作品タイトル不明
ニーナ発見
「それはいつですか!?」
「今朝ですけど?」
「ニーナ一人だけでしたか?」
「私がお見かけした時は一人でした。ステラさんかアンドレさん、クレトさんの誰かが傍にいるものかと思っていたのですが、違ったのですか?」
「ええ」
「そんな……ッ! ごめんなさい!」
「いえ、レフィーリアさんは悪くないですよ」
大人と一緒に子供が採取に行くのは当たり前だ。誰も子供一人で森に入るとは思うまい。
……まさか、ユキシロとユキンコに会うために一人で森に入ったのだろうか?
ステラから姿が見えないと言われて、どこか考えないようにしていたが、それしか考えられない。
ニーナは、ユキシロやユキンコのことを随分と気にしていた。
聞き分けのいい子供ではあるが、彼女も子供。会いたい気持ちが暴走してしまった可能性がある。
アンドレに声をかけた方がいいかもしれないが、森に入っているとわかった以上は今は時間が少しでも惜しい。
「今から森を探してきます! 申し訳ないですが、レフィーリアさんはアンドレさんに教えてあげてください」
「わ、わかりました!」
事態の深刻さを理解したのであろう。レフィーリアが血相を変えて走り出した。
運動神経があまり良くないが故に、雪に足をとられて転んでいるが、きっと情報を伝えてくれるだろう。今は信じるしかない。
情報伝達を彼女に任せた俺は、すぐに秘密基地の傍へと転移した。
レフィーリアの家の前から、森の中にある秘密基地の傍にやってくる。
「……なんか妙に静かだな?」
転移した瞬間、妙な違和感を抱いた。
この場所には七日ほど前にニーナと共にやってきたばかりだが、どうにも様子が違う。
妙に静か過ぎる気がした。
雪が積もっていて動物や魔物の活動は鈍いのは当然なのだが、それを考慮しても静か過ぎるように感じた。
まるで、何かに怯えて森全体の生き物が息を潜ませているようだった。
警戒しつつも秘密基地であるほら穴に進んでいくと、大きな足跡を発見した。
それはユキシロやユキンコの足跡とは明らかに違う大きなもの。
クマっぽい大型の何かの足跡だ。
サッと血の気が引いていくのを感じた。
もしかすると、ニーナが襲われたのかもしれない。
そんな最悪の事態を想像してしまったが、それを示唆する状況証拠は見当たらない。
足跡はほら穴の周りに多数存在しているが、これだけ大きな足跡を残す生き物だ。
とてもほら穴に入ることはできないだろう。
それがわかってニーナはここに逃げ込んでいるのかもしれない。
周囲に危険生物がいないことを確認してから中を覗き込み、俺が入れる中継地点に転移。
「ひっ!」
「ニーナ?」
小さな悲鳴が聞こえて、中に入ると真っ青な顔に涙目になったニーナがユキシロやユキンコを抱きしめていた。
「く、クレト……?」
「無事で良かった。中々帰ってこないって聞いたから心配で探しにきたんだ」
ホッとしながら告げると、ニーナが勢いよく抱き着いてきた。
「ううっ、クレト……怖かったよぉ……っ!」
声を押し殺しながら大粒の涙をこぼすニーナ。
彼女の細い両手が背中に回り、ギュッと力が込められる。
いきなり抱き着いてきたことに驚いたが、彼女の恐怖の感情を沈めるためにこちらもギュッと抱きしめてあげる。
ユキシロとユキンコもこちらの身体に身体をこすりつけて甘えていた。
そのままのしばらく抱きしめていると、落ち着いてきたのかニーナがゆっくりと離れた。
「急に泣いてごめんね」
「いいよ。もう大丈夫かい?」
「うん、クレトがいるから」
涙で目が赤くなっており、鼻をすすっているが、いつものような笑みを浮かべた。
「身体が冷えているみたいだからお湯を飲んで」
長時間外にいたからかニーナの身体はひんやりとしていた。顔は少し白く、唇も青くなっている。
詳しい話を聞くにもまずは体温を上げてやる必要があるだろう。
亜空間からお湯の入った水筒を渡し、防寒具を羽織らせてあげる。
「クレトの服、ぶかぶかだ」
「俺の身体に合わせたサイズだから我慢してくれ」
「大丈夫。これでいい」
お湯をチビチビと飲みながらはにかむニーナ。
その間に俺はユキシロやユキンコにドライフルーツをあげた。
お腹が空いていたのかガツガツとドライフルーツを食べる。
「どうしてここに籠っていたのか聞いてもいいかい?」
「…………うん」
ニーナがどうしてここにずっといたのか、なんとなく察しがついているが、俺は念のために尋ねて
おくことにした。
ニーナはこくりと頷くと、俺が仕事で王都に行った後のことを語り出す。
俺が帰ってくるまで秘密基地に行かないという約束をしていたが、俺が六日も帰ってくることができなかったため、ニーナは我慢ができなくなった。
一人で会いに行くと決めた彼女は、ステラに散歩に行くと告げて、森に入って秘密基地にたどり着くことができた。
そこまでは良かったのだがユキシロやユキンコと戯れていると、外から獰猛な唸り声が聞こえるようになったらしい。ニーナは怖くて外に一歩も出られなくなってしまった。
厳しい寒さをしのぐためにユキシロやユキンコと身を寄せ合い、息を潜めていたところに俺が転移でやってきたというわけだ。
「約束……守れなくてごめんね」
経緯を話し終えると、ニーナが申し訳なさそうに謝る。
俺は子供を持ったことがないので、こういう時にどういった言葉をかければいいかわからなかった。
「そのことに関しては怒ってやりたい気持ちもあるけど、今はそれどころじゃないしね。とにかく、ニーナが無事で良かった」
「……うん」
「ユキシロとユキンコもニーナを守ってくれてありがとうな」
この二匹がニーナを温めてくれなければ、彼女はとっくに寒さで倒れていたかもしれない。
俺が駆けつけるまで無事だったのは間違いなく二匹の活躍のお陰だ。
褒めるように撫でると、ユキシロとユキンコは誇らしげに鳴いた。
「さて、転移で村に戻ろうと言いたいところだけど、魔物を放置するっていうのも良くないな」
この秘密基地は村からそう遠くない場所だ。
放置しておくと、村まで降りてくる可能性がある。
「外にはクマのような足跡があったけど、どんな奴だったかわかるかい?」
ただのクマであれば気持ちも少し楽なのだが、魔物であれば厄介だな。
「わからない。でも、すっごい足音がしていたから大きいってことはわかる」
どうやら目にしたわけではないようだ。ここにずっと籠っていたのであれば、わからないのは当然か……。
「ちょっと外の様子を見てくるよ」
「えっ! 危ないからやめておこうよ!」
「大丈夫。こう見えて俺は強いから。猪の時みたいに倒してみせるよ。それにニーナを守ってくれたユキシロやユキンコの安全のためにも危険な魔物は見逃せない」
引き留めようとするように俺の裾を握ったニーナであるが、ユキシロとユキンコたちのためでもあると説明すると、掴んでいた手を離した。
ユキシロやユキンコはただの動物だ。魔物に襲われたらひとたまりもない。
ただでさえ食料が不足している時期に、危険な魔物が徘徊していては冬を越せるかも怪しい。村人のためだけでなく、ユキシロやユキンコのためにも排除しなければ。