軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

収穫祭

王都で転送業務をしながらのんびり過ごしていると、あっという間に収穫祭の当日となった。

「ようやくこの日が来た!」

前回と同じように転移で王城にやってくると、アルテが元気な声を上げた。

別れてから一週間しか経過していないのだが、そう言うということはそれほどアルテが収穫祭を楽しみにしていたことの現れだろう。

既に服装は身軽な冒険者装備に変わっている。

カーミラさんも既に装備を切り替えて、冒険者然とした格好になっていた。

「クレト! 早くわらわをハウリン村に連れていってくれ! これ以上、ここにいるとまた公務を積まれかねん!」

俺にとってはのんびりとした王都での時間であったが、アルテにとってはそうではないようだ。

「わかった。それじゃあ、行こうか」

「うむ!」

「よろしくお願いします」

アルテに急かされて俺は空間魔法を発動した。

視界がぐにゃりと曲がり僅かな浮遊感がきたと思ったら、次の瞬間にはハウリン村に到着していた。

「おおおおお! わらわたちがいない間に随分と賑やかになっておるの!」

中央広場の近くにはたくさん屋台が並んでおり、大樹にかけられたロープには鮮やかな旗が垂れ下がっている。

収穫祭のために村人たちが飾り付けをしたのだろう。見ているだけで活気を感じられた。

「こんなにも賑わっているのは俺も初めて見たよ」

「あっ、クレトたちだ!」

賑わった村の様子をまじまじと見つめていると、俺たちを呼ぶ声がした。

振り返ってみるとニーナがいた。

「おお! ニーナ! 約束通り、また戻ってきたぞ!」

「ってことは、三人ともまたこっちで遊べるんだよね?」

「うむ!」

「そうですね」

ちょっとやることはあるけど、ゆっくりと遊べるよ」

「やった! 収穫祭も皆と遊べて嬉しい!」

俺たちが頷くと、ニーナは嬉しそうに飛び跳ねた。

「それにしても、今日のニーナの随分とオシャレじゃな?」

「本当? せっかくの収穫祭だから今日はちょっとオシャレしたんだ。似合ってる?」

綺麗な生地の長袖の胸元にはリボンがついており、モスグリーンのスカートを履いていた。

髪型はいつも通りのポニーテールであるが、微妙に結い方にアレンジがされており、髪に編み込みなども入っている。王都に遊びに行った時とはまた違った装いだ。

「うむ、似合っておる。クレトもそう思うじゃろ?」

「ああ、とても似合っていると思うよ」

「えへへ」

アルテの言葉に同意するように服装を褒めると、ニーナは照れたように笑った。

カーミラが鈍いものを見るような視線が飛んでくるが、普段女性の服を褒めるような機会がないので許してほしい。

「それにしても随分な賑わいだね」

「うん! 今年はクレトたちのお陰で収穫が早く終わったから、皆で頑張って祭りを盛り上げようってなったんだ!」

やや強引に話題を変えるように振ったが、ニーナは気にすることなく嬉しそうに答えてくれた。

約束通り、リロイは収穫祭の運営を頑張ってくれたようだ。

あまり作業を手伝い過ぎると、皆に遠慮されてしまうので控えていたが、これだけ気合いを入れているのであれば、強引にでも参加して手伝えばよかったかもしれないな。

「実に素敵ですね」

「うむ、活気のあるハウリン村も悪くない!」

王都の建国祭に比べると、賑わいや飾りつけも大きく劣るかもしれないが、普段の飾り気のないハウリン村を知っていたためにその変貌には心は大きく動かされた。

それはカーミラとアルテも同じだったようだ。

「ねえねえ、早速屋台を見て回らない?」

「うむ、そうしよう。わらわもずっと気になっていたのだ」

「私もお供いたします」

「俺はちょっとだけ用事があるから、それが終わったら合流するよ」

「わかった! それじゃあ、また後でね!」

ニーナ、アルテ、カーミラが仲良く並んで雑踏の中に消えていく。

俺も一緒に付いてゆっくりと見て回りたいが、先にやるべきことがあるからその後だ。

一度、王都に戻ってエミリオたちを迎えに行かないとね。

そういうわけで、俺は再び空間魔法を発動し、王都にあるエミリオ商会に転移。

「やあ、クレト。待っていたよ。準備は終わっているから、いつでも行けるよ」

執務室に転移すると、エミリオが椅子から立ち上がって言った。

どうやら既に準備は万端のようなので、商会の裏手に移動する。

そこには大きな馬車が置かれており、荷台にはたくさんの品物が載っていた。

転移するのはエミリオ、ロドニーの他に俺の魔法のことを知っている商会の幹部級が数人だ。

ハウリン村で商いをするといっても、規模は小さいので大人数を連れていく必要はない。

仮に品物が足りなくなっても、俺の魔法で帰還させてまた持ってこさせればいいので気楽だ。

「それじゃあ、皆さんをハウリン村の近くに送ります」

「ああ、頼むよ」

エミリオがそう言い、他のメンバーも頷いたところで空間魔法を発動した。

すると、視界がねじ曲がり、あっという間にハウリン村の傍についた。

体内からごっそりと魔力が消費されるのを感じた。

今回転移させる人数が少なかったが、馬や積み荷というのもあったしな。

とはいえ、俺の魔力はまだまだ残っているので、多少の問題が起きても余裕をもって対処できるだろう。

「うん、相変わらずクレトの魔法は反則だ」

「自分でもそう思うよ」

ハウリン村の中心部にしなかったのは、いきなり大きな馬車が入ってくると村人たちが混乱すると思ったからだ。

積み荷などに問題がないことを確認すると、俺たちは馬車を進める。

村の入り口にはアンドレとは違う、村の青年が槍を持って立っていた。

「おー! クレトさんじゃないか。その馬車は、もしかしてエミリオ商会の?」

「エミリオ商会のエミリオです。ハウリン村に商いをしにやって参りました」

「おお、すげえ! 本当に来てくれたんだ! どうぞどうぞ、中に入ってください」

エミリオが挨拶をすると、青年は嬉しそうに笑って出迎えてくれた。

エミリオ商会のような大商会がこのような辺境で商いをするなど、あり得ないことだ。

だから、こうやってわざわざやって来てくれるのが嬉しいのだ。

「今日の見張りはアンドレさんじゃないんですね?」

「こういう日は問答無用で若者に回されるんだよー。はぁー、俺も内部の見回りが良かった」

青年に軽く声をかけると、青年は肩を下げながらぼやいた。

どこの世界でもこういった美味しくない仕事を任されがちなのは若者のようだ。

そんな風に軽く雑談をすると、俺たちは村の内部に入っていく。

「おい、あれってエミリオ商会じゃないか?」

「まずい、早く戻って嫁と娘を呼んでこねえと! ここで手に入らねえ品物を逃したなんてことになったらシバかれる!」

やはりハウリン村の中で大きな馬車というのは目立つのか、人々の注目は俺たちに集まっていた。中には馬車を見つけるなり慌てて動き出す者もいる。

俺の所有している亜空間にも品物を入れているので、品切れになることはないが、欲しい製品が必ず手に入るかの保障はできないからな。早いうちに備えることをオススメする。

やがて馬車を中央広場にまで進めると、村長であるリロイが出てきた。

御者を務めるロドニーがゆっくりと馬車を停車させると、エミリオは颯爽と馬車を降りる。

サラリとした長い髪をなびかせて進む姿が非常に優雅だ。

「やあ、リロイ村長。商いをしにやってきましたよ」

「エミリオさん、このような遠い田舎にまでやってきてくださり、本当にありがとうございます。村人一同、楽しみにお待ちしておりました」

互いに手を伸ばしてガッチリと握手をするエミリオとリロイ。

「早速、商いをさせていただきたいのですが、どちらでやればいいでしょう?」

「あちらでお願いします」

リロイが示したのは中央広場にある大樹の傍だ。

村の中でもっとも人が集まりやすく、わかりやすい場所だ。

あそこなら人が大勢集まっても混雑するということはないだろう。

エミリオは頷くと、従業員たちに指示を飛ばす。

幹部たちもエミリオとの付き合いは長いからか、最低限の指示だけで意図を汲み取ってテキパキと動き出した。

「では、村長。例の物についての相談をしたいと思うのですが、少しだけお時間はいいですかね?」

「勿論です。私の家でゆっくりと相談しましょう」

従業員が準備を始める中、エミリオとリロイがささやくような声で話し合う。

浮かべている笑みは先程の優しいものとは違い、悪だくみを考える少年のようだった。

「クレトも商談にくるかい?」

「いや、俺は祭りを楽しみたいから遠慮するよ」

「そうかい。じゃあ、また後で」

純粋に祭りを楽しみたいので断ると、エミリオは気にした様子もなくリロイの後ろをついていった。

「さて、ニーナたちと合流するか」

商会に何かあれば、サポートすることになっているが、余程のことがない限り問題はないだろう。

やるべきことを終えた俺は、ニーナたちと合流するために足を進めた。