軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キャンプファイヤー

キャンプファイヤーの大枠が出来上がると、アンドレたちが真ん中に薪の束を置いたり、木材の隙間なんかを薪で埋めていった。

そうやって準備を進めていると、次第に空が暗くなった。

「よし、もう火を点けちまうか!」

周囲では既に篝火が建てられており、まだかまだかとばかりに村人たちが集まっている。

皆が強い炎を求めているのは一目瞭然だった。

アンドレがトーチ棒を用意すると、汲み上げた薪に火をつけた。

ゆっくりと小さな火が灯る。そこに村人がそよ風を起こす魔法を唱えると、あっという間に火は成長して燃え上がった。

大きな炎が灯り、村人たちから歓声の声が漏れた。

パチパチと薪が爆ぜる音が鳴る。

これだけ大きな規模のキャンプファイヤーになると迫力が違うな。

闇色の空を背景に燃え上がる炎はとても綺麗で、俺たちを温かく包み込んでくれた。

秋になって空気がやや冷え込んでいるが、大きな炎があるお陰で暖かかった。

中央広場ではそれぞれの村人が屋台から買い込んだ料理やら、家で作った料理なんかを持ち寄っており、それぞれが好きな場所に陣取って食事をはじめていた。

中には自慢の料理を振舞っている家庭もあり、そういったところには多くの村人が詰めかけていた。

「夕食はどうする?」

「適当に屋台で買って食べるかの?」

キャンプファイヤーなどの手伝いをしていた俺たちは、当然料理を用意しているはずがない。

「クレトさん、アルテちゃん、カーミラさん、こっちへいらっしゃい!」

「飯ならたくさんあるぞ!」

なんて話し合っていると、テーブルの一角にいるステラに呼ばれた。

そちらにはアンドレ、オルガ、ミラ、レフィーリア、アンゲリカ、グリフといった知り合いが固まっており、テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。

「おお、料理がたくさんじゃ! わらわたちも食べてもいいのか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます!」

ステラたちに招かれて俺たちは空いている席に腰を下ろした。

オルガたちと一緒に夕食を楽しんでいると、どこからともなく音楽が鳴りだした。

視線をやれば、村人の一人がリュートのような弦楽器を奏で始めた。

それに釣られるようにして他の村人が太鼓や、笛のような楽器を持ち出して始める。

いつの間にか中央広場は陽気な音に包まれ、その音に誘われるように村人たちが出ていって踊り出す。

また一人、また一人と踊り出し、いつの間にかキャンプファイヤーの周りでは多くの村人が踊っていた。

とはいえ、踊っているものの多くは夫婦や恋人だ。パートナーがいない自分のような独り身では、ちょっとあそこに出ていく勇気はない。

そのために男女は互いに声をかけて行くのだろう。

周囲ではポツポツと踊りに誘う声が聞こえていた。

顔を真っ赤にして誘いの声をかける様子はとても微笑ましい。それを大人たちがニヤニヤと見守っていたり、はやし立てたりと実に賑やかだ。

「なるほど。キャンプファイヤーには、こういう意味合いもあるんですね」

「ええ、ですから未婚の人たちはこの日のために気合いを入れるんです」

納得したような俺の言葉にステラが同意するように頷いた。

王都のように人が多いわけでもない田舎のような村では、こうやった催しが婚活イベントになるのだろう。

夜になるにつれて妙に浮ついた空気があると思ったが、これが原因だったのか。

「おお! これが村の踊りか! ニーナ、わらわたちも踊りに行くぞ!」

「うん!」

皆が踊り出すのを見て、アルテがニーナを連れていって踊り出す。

すべてが婚活目的ではなく、こういった仲の良い同性同士でも踊ったりするようだ。

とはいえ、さすがに男性同士ではあまり踊ることはない。敢えて男同士がペアを組んで踊っており爆笑されているが、完全にあれはネタ枠だな。

遠くではエミリオが大勢の村娘に声をかけられている。

あれだけ爽やかなイケメンでお金持ちとくれば、女の子にモテないわけはないだろう。

エミリオの困った様子が見てみたくもあったが、そつなく全員の相手をしそうな気がしたので見るのを止めた。

「クレトは誰かを誘って踊らないのか?」

エールを呑みながらぼんやりと踊る様子を眺めていると、アンドレが小突いながら言ってくる。

「誘いませんよ。それに俺は踊れませんから」

「そんなもの踊れなくていいんだよ。適当に音に合わせて身体を動かすだけでいいんだ。せっかくの機会だし誰かを誘ってみろよ。気になる奴くらいいるだろ?」

「うーん、特にそういった人いませんね。この一年は二拠点生活の基盤を整えたり、楽しんだりで忙しかったですから」

「レフィーリアとかどうなんだ? 傍から見ると、結構いい感じに見えるが?」

「えっと、特にそういった気持ちはないですね」

レフィーリアはとても美人で性格も優しい。

絵が抜群に上手く、それに対する拘りや芯の強さはとても尊敬でき、素敵な女性だと思う。

だが、最初の出会いが仕事だったために、どうにもビジネス相手としてのイメージが抜けないのだ。

まあ、仮にそういうのを抜いたとして俺が相手にされるわけないと思うが。

「マジかよ。お前、枯れてるなぁ」

などと述べると、アンドレが呆れた顔になる。

自分でも若い割に枯れている自覚はあるが仕方がない。

今は恋愛よりものんびりとした生活を楽しみたい。それが全てだった。

「よし、クレト! 次はわらわと踊るぞ!」

「ええっ! いや、俺踊れないからいいよ」

「そんなつまらんことを言うな。つべこべ言わずにわらわの相手をせい!」

「え、えー、いいんですか、カーミラさん? こういうのはダメですよね?」

「……アルテ殿と踊る分には何も問題はない」

おそるおそる尋ねてみるが、返ってきた言葉は肯定するものだった。

アルティミシアと踊るのはマズいが、平民のアルテなら問題ないということだろう。

俺としては堅苦しい理由で止めて欲しかったのだが。

「往生際が悪いぞ! 女からの誘いを無下にする気か!」

「わ、わかったよ」

さすがにそう言われると、俺も断ることはできない。

アルテに無理矢理引っ張られるようにして中央広場に進んでいく。

「ど、どうすればいいんだ?」

「安心しろ。わらわに身を委ねればいい」

戸惑う俺をよそにアルテは俺の手を取って身体を動かし始めた。

アルテが身体を動かすと、それに引っ張られるように俺の身体も動いた。

踊りなんてやったことのない俺なのに自然と身体が動いたことに驚く。

いや、俺が動いているというよりアルテに動かされているんだ。

アルテが重心を動かすことによって、俺の重心も引っ張られる。一度動きの流れが出来てしまえば、後はアルテの言った通り身を委ねるだけだった。

本当にアルテの言う通りだ。

「そうだ。いい調子だぞ?」

「すごいな。まるで自分まで踊りが上手くなったみたいだ。さすが王女様だけあって踊りが上手いんだな」

「こんな技術、冒険する上では全く必要ないがの」

最後だけ小さな声で囁くと、照れ臭いのか視線を逸らしながらアルテが言った。

普通の王女様は冒険者になったりしないと思うけどね。

そんな言葉がすぐに出てくるところがアルテらしい。

アルテに導いてもらいながら伴奏に合わせて踊り続ける。一つの曲が終わったところで、俺とアルテは元の場所へと戻った。

「最後の方は基本のステップができておった。中々に筋は悪くなかったぞ?」

「本当? ならよかった」

途中でアルテが何度も使っているステップを真似て、自分なりにリズムをとってみたのだがそれは正解だったようだ。

「私もクレトと踊りたーい!」

ホッと息をついていると、今度はニーナが俺の手を取って言った。

「え? 俺と?」

「うん、踊ろう?」

ニーナの表情には期待で満ち満ちているが、前方にいるアンドレがすごい表情でこちらを睨んでいた。

しかし、その鋭い視線は強制的に霧散する。踊っているステラがアンドレの首を無理矢理自分の方に向かせたからだ。

グキッとするような音が聞こえたが、彼の首は大丈夫だろうか?

そのまま様子を伺っていると、ステラが踊ってくださいと言わんばかりに微笑んだ。

アルテと踊ったというのにニーナとだけ踊らないというのはできないしな。

「わかった。踊ろうか」

「うん!」

俺が返事すると、ニーナはとても嬉しそうに笑った。

俺とニーナほどの年の差があったら、村人たちも誤解することはないだろう。

「さて、どんな風に踊ろうか?」

先ほどは踊りが上手いアルテに先導されたので、何とか踊れたが今回はそうはいかない。

だが、彼女の踊りを見て覚えたステップがいくつかあるので、それを駆使すればなんとか――。

「音楽に合わせて適当!」

などと考えていたが、それはニーナに吹き飛ばされた。

ケルト調のような音楽が鳴り始めると、ニーナは俺の手を取ってピョンピョンと跳ね始めた。

まさにその動きは適当。先程のアルテのようなしっかりとした基礎や洗練された動きはそこにはない。

だけど、リズム感がいいのかニーナの動きはリズムに合っていた。

ただでさえ、踊り初心者で身長差も大きいので俺は付いていくのが難しい。

そんな風に俺が戸惑う様子すらも面白いのか、ニーナは嬉しそうに笑っていた。

うん、この不規則な動きに合わせるのは不可能だ。

だったら俺もニーナと同じように適当に動くしかない。

「あはは、変な動き!」

「適当だからな!」

俺が繰り出した前世の有名な振り付けや決めポーズを見て、ニーナがケラケラと笑った。

ニーナ以外にもアルテやカーミラ、レフィーリアなんかもおかしそうに笑っていた。

前世では誰でも真似するような振り付けであるが、この世界の人から見ればかなり奇抜に見えるらしい。

「こうかな?」

「もっとキックと同時に上半身も動かして!」

「こう?」

「そうそう!」

俺がやると滑稽な動きに見えるが、ニーナのような可愛らしい少女がやると不思議と絵になるな。

「我慢ならん! その楽しそうな踊りにわらわも混ぜろー!」

「アルテお姉ちゃんも一緒に踊ろう! カーミラさんも!」

「わ、私もその動きをするのか!?」

二人して適当に踊っていると、見ていたアルテが我慢ならなくなったのか参戦し出す。

そこにカーミラも加わって同じように前世の振り付けをやってみたり、思い思いの動きを披露して皆で踊った。

最終的にはたくさんの村人も混ざって混沌とした踊り場になったが、笑顔が満ちていた。

踊りができなくても関係ない。皆と一緒に踊るという時間が何よりも尊いんだな。

収穫祭のキャンプファイヤーを通じて、そのことをアルテやニーナに教えられた気がする。

無理矢理にでも連れ出してくれた二人に感謝だ。

燃え上がった火の粉が飛び回り、星々の浮かぶ美しい夜空へ消えていっていた。