軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

刈り入れの時期

ニーナとステラが家に戻っていくのを見届けると、俺はハウリン村の入り口に転移でやってきた。

前方にはアンドレが槍を持って突っ立っているが、長時間の見張り仕事に退屈しているのか完全にボケーッとしていた。前方に現れた俺には気付いていない。

大丈夫なのだろうかと心配になるが、人の出入りがあまりなく、魔物の出没もない平和なハウリン村では無理もないことだ。

なんとなく悪戯心が湧いた俺は、そのまま声をかけることなく、すぐ傍まで転移で移動した。

「どわっ!?」

突如現れた俺を見て、ぼんやりとしていたアンドレが慌てて槍を構える。

ヘレナに剣を向けられたことを教訓に、槍の届かない範囲への転移だったが危ない。

「アンドレさん、落ち着いてください俺ですよ」

「クレトか! 急に現れたらビックリするだろ!」

「すみません。アンドレさんが動揺する姿が見たくてやりました」

「こんにゃろう。次、目の前に転移でやってきたら槍でドスンッだからな?」

自慢の槍をブンブンと振ってみせるアンドレ。

その槍捌きは意外と様になっており、本当にドスンッと一突きされてしまいそうだ。

「ステラさんから伝言を受けてやってきましたが、何か俺に用が?」

「おお、そうだ。もうすぐ村全体が刈り入れ時になるんだ。見ての通り、村にある畑はかなり広大で毎年刈り入れにはかなり苦労している。だから、クレトも手が空いている時があったら手伝ってやってくれねえか?」

ステラの言った通り、用件は刈り入れについてであった。

ハウリン村にはお年寄りも多く、体力のある若者はとても貴重らしい。この時期になると若者は刈り入れの手伝いに回っているようだ。

「なるほど。それでしたら優先的にお手伝いいたしますよ」

「そいつは嬉しいけどいいのか? クレトは王都での仕事もあるだろう?」

「ハウリン村の皆さんには個人的にお世話になっていますし、新鮮な野菜を卸してくださっていますから商会の方も文句は言いませんよ」

ハウリン村の刈り入れを優先しようとも、エミリオはそこまでとやかくは言わないだろう。

ハウリン村の食材は、王都の上流階級で大人気なのだ。

俺が優先的に手伝うことで心証が上がるのなら商会にも損はない。

「それならいいんだが、くれぐれも無理はするなよ?」

「はい。くたくたに疲れた時は王都の屋敷に避難します」

もし、死ぬほどこき使われるようであれば、適当に王都の仕事が入ったとでも言って転移すればいい。

アンドレが羨ましそうな視線を向けてくるが、これも空間魔法を使える者の特権だ。

「ちなみに刈り入れは、いつ頃ですかね?」

「もうどこもいい感じに穂首が曲がってるからな。小麦や大麦で微妙に差はあるし、具体的には言えねえが、一週間もしない内に始まると思うぜ」

「わかりました。できるだけ細かく様子を見に来ることにします」

「おう、ありがとな」

具体的な日数がわからないのは少し不便だが、そこは作物次第なのでしょうがないだろう。

王都で用事があったとしても、転移で戻って逐次様子を確認すればいい。

「それと刈り入れ作業が終わったら収穫祭ってやつがある。今年の収穫を祝い、来年の豊穣を祈るお祭りみてえなやつだ」

「おお、収穫祭ですか! 是非とも参加します!」

王都の建国祭ではアルテの依頼を受けていたので、最初からゆっくりと楽しめたかと言えると少し違う。

異世界での祭りを楽しみ損ねた俺としては、是非ともハウリン村の収穫祭に参加したい。

「刈り入れがスムーズに終わらねえと、かなり小規模になるからな。ゆっくりと楽しめるように刈り入れ作業を頑張ろうぜ。ニーナも毎年楽しみにしてるしよ」

「それは気合いを入れないといけませんね」

きっちりと収穫祭を迎えるためには、しっかりと収穫作業をこなさないといけないのは当然だ。

賑やかな収穫祭ができるように頑張らないとな。ニーナもとても楽しみにしているようだし。

「じゃあねー、クレト!」

「ああ、畑のお手伝い頑張るんだぞ」

転移で自宅に戻り、ニーナと遊び終わる。

ニーナはこれから夕方の畑作業を手伝うようだ。

遊んだ後もしっかりと仕事をこなすとは本当に偉いな。

俺が子供の頃なんてずっと遊んでいただけだった気がする。

まだ空は明るく夕方に差し掛かる少し前というところだ。

午前中に種蒔きを終えたばかりで、畑を弄る必要も特にない。

「少し早いけど夕食の準備でもするか……」

秋になって夕方前になると少し肌寒くなってきた。夜になるともう少し冷え込むだろう。

「今日はキノコ鍋にするか」

そんな時には温かい鍋なんかが食べたくなり、最近の夕食は鍋になることが多かった。

調理も簡単で食材を切ってぶち込むだけだからな。栄養豊富でいて、誰でも美味しく作れるのだから、ずぼらな一人暮らしの男の頼もしい味方である。

魔道コンロの上に水の入った鍋を置いて、冷蔵庫に保管されている食材をチェック。

そして、亜空間からキノコの詰まった木箱を取り出す。

「あっ、もうキノコがほとんどないな……」

木箱の蓋を開けてみると、中に入っているキノコはほとんどなかった。

辛うじて一人前の鍋として成立するくらいの僅かな量。

ここ最近はずっと鍋だったし、商会の仕事をこなしている時もエルザにキノコ料理を作ってもらっていた。採取したキノコが底をつくのも当然だと言えるだろう。

このままでも夕食を乗り越えることは可能であるが、香りと旨味が豊かなキノコがたくさん入っていた方が美味しいのは当然だ。

どうせならキノコたっぷりのキノコ鍋がいい。

「……まだ太陽も暮れていないし、今から転移して行けば夕方には戻ってこられるな」

うちのキノコがなくなっているなら三人家族のニーナ家も底をついているはずだ。

とはいえ、夕方に近い時間から誘うのは少し憚られる。ニーナやステラはこれから畑作業をするようだし。

今回は一人で採取をすることにしよう。

まだキノコの知識については未熟であるが、前回の採取で確実に安全なものをいくつも教えてもらった。

それらを多めに採取してお裾分けすることにしよう。

方針を決めると、俺は早速近くの森に転移した。

やってきたのは、前回ニーナ、ステラとコシカケキノコを採取した場所だ。

「お、あったあった」

前回採取した場所にキノコはあまり生えていないが、周囲にはたくさん木が乱立しておりびっしりとコシカケキノコが生えていた。

ナイフを取り出すと、コシカケキノコの根元を切って採取する。

ポロリと取れたキノコを木箱に次々に入れていく。

俺が消費する分だけでなく、アンドレ家にもお裾分けするので多めに採取する。

しかし、同じ場所でたくさん採取はしない。きちんとカブを残しておかないと次の採取に響いてしまうからな。

コシカケキノコだけじゃなく、シロタケ、ヒラタケ、マルキノコといったキノコも同じように採取していく。

マルキノコについては安全なものだけ採取したが、毒キノコが混ざっていたら怖いのでお裾分けする時にニーナとステラに鑑定してもらうことにしよう。多分、大丈夫だとは思うけど。

そんな調子でさらにカラタケ、アカタケ、クロタケ、ムキタケ、シイタケといったキノコも採取していく。

前回の採取した時に場所はすべて覚えており、採取ポイントに速やかに転移しているので効率は驚くほどに良かった。

こうやって作業的に採取をするならば一人で採取をする方が効率的だな。

移動が速いことは当然として、獰猛な動物や魔物に遭遇しようとも転移ですぐに逃げられる。ただ一人で黙々と採取することに、若干の寂しさがあるのが欠点だけど。

そうやって採取すると、あっという間に木箱がいっぱいになるくらいの量が集まった。

まだ太陽は暮れておらず、時間にも余裕はある。

「せっかくだし、一人でしか行けない場所を探検してみるか」

森の奥に進めば進むほど魔物との遭遇確率は上がるのだが、いつでも転移で逃げられる俺なら危険はほとんどない。

他にどんなキノコが生えているか、気になるためにそのまま足を進めてみることにした。