作品タイトル不明
屋敷で昼食
「着いた。ここが王都にある俺の家さ」
屋敷の門に前までやってくるとニーナがぽかんとした顔つきで見上げる。
「……家っていうか屋敷だよ?」
思っていた通りにニーナを驚かすことができて楽しい。
想像していた通りの反応に満足だ。
「さあ、中に入ろうか」
「う、うん」
門を開けて中に入ると、ニーナは戸惑いつつも付いてくる。
綺麗な芝が広がっている中庭を横目に屋敷へ。
「「お帰りなさいませ、クレト様」」
玄関の扉を開けると、エルザをはじめとするメイドたちが綺麗な一礼でお出迎え。
いつもはここまで丁寧にしないが、客人を連れてくると言ってあるだけに気合いを入れてきたようだ。
後ろに並んでいるアルチェ、ルルア、ララーシャの動きもピッタリと揃っている。
なんだか屋敷に住むことになった初日を彷彿とさせるな。
「わっ、メイドさん!?」
「うちの屋敷を管理してくれているんだ」
「クレト様のお世話をさせていただいております、メイド長のエルザと申します。後ろにいるのが左からアルシェ、ルルア、ララーシャです。ニーナ様のお世話は私たちが担当させて頂きます」
「ニーナって言います! 今日はよろしくお願いします!」
ニーナの元気いっぱいの挨拶に少し面を食らったエルザたちだが、すぐに笑顔で一礼をして答えた。
ニーナの屈託のない笑みを見れば、誰だって癒されるよな。
「それではダイニングルームにご案内しますね」
「あれ? 靴は脱がなくていいの?」
アルシェが案内しようとすると、ニーナが戸惑いの声を上げる。
「こっちの家では外靴で大丈夫さ」
ハウリン村での家は土足禁止だが、こっちでは王国文化に則った形だ。
俺の言葉に安心したのかニーナは迷いなく足を踏み入れた。
「あれが噂によるクレト様の恋人なのですね。想像していた以上にお若い方です」
「は? なに言ってるんだ?」
「違うのでしょうか? クレト様には、ハウリン村にとても仲の良い女性がいるとエミリオ様から聞き及んでいたもので……」
あいつめ、知っていながらわざと変な言い方をしやがったな。
「ニーナはお隣さんの子供。友達的な意味で仲良くはしてるけど、全然そういう関係じゃないから」
「進展がないだけというわけでもなく?」
エルザはまだ疑っているらしく疑惑の眼差しを向けてくる。
「十七も年齢が離れているんだぞ」
「貴族の世界では大しておかしなことではありませんが……」
「俺とニーナは平民だから、そんな常識はないよ」
「なるほど。とにかくそういう関係ではないのは理解しました」
ここまでハッキリ言うと理解したらしくエルザは納得したように頷いた。
危うくロリコン認定されるところだった。
ひとまず誤解が解けたことに安心し、俺たちはダイニングルームへと入る。
「うわぁ! 広いお部屋! 敷いてあるカーペットもふかふかだ!」
ダイニングルームを見てニーナがはしゃぎ声を上げる。
屋敷の一室だけあってダイニングルームはかなり広い。ハウリン村にある俺たちのリビングの二倍以上の広さは優にある。
「お食事の用意ができておりますが、すぐにお持ちしましょうか」
「ああ、頼むよ」
早速、料理ができているとのことなのでお願いして持ってきてもらうことにする。
エルザが視線を送ると速やかにアルシェたちが退室する。
テーブルの上には既に食器類が置かれているので、後は料理を持ってくるだけだろう。
程なくするとダイニングの扉が開き、アルシェとルルアがワゴンを押して入ってくる。
ワゴンの上には俺たちの昼食となる料理がたくさん載っており、それらがテーブルの上に配膳されていく。
「ニーナ、昼食の用意ができたぞ」
「うん!」
ダイニングにある家具や調度品を眺めているニーナに声をかけると、彼女はテーブルの方にやってきて俺の正面のイスに腰を下ろした。
「お料理は真ん中からガレット、ムール貝のガーリックバター、海鮮サラダ、ベーコンエビパン、冷製のコーンポタージュになります」
「すごい! 見たことのない料理だらけ!」
物珍しい料理にすっかりとニーナは目を奪われているようだ。
王都でしか食べられない海鮮食材や特別なパンなどがメニューに組み込まれている。
それでいて気後れしないようなちょうど良い豪華さ。
まさに俺が求めていたレベルの料理。
準備もロクになかった短時間でこれだけの料理を作ってくれるとは。
「急だったのに用意してくれてありがとう」
「恐縮です。こういった時に備えて、それなりに準備はしておりますのでお気になさらないでください」
小声で礼を言うと、エルザは大したことがないとばかりの涼しい顔で返事。
有事の際にいつも備えているとは、さすがはできるメイドは違うな。
「ガレットにはシードルが合いますがいかがしますか? それともお酒は飲まず、リンゴジュースにしておきましょうか?」
などと感心しているとララーシャが二種類の瓶を抱えて尋ねてくる。
「この後も外に出るし、普通のジュースで頼むよ」
「かしこまりました」
シードルは酒精の低いお酒だが、ニーナを連れて観光している最中なので呑む気にはなれなかった。
ララーシャは俺とニーナのグラスにリンゴジュースを注ぐ。
「皆は下がっていていいよ」
「かしこまりました。ご用があれば、何なりとお申しつけください」
エルザが代表してそのように言うと、メイドたちはダイニングルームから出ていく。
やはり、メイドが部屋に控えていると緊張するのか、ニーナがホッとしたように息を吐いた。
「優しくて綺麗な人だけど傍にいられると緊張するね」
「それはわかる。俺も今でも慣れているとは言えないしな」
誰かに仕えられることが慣れていない俺たちは、どこまでも平民根性だった。
エミリオが見たら主としての自覚が足りないなどと言うだろうが、食事くらいはゆっくりとしたいからな。
「さあ、食べようか。マナーとか気にせず、いつもみたいにリラックスして食べよう」
「うん!」
そのように言うと、ニーナは実にリラックスした表情でフォークとナイフを手に取った。
まずは大きなガレットから。
王都では結構有名な主食で、レストランやカフェでよく提供されているものだ。
ナイフで一口サイズに切り分けると、中央にある黄身をフォークで崩す。とろりと流れ出る黄身をフォークですくって塗り付けると口へと運んだ。
口の中に広がるそば粉の香り。表面はパリッとしており、中はもっちりとしている。
そこに玉子の白身とベーコンが加わる。
「うん、美味い」
「美味しいね!」
これにはニーナも満足のようで幸せそうに頬を緩めている。
もぐもぐと口を動かすニーナは小動物のようで可愛らしい。
ガレットを少し食べると、ニーナは海鮮サラダやベーコンエビパンを口にしていく。
その度にニーナは美味しいと感想を漏らし、実に幸せそうな顔をする。
それだけ喜んでくれるのであれば、こちらとしても嬉しい限りだ。
やっぱり、王都にきたからには普段食べられないような料理を食べて欲しいからな。
まあ、用意してくれたのはエルザたちなんだけどね。
ぱくぱくと料理を食べていくニーナは、ムール貝を手にしてまじまじと見つめる。
「……川で見かける貝とは全然大きさが違うや」
「海はたくさんの生き物が住んでいて栄養も豊富だからね。生き物も大きいんだよ」
「なるほど!」
答えになっているか怪しいが、基本的に川と海ではスケールが違う。
川の生き物と比べてスケールが違うのは当然だろう。
川に住んでいる貝と同じような見た目だけあって食べ方がわからないことはないようだ。
ニーナは器用に手を使ってムール貝の身を食べる。
「身が大きくて食べ応えがあるね!」
「アンドレが好みそうな味だな」
こういうのは主に酒飲みが喜ぶような品でもある。ワインが好きなアンドレなら大喜びしたに違いない。
などと思わず言葉を漏らすと、ニーナが伺うような視線を向けてくる。
「どうした?」
「……ねえ、クレト。ちょっとだけ持って帰ってもいい? とっても美味しいから父さんや母さんにも食べさせてあげたい」
ニーナの優しい心に俺は感動した。この子はなんていい子なのだろう。
「アンドレさんやステラさんのためにお土産は用意しているから遠慮なく食べていいよ」
「本当!? ありがとう、クレト!」
ニーナは礼を告げると、憂いのない表情で食事を再開し出した。
うん、やっぱり子供はこうじゃないとな。