軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガラス細工店

「クレト様、よろしければこちらをどうぞ?」

昼食を食べ終わって散策に戻ろうと屋敷を出ると、エルザが一枚のメモを差し出してきた。

「これは?」

「ニーナ様が喜びそうなお店をリストアップしておきました」

エルザに視線で促されてメモを開くと、そこには様々な店の名前が書かれていた。

衣服屋、アクセサリー屋、ガラス細工、雑貨屋、喫茶店などなど。

「どこに行かれるか迷うことがあれば、それらの店に足を運んでみるといいかもしれません」

「……本当に助かるよ」

「いえいえ」

ニーナを連れて散策するのに相応しい店を網羅していなかったので、同性であるエルザの指標はとても助かる。うちのメイドがとても優秀だ。

「今日はこのままニーナを連れてハウリン村に帰るから楽にしていていいよ」

「かしこまりました」

エルザに今後のスケジュールを軽く伝えた俺はニーナを連れて屋敷を出る。

「いってらっしゃいませ、クレト様、ニーナ様」

「メイドさん、ありがとう!」

見送りに出てくれたエルザたちに元気よく手を振ってニーナも歩き出した。

やがて、エルザたちが見えなくなるとニーナは手を振るのを止めて真っすぐに歩き出す。

「次は色々なお店があるところに行ってみるか?」

「うん! 色んなお店見てみたい!」

ニーナからの異論もないので俺たちは中央区へと足を進める。

中央区は先程の市場があったように多くの店が連なる商売区画だ。

困ったら中央区に行けば何とかなるくらいに様々な種類の店がある。

そのお陰か通りはいつも大勢の人で賑わっている。

「わっ、さっきの市場よりも人が多いや」

行き交う人の波にどこか圧倒された様子のニーナ。

人混みの中を歩き慣れていないせいか非常に足取りがたどたどしい。

物珍しい王都の景色や販売されている品々に目をとられて、何度か人にもぶつかっており非常に危なっかしい。

「はぐれたら大変だし手を繋いで歩こうか」

「うん!」

手を差し出すと、ニーナは笑顔で手を繋いでくれた。

うん、嫌がられなくて良かった。ここで断られでもすれば、一生もののトラウマになっていたかもしれない。

アンドレに見られれば過剰な反応を示されそうな光景であるが、はぐれる危険性を考慮すれば仕方のないことだ。

ニーナの手を引いて進行方向を誘導しながら通りを進んでいく。

確かこっちの方向に行けばエルザのオススメの店がたくさんあるんだな。

メモを思い出しながら歩いていると、やがて人波が落ち着いた開けた場所に出た。

そこには木装飾の美しい建物が立ち並んでおり、華やかな品物がガラス越しにいくつも見えている。

「すごい! 綺麗なお店!」

立ち並ぶお店を並べてニーナが目を輝かせる。

しっかりと店のイメージや景観を意識しているのだろう。

木格子の間に装飾性のある木細工がはめ込まれている。正方形を基調にしているが、それらを重ねることによって非常に豊かなデザインとなっている。

隣の店を見てみると、こちらも同じ木造式の建物であるが、漆喰で仕上げられており、仕上げ材と漆喰の凹凸を利用した浮き彫りの装飾がされている。

ひとつひとつのお店のデザイン性が非常に高い。

確か転移で飛び回っている際に、何となく女性が多いと感じていたが、これだけオシャレな店なら納得だ。見ているだけで非日常感を味わえる美しい街並み。

無意識のうちに手を引っ張って歩き出すニーナ。

俺はそれに逆らうことなく彼女の好奇心に身を任せる。

ニーナが一番に駆け寄ったお店はガラス細工のお店だった。

窓越しに見せる展示棚に並ぶガラス細工を一心不乱に眺めている。

「わぁ、綺麗……」

ため息を漏らすような一言。まるで大きな声を出してしまえば、目の前のガラス細工が壊れるのではないかと思っているような小さな声音だ。

「ちょっと中に入ってみるか?」

「うん!」

頷いてすぐに入るかと思ったニーナだが、何故か俺の後ろに回って背中を押してくる。

「どうした?」

「クレトが先に入って……なんかオシャレで恥ずかしいから」

どうやらオシャレな店に圧倒されて一番に入る度胸がないらしい。

俺のような男よりも、ニーナのような可愛らしい少女の方が入りやすいと思うのだが仕方がない。先頭にさせられた俺は扉を開けて、お店の中に入る。

「いらっしゃいませ」

チリンチリンと涼しげなベルの音が鳴ると、眼鏡をかけた店主らしき女性の静かな声が木霊す。

店主はそれ以上声をかけることも寄ることもなく、カウンターに座っている。

どうやら営業している傍らで、違う細工物を作っているようだ。実にクリエイターらしい。

店内にはいくつもの棚が設置されており、そこにはいくつものガラス細工が置かれている。

シカ、ウサギ、鳥などの動物から、荒々しいクマや猪、果てはゴブリンやオーク、スライムと幅広い種類が置かれてある。リアルな精巧さをしているものから、デフォルメにされたものまで様々だ。

「透明なウサギさんだぁ」

ニーナが見つめているのは透明なガラスで仕上げられたウサギ。

ワンポイントとして瞳が赤いガラスで仕上げられている。

ツルリとした体表と丸みを帯びたウサギの体が非常にマッチしている。

ウサギをしばらくジーッと眺めると、ニーナは隣の棚に置かれてあるスライムに目が惹かれたようでそちらに移動。

「スライムだ」

「ああ、すごい躍動感だ」

目の前にあるスライムのガラス細工は、飛び跳ねている最中を切り取ったものだった。

水色のガラス独特の不透明さは、まさしく外で遭遇するスライムの体色のように不気味で美しかった。

俺がスライムに見惚れる中、ニーナはまたしても次のガラス細工に興味を惹かれて移動。

好奇心旺盛で見ていくのが早いな。

すっかりと店の雰囲気にも慣れたようなので、俺は付いていくのを止めて自分の気になる物を見て回ることにした。

ふうむ、やっぱりこのスライムは美しいな。他にもファイヤースライム、グリーンスライム、ポイズンスライムなどの種類があり、そちらも粘体質の体を活かした動きをしている。

それぞれの種類に合わせたカラーガラスを使っており非常に綺麗だ。

ハウリン村の新居や、屋敷の私室も物寂しいと思っていたところだし、いくつか買って行こう。

そんな感じでいくつか欲しいものに目星をつけた俺は、ニーナに声をかける。

「何か欲しいものはあったか?」

「うん、最初に見たウサギさんのやつ!」

「買ってあげるよ」

「大丈夫! 母さんからお小遣い貰ったんだ!」

どこか胸を張るようにポーチから革袋を取り出すニーナ。

俺にあまり払わせないようにステラがきちんと持たせたのだろう。

きちんとステラがお金を持たせており、払うと本人が言っているのだから無理に出すこともないか。あまりこちらが出すとかえって、ステラに気を遣わせてしまうし。

「わかった。それじゃあ、お会計をしようか」

「うん」

ニーナはウサギのガラス細工を二つ買い、俺は五種類のスライムを買った。

それぞれの会計を終えると、ニーナは嬉しそうに買ったガラス細工をポーチに入れた。

俺の亜空間で収納した方が安全だろうが、それを言うのは無粋だ。

買ったものを自分で持つことにも意味はある。

「次はどこに行く?」

「うーん、どれにしようかなー」

ガラス細工の店を出ると、ニーナは悩ましそうにしながら店を眺める。

たくさんの種類の店があって迷っているのだろう。

「あそこの雑貨屋さんとかオススメらしいぞ?」

「じゃあ、そこで!」

それとなくエルザのメモに書かれていた店を提案すると、決心がついたのかニーナは頷いた。