるんで、そのまま焚火の中に入れるんだよ」

アルテが首を傾げる中、ニーナがサツマイモを葉っぱでくるんでそのまま焚火の中に放り込んだ。

「なんて豪快な!」

「丸焦げになったりはしないのか?」

「そうしないように火加減を調整し、見極めるのが作り手の技量だな」

「おお、単純なように見えて奥が深いんじゃな」

アンドレの言葉を聞いて感心したように頷くアルテとカーミラ。

「まあ、どうしても焦げる部分もあるんだがな」

アルミホイルみたいな熱伝導が良い上に、保護してくれる素材もないことだしね。

火加減については前世でやった焼き芋よりも遥かに難しいだろう。

ステラからサツマイモを受け取ると、葉っぱで丁寧にくるんでやる。

包み終わったらそのまま焚火の中に入れてやった。

焼き芋か……前にやったのは小学生の頃以来だ。

年齢が上がるにつれて、色々と規制が厳しくなって大っぴらにやりにくくなったから。

改めてやるのは随分と久し振りだ。

アンドレ、ステラ、ニーナも手慣れた様子で放り込み、アルテとカーミラはおっかなびっくりといった様子で放り込んだ。

枝葉や落ち葉が燃えて黒くなり、アンドレがスコップを使って放り込まれたサツマイモの上に被せた。さらに新しい落ち葉を積み上げて、完全に蓋をした。

高熱の炎で焼くというより、低温の炎でじっくりと火を通すという感覚。

こんもりと積み上がった落ち葉の中から白い煙が噴き出す。

ジリジリと落ち葉が焼ける音や、枝葉に含まれていた僅かな水分でパチパチと爆ぜるような音がしていた。

「クレト、そんなにジーッと見ていてもすぐには焼けないよ?」

焚火をボーっと眺めていると、ニーナがちょんちょんと裾を引っ張って尋ねてくる。

「わかってるよ。ただ焚火を見ているだけさ」

「焚火を見ているのが面白いの?」

「ああ、炎の形が変わったり、枝葉や落ち葉が焼けていく様子が楽しいじゃないか」

「えー? そう?」

「クレトは年寄り臭いの。そんなのどこが面白いんじゃ?」

ニーナの言葉に便乗し、アルテまでもが理解できないとばかりに言ってくる。

こら、そこじじ臭いとか言わない。

ジーッと見つめていたステラとカーミラの眉が引き攣っているじゃないか。

「子供にはちょっと早い楽しみ方だったかな?」

「私、子供じゃないもん!」

「そうじゃ! わらわたちを子供扱いするでない!」

からかうように言うと、ニーナとアルテから派手にブーイングを受けた。

アルテはともかく、ニーナは子供だよね?

頬を膨らませムキになって否定する様はまさしく子供であるが、それを指摘すると増々怒りそうなので言わないでおいた。

そんな風に他愛もない会話をしていると、追加した枝や落ち葉が燃え尽き始めた。

アンドレは焚火の上にもみ殻を撒いた。

焚火の中にある熱が逃げないように保温しているのだろう。

しばらくすると、アンドレがスコップでサツマイモを掘り起こし始めた。

中に入っているサツマイモを見つけると、素手でそれを押していく。

「アンドレ殿、熱くないのですか?」

「ん? ああ、これくらいなら平気だ」

カーミラが思わず心配の声をかけるが、アンドレは陽気に笑う。

それを見て、アルテが真似して手を伸ばそうとしていたので俺は慌てて止めた。

「日ごろから熱いものに触れている人は、手の皮が厚くなっているんだよ。俺たちみたいに慣れていない人は、間違いなく火傷する」

「そういうものか」

俺が諫めると、アルテはあっさりと理解したように頷いた。

第一王女様、もっと自重してくれ。

今回はカーミラがいるとはいえ、外で怪我をされるのは困るから。

「母さんの手も分厚い? 父さんみたいに触れる」

「ステラの方が火はよく扱うから、これくらい余裕で――うぐっ!」

「私の手は分厚くないから、こういう熱いのにはとても触れないわねー」

ニーナが尋ねると、ステラは優しい笑みを浮かべながら答えた。

一瞬、余計なことを言おうとした旦那に鋭い肘が入った気がするが、気のせいだろう。

「……この辺とかそろそろ焼けた頃じゃねえか?」

アンドレがやや苦しそうな声を上げながら、スコップで四つのサツマイモを掘り出す。

手袋をハメた俺、ニーナ、アルテ、カーミラはそれを丁寧に持ち上げた。

何重にも巻いたからかサツマイモ自身が焦げている様子はなかった。

「わわ! 手袋をつけていても熱いぞ!」

「な? 素手で触らなくて正解だろう?」

サツマイモでお手玉をするアルテを見て、思わず笑ってしまった。

ちなみに俺はジーッと持っていると熱いくらいで、数秒持って持ち替えるくらいだ。

ニーナは俺と同じような感じだが、カーミラはまったく持ち替える様子がない。

そんな様子にニーナも気付いたのか、まじまじと眺めながら。

「カーミラさんも手が分厚い?」

ニーナの問いかけにビクリと身体を振るわせるカーミラ。

さすがは子供。遠慮のない疑問を投げかける。

俺やアンドレが尋ねようものなら白眼視されるか、引っ叩かれるだろう。

「……いえ、熱いです」

今さらながらに適度にサツマイモを持ち替えるカーミラ。

その様子はまるで熱がっているように見えない。

剣術の稽古とかしているうちに豆とかできて、手の皮が分厚くなっているのだろうな。

しかし、年ごろの女性として手の皮が分厚いという指摘は事実であっても受け入れがたいことのようだ。

しばらく空気に触れていると問題なく持てるようになったので、葉っぱを解いてみる。

表面は軽く焦げているものの問題はない。

そのままグッと力を入れて割ってみると、中から綺麗な薄黄色の果肉が出てきた。

「おお、いい色だ」

薄っすらと湯気が出ている焼き芋にそのままかぶり付く。

「あつっ!」

当然まだ熱いが我慢できなかった。口の中でサツマイモを転がして冷ましながら咀嚼する。

サツマイモはとてもホクホクとしており、ねっとりとした甘みがあった。

パサついた感じは一切しない。綺麗に中まで焼けているようだ。

「ちゃんと中まで火は通っていたか?」

「うん、甘くて美味しいー!」

アンドレの問いかけに俺はしっかりと頷き、ニーナも笑顔で言った。

俺たちが食べる様を見て、アルテとカーミラもおそるおそる口つける。

「むお! 美味いの!」

「ええ、こんなに上品な甘さのあるサツマイモは初めてです」

小さく口を動かしてパクパクと食べ進める二人。

特にカーミラはサツマイモが気に入ったのか、この村に来て一番の反応を見せていた。

これには育てたアンドレ一家も嬉しそうだ。

サツマイモを半分ほど食べ終わると、アンドレがトングとスコップを渡してきた。

「次はクレトが焼いてみるか?」

「やってみるよ」

「わらわもやるぞ!」

話を聞いていたのかアルテも便乗し、二個目は二人で焼いてみることにした。

「……黒焦げじゃ」

しばらくして焚火の中からサツマイモを掘り越してみると、そこには内部まで焦げてしまったサツマイモが出てきた。

アルミホイル無しで初心者がやるには難しいようだ。

焦げてしまったサツマイモは丁寧に焦げた部分を除去し、責任を持って俺とアルテが食べた。