軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋台の出店

チーズ揚げの他にも俺たちは屋台を寄って色々なものを買って食べる。

料理に使われているのは、ほとんどがハウリン村でとれた食材。物々交換などで手に入れて自分でも食べたことのある食材だ。

しかし、各農家や家庭が日々改良を重ねて工夫した家庭の味は、とても新鮮で美味しかった。同じ食材を使っても、こういう風な料理が作れるのかと感心する思いだ。

「そういえば、ニーナの家も屋台を出しているんじゃったな?」

蒸かしたガガイモを食べながらアルテがニーナに尋ねる。

「そうだよ。お母さんがやってて私も手伝うんだ」

「何を作るんじゃ?」

「ハウリンネギの炭火焼き」

「前に食べた焚火焼きのようなものか?」

「うん、焚火じゃなくて網の上でネギを丸ごと焼くんだ」

「ほお、それはまた美味しそうじゃ。あの時に食べた焚火焼きは美味しかったのぉ」

前回やってきた時のことを思い出しているのだろう。アルテが頬に手を当てて恍惚の表情を浮かべた。

「なら、食べに行く?」

「うむ、そうしよう。家の庭でやろうとしたら周りのものに止められて、あれから食べられていないのじゃ」

「あはは、それは残念だね」

家でもやろうとしたって、王城で焚火焼きをやろうとしたってことか? 第一王女が城の庭でそんなことをしたら皆が止めるに決まっている。

思わずカーミラを見ると、とても苦い顔をしていた。

お転婆王女の護衛騎士というのも大変そうだ。

というわけで、アルテの強い希望によって俺たちはステラの屋台に向かうことにした。

「お母さん!」

「あら、ニーナ。祭りはもういいの?」

「アルテがうちのネギをまた食べたいって言うから連れてきたんだ」

「あら、それは嬉しいわ。皆さんの分もすぐに用意するわね」

「うむ、よろしく頼むのじゃ!」

屋台の上に広げられた大きな網。その上には青々とした大きなハウリンネギがいくつも焼かれていた。

ネギの表面から水分が吹き出し、ぐつぐつと焼ける音がしている。

よく焼けているものは表面がすっかりと真っ黒になっていた。

焚火に突っ込んで豪快に焼くのもいいが、網の上で焼かれている光景も十分に美味しそうだな。

「はい、できましたよ。表面の皮は剥いて食べてくださいね」

しばらく見つめていると、焼き上がったハウリンネギをステラが渡してくれた。

ニーナが手袋を渡してくれたので素直に装着してネギを持つ。

ネギの表面はすっかりと焼けて黒くなっている。その薄皮をぺろんと剥くと、真っ白な身が露出された。

肉汁のような豊富な水分が付着している。

きっとそこには旨みが詰まっているに違いない。

「で、これはどうやって食べるのですか?」

「このまま大きく口を開けて丸ごと食べるのだ!」

口を大きく開けてパクリと食べるアルテを見て、カーミラが目を剥いた。

「うむ、やっぱり美味いのだ!」

「あ、アルテ殿。いくらなんでもお行儀が悪いですよ」

満面の笑みを浮かべるアルテをカーミラが窘める。

高貴な女性にはあるまじき食べ方ではあるが、ここではそんなことを気にする者はいない。

俺とニーナも頷いてアルテと同じように食べる。

熱ですっかりと柔らかくなったネギが口の中でとろける。

ただでさえ旨みの強いハウリンネギが、焼くことで甘みが何倍にも増幅されていた。

美味い。前回食べたものよりも舌ざわりが良いように感じるな。

網の上で焼いているので炭火焼きよりも、繊細な火加減の調節がしやすいのだろう。

「ニーナ殿やクレト殿まで!?」

「行儀悪くなどない。ここではこれが当然の食べ方なのじゃ。ほれ、カーミラも食べてみるがよい」

アルテに諭され、カーミラは迷いながらもおそるおそるハウリンネギを食べてみる。

「ネギとは思えない凝縮された甘み! なんという美味しさ!」

「のう? 丸ごとかぶり付いて食べる美味しさがカーミラにもわかったじゃろう? というわけで、次は家の庭でも焚火焼きをする許可をじゃな――」

「それとこれとは話が別です」

「ちっ」

ここぞとばかりにカーミラを篭絡しようとするアルテであるが、カーミラの意思は強かった。

「さて、俺も屋台で料理を提供しようかな。ステラさん、網を少しお借りしてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

ハウリンネギの炭火焼きを堪能した俺は、ステラの隣へと移動する。

屋台の出店をしようと彼女に相談したら、屋台を貸してくれることになったのだ。

「え? クレトも屋台を出すの?」

「ああ、簡単な料理だけどね」

「一体、何を作るんじゃ?」

不思議そうにこちらを見つめるニーナとアルテの前に、俺は亜空間から取り出した食材を見せた。

「おお! トツトツか!」

「とつとつ……って、なに?」

王都出身のアルテはやはり知っているみたいだ。

首を傾げるニーナに自慢げにトツトツについて語ってくれる。

「へー、この硬い皮の中に甘い身が詰まっているんだ」

「うん、今回はこれを網の上で焼いて皆に食べてもらおうと思ってね」

そう言いながらトツトツを間借りした網の上に並べていく。

既に王都の屋敷で切れ込みなどの下処理を済ませているので、本当にただ焼くだけだ。

「なんだか可愛い形だね」

「でも、木になっている時は、たくさんの棘に覆われているんだよ?」

「えっ、そうなんだ!」

トツトツを眺めていたニーナが目を丸くした。

可愛らしい形をしているトツトツであるが、油断すると落下などで大怪我をしてしまうので注意が必要なのだ。

火加減を見ながら火ばさみでトツトツの位置を調整。

火が通るにつれてトツトツの表面に焦げ目がついていき、十字に入れた切れ込みから薄黄色の身が見えるようになった。

それでもじっくりと火を通していると、不意にパンと音が鳴った。

熱せられることでトツトツが膨張して皮が弾けてしまったのだろう。そうならないように十字に切れ込みを入れておいたのだが、どうしても弾けてしまう場合がある。

「ひゃっ!?」

この現象が起きることを知っていたので、俺は動じなかったが近くにいたニーナ、アルテ、カーミラはビクリと肩を震わせた。

そして、一人だけ大きな悲鳴を上げてしまったのはステラだ。

「すみません、トツトツの皮が弾けたみたいです」

「あははは! 母さんが変な声出してた!」

「こら、ニーナ! やめて!」

ニーナが元気良く笑うと、ステラは顔だけでなく耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた。

上品なステラらしからぬ素の悲鳴は、思い出すだけで笑えてしまうが、さすがに俺まで笑っては可哀想だ。

「すみません。トツトツの皮が弾けてしまったみたいで」

「そうでしたか。本当にビックリしました」

「わはははは! ステラはビビりじゃのぉ!」

俺が気を遣うのとは対照的にアルテがからかう。

「アルテちゃんも笑っているけど、思いっきり身体を振るわせていたのを見ていましたからね?」

「私も見てた! 悲鳴は出てないけど、ザザッて下がってた!」

「そ、それは冒険者としての危機に身体が反応しただけじゃ!」

やんややんやと皆が言い合いをするうちに網の上のトツトツが焼けた。

それらを端に寄せて少し冷まし、木製の皿に載せて渡した。

「はい、トツトツ焼きだよ。そのまま皮を剥いて食べてね」

「おお! 早速、いただこう!」

食べたことのあるアルテとカーミラはあっという間に皮を剥いて口へ運ぶ。

「ほお、やっぱりこの季節のトツトツは美味いの!」

「風味が良く、香ばしくも上品な甘味ですね」

アルテとカーミラが満足そうに頷いて感想を漏らした。

エルザに教えてもらった焼き加減は、二人の舌にもバッチリと合うようだ。

二人が食べるのを見て、ニーナも真似するように皮を剥く。

焼いて柔らかくなっているとはいえ、トツトツの皮はそれなりに硬い。

トツトツ初心者のニーナは剥くのに手こずっている。

「わらわが剥いてやろうか?」

「待って。自分で剥きたい!」

心配げなアルテな声に対し、ニーナがややムキになりながら返事する。

アルテもニーナの気持ちを尊重することにしたのか、特に気にすることなく微笑ましそうに見守っていた。

「やった! 剥けた!」

ようやく剥くことができたニーナは達成感に満ちていた。

「甘くて美味しい! 全然食べたことがない味だ!」

パクリとトツトツを口にしたニーナが感激の笑みを浮かべた。

確かにトツトツの味は独特で、他の食材とはまったく似ていない。

食べたことがないニーナが新鮮に感じるのも当然かもしれないな。

「なんだかこうやって皮を剥くのも楽しいね」

「うむ、こうやって自分の手で剥いて食べるのがトツトツというものじゃ」

皮を剥く面倒をかけないために皮を剥いて提供することも考えたが、こういうのは剥くことも含めて食べる楽しみだと思ったので敢えてそのままにした。

その目論見が通じたようでちょっと嬉しい。

「ステラさんもいかがですか?」

「ありがとうございます。では、いただきます」

ステラは手先が器用なのかニーナのように苦労することなく、すんなりと皮を剥いて食べた。

「あら、美味しい! なんだかホッとするような甘みをしていますね」

「おやつ代わりにもいけますし、料理にも使えるんですよ。たくさん持っていますので、よかったら今度お渡ししましょうか?」

「是非、お願いします」

ハウリンネギと屋台を間借りさせてもらっているお礼も兼ねて提案すると、ステラはとても喜んでくれた。

これでここにはいないアンドレも家で堪能することができるだろう。

「あら、トツトツ焼きですね。私にも一つください」

ニーナたちにトツトツを振舞っていると、レフィーリアがやってきて注文をしてくれた。

王都で生活していた彼女もトツトツが大好きなようだ。

「うん、これを食べると秋がやってきた気持ちになります」

「おお、クレトが屋台やってるじゃねえか」

「なんか見慣れねえやつだが、クレトが持ってきたってことは美味いんだろ?」

レフィーリアに続いて、オルガや村の知り合いがぞろぞろとやってきた。

見慣れない食材なので敬遠される可能性も考えたが、これだけ美人が集まって美味しそうに食べているとやはり気になるみたいだ。

気が付くと屋台の前にはたくさんの村人たちが並んでいる。

「クレト! わらわも手伝ってもよいか?」

「ああ、お願いするよ」

「任せろ!」

苦笑しながら頼むと、アルテが嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、私も母さんの屋台を手伝おうかな? 皆、待っている間にハウリンネギの炭火焼きはどう?」

ニーナもステラの屋台を手伝い、愛嬌のある笑みを振りまいて村人たちを呼び込んでいる。

なんだかこういうのって文化祭みたいで楽しいな。

などと感慨深い気持ちを抱きながら、俺は必死にトツトツを焼いていった。