軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空間魔法で収穫

サンドイッチや飲み物を配り終わると、レフィーリアたちは次の畑へと行ってしまった。

昼食を食べ終わって一息ついた俺は、疲労感に思わずぐったりとしてしまう。

畑を眺めてみると、ぽっかりと穂が刈り取られた空間ができている。

しかし、広大な麦畑を前にすると、刈り取り終了まではあまりに遠い道のりに思えた。

このままでは何日、下手をすると一週間ずっと刈り取り作業になりかねない。

体力は割りとあるタイプではあるが、農作業に慣れていないこともあって途中でダウンしてしまいそうだ。

収穫祭は村全体の刈り取り作業の進捗によって規模が変動する。

早く終われば当然余裕を持った準備で開催できるわけであって、そうでなければ縮小傾向となる。

異世界の祭りをきちんと体験するのが初めてな身としては、できるだけ賑やかな祭りであってほしいというのが願いだ。

そうするために刈り取り作業を迅速に終わらせる必要がある。

前世であったようなトラクターなどがあれば、そこまで時間をかけずに刈り取りができるのだろうが、この世界ではあまり機械は発達しておらず、そのような便利なものはない。

変わりとなるような機械や道具をすぐに発明できるわけでもない。

しかし、この世界には前世と違って魔法があり、魔法技術が発達している。

たとえば、俺の空間魔法を使って効率化できないだろうか?

そう考えたところで一つの案が思いついた。

「もう始めるのか? ちゃんと休まねえと身体が持たねえぞ?」

立ち上がると、オルガが心配の声をかけてくる。

「ちょっと試してみたいことがあるんだ」

「試したいこと?」

オルガが怪訝な声を上げるが構わず、俺は刈り取りのされていない麦畑へ近づく。

屈んで穂の根元を確認すると、空間魔法を発動した。

「空間斬」

穂の根元にある空間を切断すると、穂が見事に斬れた。

「よし、これならいける」

鎌と同じように刈り取れていることを確認すると、次は一本ではなく一面を対象に空間斬を発動。

すると、一面の麦畑が一気に切断され、あれだけ生い茂っていた穂が見事に無くなっていた。

「「おおおおおおおおっ!」」

あぜ道で座り込んで休憩していたオルガやミラをはじめとする村人たちが興奮したように立ち上がる。

たった数秒で一面の刈り取りが終わったのだ。無理もないだろう。

「おいおい、クレト! なんだよそれ!?」

「魔法を応用して一気に刈り取りをしてみた。問題ないか?」

「まったく問題ねえよ! 今の魔法、もっと使えるか?」

「ああ、問題ないよ」

隣の麦畑にも同じように空間斬で一気に刈り取る。

空間を裂いたのでザクッという音はしない。穂が地面に落ちた音が静かに響くだけだ。

転移に比べれば、空間斬の魔力消費は微々たるものだ。

百回やろうが魔力切れになることはないだろう。

「おい、皆! クレトが刈り取った穂を纏めるぞ!」

オルガの声に村人たちが一斉に動き出した。

俺が刈り取った穂を手早く束にしていく。その動きはとてもテキパキとしており、皆の動きは早い。やはり束にするだけなら、かなり早く作業が進むようだ。

活き活きとした表情で束ねていくオルガたちをしり目に、俺はひたすら刈り取りの終わっていない麦畑で空間斬を放つ。

たった一回の魔法で一面の麦が刈り取れる。

速度だけで考えたらトラクター以上の速度だろう。

「こんなにたくさん麦が落ちてるぞ!」

「うひゃひゃひゃ、拾え拾え!」

村人たちがケラケラと笑いながら穂を拾い上げて束にしている。

ハイペースで進む作業に興奮してテンションがおかしくなっているのだろう。

とはいえ、あれほど苦労して作業していたことを思えば、笑いが止まらなくなるのもしょうがない。

当初は一週間かけても終わるかどうかわからなかったからな。

麦には乾燥、脱穀などの作業が残っているが、一番大変で時間がかかるのは刈り取り作業だ。ここが早く済めば、速やかに次の作業に移ることができるし、俺たちは他の畑を手伝うことができる。

そうやって収穫作業を早く済ますことができれば、余裕をもって収穫祭が開催できることだろう。

そうなれば俺も嬉しいし、ニーナだって喜ぶに違いない。

ここが頑張りどころだ。

そんな風に気合いを入れながら、俺は空間魔法を発動し続けるのだった。

「おーい、クレト。そっちの調子は――おいおいおいおい! めちゃくちゃ刈り取りが進んでるじゃねえか!?」

空間魔法で刈り取りを進めていると、アンドレがやってきた度肝を抜かれたような声を上げる。

後ろにはニーナやアルテ、カーミラもおり、こっちの様子を見に来てくれたみたいだ。

「すごーい! こんなに広いのにもうほとんど刈り取りが終わってる! でも、なんで?」

純粋な驚き声を上げたニーナがこてりと首を傾げた。

「魔法で一気に刈り取りをしてるからだよ」

ニーナたちの目の前で魔法を使った刈り取りを見せてあげた。

「わー! すごい! 刈り取りのプロだ!」

一斉に穂が刈り取られる様子を見て、ニーナが興奮したように跳ねた。

後ろに纏められた髪が元気良く揺れる。

「クレト! それはどういう仕組みなのじゃ?」

「穂の根元を魔法で斬っているんだ」

「なるほどのぉ!」

「クレト殿の魔法は転送するだけではなかったのか……」

「俺の魔法は空間を操作するのが特徴なので」

「そんな魔法はまるで聞いたことがないのだが便利だな」

アルテも実際に魔法を見ているわけだし、カーミラにその程度の説明をすることくらい問題はなかった。

「そういえば、アルテは風魔法が使えたよな? 地面すれすれに風の刃を飛ばせば、穂を一気に刈ることができるんじゃないか?」

俺は空間魔法でやっているが、別に風魔法でもできるような気がする。

「確かにできるやもしれん! わらわもやってみるぞ!」

俺の言っていることを理解できたのか、アルテが目を輝かせて麦畑に入っていった。

「『風刃』」

穂の根元を確認したアルテが風の刃を射出した。

直線状にあった穂が一気に倒れていくが、根元に残っている穂の長さはバラバラで、穂もたくさん残っていた。

この結果にアルテは納得がいっていないようだ。

とはいえ、慣れれば俺と同じように綺麗に刈り取りができるだろう。

「ふっ、コントロールがまだまだですね。アルテ殿」

「なんじゃと! では、お主もやってみよ!」

アルテが憤慨しながら言うと、カーミラは堂々と前に歩み出る。

「私は風魔法が使えないので剣でいかせてもらいます」

生い茂る麦畑の前に立つと、カーミラは鞘に手をかけた。

サーッと風が吹いたかと思いきや、カーミラの腕がブレた。

そう認識した次の瞬間、穂がまるで空間斬で刈り取られたようにハラリと落ちた。

「すげえ! クレトの連れも一気に刈り取りできるじゃねえか!」

「さすがは冒険者さんだ!」

「おい、束ね作業が追い付かねえ! 女、子供でもいいからもっと人を呼んでこい! 今日で乾燥までやっちまうぞ!」

これには麦を束ねている村人も大興奮だ。

「……もしかして、斬ったのですか?」

「はい、斬りました」

「…………」

俺の問いに当然のことのように答えるカーミラ。

いや、たった一瞬で一面に生えた麦を斬れるとかおかしいと思う。

「カーミラさんもすごい! 冒険者になると、こんな風に剣で刈り取りができるんだ!」

「ぐぬぬぬ、待っておれ! わらわも綺麗に刈り取りができるようになってみせるわ!」

しかし、ニーナとアルテはまったくこれをおかしいと思わないようだ。

ニーナの中での冒険者の格が上がってしまっている。

俺も冒険者だけど剣で一気に刈り取りなんてできないからね? 多分、カーミラの剣術が達人級だからできることなんだと思う。

第一王女の護衛というのは伊達じゃないな。

アルテの心に火がついたのか、意気揚々と風魔法で刈り取りを進める。

カーミラはそんなアルテの反応を楽しみながら次々と剣で穂を刈り取っていく。

「じゃあ、私は刈り取った麦を束にするねー! お父さんも手伝って!」

「お、おう」

従来とはまったく違う刈り取り方法に戸惑いながらもアンドレは作業に加わった。

俺の空間魔法、アルテの風魔法、カーミラの剣術で刈り取りを進めると、数時間もしない内に畑にそびえ立つ麦は消えていた。

風に吹かれる度に潮騒のような音が鳴っていたが、それはまったく聞こえない。

「よっし、ここの刈り取りは終わりだ!」

オルガの上げた大きな声に村人たちが歓声を上げた。

なんだか村の収穫作業がすべて終わったかのような熱量だが、これだけ広大な畑作業の一つが終わったのだ。喜ぶのは当然だろう。

まだ束ね作業や乾燥作業が残っているが、これだけ大勢でテキパキと作業を進めているのだ。日が暮れるまでに束ねた麦を竿にかけて干すことができるだろう。

「クレトたちのお陰だ! ありがとな!」

「役に立てたようで良かったよ」

オルガをはじめとする村人たちが満面の笑みで礼を言ってくれた。

背中やら肩やらをバシバシと叩かれて痛いくらいだが、これだけ純粋に喜んでいると文句も言えないな。

周囲を見渡すと、アルテやカーミラも村人に囲われていた。

賞賛の言葉を受けてしどろもどろになっているアルテの反応が面白い。

カーミラはやたらと女性から熱い眼差しを受けている気がするが、そちらは踏み込むのが怖いので知らないフリをしておこう。

「まさか、たった一日で刈り取りが終わるとは驚きました。さすがはクレトさんとそのご友人ですね」

いつの間に様子を見にきていたのか村長であるリロイがやってきていた。

「お役に立てたようで何よりです。この調子で他の畑も手伝えば、余裕をもって収穫祭を迎えられそうですかね?」

「ええ、間違いなくできるかと。皆さんが収穫祭を楽しめように村の長として頑張ります」

しっかりと頷きながらのリロイの言葉に俺は安心した。

この調子で他の畑の刈り取り作業も手伝っていこう。