軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秋の食材で自給自足

収穫祭が終わって二週間。

俺は自宅の裏にある畑に出て収穫をしていた。

秋の初めに植えたソラマメ、ホウレンソウ、リーフレタス、小カブなんかが収穫できるようになったからである。

「おお、息が白いな」

秋も終盤に突入し、冬の寒さを感じる日が多くなってきた。

まだ本格的な防寒着を纏う必要はないが、しっかりと内側に着込んでおかないと肌寒く感じてしまう。

季節の変わり目は体調を崩しやすいのでしっかりと栄養のつくものを食べないとな。

必要な分だけを採取すると、それらの材料を使って朝食を作る。

出来上がったのはソラマメのミルクポタージュ、リーフレタスとラディッシュのサラダ、小カブとトロタケの煮込みだ。

トレーで運んでテーブルに着くと静かに手を合わせる。

「いただきます」

まずはソラマメのミルクポタージュ。

アンゲリカから貰った羊のミルクを使っている。牛とは違った微妙な癖があるが、まったく気にならない。

温かなポタージュが身体を内側から温めてくれる。

濃厚なミルクの甘みが優しく胃に落ちていく。

薄くスライスしたタマネギがシャキシャキとしており美味しい。

ソラマメの風味と優しい甘みがミルクと非常に合っていた。

カリッと表面を焼いたバゲットを浸して食べてもいけるな。

「うん、美味しい」

ポタージュを飲むと、箸休めにサラダを食べる。

収穫したばかりのリーフレタスはとても瑞々しい。レタス特有のほんのりとした甘さがギュッと詰まっているようだ。酸味と苦味が内包されているラディッシュと一緒に食べると口の中がさっぱり爽やかだ。

薄めにドレッシングをかけるくらいで正解だったな。

シャキシャキと甘みと酸味を楽しみつつ、小カブとトロタケの煮込みを食べる。

小カブを箸で突いてみると簡単に割れた。中から白い湯気が出てくる。

一口食べてみると、ほっくりとしており中から優しい甘みが滲み出ていた。

そこにトロタケのねっとりとした旨みが加わり、まるであんかけ煮のような美味しさを引き出している。

とろっとした口当たりのいいキノコの旨みと柔らかな小カブがいい。

食べると思わずホッと息を吐きたくほど落ち着くな。

「自分で育てた食材が中心の朝食っていいな」

朝食を食べながらしんみりと呟く。

朝からこんな風に手作りの料理を自分で用意して食べるなんて、前世ではとても考えられなかったことだ。

しかも、それらに使われている食材のほとんどが自分で育てた野菜だ。なんとも感慨深い気持ちになる。

「良い感じに自給自足の生活をしている気がするな」

二拠点生活をはじめて七か月程度。まだ一年も経過していないが、自分が理想としているスローライフが出来てきている気がする。

とはいえ、まだまだ知らないことは多いし、自分一人で野菜を育てられているとは言えない。まだまだ自立しているとは言えないが、ゆっくりとできることを増やしていけばいいだろう。

朝食を食べ終わると、台所でお皿を洗ってしまう。しっかりと布巾で水気を取って、食器棚に戻したところで玄関がノックされた。

ニーナが遊びにきたのかと思ったが、彼女であれば庭に面している窓から直接入ってくるはずだ。

となると、やってきたのはニーナではない別の客人だろう。

「はーい」と返事をしながら扉を開けると、そこにはレフィーリアが立っていた。

「おはようございます、クレトさん」

ぺこりと会釈をすると、彼女の髪がサラリと揺れた。

「おはようございます、レフィーリアさん。どうされましたか?」

「あ、あの実はお願いがありまして」

「なんでしょう?」

「私を――くちゅん!」

レフィーリアが用件を述べようとしたところで、くしゃみが漏れた。

「す、すみません!」

顔を真っ赤にし、慌てて頭を下げるレフィーリア。

随分と可愛らしいくしゃみだった。

「外にいたままでは寒いですね。詳しいことは中で聞きましょう」

「お言葉に甘えてお邪魔します」

レフィーリアに家に上がってもらい、リビングに椅子に座ってもらう。

レフィーリアの肩にはカーディガンが羽織られているが、ここにやってくるまでに身体が冷えてしまっているだろう。

室内はそこまで寒くはないが、ちょうど暖房の魔道具を使うにはいい機会だ。

俺は亜空間からストーブを取り出すと、リビングに設置して起動した。

「暖房の魔道具……」

「冬になると売り切れになりやすいと言われたので早めに買っておいたんです。レフィーリアさんは買われましたか?」

「はい、収穫祭の時にエミリオさんから頂きました」

エミリオはこちらに移住したレフィーリアにちゃんとサポートをしているようだ。

それなら問題ないだろう。

「どうぞ、温かいお茶です」

「ありがとうございます……あれ? これはもしかしてオルクスさんの作品でしょうか?」

レフィーリアが湯飲みをまじまじと見つめながら言った。

「はい、そうですよ。彼とは仕事で取り引きをすることがあるので」

「相変わらずエミリオさんは、たくさんの方を支援されているのですね」

「お陰で俺は各地を飛び回ることになって大変ですよ」

などと談笑をしながら温かいお茶を口にする。

「ところでレフィーリアさんの用件とは?」

「私を王都に連れて行って欲しいんです!」

問いかけると、レフィーリアがそっと湯飲みを置いて言った。

「王都に何か用事でも?」

「はい、絵具などの画材を買いに行きたいのです」

「画材ですか? それならエミリオ商会を通じて定期的に送られるのでは?」

エミリオのレフィーリアのパトロンだ。

彼女が絵画を優先して売る代わりに、日々の生活や芸術活動の支援などをしている。

エミリオ商会が直接ハウリン村までやってくることは少ないが、行商人や冒険者を通じて必要なものは送られている。

画材なんかは特に優先して送られるものだ。それなのにわざわざ出向いてまで必要とする理由がわからない。

「確かに送ってもらっているのですが、私が求めている色とは違うのです!」

首を傾げていると、レフィーリアがバンッとテーブルを叩いて言った。

「はぁ、それはエミリオが送る色を間違えたということですか?」

「そういう間違いではなく、私が指定する色を理解してくれないということです! 爽やかな夏の青空と乾燥したどこか物悲しい秋空では同じ青でも微妙に違いますよね?」

「た、確かにそうですね。色彩感覚に疎い俺でも何となくわかります」

正直、俺にはその色の差がわからないが、何となく頷いておかないとマズいと思う勢いがそこにあった。

「ですよね!?」

適当に相槌を打っておくと、レフィーリアがさらに不満を漏らし出した。

絵画のことになると非常に情熱的になるレフィーリアであるが、ここまで勢いが強いのは初めてだ。

話を聞いている限り、レフィーリアの求める色とエミリオが用意して送ってくる色には大きく乖離しているらしく大きな不満を溜めていたようだ。

まあ、レフィーリアのような優れた色彩感覚に一般人が付いていくのが難しい。さらに問題をこじれさせているのが、レフィーリアが色の正式名称を覚えていないことだ。

先ほど語ったように実に曖昧なイメージを元に絵具を指定している。これではエミリオや商会の者が彼女の求める色を送れないのも当然だった。

「なるほど。今回の頼みは、欲しい色をちゃんと手に入れるために王都の画材屋に連れて行って欲しいということですね?」

「はい。きちんとお金はお支払いいたしますので、何卒お願いできませんでしょうか? 勿論、今すぐではなくクレトさんの都合の良い日で構いません」

などとやんわりと言っているが、早く望み通りの色を手に入れたいのだろう。レフィーリアの様子は落ち着きがなかった。

自分が望んだ環境で絵を描くために、彼女はハウリン村に移住してきた。

それなのに満足のできる色が無いというのは、非常に歯がゆいに違いない。

「いいですよ。レフィーリアさんさえ、問題なければ今から行きましょう」

「本当ですか! ありがとうございます、クレトさん!」

快諾すると、レフィーリアがぱあっと顔を輝かせた。