軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暖房の魔道具購入

「うん、建国祭で滞っていたクレトの仕事はこれでひと段落だね」

「ふう、やっとか……」

エミリオから仕事を回され、ひたすら転移で取引先を回ること一週間。

すべての取引先を回り終え、ようやくエミリオからお仕事完了の言葉を貰えた。

「本当にお疲れ様。しばらく大きな仕事はないだろうし、ゆっくりしてもらって構わないよ」

「そうさせてもらおうかな」

転移での旅だったし、すぐに屋敷に帰ってくることができたので、そこまでくたびれているわけでもないが、それでも仕事中という意識は抜けないものだ。

心労から解放された状態で休むことこそ、立派な休暇といえるだろう。

「さて、今日は何をしようかな……」

久し振りにハウリン村に戻るのもアリだ。

しかし、せっかく王都にいるんだ。ハウリン村では手に入らないものや、消費してしまった物を買い足しておくのも悪くない。

「ちなみにクレトは、暖房の魔道具は買ったかい?」

「暖房の魔道具? いや、そっちはまだだな」

夏に備えて冷風機は買ってあるものの、暖房機はまだ買っていない。

「秋が過ぎるとすぐに寒くなる。暖房の魔道具は品薄になることも多いから買うなら早めをオススメするよ」

「そうなのか。じゃあ、これから買いに行くことにするよ」

実際に寒くなって買えなくなったり、品薄で選択の余地がないというのは嫌なので、素直にアドバイスに従って買いに行くことにしよう。

仕事を終えて自由時間を手に入れた俺は、エミリオ商会を出て北区画へ足を運んだ。

魔道具は高級品だ。よって、富裕層が多く住んでいる区画に店は集中している。

他の区画にもあるにはあるが、贋作を掴まされないためにも北区画の店が一番だろう。

北区画にある魔道具店にやってくると、大きく透明な窓ガラスが張られており、煌びやかな店の雰囲気がよくわかる。

店内にはスーツを着込んだ従業員が立っており、入っていく客に愛想のいい笑みを浮かべていた。

高級店特有の空気感に若干気が引けてしまうが、実際に魔道具は高級品なので仕方があるまい。

「いらっしゃいませ、クレト様。本日はどのような魔道具をお探しでしょうか?」

意を決して中に入ると、入り口で控えていた従業員が笑みを浮かべてやってきた。

どうして名前を知っているのかと疑問に思ったが、顔を見れば前回も接客をしてくれた女性だとわかった。

あの時はハウリン村の家と、王都に屋敷を構えることでかなりの数の魔道具を購入した。

そのお陰で優良客として認識されたのかもしれない。

「冬に備えて暖房の魔道具をいくつか買っておこうと思いまして。何かオススメはありますか?」

「暖房の魔道具ですね。それでしたら、最近発売されたオススメのものがございます」

従業員に案内されて進んだ場所には、ここ最近発売されたばかりの暖房の魔道具がずらりと並んでいた。

それらを従業員がひとつひとつ丁寧に解説してくれる。

暖房のように壁に設置して温風を噴き出すものもあれば、ストーブのように床に設置し温風を噴き出すものもある。

中には敢えて火を閉じ込めて、メラメラと炎が燃え盛る様を目で楽しめるような変わり種もあったが、やはり一番の人気は暖房式かストーブ式のもののようだ。

俺の身長よりも大きなものから、机の上に置けるような小さなサイズのものまでと様々。

燃料は火と風の魔石を使用しているものが大半で、石油や電気を必要とせず、それらを取り替えてやるだけで継続的な使用が可能らしい。

冬の給油の辛さは前世で身に染みて理解しているので、実に簡単な運用法を素晴らしく思う。

ただ残念なのはコタツが見当たらないことか。

冬にはコタツに入って休むのが俺の安らぎだったために、存在していないのが悔やまれる。

俺には魔道具を作るような技術はないので、折を見て誰かに作ってもらうのが現実的だろう。

とりあえず、ハウリン村の家のリビング用に暖房式とストーブ式を一セット。寝室に暖房式を一つ。屋敷のリビング、応接室、ダイニングルーム、寝室に暖房式を一つずつ、さらにストーブ式を二つ買うことにする。

その旨を伝えると、従業員が満面の笑みで頭を下げた。

「これくらい買えば問題ないか?」

いや、屋敷には俺だけじゃなく、メイドたちもいるんだった。

俺の部屋だけ魔道具を配備するというのも忍びない。

冬場も効率よく働くためには、彼女たちの私室や仕事場にも配備する必要があるだろう。

追加でさらに八つほどストーブ式を買い足しておく。

暖房式よりも簡単に動かしやすいストーブ式の方が、彼女たちも融通を利かせやすいだろう。さらなる追加購入に従業員は顔を綻ばせた。

ストーブ式が一つ金貨三十枚。暖房式が一つ金貨六十枚だ。

現時点の会計は金貨七百枚以上になる。

とんでもない額を消費しているが、それでも空間魔法で稼いでいる額が多く、使い切れないほどの貯金があるので微々たる出費である。

それほどまでに転移を利用した貿易の利潤は凄まじい。空間魔法のお陰だ。

「他にご入用のものはありませんか? ストーブ式の中には、外でも使えるような丈夫なものもございますよ」

そう言って従業員が示したのは、他のストーブ式の魔道具よりゴツめのデザインをしたものだ。

「少しの衝撃で停止したり、壊れたりしないように改良がされております。ただ少々大きさや重みがあるのが難点ではございますが……」

野外にストーブを持っていくことなどあまりないが、俺は亜空間から取り出せばすぐに使用できる。少し大きくて重い程度のデメリットであれば、何ら問題はなかった。

通常のストーブよりもやや値が張るが、こんなものは誤差だ。

「それも一つください」

「ありがとうございます」

追加で購入の意思を示すと、従業員は実にいい笑顔を浮かべた。

「クレト様、こちらのものは暖房の魔道具でしょうか?」

屋敷に帰ってくるなり暖房の魔道具を広げると、エルザが尋ねてきた。

「ああ、まだ必要はないだろうけど、 直(じき) に寒くなっていくだろうし早めに買っておいたんだ」

そう言いながら屋敷用に買った魔道具を亜空間から取り出していく。

「……クレト様? 一体いくつ買われたのですか?」

「リビング、応接室、ダイニングルーム、寝室に暖房式を一つずつ、ストーブを二つ。あと、エルザたちのためにストーブ式を八つほど買っておいたよ」

「私たちのために八つもですか!?」

そんな報告をすると、後ろで控えていたアルシェが驚きの声を漏らした。

「え? もしかして、足りなかったかな? 皆の私室にそれぞれ一つ、主な仕事場に一つずつ置けるように余分を持たせたつもりだったんだけど……」

「その逆です。使用人のために高級な魔道具を買い上げ、貸し与えるなど滅多にあることではございませんから」

「そ、そうなんだ」

前世のような感覚でいたが、この世界でその考え方は割と異端のようだ。

「あたしたちの私室にそれぞれ一台だって」

「……実家にいるよりも贅沢です」

「冬には一度家に帰ろうかなって思っていたけど、これなら帰らなくてもいいわね~」

アルシェ、ルルア、ララーシャたちが遠い目をしながら口々にそんなことを言う。

「うん? アルシェたちは貴族だし、魔道具くらいたくさん屋敷にあるんじゃ……」

「そこはお家の財政事情によりけりですね。下手な貴族よりもクレト様やエミリオ様のような商人の方の方が裕福ということもありますので」

俺の素朴な疑問にエルザが囁き声で答えてくれる。

そうだよな。その土地にある資源の有無や、領民の数、特産品などによって収入は変わるだろうし、貴族だからといって無条件にお金持ちってわけでもないか。

貴族というのも中々に世知辛い世界のようだ。

「そういうわけで、そこにあるストーブ式のものは好きに使っていいよ。魔石費用に関しても俺が持つから」

「いえ、魔石に関してまで甘えるわけにはいきません」

アルシェたちが色めきたった声を上げる中、エルザだけは冷静な声を発していた。

真面目な彼女のことなので業務以外で使う魔石費用に関しては、自分たちで払うべきだと思っているのだろう。

「皆が快適に働けるようにしたいだけだから気にしないでくれ。その代わり、冬もしっかりと働いてもらうから」

ストーブに関しては俺の意思で買ったものだ。それを無理矢理押し付けて、費用を徴収するようなことはしたくない。

普段よりもやや強気に言うと、こちらの意思を理解したのかしょうがないとばかりに息を吐いた。

「……わかりました。どのような寒さであろうとクレト様が快適に過ごせるように精一杯務めさせていただきます」

エルザが頭を下げながら言うと、遅れながらもアルシェ、ルルア、ララーシャも頭を下げるのだった。

た。

よし、これでいつ寒くなっても安心だな。