軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エミリオとニーナの邂逅

「すみません、トツトツ売り切れました」

最後のトツトツがなくなったことを告げると、列に並んでいた村人が残念そうな声を漏らしながら散っていった。

「あっという間になくなってしまったな!」

「まさかこんなに売れるとは思っていなかったよ」

屋敷でトツトツパーティーをしたとはいえ、亜空間にはそれなりの量のトツトツがあった。

まさかたった半日で残りの全てがなくなってしまうとは驚きだ。

「接客というのも中々に楽しいの。今度、大臣たちに丁寧に接してみるか」

「やめてあげてください。アルテ殿がへりくだると皆が冷や汗を流します」

国で最上位に位置する権力者にへりくだられては、臣下たちも堪らないだろうな。

「カーミラさんも手伝ってくれてありがとうございます」

アルテはお世辞にも接客には慣れていない。それをサポートしつつ、迅速にお客の整理をしてくれたのはカーミラの貢献は非常に大きい。

ここまで迅速に捌けたのはカーミラのお陰とも言っていいだろう。

「いや、私は身体を動かしている方が性に合うから気にするな」

礼を言うと、カーミラは爽やかな笑みで答える。

なんというか本当に男前な人だな。

「こっちは屋台を終わりにするけどニーナはどうする?」

その気になれば、王都でトツトツを仕入れることや、林で採取をしに行くこともできるが、俺はそこまでして屋台に精を出すつもりはない。

程よく出店を楽しむくらいで満足なので、また屋台なんかを回りたいと思う。

「ニーナ、ここは大丈夫だから遊びに行っても大丈夫よ」

「わかった! 行ってくるね!」

どうやらもう屋台のお手伝いは必要ないらしい。

ステラから許可を得ると、俺たちは再び屋台巡りへと戻る。

「ねえ、ちょっと行きたいところがあるんだけどいい?」

特にあてもなくブラブラと歩いていると、ニーナが尋ねてきた。

どうやらニーナには行きたいところがあるようだ。

俺やアルテには行きたい場所があるわけでもないので、勿論頷く。

「いいよ。どこに行きたいんだい?」

「エミリオ商会のお店!」

「ああ、なるほど。じゃあ、中央広場に行ってみようか」

俺やアルテはその気になれば、いつでも利用できるがハウリン村に住んでいるニーナからすれば、目玉となる商店だ。

ニーナの要望を聞いて、俺たちは中央広場の方に足を向ける。

中央広場にやってくると、シンボルとなる大樹の下にエミリオ商会の店が立っていた。

「うわー、すごい! 立派なお店が建ってる!」

ニーナが驚きの声を上げた通り、店の佇まいは田舎の収穫祭で出店される店のレベルを遥かに超越していた。

村人が屋台をベースに改造した小さな店を出店しているのに対して、エミリオ商会は完全に一戸建ての店なのだ。

「エミリオ商会はハウリン村に支店を作ったのか?」

まじまじと見つめながらアルテがそう言ってしまうのも無理もない。

「いや、さすがに支店は作ってないよ。あくまであれは今日のために用意した簡易的な建物さ」

「この短時間であれだけ立派な店を作れるとはのぉ……」

「俺が木材を転送すれば、あとは組み立てるだけですから」

「相変わらずクレト殿の魔法は便利ですね」

さすがにエミリオや優秀な従業員でもこんな立派な建物を作ることはできない。

事前に王都で用意した組み立て式の木材を俺が転送し、こちらで組み立てたというわけだ。

「それにしても賑わっているなぁ」

収穫祭が始まり午後になった今でもエミリオの店はお客で賑わっている。

やはり、こちらでは手に入れることのできない王都の商品というのはそれだけ魅力的なようだ。

「早く並ぼ!」

ニーナに急かされて俺たちは店の前にできている列に並ぶことにした。

お店の様子を眺めていると、会計を終えて出てきたばかりの村娘が嬉しそうに商品を抱えて出ていった。籠には生地や糸が入っていたので、ゆっくりとした時間に家で縫物でもするのかもしれない。

ああいった喜んだ顔を見ると、収穫祭に合わせて出店を計画した甲斐があるというものだ。

「おや、クレト。こんなところで並んでいたのか。声をかけてくれれば中に通したのに」

村人たちの様子を眺めて頬を緩めていると、エミリオが声をかけてきた。

執務室ではカッターシャツにズボンといったラフな装いが多いが、今日はジャケットも羽織っていた。

こうやってしっかりと着こむと、どこぞの貴族や王子にしか見えないな。

「ここではそういうのは良いよ。それにこうやって待つっていうのも祭りの醍醐味だから」

「そういうものかい?」

「ところで、リロイさんとの悪だくみは終わったのか?」

「悪だくみだなんて人聞きが悪いな。まあ、ひとまず互いに利益が出るように落ち着いたかな。詳細はまだ後日伝えるよ」

「わかった」

エミリオの満足げな様子をいる限り、ボルシチキノコについての交渉は上手くいったようだ。

どの程度の量を卸し、どうやって栽培するのかは気になるが、それは収穫祭の後でじっくり聞けばいい。

「このお兄さんがクレトの王都の友達?」

エミリオを見上げながらニーナが尋ねてくる。

「はじめまして、ゆっくりと話をするのは初めてだったかな? クレトの友人でありビジネスパートナーのエミリオだよ」

「私、ニーナ! よろしくね!」

「ああ、よろしく」

ニーナが手を伸ばすと、エミリオもそれに応じて握手をした。

そういえば、ニーナを王都に連れて行ったけどエミリオのところには顔を出していないし、エミリオがこちらにやってきた時も絡んではいなかった。

二人が初めましてというのがちょっと不思議な感じだな。

「可愛らしいお嬢様だ。クレトがハウリン村ばかりに居つく気持ちがわかるね」

おい、誤解を与えるような言い方はやめろ。

それじゃ、俺がニーナと一緒に過ごすために居ついているみたいじゃないか。俺は仕事がない時は、こっちでゆっくりしてるだけで他意はない。

「えー? クレトって、仕事で王都にばっかり行ってるイメージがあるよ?」

「いや、そんなことはないよ。僕としてはもっと仕事を振りたいのに、ハウリン村に逃げられてしまうのさ。僕としてはもっと王都にいてもらいたいくらいだけど」

「ダメ! これ以上クレトがそっちに行ったら私がクレトと遊べない!」

握手を交わしていたニーナとエミリオであったが、急に口論へと発展した。

さっきまでにこやかであったというのに一体どうしたことか。

「くくく、クレトは人気者じゃの」

「俺としては特別なことがない限り、平等に暮らしているつもりなんだけどね」

優雅な二拠点生活を送るために、今のところ大した差はなく王都とハウリン村を行き来している。

そりゃ、仕事が詰まっていたり、収穫祭のような大きなイベントがあれば偏ることはあるが、それは

どちらでもあることだ。

ニーナとエミリオが主張するような普段の生活で偏りはないと思う。

「こちらも大変美しいお嬢様方だ」

「冒険者のアルテじゃ。こっちは仲間のカーミラじゃ」

「エミリオ商会の商会長を務めさせていただいております、エミリオと申します。有名なお二人に直接ご挨拶できる機会をいただけて誠に光栄です」

エミリオがアルテの素性を責めるような挨拶をするのでこちらとしてはヒヤッとする。

これを機会に王家にも商売を仕掛けるつもりじゃなのだろうか。こうして顔を合わせたことだし、何かをきっかけにやりかねないな。

俺とアルテが親しいこともエミリオも知っているし。

なんだか新しい仕事を積まれそうな邂逅だった。

そんな風に挨拶をしていると、ロドニーがやってきてエミリオに耳打ちをする。

「おっと、お店の中が空いたようだね。では、ごゆっくりと御覧になってください」

いつの間にか俺たちの順番がやってきたようだ。

優雅な一礼をするエミリオに見送られて、俺たちはエミリオの店に入る。

木製の扉をくぐると中は広々とした空間が広がっていた。

組み立てたばかりなので木材の匂いがしている。床にはカーペットが敷かれており、壁には絵画なかも飾られているので寂しさは全く感じなかった。

「うわー! すごい! 王都の雑貨屋さんみたい!」

棚には王都から取り寄せた布、糸、刺繍の施された生地や衣服などが並んでおり、グラスやコップといった食器類もあり、壁にはちょっとした武器なんかも掛けられていた。

田舎への出店ということで何かと妥協した点も多いだろうが、そこらにある王都の店と比べて遜色もないくらいだった。

目を輝かせたニーナがトコトコと進んで品物を眺める。顔を動かす度に後ろで纏めてひと房の髪が揺れ動くのが可愛らしかった。

アルテとカーミラはニーナほど興奮していないが、物珍しそうな顔で歩き回っている。

俺はどのような商品があるのか知っているので、三人ほど見て回る気持ちにはならない。

代わりに並べられた商人の売れ行きが気になってしまい、それらを確かめるように眺めていた。こういう染まった行動をすると、自分も商人なんだなと思ってしまう。

「やっぱり人気なのは衣類や鉄製品だね」

ステラをはじめとする何人かの村人に直接ヒアリングして仕入れた布製品や調理器具は人気なようでごっそりと減っていた。

「うん? 釣竿があんまり売れてないな?」

奥の壁に立てかけられている立派な釣竿。

トレントなどの特殊な木材を加工して作った釣竿なのだが、売れ行きはあまり芳しくない。

男性陣から熱い要望を受けて、エミリオに無理矢理仕入れてもらっただけにこの結果は少し残念というより悔しい。

気になった俺はひっそりと端で控えているロドニーに尋ねてみる。

「ロドニー、釣竿はあんまり人気がないのかい?」

「いや、人気はとてもある」

「もしかして、料金が高すぎた?」

思いつく理由を言ってみるも、ロドニーはまたしても首を横に振った。

そして、代わりの返答とばかりに釣竿売り場を指さした。

「母ちゃん、この釣竿はめちゃくちゃいい物なんだ! 頼むから買わせてくれよ!」

「なに言ってんだい。釣竿なんてどれも同じだろうに。それよりもここでは手に入らない調理器具や衣類の方が優先だよ!」

視線をやると、釣竿を手にして駄々をこねる旦那と、耳を引っ張って遠ざけようとする妻がいた。

「……なるほど。奥さんからの許可が出ないのか」

旦那が熱望しようとも、財布のひもを握っているのは奥さんなのだろう。

いい釣竿を仕入れようとも、興味のない人からすればただの釣竿でしかない。

旦那は必死に説得を試みるが、最終的に奥さんの同意は得られず項垂れるようにして帰っていった。

この辺りの話し合いは夫婦でやるべきことであって、さすがに俺も介入はできない。

これは誤算だったなぁ。