軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都のお土産

エルザのメモに書かれていた雑貨屋は、煉瓦でできた一階建ての民家で窓の上部にステンドグラスがはめ込まれているオシャレな店。

中に入ると、広々とした店内が広がっている。

「わあ、色々なものがあるね!」

「だな」

日本における雑貨屋の定義と同じようで、置かれている品物は生活雑貨やインテリアを意識したものが置かれているようだ。

陳列棚には形状豊かなお皿や、カラーリングの見事なお皿が置かれている。

ハウリン村に新居を構える際にそれなりに買い込んだが、こういった可愛い食器を目にすると買い足したくなってしまうな。

俺が新居に合いそうな食器類を眺めていると、ニーナはラックの上に並んでいるアクセサリーを見つめ始めた。

やっぱり、年ごろの少女だけあってああいう物が気になるらしい。

ニーナはその中で一つの髪留めに手を伸ばし、自分の髪に当ててみる。

「おっ、新しいヘアゴムでも買うのか?」

近づいてそのように言うと、ニーナは少し恥ずかしそうに笑って首を横に振った。

「ううん、母さんのお土産にどうかなーって思って」

ニーナとステラの髪色は同じなので似合うか確かめていたのだろう。髪色が同じ親子だからできる確かめ方だな。

「なるほど。ステラさんに似合いそうだな」

「うん。でも、他の色も綺麗で迷っちゃうよ」

ニーナが手にとっている花飾りがついたヘアゴムには赤、橙、桃、緑、水、青紫と六色もある。どれも綺麗でこの中から選ぶのは難しそうだ。

「いっそのこと二種類くらい買ってあげるか?」

「うーん……父さんのお土産も買ってあげたいし、お金が足りないかも……」

ここで俺がお金を出してやるというのも違うだろう。

「なら、先にアンドレさんのお土産を決めないか? それから残りの金額を計算して二つか一つに選べばいい」

「うん、そうする! でも、父さんって何が喜ぶのかな? さすがにワインは買えそうにないし……」

アンドレといえば、ワイン好きであるが子供のお小遣いで買うには少々高い。それ以外のものとなると、ニーナには思いつかないようだ。

正直、ニーナが買ったものなら何でも喜ぶと思う。しかし、彼女が求めているのはそんな答えではない。

「ワインが買えないならグラスとかどうだ? ここには色々な形のワイングラスがあるぞ」

「あっ! そうだね! ワイングラスを見てみる!」

どうやら俺の提案したものはニーナにもピンとくるもののようだった。

悩ましそうな顔から明るい顔色に変えたニーナは、ワイングラスが並んでいる場所へと移動。

しかし、それらを見つめていたニーナは小首を傾げた。

「グラスって、どういうのがいいかな?」

ニーナはまだ子供でお酒を呑んだことがない。

どんなグラスがいいか不安になるのも当然だろう。

「家にあるグラスとは違う形にした方がいいんじゃないか? 後はステラさんのヘアゴムを買うお金が残る程度のものがいいと思う」

正直、俺もワインやグラスには詳しくはないが、ニーナが買ってくれたと一目でわかる物がアンドレは喜びそうだ。

「じゃあ、この三つのどれかかな」

そう言って三つのワイングラスを目の前に並べてみせるニーナ。

そして、じっくりとそれらを眺めると、

「これにする!」

ニーナが手にしたのは持ち手の短いワイングラスだ。

一般的なワイングラスよりも丈が低く、持ちやすいのが特徴だ。

「おっ、決め手は?」

「洗いやすそう!」

なんと家庭事情に配慮した決め手だろうか。

確かに洗いにくい食器やグラスって困るからな。

冷静にそういった部分を考えられるのは家庭的な証だ。

「なら、最後はヘアゴムだな」

「うん、一個だけしか買えないけど決めるよ」

アンドレへのお土産を決めたニーナは再びヘアゴムのところへ戻る。

「これにする!」

そして、そちらも悩みに悩んだ末に橙色のヘアゴムを手にした。

「ちなみに最後は何色と悩んでいたんだ?」

「水色かな。こっちも似合いそうだったし」

うん、確かにこれも似合いそうだな。

ハウリン村は緑豊かなので、こういった色合いの方がつけていて映えそうだ。

「それじゃあ、買ってくるね」

水色の花がついたヘアゴムを眺めていると、ニーナは早口でそう言って会計に向かった。

彼女がこちらに背を向けたのを確認した俺は、平皿を数枚とニーナが惜しんでいたヘアゴムを手にして会計に向かった。

雑貨屋でお土産を買った俺とニーナは、その後もエルザのオススメの服屋や革細工屋を巡ったり、ふらついて気の向くままにあちこちの店を見て回った。

すると、時間はあっという間に経過して日が暮れる時間となった。

空は茜色に染まり、王都の建物も真っ赤に染まっていく。

仕事終わりの時間帯になったせいか、通りを行き交う人の数も増えてきた。

「そろそろ、ハウリン村に帰ろうか」

「もうちょっとだけいたい」

帰り時だと判断しての提案だが、ニーナはこちらの手をギュッと握って名残惜しそうに言う。

「もうすぐ日が暮れるよ。あんまり遅くなると、ステラさんやアンドレさんが心配するからね」

「…………うん」

やんわりと窘めると、ニーナは残念そうに頷いた。

「大丈夫。また俺の魔法で連れて行ってあげるから。二度とこられない場所じゃないさ」

ハウリン村に住んでいる彼女が、こんなところに来られるのは滅多にない。しかし、俺の空間魔法があれば別だ。また時間さえ合えば、いつでもやってくることができる。

予定があえば、アンドレやステラも連れてきてもいい。

「そうだね。ありがとう、クレト」

そのように言うと、ニーナは納得してくれたようで俯いていた顔を上げた。

「それじゃあ、ハウリン村に帰るよ」

人気のないところまで移動すると、俺とニーナを対象にした複数転移を発動。

視界が裏路地からハウリン村にあるアンドレの家の前へと切り替わった。

「ニイイイイイイナアアアアアッ!」

「わぁっ!」

すると、仁王立ちで待機していたアンドレが大声を上げて突撃。ニーナを勢いよく抱きしめた。

「まったく心配したぞ! 急に王都に行くだなんて……ッ! 怖い目には遭わなかったか!?」

「大丈夫だよ、父さん。クレトがずっと一緒にいてくれたし、すっごく楽しかったよ! 建物は大きくて綺麗で色々な人がいた!」

「そうか」

ニーナの喜びにあふれた表情を見て、特に問題はなかったと理解してくれたのかアンドレがホッとしたような顔をする。

それからジットリとした視線でこちらを見つめてくる。

「…………」

ステラに言い含められているからか口に出して非難してこないが、恨めしそうな瞳がありありと文句を語っている。

「こら、クレトさんに変な目を向けないの。私が責任を持ってお願いしたんですから」

「お、おお」

「クレトさん、今日はニーナの面倒を見てくださり、ありがとうございます」

「いえいえ、以前した約束ですし俺も一緒に王都を回れて楽しかったですから」

面倒を見るだなんてとんでもない。こんな機会でもなければ、仕事でいることの多い王都の散策はできなかった。

改めて巡ってみると、王都もたくさんの店や面白いもので満ち溢れている。

欲しいものもいくつも買えたし、非常に有意義な一日だった。

「ニーナの顔を見れば、相当楽しかったことはわかる。ありがとうな、クレト」

「どういたしまして。時間が合えばご家族皆で行きましょう。魔法で連れていきますから」

「父さんや母さんとも行きたい!」

「それは素敵ですね!」

「お、おお、そうだな」

ステラやニーナのテンションは高いが、明らかにアンドレだけ様子がおかしかった。

「……なんで微妙な反応してるの父さん?」

「ひょっとして王都にビビッてるんじゃないですか?」

「そ、そんなことはねえ! 怖いわけないだろ!」

ニーナがジトッとした目で言い、俺がからかうように言うと、アンドレはムキになった反応を返した。

まあ、俺たちのような年齢になると色々と価値観も固まっているので、未知の場所が怖くなるのも仕方がない。

アンドレの可愛らしい反応にステラやニーナも苦笑する。

「そうだ、ニーナ。あれを渡してあげれば、アンドレさんも王都が怖くなるかもしれないよ」

「そうだね!」

ニーナに耳打ちをすると、彼女は思い出したようにポーチに手を入れた。

「はい、二人にお土産!」

「おおおおお! ニーナからのプレゼント!」

アンドレはニーナからの喜びに打ち震えすっかりと固まる。

厳密にはお土産だが、プレゼントとも言えるっちゃ言えるのか。

アンドレは包装紙を丁寧に開けると、中から出てきたワイングラスを手に持つ。

「ワイングラスか!」

「うん! 父さんが好きなワインは買えなかったけど、グラスならずっと使えるしね」

「ありがとう、ニーナ! 俺はこれから毎日このグラスでワインを呑むぜ!」

「毎日はダメです」

「うん、ダメ」

感激のあまりそのような宣言をするアンドレだが、ステラとニーナに却下されていた。

本当に嬉しがって毎日呑みそうだからな。

「母さんも開けて開けて!」

「ええ」

ニーナに急かされてステラも包みを開ける。

そこには雑貨屋で買った橙色の花が装飾としてついているヘアゴムだ。

「あら、王都にはこんな綺麗なヘアゴムがあるのね」

「私もビックリした! 種類も豊富でどれにするか迷っちゃった!」

「ニーナが私のために選んでくれたのなら何でも嬉しいわ」

おお、娘からのお土産に珍しくステラがアンドレみたいなことを言った。

やはり、娘から貰うというのは親として嬉しいのだろうな。

そう思うと、俺ももう少し父親にプレゼントをしてやるべきだったかな。

何となく恥ずかしくてそういうことはあまり出来なかったな。過去の自分に後悔だ。

身内にはできなかった自分だけど、世話になっている身近な人なら今でもできる。

「俺からも三人にお土産がありますよ」

「おお、本当か?」

そのように言うと、アンドレが期待した表情を見せる。

俺は亜空間からいくつかの包みを取り出して、アンドレに渡す。

「……いい匂いがするな。もしかして、食べ物か?」

「はい、王都の食べ物が入っています。空間魔法で保存していたのでほぼ作り立てですよ。よかったら、夕食に食べてください」

「温けえ! ありがとうよ、クレト!」

屋敷でニーナと約束したしな。アンドレやステラにも食べ物を持って帰ってあげると。

「それと最後にニーナにもお土産だ」

「え? 私も?」

まさか、自分にもあるとは思わなかったのかニーナがきょとんとした表情になる。

亜空間から小さな包みを取り出して、ニーナに渡す。

それはニーナと一緒にいった雑貨屋の包み。それに気付いたニーナは何かに気付いたような顔になった。

おそるおそる包みを開けると、そこには水色の花がついたヘアゴムが出てきた。

「あっ、これ私が最後まで悩んでいたやつ!」

「俺からのお土産さ。ステラさんとお揃いで着けるといいかなって思ってね」

親子で仲良く同じ種類のヘアゴムをつけている光景が見たくてつい買ってしまった。

そんな個人的な気持ちで買ったものだが、喜んでくれるだろうか?

「ありがとう、クレト! すごく嬉しい!」

「それはよかった」

そんな心配は無用でニーナはヘアゴムを大事そうに握って礼を言ってくれた。

「せっかくだから二人共つけてくれよ」

アンドレの頼みにステラとニーナは頷いて、買ったばかりのヘアゴムをつける。

二人共髪型は同じポニーテール。後ろには橙色と水色の綺麗な花が咲き誇っていた。

ヘアゴムをつけて互いの様子を確認し合う、ステラとニーナはまるで姉妹のように仲睦まじい。

「ありがとうな、クレト」

そんな幸せそうな二人を眺めて、アンドレがポツリと言葉を漏らす。

「いえ、こちらこそ」

三人のお陰で前世ではできなかったことの一つをできたような気がした。