軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カーミラ来訪

「美味しい! こんなにも香り高くて複雑な旨みを出せるキノコがこの世にあるなんて!」

王都に転移して、エミリオにも食べさせてみたら驚愕の声を上げた。

予想通りともいえる反応が面白いが、それ以上に地元の村の食材が褒められる嬉しさが勝った。

「な? 美味いだろ?」

「前に持ってきてくれたキノコもすごく美味しかったのに、それよりもさらに上があるだなんて信じられない! 王族や貴族、料理人がこぞって欲しがること間違いなしさ! クレト、このボルシチキノコも納品することはできるか?」

いつになく興奮した様子で問いかけるエミリオ。

こういった良い反応を示すのは、彼の中で莫大な利益が出ると確信している時だ。

頭の中では既に売り上げ勘定ができているに違いない。

「うーん、どうだろう? 今は誰も採取できてないけど、ハウリン村でも高級珍味みたいな扱いで大事にされているらしいよ?」

ボルシチキノコは普通のキノコとは違う。

俺や村人が採取して商会に売るのとは、また訳が違うだろう。

温厚なステラでさえ、あれほどの食いつきを見せたのだ。

俺しか採取できないとしても、ハウリン村の森で採れたのなら村人に回してほしいと村長は思うかもしれない。

「むむ、それもそうだね。これだけ美味しいキノコなんだ。自分たちが食べられず、輸出するだけっていうのも村人にとって面白くはないだろうし。だったら、少数だけに絞って売ることでブランド化し、高級品として売り出す? あるいはハウリン村の村人に交渉して栽培ができないか交渉を……」

懸念事項を聞くなりエミリオがブツブツと呟き出した。

聞こえてくる言葉を聞いていると、なんだか大きな事業になりそうな予感だ。

「どうするにしろ村長と話をした方が良さそうだね」

「ああ、折を見て相談しに行くことにするよ」

「ハウリン村は、もうすぐ収穫作業に入るみたいだから、その時期は避けた方がいいかも」

刈り入れ作業でくそ忙しい時に、エミリオが商談の話をしに行っても煙たがられるかもしれない。

「そうか。もう麦なんかが収穫の時期だからね。逆にいつ頃が良さそうなんだい?」

「収穫作業が終わった後には収穫祭があるみたいだから、その時に顔を出してみるのはどうだい?」

「……ふむ、それはいいね。せっかくの祭りなんだ。品物を持っていって出店してみるのもいいかもしれない。勿論、クレトの手伝いがあってこその話だけど……」

「いいね! 商会が臨時出店してこれば皆喜ぶに違いない! それも含めて村長に相談しておくよ」

「ああ、頼んだよ」

エミリオ商会が出店してくれれば、普段は食べられない食材だって安く買えるし、村では手に入らない布、糸、衣服だけでなく、雑貨や装飾なんかも手に入る。

村人たけでなくニーナだって喜んでくれるに違いない。

「それじゃあ、しばらくは収穫作業のためにハウリン村に滞在することになるから」

「わかった。ボルシチキノコの輸出交渉や出店の許可については頼むよ」

「……いや、出店はともかく、ボルシチキノコの交渉は俺の仕事じゃないだろ」

「ちえっ、気付いたか」

白けた視線を向けると、エミリオは悪びれた様子は一切見せず残念そうに肩をすくめた。

シレッと俺に仕事を振ってこようとするから油断できないな。

商会から屋敷の私室に転移。

帰ってきたことを知らせるためにベルを鳴らすと、数十秒後には扉がノックされた。

「お帰りなさいませ、クレト様」

私室に顔を出したのはエルザではなく、ルルアだ。

いつもエルザがやってくることが多いだけに少し珍しい。

「ただいま。スケジュールの報告しようと思ってやってきたんだけど、エルザはいるかい?」

「エルザ様は現在、来客のご対応をしております。つきましては、クレト様にはそちらのご対応をお願いできないでしょうか?」

エミリオとはついさっき別れたばかりだ。

悲しいことに王都の屋敷を尋ねてくるような知り合いは特にいない。

「お客って誰だい?」

「……カーミラ=フルグラント様です」

ルルアが縮こまった様子で言うが、俺にはまったく覚えがない名前だ。

家名があるので貴族であり、ルルアが恐れている様子から地位が高い人なのだろう。

「ごめん。俺は貴族の人にあんまり詳しくないんだ。具体的にどんな人かな?」

「わかりやすく言いますと、アルティミシア第二王女の護衛騎士です」

「……ああっ! あの時、アルテの傍にいた護衛騎士さんか!」

言い方を変えたルルアの言葉でようやく思い出す。

そういえば、アルテを王城の傍に届けた時に、藍色の髪をした護衛の女騎士がいた。

アルテにカーミラと呼ばれていたので、恐らくはその人に違いない。

「第一王女様とお知り合いなのですか?」

「えっと、まあちょっとした縁があってね。それより急いでカーミラさんのところに向かうとしよう」

「あ、はい!」

その辺は色々と込み入った事情があるので、あまり話すことはできない。

なんとかルルアを誤魔化すと、俺は急ぎ足でカーミラがいるという応接室に向かう。

応接室をノックすると、中から女性にしては低い声が響き渡る。

入室すると、応接室のソファーには藍色の髪をした長身の女性が座っていた。

以前と同じ白銀の鎧と白のサーコートを羽織っており、優雅に紅茶を飲んでいる。

貴族らしい確かな気品がある。なんだか俺よりもこの屋敷の主らしい感じがするな。

傍で給仕をしているエルザが、「この振る舞いを見習ってください」と言っているような感覚に襲われた。

「突然押しかけてしまってすまない、転送屋殿」

「いえ、お気になさらず。こちらこそお待たせしてしまい申し訳ありません」

一 日でも時間がずれていれば、俺は転移で帰宅することなく待ちぼうけになるところだったが、幸いにしてカーミラは俺が帰ってくるのと同時くらいにやってきたようだ。

長時間、待たせた末に帰らせるようなことにならなくて良かった。

「こうして落ち着いて会話をするのは初めてだな。アルティミシア王女の護衛騎士をしているカーミラ=フルグラントだ」

「転送屋のクレトと申します」

「すまないが少々込み入った話をするが故に、使用人を下がらせてもらってもいいだろうか?」

込み入った話というのは間違いなくアルテの話だろう。

彼女の個人的な話をエルザたちに聞かせるわけにはいかない。

「わかりました」

頷いて視線をやると、エルザとルルアはすぐに頷いて退出した。

「前回はアルティミシア様の無理難題を引き受けてくれて非常に感謝している。お陰でアルティミシア様も憂いなく、パレードに参加することができた」

「アルティミシア様のお力になれたのであれば、私としても光栄です」

そのように返答をすると、カーミラはどこか困ったような顔になる。

「ここは非公式な場だ。アルティミシア様からクレト殿の人となりは聞いている。もう少し肩の力を抜いてくれないか?」

アルテの護衛騎士を務めるほどであるが、そこまで礼儀作法にはうるさくないタイプらしい。

考えてみれば、アルテの護衛騎士をやっているんだ。お転婆な彼女の傍に堅苦しい人がいては、彼女も息が詰まって仕方がないだろう。

相手がそれを求めるのであれば、素直に甘えさせていただく。

「カーミラ様が、そう言うのであれば」

「ああ、そうしてくれ」

堅苦しい言葉を緩くすると、カーミラは満足そうに頷いた。

「早速だが、今日はクレト殿に頼みたいことがある」

「なんでしょう?」

「アルティミシア様と私をハウリン村に転送してもらいたい」

「それは公務でしょうか?」

「いいや、アルティミシア様の個人的な我が――頼みだ」

今、わがままって言おうとしたよね?

頭の痛そうな顔をしているカーミラを見ると、なんとなく今回の経緯が見えてきた気がする。

「ぶっちゃけると城での生活に嫌気が差したアルティミシア様が、外に遊びに行きたくなったというところでしょうか?」

「話が早くて助かる」

お転婆なアルテが王城でのんびり過ごすなんてことは想像できないからね。

外に遊びに行きたいけど立場として、それは許されない。仮に出られたとしても、そこは何重にも騎士に囲まれた箱庭のような場所だろう。

一度、転移という蜜を知ってしまった彼女が、またお願いするであろうことは何となく予想していた。

「私としては構いませんが、よろしいのでしょうか?」

「今回は私も同行し、アルティミシア様の安全を守るので問題ない」

俺だって祭りを楽しみたいし、色々とお手伝いがあるので面倒は見られないが、護衛騎士のカーミラが付きっ切りなのであれば問題はないだろう。

何かあったら転移させて非難させればいいし。

「報酬はこちらでどうだ? 貨幣がよければ改めて用意する」

懐から取り出した宝石を一つテーブルの上に置くカーミラ。

落ち着いた色合いをしたサファイアだ。

前回のような国家予算並みの値がつく宝石じゃなくてホッとした。

「引き受けましょう。こちらの宝石で大丈夫です」

「助かる。これでアルティミシア様もお喜びになる」

宝石を受け取りながら告げると、カーミラはホッとしたような顔になった。

アルテにいろいろと振り回されて大変だったのだろうな。

「それでいつ転送すればよろしいでしょうか?」

「公務を片づけるために二日後でお願いしたい」

「わかりました。ちなみにハウリン村では近々刈り入れが行われ、忙しくなりますが――彼女なら嬉々として手伝いそうですね」

忠告のつもりだったが、アルテには逆効果だろう。

前回も笑顔で畑作業を手伝っていた。きっと、今回も嬉しそうに手伝いを申し出るに違いない。

「だな」

それがよくわかっているからかカーミラは遠い目をしながら頷いた。