軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都の楽しみ方

ニーナと王都にお出かけをした翌日。俺は再び王都へとやってきていた。

ニーナと王都を巡っていると、自分もまだまだ未熟だと感じさせられた。

初めて王都にやってきたニーナをスマートに案内できたかと言われると否だ。

俺はあまりにも王都での遊びを知らなさすぎる。

二拠点生活をおくるものとして、片方の拠点でしか楽しみを知らないなどというのはあまりにも情けない。二拠点生活者たるもの、どちらの楽しみ方も知り、充実した生活をおくるべきだ。

そんなわけで、俺は王都での楽しみ方を知るためにこうしてやってきている。

とはいえ、王都はあまりにも広い上に店の種類も多い。前世のようなインターネットや端末もないこの世界で調べるには骨が折れる。

そういうわけで俺はそういう楽しみ方に精通していそうなエルザに聞くことにした。

彼女が王都に詳しいことはわかっている。

まずは、彼女のイチ押しの楽しみ方を学んで、自分なりの楽しみ方を模索していこうと思った。

屋敷の私室に転移をすると、扉を開けて廊下に出る。

すると、ゴッと扉が何かにぶつかった音がした。

「え?」

「~~~~~~ッ!?」

少し開いた扉の隙間を覗けば、おでこに手を当てて声にならない悲鳴を上げているアルシェがいた。

「わっ! ごめん! 扉の前に誰かがいるとは思わなくて!」

「だ、大丈夫です。こちらこそ不注意ですみません」

涙目になりながらも健気に謝るアルシェ。

掃除用具を手にしていることから俺の部屋の掃除をしようとしたのだろう。

そうしたら、ちょうど転移でやってきた俺と鉢合わせて不幸な事故が起きてしまった。

被害者なのに文句を言うこともないなんていい子過ぎる。

そして、そんな子に扉をぶつけてしまった自分への罪悪感が半端ない。

回復魔法なんかが使えれば治療できるのであるが、俺にはそんな便利な魔法はない。

あるのは空間魔法だけだったので、とりあえず亜空間から氷とタオルを取り出してアルシェに渡す。

「とりあえず、これで冷やしておいてくれ」

「ありがとうございます」

もし、腫れたとしても氷があるだけで大分マシになるはずだ。

「……一体、何の騒ぎで――いえ、おおよそ状況は理解しました。互いにタイミングが悪かったのですね」

騒がしさを聞きつけてやってきたエルザだが、俺たちの様子を見て状況を理解したようだ。

エルザの状況把握能力が凄すぎる。

「アルシェさんはひとまずお休みしていいですよ」

「はい、それでは失礼いたします」

タオルで巻いた氷をおでこに当てながら下がっていくアルシェ。

……うん、本当にごめんよ。

「お帰りなさいませ、クレト様。本日はどうなさいましたか?」

いつもと変わらない落ち着いた声音で尋ねてくるエルザに、俺は昨日実感したことについて話してみる。

「……王都での楽しみ方ですか」

「ああ、エルザは休日とかどんな風に過ごしているんだい?」

「私は一人で外出することが多いです。喫茶店で朝食を食べ、本屋で本を買い、気になっていたレストランで昼食を食べて、ぶらぶらと服屋を眺めてみたり」

「いいね。落ち着いた大人の楽しみ方って感じだ。他にはどんな店に行ったりする?」

そうやって俺は質問を重ねて、エルザ流の王都の楽しみ方を聞いていく。

俺が気になったところは質問を重ね、メモ用紙にメモを記していく。

「私の過ごし方はこんな感じですね。大勢での楽しみ方はアルシェがよく知っているかと思います。よくルルアさんやララーシャさんを誘って、一緒に遊びに行っていますので」

「そっちについてはまた今度尋ねてみることにするよ」

アルシェを扉でぶつけてしまったところだし、今から追いかけて尋ねるのも互いに気を遣ってしまいそうだ。

まずは一人でじっくりと気になった場所を巡って開拓していこうと思う。

それに慣れたらアルシェ流の楽しみ方も聞いてみよう。

「教えてくれて、ありがとう。まずは、本屋にでも行ってみるよ」

「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」

エルザにオススメしてやってきた北区にある喫茶店通り。

富裕層の住宅が多く集まるその区画には、雰囲気のいい喫茶店が数多く並んでいるだけでなく、近くには中古を含め、いくつもの本屋が点在していた。

「へー、落ち着いたいい雰囲気だなぁ」

高級住宅街だけあってか通りを歩いている人の身なりもかなりいい。

中央区のような賑わいはないが、落ち着いた時間の流れを感じさせる。

一人でゆったりとした休日を送るにはもってこいだ。

「まずは本屋に寄ろうかな」

本のマークが描かれた看板を目にして、俺は小さな本屋へと入る。

石造りでできた建物には所狭しと棚が並べられており、そこにはみっしりと本が詰まっている。

紙とインクの匂いが鼻孔をくすぐる。

店の中に書いてある説明書きを見ると、ここは中古の本を取り扱う店のようだ。

版画的な印刷しか普及しておらず、大量印刷の技術がないこの世界では本は高級品の部類に入る。

専門的な技術書や魔法書などを必要としない限り、多くの者は中古本を手にするものであって、店内にはまばらに人が立っていた。

童話、小説、実用書、食べ物、植物、歴史、自己啓発などなどジャンル分けがされている。

前世ほど整然と置かれているわけではないからこそ、本との一期一会との出会いがあるような気がする。

歴史、童話、小説なんかは商売でのコミュニケーションのために誰もが知ってるところは押さえているが、それ以外はほとんど知らないな。

二拠点生活をはじめてゆとりのある時間が増えたので、読書をするのも悪くない。

そう思って聞き覚えはあったが、読んだことのない童話や小説を手に取っていく。

「……絵本か」

童話を手に取っていくうちに見つけたもの。

神のお陰か俺はこの世界の文字も難なく読むことができるので必要ないが、これならニーナも楽しんで読んでくれるかもしれない。

王都を巡った限り、簡単な文字は読めるようだったし、このレベルのものなら大丈夫だろう。仮に読み飽きたとしても村の子供に回してあげればいい。

そう思って童話の絵本もいくつか手にして会計をした。

買い上げた本を亜空間に収納して歩くと、掲示板にチラシが貼られていた。

どうやらこの近くに絵画の展示会があるらしい。

前世ではそういったものに全く縁がなかったので覗いてみるだけでも面白そうだ。

そう思った俺はチラシに書いてある地図を記憶して、喫茶店通りを歩いてみる。

すると、程なくしてそれらしい美術館が見えた。

まるで貴族でも住んでいそうな洋館だ。

二枚開きの扉の前には槍を持った警備人らしき者が立っている。それだけここに飾られている展示品が貴重ということだろう。

少し緊張しながら扉をくぐると、広いエントランスが広がっている、

床一面が真っ白な大理石でできており、自分の姿が映り込みそうなほどに綺麗だ。

受付カウンターで名前を記載すると、入館料を払う。

入り口にこれまた控えている男女の警備人に荷物検査を受けるとようやく

展示エリアに入ることができた。

美術館というのはこれだけ敷居の高い場所だったのだろうか。

それとも今回の展示会が特別厳しいのか。普段からやってくることのない俺には判断はできなかった。

展示エリアに入ると、床一面が黒のカーペットになっていた。

光の反射を抑えるためと人々の足音を吸収するためのものだろう。

壁にはいくつもの絵画が飾られており、それがずらりと奥まで続いている。

何人もの人がそれらを見ているが、物音はほとんどしない。

僅かな身じろぎと微かな呼吸の音だけが響き渡っている。その静謐な空気に当てられて、自然と俺の背筋も伸びた。

ゆっくりと歩いて右側にある壁の絵画を眺める。

立派な額縁には、王都ゼラールの街並みが一枚絵に収められていた。

絵具などの塗料を使って描いているのか非常に精緻だ。

一つの絵画を眺め終わると、二枚目、三枚目、四枚目と次々と絵画を眺めていく。

どうやら今回の展示会は王都の風景をテーマにしているらしい。

先日ニーナと行った中央区の市場や商業エリアなどの街並みが描かれている。風景だけのものから、そこに住んでいる人々の生活感を切り取ったものまで様々だ。

それらを眺めていると、自分までその場所にいるような気になった。

そうやって絵画を眺めていくと、奥の展示スペースにたくさんの人が集まっていた。

見上げるような巨大なキャンバスが設置されている。

静かな館内にも関わらず、あそこだけ声や小声での会話が漏れている。

周囲にいる係員もそれを止めるようなことはせず、周りの人も仕方なしというような空気だった。それほどまでにすごい絵なのだろうか。

興味が湧いて近づいていくと、巨大なキャンバスにはゼラール城が描かれていた。

「おー……」

思わず漏れてしまう感嘆の声。

キャンバスいっぱいを使うように描かれたゼラール城は、見るものに城の雄大さと美しさを伝えてくる。

まさしくゼラール城をちょうどいい位置から見上げたかのような視線だ。

王都の広場で肉眼から見上げたものよりも遥かにこちらの方が美しく感じる。

展示エリアに入っていくつもの絵画を見てきたが、一目見ただけでレベルが違うとわかった。素人でもそれがわかったのだから、より目の肥えている人からすればもっと戦列な差が浮き彫りになってわかったことだろう。

『ゼラール城 著者 レフィーリア』

キャンバスの傍にはそんなタイトルと名前が書かれていた。

デジタル技術も写真もないこの世界。アナログな塗料だけであんなにも綺麗な絵を描ける人が存在するのか。

しばらくの間、美しいゼラール城の絵を眺め続けた。