軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秋の種まき

王都で魔道具を買った翌日。俺は一週間ぶりにハウリン村に戻ってきていた。

「ごめんくださーい」

「わっ、クレトだ! お仕事はもう終わったの?」

アンドレの家をノックすると、ニーナが出てきた。

彼女はこちらを見るなり喜びの表情を浮かべる。

「ああ、ひと段落が付いたから戻ってきたよ。今日は先週言っていた、野菜の種まきをしたいと思ってね」

「秋に育てる作物の種だね! 母さんはいないけど、私が持って行って手伝ってあげる!」

「それは嬉しいけど仕事の方はいいのかい?」

「大丈夫! 昼の仕事が終わって暇だったから!」

扉の隙間から家の中を覗くと、今は誰もいない模様。

アンドレは見張りの仕事で、ステラは物々交換にでも出かけているのかもしれない。

ちょうど、一人で暇しているのであれば問題ないか。

「わかった。それじゃあ、頼むよ」

「うん、任せて!」

にっこりと笑うとニーナは家に引っ込んだ。

程なくすると、小さな巾着袋を手にして外に出てきた。

そのまま俺の家の畑へと移動。

「あっ、もう畝はできてるんだ!」

「いつでも種まきが始められるように少しずつ準備はしておいたから」

さあ、新しい作物を育てよう。しかし、その前にしっかりと土を作っておかないと。

ということになると二度手間なので、ハウリン村で生活している時に少しずつ畝づくりを進めていたのだ。

「堆肥も混ざっているし土の状態も問題なさそう。これならすぐに種まきができるね」

土を手で触って確かめながらニーナが言った。

長年作物を育てている彼女が言ってくれると安心できる。

「それじゃあ、ホウレンソウの種撒きをやっちゃおうか」

「お願いするよ。種をまく際に気を付けることはあるかい?」

「一定の間隔を開けて撒いてあげることかな」

「どのくらい間隔?」

「十五センチくらい。ちょっと待ってね。便利な道具がうちにあるから」

ニーナがトテトテと走って家の方に戻り、納屋から小さな角材のようなものを取り出して戻ってきた。

「これを使うんだ!」

ニーナが掲げたものは一メートルくらいの長さのある角材だ。

どこにでもあるような木製のもので、特に変わった点はない。

そのまま見守っていると、ニーナは畝の端の方に角材の角を土に押し当て始めた。

「あっ、なるほど。角材で綺麗な撒き溝を作ってそこに種を撒くのか」

「そういうこと!」

角材を使った凹みは、真っすぐに綺麗に伸びており、深さもほぼ均等だった。

こうやった方が綺麗に撒き溝を作ることができ、綺麗にホウレンソウを発芽させることができるだろう。

「凹みを付けたら、また十五センチ離して凹みをつけるんだ」

一列の撒き溝をつけると距離を開けて、また角材を押し当てて凹みをつけてやる。

そうすることで一つの畝で四つほどの撒き溝ができた。

便利な機械や農耕道具はないが、無いなりに人というのは知恵で工夫するものなのだな。

「後は凹ましたところに種を撒くだけだよ。大体、指一本分空けて撒けばいいよ」

ニーナがホウレンソウの種をパラパラパラと撒いていく。

俺も真似をしてホウレンソウの種を撒く。

が、ニーナのように流れるように撒くことはできない。油断すると小さな種が同じ場所に落ちてしまったりする。

早くやるのは意外と難しいので、丁寧に指一本分の空間を開けて一つずつ撒いていこう。

そうやって二人でやっていくと、あっという間に種を撒き終わることができた。

種を撒いたところに土を軽く被せる。

後は水をやってあげて発芽するのを待つだけだ。

「これでホウレンソウの種撒きは終わり! 次は小カブだけど、こっちの種撒きもやり方はホウレンソウと同じだよ」

「そうなんだ」

ホウレンソウと同じ方法であるならば、同じ作業を繰り返すだけだ。

同じように角材を使って種撒き溝を四列ほど作ると、そこに小カブの種を植えてやった。

「残りのリーフレタスとソラマメだけど、こっちは小さな育苗箱で育ててから、畝に定植させる方が管理も楽だし、育てやすいよ」

畑に直接撒くと、雨や風に飛ばされてしまったり、害虫の被害に遭ったり、雑草も生えやすくなるなどのリスクが高い。

しかし、育苗箱であれば室内で温度管理をしながら、自然環境や害虫などから苗を守ることができる。慣れていない俺でも手ごろで確実に育てやすい方法だと言えるだろう。

「なるほど。それなら、そうしよう」

農家初心者の俺はニーナの提案を即座に採用することにした。

ラディッシュを育てる際に育苗箱はいくつも買ってあるので余っている。

亜空間から育苗箱を取り出すと、俺とニーナは土をせっせと詰める。

育苗箱に土を詰める。ただそれだけの作業だけど、不思議と楽しい。

前世で生きていると、農家などの特別な職につかない限り、こうやって土を触ることなんて全くない。だからこそ新鮮に感じられた。

土を入れ終わると、指でスーッと溝を作ってリーフレタスの種を撒く。

ソラマメに関しては種が大きいためにやや深めに指で溝を作ってやり、お歯黒と呼ばれる黒い部分を下に種を撒いて、軽く土を被せた。

最後に種や覆土が流れないように水をかけてやる。

「これで種撒きは終わりだよ!」

「あとは水をやりながら発芽をするのを待つだけか。ありがとう、ニーナのお陰でスムーズにできたよ」

「そう? えへへ」

素直に感謝を伝えると、ニーナが照れたように笑った。

農業初心者で右も左もわからない俺にとって、こうやって農業について詳しい知人が隣にいることはかなり心強い。

「あー、ちょっと腰が疲れたな」

「あはは、クレトおじさん臭いよ」

「ニーナも大人になれば、この苦労がわかるよ」

背中をポンポンと叩いている俺を見て笑うニーナ。

体力と若さで溢れるニーナは当然のように疲れた様子を見せない。

これが十歳と二十七歳の体力の違いか……。

「あら、ニーナ。ここにいたのね」

「あっ、お母さんお帰り!」

なんて話していると、ステラがこちらにやってきた。

籠の中にはたくさんの作物が入っており、色々と食材を交換してきたようだ。

家に帰っても誰もいなかったので、こちらに様子を見にきたのだろう。

「すみません。ちょっとニーナに種蒔きを手伝ってもらっていました」

「ああ、キノコ狩りに話していた時の……ごめんなさい。私がアドバイスをしたのにお手伝いできなくて」

「いえいえ、ニーナが丁寧に教えてくれたので大丈夫ですよ」

ステラは作物の選定をしてもらった。それだけで十分だ。

「あっ、そういえばアンドレがクレトさんに会いたがっていましたよ?」

「アンドレさんが? 何の用だろ?」

「きっと収穫についてだと思います。もうじき、あちこちで刈り入れ作業が始まりますから」

そういえば、秋に近づくにつれて麦が黄色くなって、随分と垂れるようになっていた。

広大な麦畑を誇るハウリン村で一斉に刈り入れとなると、忙しくなることは想像できる。

「なるほど。わかりました。アンドレさんはいつもの場所に?」

「はい、今日も見張り番です」

「なら、ちょっと行ってきます」

仕事中に別の用事で話しかけにいくのはあまり良くないが、ハウリン村のゆるい雰囲気でそんなことをいちいち咎める人は誰もいない。

用事があるなら、すぐに聞いてスッキリしておきたいからね。

「えー? クレト、今から行っちゃうの?」

久し振りに会えたのにすぐにどこかに行くのが寂しいのだろう。

ニーナが残念そうな顔をする。

「用件を聞いたらすぐに戻ってくるから、その後にまたゆっくり遊ぼう」

「うん、わかった! 待ってる!」

そのように告げるとニーナは顔を明るくし、ステラと共に家に戻っていった。