軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ニーナ探索

ドンケル村のように各地で転移をして商いを続けること六日。

エミリオ商会と関係の深い場所をあらかた回り終えることができ、ようやく仕事が終わった。

エミリオたちを王都の商会まで送り届けると、すぐに俺はハウリン村に戻ることにした。

六日間の旅仕事で疲労が溜まっており、屋敷でゆっくりしたい気持ちがあったが、できるだけ早く戻ってニーナと秘密基地に行く約束をしているからな。

「それじゃあ、俺はハウリン村に戻るよ」

「ありがとう。お嬢さんによろしくね」

早く戻りたい理由を知っているエミリオは、苦笑いしながら帰還を許してくれた。

時刻は昼を過ぎたくらいだ。今すぐにハウリン村に戻れば、秘密基地に向かうことができる。

後のことは他の皆に任せて、俺は転移でハウリン村に向かった。

王都からハウリン村へと戻ってきた。

六日ぶりにハウリン村であるが、相変わらず雪が積もっている状態で特に変わった様子はない。

ひとまず、ニーナに顔を出そう。そう思って家を訪ねてみる。

「こんにちは、クレトです」

「クレトさん! ニーナを見ませんでしたか?」

ノックして声をかけると、ステラが勢いよく扉を開け、前のめりになって言った。

「えっ? ニーナですか? 俺も今王都から戻ってきたばかりでニーナに顔を出そうと思っていたのですが……」

「そ、そうですか」

そのように答えると、ステラが不安そうに顔を俯かせた。

「ニーナの姿が見たらないのですか?」

「はい。午前中に散歩に出かけてしまったきり戻ってこないのです」

「……どこかの家で遊んで遅くなっているのかもしれませんね」

ニーナは俺と違って村人と広い交流を持っている。

知り合いの家に上がって遊んだり、お仕事のお手伝いをしたりして遅くなっているだけかもしれない。

「そうだったら良いのですが」

あり得そうな選択肢を述べてみるも、ステラの顔は心配そうなままだ。

大事な一人娘が出かけたっきり、すぐに戻ってきていないとなれば親としては心配に違いない。

「俺が魔法で村を飛び回って探してきますよ」

「でしたら私も探しに!」

「いえ、ステラさんはここにいてください。入れ違いになってニーナが帰ってくる可能性がありますから」

最悪の状態を考える必要はあるが、そうでなかった時の場合に誰かは家に残っておくべきだろう。ひょっこりとニーナが戻ってくるかもしれない。

「……わかりました。お休みの日なのに本当にごめんなさい」

「俺の方こそいつも助けてもらっていますから、気にしないでください」

農業やキノコ狩りといった普段の生活で、ステラたちには大変お世話になっている。

俺にとってニーナは大事な隣人だし、彼女のために骨を折るくらいなんてことない。

「アンドレさんの姿が見えませんが、このことを彼は?」

「いえ、今日は見張りの日なので知らないと思います」

アンドレに声をかけておかないと後でどうなるかわからない。多少、大事になるかもしれないが、彼がいれば村人たちに働きかけて効率良く探してくれそうだ。

「じゃあ、アンドレさんにも声をかけて協力してもらいますね」

「すみません、よろしくお願いします」

「もし、ニーナが家に戻ってきた時は、この魔道具を使ってください。このボタンを押せば、魔力を吸収して火球を放ちますから」

「わ、わかりました」

「では、行ってきます」

ニーナが戻ってきたことがすぐにわかるようにステラに腕輪の魔道具を渡すと、俺は村の入り口に転移する。

視界がぐにゃりと歪むと、ハウリン村の入り口にたどり着いた。

村の入り口では防寒着に身を包んだアンドレが、槍の素振りをしていた。

動いていないと身体が冷えてしまうのだろう。

「おお! クレト、こっちに戻ってきたのか! 王都の仕事はひと段落ついたのか?」

何も知らないアンドレが悠長に雑談をしてくるが、今はそれどころではないのでぶった斬る。

「ニーナが今朝散歩に出てから、まだ帰ってきてないみたいです」

「なに!? 詳しく聞かせろ!」

ニーナに関する不穏な出来事だとわかると、アンドレはすぐに顔を引き締めた。

俺は今朝こちらに戻ってきて、ステラから聞いた出来事をアンドレに伝える。

いきなり飛び出すかと思いきや、アンドレは意外にも冷静で話を聞いてくれた。

村の見張りをやっているだけあって、緊急時こそしっかり情報を聞く大切さを知っているのかもしれない。

「確かにどこかで遊んでいて遅くなってる可能性もあるが、ニーナが時間を破って帰ってこなかったことはあんまりねえから心配だ。ニーナを探す」

「見張りの仕事は大丈夫ですか?」

「適当な奴を捕まえて任せる。ちょっと大事になるが、他の奴等にも声をかけて探してみる。悪いが、クレト。お前も探すのを手伝ってくれねえか? お前の魔法があれば、色々なところを早く回れるだろ?」

「最初からそのつもりですよ。俺もニーナを探します」

「ありがとな。恩に着るぜ」

アンドレに頼まれるまでもなく最初からそのつもりだ。

しっかりと頷いてみせると、アンドレはホッとしたように笑みを浮かべた。

「俺は片っ端から知り合いに声をかけて、村の中心部を見て回る」

「俺はニーナが好んで向かいそうな散歩ルートを見て回ります」

互いに見て回るところを大まかに伝え、ステラに渡した魔道具のことも伝えておく。

必要なことを伝達すると、アンドレはすぐに村へと戻り、俺は転移を発動してニーナの捜索を開始することにした。

まずは、俺たちがいつも通る散歩ルートをさらっていく。

家の前に戻ってくると、そのまま上空へと転移。

高い位置から見下ろすことによってニーナの姿を探す。

辺り一面が雪に埋もれているせいか、視界はほぼ真っ白だ。

村人のほとんどが家に籠っているために外を歩いている村人はいない。

近辺にいないことを確認すると、前方へと転移して同じように周囲を見下ろす。

屋根に積もった雪を下ろしている者や、物々交換のついでに談笑している女性が見えたくらいだ。ニーナらしき子供の姿は見えない。

もう一度転移して散歩道をなぞってみる。

この辺りは綺麗な小川が流れており、春には綺麗な花が、夏には青々とした葉っぱや生き物で溢れていた。

傍にはちょうどいい木陰があり、散歩の途中で休憩をしたり、お弁当を食べたりとして過ごしたお気に入りの場所。

しかし、そこも雪で埋もれており、今の季節となってはゆっくり休める場所でもない。

「……この辺りにもいないか」

そんな感じで散歩道をなぞりながら、時折ニーナのお気に入りのスポットを見て回る。

しかし、それでもニーナの姿は見当たらなかった。

ハウリン村はそこまで広いわけではないが、たった一人の少女を見つけるとなると途端に広く感じてしまうな。

胸の奥から心配の気持ちがドンドンと湧き上がってくる。

しかし、こんな時こそ冷静にならなければならない。

いくら転移があろうとも闇雲に探していては時間がかかってしまう。

隣人である俺ですらこれだけ心配になるのだから、肉親であるステラやアンドレはもっと心配に違いない。それでも冷静になって各々が最適な行動をとれているのだから、親というのはすごいな。

他にニーナの行きそうな場所と言えば、レフィーリアの家だろうか。

天気の良かった秋の日に、レフィーリアの家に遊びに行って、ぐっすりと眠っていたことがあったそうだ。今回もそうなのかもしれない。

そう思って俺はレフィーリアの家の前に転移した。

ノックしてみるが、レフィーリアが出てくる様子はない。

回り込んで窓から様子を伺ってみるが、魔石灯が灯っている様子はなく、単純に人の気配らしきものが感じられなかった。

どうやらレフィーリアはいないらしい。だとすれば、ここにもニーナはいないだろう。

他にニーナは行きそうな場所はどこだろう?

「あら、クレトさん。私に何かご用でしょうか?」

踵を返すと、不意に声をかけられた。

顔を上げると、目の前には家主であるレフィーリアがいた。

マフラーやロングコートを身に纏っており、真っ白な肌は霜焼けのせいか若干赤くなっている。画材道具を手にしていることから、積雪の中でも絵を描いていたのだろう。

「ニーナを探しているんですが、見かけませんでした?」

「ニーナさんでしたら森に入っていくのを見かけましたよ?」

まさかレフィーリアから詳細な目撃報告が出てくるとは思っていなかったので驚いた。

それと同時にニーナの向かった場所が森だと聞いて、背筋が凍った。