軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋敷に招待

トツトツを採取しながら時折出没するアカリリスを討伐していく。

それを繰り返していくと、背負い籠の中が随分と重くなってきたように思えた。

一息ついて、ポケットにある砂時計を確認してみると、砂が落ちかけていることに気付いた。

「すみません。俺はそろそろ他の冒険者を迎えに行かないといけないので」

朝に転送した冒険者たちが依頼をこなし終わった頃だろう。迎えに行って、次の依頼場所まで転送してあげなければ。

「おお、そういえばもうそんな時間だったか……」

「同行させてもらっているのに途中で抜けてすみません」

「気にすんな! クレトにしかできない仕事があるんだからな!」

途中で離脱することになってロックスやヘレナはまったく不快になることはなく、快く送り出してくれた。

早退が中々認められなかった前世のブラック企業とは大違いだ。

「では、この砂時計が落ちる頃に迎えにきてください」

「わかりました」

レイドから新しい砂時計を受け取ると、それをポケットに仕舞う。

亜空間に入れてしまうと砂の流れまで止まってしまうので収納はできないからね。

「仕事が終わったら夜呑みに行こうぜ」

「いいですね! では、仕事が終わったらギルドの酒場に――」

ヘレナの誘いに乗ろうとしたところで、ジーッとこちらを見つめるアルナに気付く。

「……じー」

しかも、わざわざ擬音を口にしている。

相変わらず眠たそうな瞳をしているが、何かを訴えている気がした。

しかし、彼女が何を求めているか俺にはわからない。ギルドの酒場は飽きてしまったので、もっとオシャレな店がいいのだろうか?

「えっと、アルナさんどうかしましたか?」

皆目見当がつかなかったので素直に尋ねてみると、アルナがこちらを真っすぐに見据えて言った。

「……クレトの家に行ってみたい」

「え? 俺の家ですか?」

「……前に機会があれば、招待してくれるって言った」

そういえば、ハーピーの討伐戦の前にそんなことを言ったような気がする。

「いや、それは社交辞令ですよアルナ」

「……そうなの? 残念。クレトの買った家を見てみたかった」

レイドに窘められてアルナがしゅんとしてしまう。

アルナは王都で住居を構えることに憧れを持っていた。

俺の住んでいる家が純粋にどのようなものなのか気になっていたのかもしれない。

アルナ一人であれば、異性ということで気を遣うがロックスやレイドもいるのであれば問題ないだろう。

「いいですよ。夕食は俺の家で食べましょう」

「……いいの?」

「はい、自慢の料理を振舞わせて頂きますよ」

「……やった」

作るのは俺じゃなくてエルザをはじめとするメイドたちだけどね。

抑揚のない声で喜びの声を上げるアルナ。

そんな俺たちのやり取りをヘレナたちが呆然とした様子で見つめている。

「勿論、ヘレナさんやレイドさん、ロックスさんも一緒に」

「へ!? ア、アタシたちも行っていいのか?」

「はい、いつもの打ち上げですから」

「そ、そうか! そうだよな! じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらうぜ!」

顔を赤くしながらもどこかホッとしたような顔をしているヘレナ。

もしかして、俺が個人的にアルナを誘っているような勘違いされていたような気がする。

とはいえ、その勘違いは晴れたことだし、無暗に突っ込んでもいいことはないのでスルーだ。

「本当によろしいのですか、クレトさん?」

無邪気に喜ぶアルナやヘレナとは対照的に、気遣うような視線を向けてくるレイド。

なんだか子供のわがままを聞いてもらって恐縮する母親のようだ。

「『雷鳴の剣』の皆さんにはいつもお世話になっていますから。それに王都の家に招待できるような人ができて嬉しいんです」

「クレトがそこまで言ってくれるなら素直にお邪魔させてもらおう」

「そうですね」

素直に心境を吐露すると、遠慮気味だったロックスとレイドも了承してくれた。

ハウリン村では気軽に家を招けるような友人がいたが、こちらにはエミリオ以外いないのがちょっと悩みだった。こっちでも家に呼べるほどの信頼関係を結べた友人がいるのは嬉しいものだ。

「では、詳細は後ほど」

大まかな集合時間や待ち合わせ場所は改めて迎えにくる時間に伝えればいいだろう。

必要最低限のことを伝えると、俺は王都の屋敷へと転移する。

冒険者たちを迎えに行く前に、エルザたちに友人を招待することを伝えよう。

ベルを鳴らして私室で待っていると、程なくしてエルザがやってきた。

「お帰りなさいませ、クレト様」

「夕方に友人を招きたいんだけど問題ないかな?」

「かしこまりました。ニーナ様ですね?」

「いや、違うよ。王都で活動している冒険者の友人さ」

そう答えると、エルザはぽかんと口を開けて驚いたような顔になった。

しかし、動揺はすぐに収まっていつもの冷静な顔に戻る。

「……失礼しました。王都のご友人様ですね」

「今、すっごく間空かなかった? もしかして、こっちではエミリオ以外友人がいないとか思っていたり?」

「滅相もありません。それより、ご友人様の男女の内訳をお聞きしても?」

なんだか誤魔化された気がするが、この後に予定が迫っているので問い詰めている暇はない。仕方なく話を前に進める。

「男性と女性がそれぞれ二人だね。食事はできればトツトツを使った料理がいいんだけどできるかな? 今日採取したもので女性の一人が大好物なんだ」

「これは素晴らしいトツトツですね。問題ありません。夕食はトツトツ料理を中心にいたします」

どうやらトツトツを知っているみたいで調理も問題なくできるようだ。

どのような食材でもエルザに任せれば美味しく仕上げてくれるので、とても安心だ。

本当に彼女は優秀だな。

「ありがとう。じゃあ、俺は仕事に戻るから後は頼むよ」

「はい、いってらっしゃいませ」

もう少し丁寧に説明してあげたいが、これ以上は冒険者を待たせることになってしまう。

具体的な準備やもてなしは全てエルザに丸投げだが、これが王都でのスタンスだから問題ないだろう。

自分に言い聞かせるように心の中で呟き、俺は転送した冒険者のところへ転移した。

「それじゃあ、ギルドに報告に行ってくるぜ! また次もあれば頼むぜ!」

「はい、お疲れ様でした!」

王都に転移して戻ってくると、冒険者のパーティーが笑顔でギルドに駆け込んでいった。

転移を使っていくつもの依頼をこなしたので今日の実入りはウハウハだろう。

軽やかな足取りで去っていく冒険者を見送ると、懐から手帳を取り出して確認。

今日転送した冒険者のリストだ。最後に残っていたパーティー名に射線を引く。

「よし、今の冒険者たちで最後だな」

念のために俺もギルドに顔を出して、帰ってきていない冒険者がいないか確認してもらう。

遠方に転送したのに迎えに行くのを忘れた、なんてことが起こってはシャレにならない。

大きな事故を避けるためにも、こういった確認は念入りにするのがいい。

きっちりと全員が戻ってきていることを確認すると、ギルドの前で待つ。

ヘレナたちとは仕事終わりにここで待ち合わせをすることになっている。

ここで待っていれば、ヘレナたちもやってくるはずだ。

この世界には前世のような正確な時計はないので、待ち合わせをしようにも詳細な時間を決めることができない。

約束した時間に一時間くらい前後するのは当然だ。

しかし、時計がないお陰か皆が大らかだ。ちょっとくらいの遅刻を咎めるものはない。

それは時間というものに束縛されることがないからなのだろう。

俺も時計を見ることがなくなってから気持ちに余裕ができた気がするな。

「おーい、クレト!」

「あっ、お疲れ様です」

などと時間について思いを馳せていると、ヘレナたちがやってきた。

中央区の方からやって来たところを見ると、早めに仕事を切り上げて買い物でもして時間を潰していたのかもしれない。

「早速、俺の家に向かいましょうか」

「ああ、頼むぜ!」

今日の趣旨は俺の家にお招きすることだ。外で立ち話をするより、屋敷についてゆっくりと話す方が相応しいだろう。俺たちは速やかに移動を開始した。