作品タイトル不明
トツトツ料理
「……もしや、これは画家レフィーリアの絵ですか?」
ダイニングにやってきて席に着くなり、レイドがまじまじと見つめながら呟いた。
博識な彼はレフィーリアのことを知っているらしい。
「はい、これは彼女に頂いた絵ですよ」
「やはり! この常人には真似できない色使いからそうじゃないかと思っていたんですよ!」
頷くと、レイドが興奮したように言って熱のこもった眼差しを絵に向けた。
そんな彼をヘレナはどこか冷めたように見ている。
「なんだ? この絵がそんなにすげえのか?」
「この芸術的な絵の良さがわからないと!?」
「いや、確かに上手いんだろうけど、それ以上はアタシにはわかんねえよ」
「……綺麗だとは思う」
ヘレナとアルナの感想を聞いて、嘆かわしいとばかりに首を横に振るレイド。
芸術品に対する評価はひとぞれぞれだ。興味のある人もいれば、まったく興味を示さない人もいる。ヘレナを責めることはできないだろう。
「ちなみにこれ一枚で金貨何百枚以上もの価値があるそうですよ」
「……そんなにっ!?」
「すげえ!」
エミリオから聞いた相場を教えるとみると、ヘレナとアルナが目の色を変えた。
ただし、そこにあるのは絵画に対する賞賛というより、資産価値のある宝を見つけたような反応だった。そんなわかりやすい反応も冒険者らしい。
「失礼いたします。料理をお持ちいたしました」
そんな風に雑談をしていると、エルザ、ルルア、アルシェがワゴンを押して入ってきた。
メイドたちは淀みのない動きで、それぞれに料理を配膳していく。
目の前に並んでいるのはトツトツを使った料理だ。
「うおおおおおお! すげえ! これ全部トツトツを使ってるのか!?」
「はい。トツトツの素揚げ、塩茹で、トツトツとチキンのグラタン、トツトツのペーストになります」
料理を指さしながらエルザが説明をしてくれる。
「……すごい。トツトツ尽くし」
「ギルドの酒場で注文をしても、塩茹でや素揚げくらいしか出てきませんからね」
「うむ、どれも美味しそうだ」
これにはアルナ、レイドやロックスも感嘆の声を上げた。
すべての料理にトツトツが使われており非常に豪華だ。
色合いもとても綺麗で見ているだけでお腹が空いてくる。
「飲み物も一通りそろえていますけど希望はありますか?」
「トツトツって何の酒が合うんだ?」
飲み物の希望を尋ねると、ロックスが首を傾げた。
「……赤ワイン」
「トツトツ料理に合う赤ワインを見繕っていますがいかがでしょう?」
アルナの即答に対し、さりげなくワインを差し出すエルザ。
これを見越して料理に合うワインを買ってきてくれたのだろうか。
「……それでお願い」
「じゃあ、アタシもそれで!」
アルナが頷くと、ヘレナたちも追従した。
俺もワインについて詳しいわけじゃないので、素直に赤ワインにした。
全員のグラスにワインが注がれると、皆がグラスを持ち上げてこちらを見る。
これは俺が音頭を取れということだな。
「お仕事、お疲れ様でした。今日はゆっくりと寛いでいってください。乾杯」
「「乾杯!」」
手短にまとめると、ヘレナたちは苦笑しながらもグラスを掲げて唱和してくれた。
グラスをあおると優美な香りが広がり、蜜のような甘さが喉の奥に突き抜けていった。
非常に甘めのワインであるが、喉の奥に引っ掛かるようなしつこさはなくサッパリとした飲み味だった。
まずは近くにある素揚げだ。前世のものよりも大振りであるが味の方はいかがだろう?
渋皮はカリカリとしており、とても食感が気持ちいい。
中はホクホクで甘みをしっかりと感じられる。
「トツトツの甘みがすごいですね!」
「さすがは旬の食材なだけはありますね」
油で揚げただけの単純な料理であるが、トツトツ自体に褒められたスペックが高いからかシンプルに美味しい。
「美味え! 酒場で出てくるような雑な味とは大違いだぜ!」
ヘレナはグラタンを食べているようで、その美味しさに目を剥いていた。
エルザと最近はルルアが一緒に作っているようだが、普通に店を開けるんじゃないかっと思うほどに上手いのだ。
「これはワインが進むな!」
素揚げを食べながら勢いよくワインを呑むロックス。
俺も素揚げを食べて、ワインを口にしてみる。
トツトツの甘みをワインの華やかな香りと甘みが見事に包み込んでくれた。
確かにこれはトツトツと合う。一口呑んでみただけでそれがわかった。
ロックスの言う通り、ドンドンと呑み進めてしまいそうだ。
「アルナさん、トツトツ料理はどうですか?」
一人黙々と食べ進めていると、アルナの様子が気になって尋ねてみる。
「……どれも最高」
アルナは口の中のものを呑み込むと、非常に満足そうに答えてくれた。
感情があまり顔に現れない彼女であるが、いつもよりも何となく顔が緩んでいる気がする。
それだけエルザたちの作ってくれたトツトツ料理に満足しているということだろう。
喜んでくれているようで良かった。
皆が問題なく食べ進めていることにホッとしつつ、自分も再びトツトツ料理を味わう。
素揚げの次は塩茹でだ。
半分に切られているトツトツの断面には綺麗な薄黄色が浮かんでおりとても綺麗だ。
傍にスプーンがあるので、皮を剥かずにそのままスプーンで食べるタイプなのだろう。
トツトツを持ち上げるとほのかな温かみを感じる。
茹でたばかりでまだ熱がこもっているようだ。
林で採取した時は皮がガチガチだったが、今は柔らかくなっており指で押すと変形するくらいになっていた。その変化が面白い。
トツトツを眺めると、そのままスプーンで身をほじって食べてみる。
「美味い」
素揚げよりもシンプルにトツトツの味を感じた。
昼に採取したばかりなので香りがとても豊かだ。
トツトツの甘みと塩の相性がとてもいい。
ただ個人的にはもう少し塩が効いている方が好みかもしれない。
塩をパラリとかけてみると、さらに味が引き立つように感じられた。
この辺りは個人の好みだが、俺は少し塩をかけた方が好きだな。
塩茹でを食べると、次はとろりとしたチーズが乗りかかったグラタン。
キノコやマカロニなどの具材に紛れて、トツトツが入っている。
グラタンとトツトツって合うのだろうか?
あまり食べたことのない組み合わせに疑念を抱きながら、とりあえず口に入れてみる。
焦げたチーズの香ばしさと塩気が、トツトツの甘みと非常に合う。
時折、口の中で広がるキノコの豊かな香りもとてもいい。チキンもとても柔らかくジューシーで食べ応えも抜群だ。チーズとの相性は言うまでもないだろう。
食べる前に抱いていた疑念はすっかりと吹き飛んでしまった。キノコにトツトツと秋の味覚を感じる一品だな。
グラタンを食べ終わると、次にトツトツのペーストだ。
傍にはカリっと焼き上げたバゲットが添えられている。
綺麗な薄黄色のペースト。レバーペーストならばたまに食べるが、トツトツのペーストというのは初めてだ。
トツトツのペーストをバゲットの上に載せて食べてみる。
なめらかな舌触りをしており、しっとりとした甘さを感じる。まるで栗きんとんのようだ。
レバーペーストのような塩っけはないが、この上品な甘さが香ばしいバゲットと良く合っていた。
エルザの作ってくれたトツトツ料理はどれも美味しく、気が付くとテーブルの上の皿は全て空っぽになっていた。
「ふう、美味かったぜ」
「……ご馳走さま」
ヘレナ、アルナ、レイド、ロックスも楽しんでくれたらしく、非常に満足げな表情をしていた。
ルルアやアルシェが食器を下げ、エルザが食後の紅茶を注いでいく。
それにしてもトツトツは美味しかったな。
ハウリン村にも持ち帰ってニーナたちにも食べさせてあげようかな。きっと喜んでくれる気がする。
いや、どうせなら収穫祭の屋台として出してみるのもアリか。
客として堪能するだけじゃなく、自分も出店してみるっていうのも楽しそうだ。
焼きトツトツや塩茹でであれば、大した準備も必要なく俺でも問題なく提供できる。
村に戻ったらリロイに相談してみよう。
「クレトさん、書庫に案内してもらってもいいですか?」
なんて考えていると、レイドが尋ねてきた。
そういえば食前に案内をすると約束していたな。
隣にいるロックスもソワソワしている。
「いいですよ。ヘレナさんとアルナさんはどうします?」
「んんー、アタシはいいや」
「……私も。ここでゴロゴロしてる」
ヘレナとアルナは本にあまり興味はないらしく、ここでダラダラしている方がいいらしい。
レイドとロックスの二人だけをもてなして二人を放置というのも気が引けるな。
「屋敷には風呂がありますが、よかったら入っていきます?」
「ここには風呂があるのか!?」
「ええ。自慢の風呂でかなり広いですよ」
「……入る」
提案してみると、ヘレナとアルナは目を輝かせて頷いた。
この後、レイドとロックスは書庫で本を読み漁り、ヘレナとアルナは浴場を堪能していった。