軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過酷な刈り入れ作業

オルガに連れてこられた場所は広大な麦畑だった。

それはもう他の畑とは比べ物にならないくらい高面積で、周囲を見渡しても黄金の穂が広がっている。

「ここはハウリン村でもっとも過酷な戦場だ」

オルガは毎年ここに駆り出されているのだろう。そう語る彼の表情は幾つもの激戦を潜り抜けてきた歴戦の傭兵のようだった。

広大な麦畑には俺やオルガのような若い男がおり、刈り取り作業に励んでいる。

ぽっかりと空いている場所は刈り取りの終わった場所だろう。しかし、それは全体の何十分の一以下だった。終わりがまるで見えない。

「すまん、オルガ。ちょっと用事を思い出したから王都に戻る」

踵を返すと、オルガがなりふり構わずに抱き着いてきた。

「頼む、クレト! 手伝ってくれ! 俺たちだけじゃ終わらないんだ! おい、ミラもクレトにしがみつけ!」

オルガの指示に従って妹であるミラもしがみついてくる。

ちょっと汗の匂いがするが、柔らかい甘い匂いがする。

腕の辺りに微かではあるが未知の柔らかさを感じてしまった。

足元にゴツゴツとした汗くさいオルガがいるものだから余計に感覚が強調されるようだ。

「おい、年ごろの女性としての恥じらいはないのか!?」

「当然ある。だけど、それよりも今は貴重な戦力が少しでも欲しい」

ちょっと頬は赤くなっているが、そこには鬼気迫る表情があった。

貴重な戦力を絶対に逃がすものかという強い執念を感じる。

オルガならなりふり構わず突き飛ばしたり、転移で剥がす処置も取れるが、妹であるミラのそこまでするのは憚られる。

「さっきのは冗談だ。もうやめてくれ」

「逃げようなんて考えるなよ? 俺たちは一蓮托生なんだ」

「逃げないよ。ここまで本気になるオルガたちを敵に回して、平穏な生活が送れるとは思えないから」

観念して抵抗を止めるとオルガとミラはようやく身体を離してくれた。

それでもすぐに飛びかかってこられる位置にオルガがいる辺り、信用されているとは言い難いが。

「ならいい。早速、刈り取りを手伝ってくれ」

オルガが手袋と刈り取り用の鎌を渡してきたので受け取る。

「麦の刈り取り方はわかるか?」

「見かけたことはあるが、実際にやったことはないから説明を頼む」

「まあ、そう難しいことじゃねえよ。根が抜けないように足で踏み抑えながら、左手で茎を掴んで右手の鎌で引くように刈り取る。これだけだ」

オルガが説明をしながら実際に穂を刈り取ってみせる。

さすがに何年もお手伝いをしているだけあってか、その動きは非常にスムーズだ。

「なるほど、こんな感じか?」

「そうだそうだ。鎌で自分の足を切らないように気をつけてやってくれ」

オルガに言われてやってみると、意外とすんなりと刈り取ることができた。

後はその作業を繰り返すだけだ。

俺が二つ目を刈り取ると、オルガも近くで作業に勤しみ始めた。

ザックザックと穂を刈っていく。穂を纏めて鎌で斬る感触は少し楽しい。

とはいえ、穂はどれくらいで束にするのだろうか。

「麦束は乾燥させやすいように小さな束で纏めてくれ」

俺の戸惑いを察したのかオルガがすぐにアドバイスをくれた。

「どうした?」

「無理矢理連れてきた割に面倒見がいいんだなって思ってな」

「……作業が効率的に進まねえと早く終わらねえだろ」

思わず苦笑しながら言うと、オルガはそっぽ向いて答えた。

それが照れ隠しであることは明らかであるが、そこを突っ込むような意地の悪いことはしない。

皆が作業に集中して刈り取り作業を進める。

オルガは体力もあるからか俺よりも遥かに先を進んでいる。

一方でミラの手際はいいもののそこまで速くはない。本当はもっと速くできるだろうが、無理せず最後まで体力が持つように一定のリズムでこなしているのだろう。

オルガと同じ真っ赤な髪をしているが、身体つきは細くて身長も低めだ。

農作業をしやすいつなぎ服を着ており、日光で焼けた健康的な肌をしている。

オルガを女体化し、全体的に華奢にさせたらこんな感じになるんだろうなってイメージだ。

「……なに?」

まじまじと見つめていたからだろう。ミラが振り返りながら尋ねてくる。

「いや、オルガと似ているなーって思ってな」

「それはあんまり嬉しくない」

思っていたことを述べると、ミラは顔をしかめながら答えた。

美青年な兄ならともかく、そうでもない兄と似ていると言われるのは年ごろの女の子にとって嬉しいものでもないだろう。

「ごめんごめん」

「別に。そこまで気にしてないから」

態度は素っ気ないものの、しっかりと返事はしてくれて気遣いをくれる。

オルガと同じで根はいい奴なのだろう。なんてまた比較したことを言うと、顔をしかめられそうなので黙っておくことにした。

黙々と刈り取り作業をしていると、腰の辺りが痛くなってきた。

地面に生えている穂を鎌で刈り取る以上、どうしても中腰にならざるを得なくなり、腰への負担が大きくなってしまうからだろう。

「ああ、腰が痛い」

腰をポンポンと叩きながら息を漏らすも、オルガやミラをはじめとする村人たちはそんな弱音を吐くことなく黙々と作業している。

「皆、腰が痛くないのか?」

「いや、めっちゃ腰痛い。ただそれに慣れているかやせ我慢してるだけ」

「そ、そうなんだ」

思わず感心していると、ミラがぶっちゃけたことを言う。

やはりこの腰の痛みは誰もが抱いてしまうものらしい。

農家だから慣れていて苦に感じないわけではないようだ。

腰の痛みを誤魔化すようにポンポンと叩いてから刈り取り作業に戻る。

季節が秋ということもあり、気温が心地いいのが救いだ。ここで夏のような厳しい日差しまで降り注いでいたら、間違いなく俺はノックダウンしていたことだろう。

前世でもデスクワークをよくやっていたために腰の痛みには慣れていると思ったが、農作業による腰の痛みはまた別物だな。

腰の痛みと戦いながらも刈り取り作業を続ける。

とはいえ、刈り取り作業に入って中々の時間が過ぎた。

太陽は中天の位置に達している。お腹も空いてきたし、少し一息をつきたいところだ。

「皆さーん、昼食を持ってきましたよー」

なんと思いながら作業をしていると、不意に柔らかな声が響き渡った。

レフィーリアや若い女性陣の登場に、作業中の主な男子が色めき立つ。

かなり露骨ではあるが、レフィーリアは王都から移住してきた都会の美人だ。

ハウリン村の女性とは異なる空気を見に纏う彼女に惹かれてしまうのも無理はない。

移住してまだ日は浅いが、人当たりの良い性格と柔らかな物腰であっという間に人気者になっているな。

レフィーリアの声を合図に皆が作業を切り上げ、あぜ道へと上がった。

木陰や一休みできる場所があればいいのだが、生憎と広大な麦畑にそのような場所はなかった。

皆もそのことがよくわかっているのか木陰を探すようなことはせず、女性たちが敷いてくれた布の腰を下ろした。

「どうぞ、レモン水です」

「ありがとうございます」

同じように腰を下ろすと、レフィーリアがコップを渡してくれた。

喉が渇いていた俺は一気にそれを飲み干す。

冷たい水とレモンの微かな酸味が心地よい。

「お代わりどうですか?」

「お願いします」

すぐに飲み干してしまったのですぐに二杯目を注いでもらう。

周りを見れば、オルガやミラも同じように女性に注いでもらっていた。

「レフィーリアさんもお手伝いですか?」

「はい、お手伝いをしている皆さんのお食事をご用意しています。本当は刈り取り作業を手伝いたかったのですが、何故か他の人たちに止められてしまって……」

どこか残念そうな顔で答えるレフィーリア。

多分、レフィーリアの運動神経の無さを知っている村人が慌てて止めたのだろうな。

彼女には申し訳ないが、体力的にも心配なので止めて正解だったと思う。

「クレトさんにもお食事をお渡ししますね!」

「ありがとうございます!」

思わず苦笑をしていると、レフィーリアがパンと手を叩いた。

ちょうどお腹も空いていたので純粋に嬉しい。

布に包まれたものを取り出すと、そこにはサンドイッチがあった。

「レフィーリアさんが作ったのですか?」

「はい! 断面が綺麗になるように作りました!」

なにげない問いかけに誇らしげに答えるレフィーリア。

サンドイッチで断面を綺麗にするっていうのは、あまり聞いたことがない。

「やっぱり、職業柄そういった見た目や色合いが気になるんですか?」

「なります! やはり綺麗な色合いをしている方が嬉しいですからね!」

熱の籠った声で語るレフィーリア。

美人だけどちょっと変わった女性だと思う。

見た目は綺麗なんだけど果たして味の方はどうなんだろうか。

おそるおそる口をつけてみる。

「あっ、美味しい」

「良かったです」

派手な色合いの食材が使われていて奇抜ではあるが、サンドイッチ全体としての味はきちんと纏まっていた。

中には妙な食材の組み合わせがあって首を傾げる瞬間もあるが、食べ進めるとこれはこれでアリだと思えるようだった。

レフィーリアは料理の見た目だけでなく、きちんと味も調えられる女性のようで俺はひと安心した。