軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クレトの家(屋敷)

屋敷の前までやってくるとアルナがぽかんと口を開けた。

「……ここがクレトの家?」

「はい、そうですよ」

「おい、待て! これって家っていうより屋敷じゃねえか!」

平然と答えた俺にヘレナが突っ込んだ。

ニーナを連れてきた時と同じような反応をしていて面白い。たとえ家の形が屋敷であろうと家は家だ。

「「お帰りなさいませ、クレト様」」

扉を開けて入ると、玄関にはエルザをはじめとするメイドたちが勢揃いしていた。

「メイドまでいやがる……」

メイドまでいると思っていなかったのだろう、ヘレナがやや気圧されたような声を漏らした。

「……クレトって面食い?」

「違うよ。この人たちは友人の紹介で働くことになっただけなんだ」

正確にはエミリオに押し付けられる形で雇うことになったのだが、これだけ綺麗な女性たちを並べていてはまったく説得力はないなと自分でも思った。

「知っている通り、俺は魔法であちこち移動するから屋敷の維持をしてくれる人手が必要なんだ」

「そういや、クレトは田舎にも家を持ってるって言ってたな」

「二つの家を一人で管理するのは非現実的なので、管理を使用人に任せてしまうのは合理的ですね」

俺の特殊な生活様式にレイドが感心したように言う。

当初は王都の屋敷も自分で管理するつもりだったが、エルザたちのお陰ですごく快適だ。今となっては自分で両方管理しようなどという考えは微塵もなかった。

「リビングに行こうか」

いつまでも玄関で立ち話をするのもなんなので、スリッパを履いてもらって奥に進む。

「……すっごく広い! ソファーもふかふか!」

リビングにやってくるなりアルナが目を輝かせてソファーに飛びついた。

「お前、よくそんなリラックスできるな」

「……ヘレナは深く考えすぎ。確かに屋敷だし使用人もいるけど、あくまでここはクレトの家。偉そうな貴族がいるわけじゃない。私たちはただ純粋に楽しめばいい」

「それもそうか! なら、貴族の家じゃできないことをやってやろうぜ! わはは!」

気後れ気味のヘレナだったが、アルナの言葉で吹っ切れたのか同じようにソファーにダイブし始めた。

ここまで吹っ切れてくれるとむしろ清々しい。

落ち着きのない女性陣とは対照的にロックスやレイドは内装を眺めている。

ほとんどがエルザのセレクションであるが、その分センスの良さは保障できる。

ゆったりとした空間が確保されており、ちょうどいい場所に家具が配置されている。

棚の上に並べられた小物や絵画のチョイスも抜群。とても独身の男の家とは思えまい。

「なるほど。これだけ立派な屋敷に住んでいれば、冒険者活動にあまり興味がないのも納得ですね」

リビングをひとしきり眺めたレイドが納得したように呟いた。

「確かにお金には困ってないですけど、冒険に興味がないわけじゃないんですよ?」

「なら、うちのパーティーに入ってくれよ! クレトがいれば、どこにだって冒険ができて楽しくなること間違いなしだぜ!」

「そうすればきっと楽しいのでしょうが、俺は荒事に向いてないので……」

適当な理由を述べることもできただろう。

しかし、この人たちは冒険者の中で真っ先に俺の魔法の有用性を認め、信頼してくれた大事な友人たちだ。

何度も真摯に誘ってくれていたので、こちらも真摯に答えたいと思った。

「……クレトは荒事が苦手……というより、忌避している感じ?」

「ハーピー討伐戦や、アカリリスを倒した時も苦々しい顔をしていたな」

アルナやロックスは冒険者として活動する上の致命的な俺の弱点に気付いていたのだろう。

争いのまったくない平和な世界で生まれた俺は、どうしてもそういったことに慣れない。

その迷いは戦闘において致命的な弱点となるだろう。

それに前世では社畜として過ごして最後には孤独になった。

今世では仕事以外の生活も充実させたい。

転移して世界中を冒険して回るのは魅力的でもあるが、今はこの愛すべく二拠点生活を楽しみたいと思った。

「とはいえ、これからも転送活動は続けますし、できる範囲で支援もしますよ。今回のような面白そうな依頼があれば、遠慮なく誘ってください」

「わかりました。無理にパーティーにお誘いはしませんが、これからも頼らせていただきます」

「冒険したくなったらアタシたちを誘えよ? 他の冒険者を誘うんじゃねえぞ?」

「ええ、その時は皆さんを誘いますね」

レイドやヘレナの温かい言葉にちょっと目頭が熱くなった。

「……お腹が空いた」

ソファーに背中を預けてだらりとしていたアルナがぐうとお腹を鳴らしながら呟いた。

あまりにも堂々としながら告げる彼女が少しおかしくてクスリと笑ってしまう。

リビングで控えているララーシャに視線をやると、こくりと頷いた。

どうやら夕食の準備は既に整っているらしい。

「では、夕食にしましょうか」

「賛成!」

俺の言葉にヘレナが元気のいい声を上げて立ち上がり、アルナもむくりと起き上がった。

それとは反対に動きを見せないのがレイドとロックスだ。

彼らはリビングに置いてあった本を真剣な顔で読みふけっている。

「おい、お前ら! 飯だぞ!」

「待ってくれ。今、いいところなんだ」

「………」

じれったくなったヘレナが叫び声を上げるが、二人は微動だにしない。

ロックスは一応返事をしたが、レイドは本に集中してガン無視だ。

「本なんて後で読めばいいだろ?」

「ヘレナは、ここにある本を読まないからそんなことを言うんですよ。ここにある本の価値がわからないんですか?」

「なんだよ? この本がそんなにすごいものなのか?」

「ここまで魔物の素材に詳しく解説している本は中々ありませんよ!」

レイドが読んでいるのは魔物の素材図鑑だ。

エミリオが商売をするに当たって覚えてほしいというので貰ったものだ。

装丁もかなり凝っているし、魔物の解説や詳細なイラストまでついている高級品だ。

この世界では印刷技術があまり発展しておらず、本のほとんどは手作業によるもの。

本を買うにも借りるにも莫大なお金が必要であり、庶民にとって気軽に手が伸ばせないものなのだ。彼らが食事の時間を惜しんで読みたがる気持ちもわかる。

「気になる本があれば、いくつかお貸ししますよ。なんなら後で書斎に案内しましょうか?」

この世界のことを知らない俺が、もっとも気楽に勉強し、知識を蓄える方法は読書だ。そのために屋敷にはたくさんの本が置いてある。

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「後ほど、是非頼みたい」

軽い気持ちで提案してみると、レイドとロックスの反応は劇的だった。

目を輝かせながら頭を下げた。

ここまで二人が喜ぶ姿は初めて見たかもしれない。

二人とも真面目だから勉強熱心なのだろうな。

ソファーに根を張っていた男性陣も腰を上げてくれたので、そのままダイニングに移動した。